328話 四天王エイル戦
前回のあらすじ「芸人のようなリアクションをする四天王」
―「レルンティシア国・ソーナ王国との境にある山岳地帯 フェニックスの巣」―
「喰らいなさい! ポイズン・ショット!」
フラスコからコポコポと音を立てて出て来る不気味な紫色の液体。それが小さな複数の水球となって、エイルの周りを漂っている。その見た目からにして直撃はヤバそうだ。
「大盾!」
僕は皆の前に出て、鵺で防御する。盾の向こうでは水の当たる音が鳴ってはいるが、鵺を貫通することは無さそうだ。
「これで無毒化できるかな……」
このまま鵺を武器に戻すと、毒が付着した状態になるのでカーバンクルの魔石を取り込ませて、鵺の表面に炎を走らせて無毒化しておく。
「今回の相手は、如何に攻撃を喰らわないかにかかってるな」
「そうだね……でも……」
「そんな盾にいつまで隠れてるのかしら! それで勝ったつもりかしら!?」
「……だそうです」
エイルの挑発を利用して、僕の言いたいことをカーターに伝える。
「だったら攻撃をやめなさいよ!」
「そうッス!」
「ふざけるな!!」
泉たちの訴えに対して、さらに激怒したエイルの攻撃は激しくなり、大盾に当たる音がさらに激しくなる。
「何で煽っちゃうの?」
「いや……また、ピタゴラスイッチ形式で倒せないかなと思って」
「そう簡単に、あんな事は起きないから……カーターたちはどうする?」
「お前と同じように立ち向かうだけさ。なあ?」
「ええ」
そう言って、二人がアイテムボックスから銀色の盾を取り出す。中央の窪みには魔石を嵌め込む事が出来そうだ。
「そこにカーバンクルの魔石を嵌め込んで、立ち向かうのです?」
「そう言う事だ」
カーバンクルの魔石を盾に取り付けると、盾が炎を纏い始める。それを前に構えたカーターはサキと一緒に大盾から離れてエイルへと向かって走り出す。
「泉! カーターが近づきやすくなるように、支援攻撃して!」
「分かってる! アイス・バレット!」
大盾から体を少しだけ出して、ヨルムンガンドの先端から黒い靄を纏った氷の弾を撃ち出す泉。大盾を挟んで左右からの攻撃を見て、エイルは攻撃を中断して回避行動を取る。
「分が悪いわね……」
そう言って、エイルは水色の魔石を複数個取り出している。あれは……一体?
「来なさい! 私のペットちゃん達!」
そう言って、水色の魔石を前に投げるエイル。それは地面にぶつかると砕けその場に魔法陣を生み出す。すると、そこからウルフにゴブリン、さらにはオークなどが魔法陣から現れる。どの魔獣も毛や皮膚などが少し赤みを帯びている。
「……マジか」
「マジね」
カーターとサキがそうボヤいて、目の前に来たウルフを真っ向切りで切り倒す。続けざまにやってきたオークには剣に炎を纏わせて袈裟斬りで仕留める。しかし、エイルに呼ばれた魔獣達はそれを見ているにもかかわらずに、怯むことなく攻撃を仕掛けてこようとする。
「私が改造した狂戦士と化した魔獣ちゃん達よ! さあ! たっぷりかわいがってあげちゃいなさい!」
数が有利になったことで、余裕な表情を見せるエイル。すると、銃撃音と共にその体が後ろへと大きく吹き飛んだ。人間だったら即死か大ダメージ必死の威力の銃撃を喰らったのにもかかわらず、すぐに立ち上がったエイル。しかし、その胸元からは出血が起きている。
「な、何が……? くっ!?」
横に飛んで、次の銃撃を避けるエイル。その視線の先は上に向けられており、自分を襲った者が何者なのか分かったのだろう。僕も後ろを確認すると、グリフォンに乗ったミリーさんが魔改造されたスナイパーライフルで次の狙撃に備えている。
「小癪なっ!!」
気付いたエイルは上空へと攻撃を仕掛けるために、今度は2~3メートルぐらいの大きさを持つドレイク数体を呼んで、ミリーさんへの攻撃を命じる。そこから僕たちの契約獣であるユニコーンとグリフォン、そして魔改造されたハンドガンに持ち替えたミリーさんがドレイクたちと交戦を始める。
「くっ……何なのよ! これ!!」
「黒雷連弾!」
「きゃああああーーーー!!!?」
「直撃なのです!」
上へと視線を向けていて隙が出来た所を、僕たちは雷撃で攻撃を仕掛ける。
「くっそ……!」
しかし、その攻撃を受けきるエイル。その見た目からは想像できない頑丈さを持っているみたいだ。しかし……今のところはこちらの方が若干有利のようだ。
「隙あり!」
「舐めるなーー!」
爪が伸びて、それでカーターの剣を受けきるエイル。その際に金属音がしているのは驚きである。
「もしかしたら、アクヌムより強いかも……」
アクヌムのは周辺の水を操り、そこから棘を大量に生み出して串刺しにするという厄介極まり無い攻撃と、大量の水で自身の弱点である核を守りつつ、その質量から来る圧倒的な打撃攻撃というのが戦闘スタイルだったが、エイルの攻撃パターンは、アクヌムより遥かに多様性に富んでおり、シェムルと似て、強さの底がまだ見えていない……きっと、彼女は複数あるだろう切り札を一つも切っていないに違いない。
「当然よ! アクヌムは四天王の中でも最弱なのよ!」
カーターとの激しい鍔迫り合いから逃れようとして、距離を取ったエイルがそう答える。今の独り言が聞こえていたのか……いや、それよりも……。
「「ぷふっ!」」
思わず笑いが零れてしまった僕。誰かもう一人笑ったのが聞こえたのだが……予想通り泉だった。
「何を笑ってるのよーー!」
そう言って、エイルは手元にフラスコを取り出して、先ほどのポイズン・ショットをこちらに繰り出してくる。僕は慌てて、横へと走ってその攻撃を避けていく。
「危ないのですよ?」
「だって……まさか、聞けるとは思わなくてさ……」
奴は四天王の中でも最弱というセリフを、実際に聞く事になるとは……。元ネタだと死亡フラグ扱いだから、その通りにエイルが倒されてくれるとありがたいのだが……。
「何なのよ……こいつらは……」
僕たちの不謹慎な姿を見て戸惑うエイル。すると、契約獣たちと戦っていたドレイクたちがエイルの目の前に落ちる。さらに、呼び出されていたウルフは既に撃退され、残るは数匹のゴブリンと2体のオークだけになっている。
「……ふざけてるけどやるわね。こうなったら」
次の手を繰り出そうとするエイル。ここからが本番だと思い、あらためて気を引き締める僕。他の皆も、エイルの次の一手に注視する……が。
「といいたいところだけど、そろそろ撤退ね」
アイテムボックスから何かを取り出して確認するエイル。通信機や時計のような物だろうか?
「逃がすと思ってるのか?」
カーターがその姿を見て、剣を構えて切りかかる体勢を取る。
「残念だけど、ここでお開きよ……」
そう言って、空色の魔石を二つ投げるエイル。よく見ると、先ほどの使用した魔石より少し大きい。
「来なさい! オルトロス! ガーゴイル!」
すると、オスライオンほどの大きい双頭の狼らしき魔獣であるオルトロスと、背中に蝙蝠の翼の生えた筋骨隆々の人の姿にライオンのような頭を持つ青銅色の肌を持つ悪魔のガーゴイルが現れる。すると、ガーゴイルはエイルを肩に担いで、そのまま上空へと飛び立つ。僕たちがそれを阻止しようとすると、出て来たオルトロスはその素早さで体当たりや爪を使っての攻撃を仕掛けて妨害をする。それなら契約獣たちとミリーさんがエイルに向かうが、そこをエイルは怪しい液体の入った試験管を放り投げ、ガーゴイルが口から火を放ってそれを壊す。その瞬間、それが盛大に爆発を起こして上空が黒い煙に包まれる。
「毒……ではないようだな」
「逃げられた!?」
「そうみたいッスね。それなら、こっちのオルトロスを……ってあれ?」
爆発の騒ぎに乗じたのだろう。オルトロスも姿を消していた。
「引き際を徹底してるね」
僕はそう言いながら残っていた雑魚を黒槍で胴体を貫いて仕留める。もう一体、オークが残っていたが、そちらはカーターが片づけてくれた。
上の煙も少しずつ晴れていき、契約獣たちとミリーさんの姿がそこにはあった。爆発はあったが、どうやら無事のようだ。
「ごめんなさい! 敵に逃げられたわ! すぐにでも追いかける?」
「撤退しましょう。相手の能力が未知数である以上、追跡するのは危険ですよ」
契約獣たちと一緒に下に下りて来たミリーさんにそう答える。他の皆もその意見に同意して、周囲への警戒をしつつ、離れた場所から見ていたフェニックスたちへ駆け寄る。
「逃げられたようですね……」
「うん。とりあえず、今のところは安全だとは思うけど……」
そこから戦闘のあった場所を見ると、魔獣の死骸に毒液が付着した地面……安全は確保したが、ここに住み続けるのは難しいだろう。
「……とりあえず、手当てをしようか。とりあえずケガの酷い子から順番に手当てするよ」
「ありがとうございます」
「なら、泉達もそっちに回ってくれ。俺達は周囲の警戒、それと倒した魔獣の調査をする」
「それがいいわね。ミリーも手伝ってくれるかしら?」
「もちろん。倒した魔獣の細胞を持っていって、カイト達に調べさせるわ」
こうして各自の役割を確認して、それぞれ作業に入る。こうして、エイルとの初戦は勝利とも敗北とも言えない終わり方をするのであった。




