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327話 時には脳筋プレーも大切

前回のあらすじ「敵の情報収集完了……」

―「レルンティシア国・ソーナ王国との境にある山岳地帯 フェニックスの巣」―


「ふふ♪」


 私は瓶に入っているフェニックスの血を見て、つい頬が緩んでしまう。あの方の復活のために、せっせと集めたこの血。これを見たあの方は、私を褒めてくれるだろうか……もしかしたら、私の体を抱きしめて……。


「ふふ……ふふふふ♪ あともう少しで目的の量に達するわ~~! さっさとこんなお仕事を終わらせて魔王様に褒めてもらわないと~~!! ってことで……」


「……」


 私の毒で動きが鈍り、地面に横たえているフェニックス達。恥ずかしがり屋で人前に出れないくせに、私を睨みつける一匹がいる。


「気にくわない」


 私は鞭でそいつを何度も何度も叩く。この鞭は私が今回のために作った自信作で、傷つけた相手の血を吸収する力がある。だから、必要なフェニックスの血をこうやって採取することが出来るのだ。


「はあ……はあ…はあ~~…全く、ムカつく聖獣ですわね」


 その場に倒れたフェニックスを見て、イライラをさらに募らせる私。必要量の血を集めるために、こいつらを死なせるわけにはいかないから、こうやってちまちまちまちまちまちまと……。


「あーー!! ムカつく! 終わったら一匹残さず……うん?」


 外に設置してある仕掛けに反応があった。昨日も同じような反応があったのだが、近くに生息する鳥型の魔獣かと思ったのだが……。


「外にはアレの嫌いな臭いを発する毒を仕掛けておいたはず……一度は来ても二度目は無いはず……」


 私はアイテムボックスから水晶型魔道具を取り出して、外に設置してある観測魔道具を確認する。


「まさか……!?」


 外にいたのは一匹のフェニックス……そして後ろに空飛ぶユニコーンと、グリフォンに乗った人間共……こんな奇妙な奴等はアイツらしかいない!


「勇者……! まさか、ここを嗅ぎつけるなんて……!」


 これは予想外だ……。いや、そもそもあのフェニックスは今までどこにいたのだ? もしや、私がここを襲ったタイミングで逃げていた?


「いろいろ、問題があるけど……とにかく、一番の問題は勇者たちよ……魔王様のためにもここで……!」


 計算外ではあるが、ここでこいつらを始末出来れば魔王様にもっと褒められるに違いない! 何としてもこいつらの首を……外にはたくさんのトラップがある。フェニックスをここに閉じ込めるためのトラップではあるが、こいつらを捕えるのに使えるトラップもある。こいつらが身動きできなくなったところで、その首を刎ねてやればいい。


「さあ、来なさい……あんたらの首、この四天王のエイルがいただくわ! ふっ、はははーー! って、何をしてるのかしら?」


 後、少しで私のトラップの範囲内に入るというのに、奴らはその一歩手前で停止している。すると、何やら黒い靄を自身の武器に纏わせ始めている……。


「一体何を……?」


 そして、そいつらが武器を前にかざす……黒と緑の何かがこっちに……。


「あひゃあーーー!!!!」


 奴らの放った何かによって、吹き飛ばされる私。体のあっちこっちをぶつけながら、何が起こってるのか考える。


「い、一体……何が……? いたっ!!」


 頭に何かが真正面からぶつかった痛みで、思わず私は叫ぶのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―同時刻「レルンティシア国・ソーナ王国との境にある山岳地帯 フェニックスの巣」―


「花粉は風によって移動する……つまり、暴風であっちへと吹き飛ばせば問題無し……」


「ごり押しは正義なのです!」


「流石、エーオースへと潜入する際に発動させたトラップを粉砕するという策で解決した二人ッスね……」


「でも、トラップがあるって分かってるのに、わざわざトラップに引っ掛かるのもアレだし……」


「泉の言う通りだな」


 花粉症のような症状を引き起こす毒が蔓延しており、そしてトラップを使った搦手を得意とする四天王エイルが相手だと分かった僕は、作戦……いや、単純なごり押しで解決することにした。フェニックスが巣作り中で、一度、巣を片づけるつもりだったというので、全て吹き飛ばす許可を貰ったのだ。


 ちなみに、何の魔法を放ったかというと、以前に火事の現場で使用した爆風消火である。泉たちに球体状に圧縮して爆発寸前の風の玉を用意してもらい、僕たちが獣王撃で殴り飛ばして着地点から円形状に暴風を起こす……というのが以前の物であって、今回はそこにグリモアの強化に、グリフォンによってさらに風の力を詰め込んで……これを住宅街で使ったら、住宅街は瓦礫の町になってしまうほどの威力になってしまった。


 ってことで、トラップは恐らく完全に排除したところで、フェニックスの巣の内部へと入る。念のため毒の影響を考慮して契約獣達とミリーさんにはフェニックスの巣の中が一望できる場所で待機してもらって、僕たちだけでフェニックスの巣の内部へと降りていく。


「皆! 大丈夫?」


「ああ! 助か……」


 すると、地面に伏せてながら喋っていたフェニックスが、僕たちに気付いてその羽で頭を隠す。すると、他のフェニックスたちも、サッ! と同じ行動を取っている。


「こんな状況で!? どれだけシャイなの!?」


「慣れていない相手にはこんな感じですよ……いきなり、あんなお願いしてゴメンね」


「き、気にするな……このままだと俺達、皆やられていたかもしれないんだ……そ、それに巣内の片づけも早く済んだしな」


 お仲間の言う通りで、山岳地帯の広大な窪みにあるフェニックスの巣にはフェニックス以外何も無い。実際には、この巣を外敵から見えないようにするために張られていた結界に、棲み処であったフソウの木々で作られた巣があったはずなのだろうが、それらは跡形もなくなくなってしまった。ちなみに、いつフェニックスが仲間にお願いをしたかというと、近い距離なら仲間同士で念話で話せるということで、お願いをしておいた。


「……あれ? 襲ってきた奴は?」


「そういえば……いなくなってるッスね」


 先ほどの暴風で全て吹き飛ばした……まさか、四天王も吹き飛んだのだろうか?


「……一件落着!」


「早かったッスね!」


「な訳あるかーー!!」


 すると、遠くに飛ばされた瓦礫で作られた山から一人の女が這い出てきた。緑色のミディアムヘアをした女性……見た目こそ普通の人と変わらないが、その体を浮かして瓦礫の山から脱出してる時点で人とは違う種族だって事が分かる。そして女性はそのまま瓦礫の上へと着地する。


「はあ…はあ……よくも!! やってくれたわね!!」


「いや。単にトラップ解除しただけで……攻撃したつもりは無かったんだけど……ね?」


「勝手に喧嘩を売って来ないでよ!」


「そもそもお前が悪いんだろう!」


 僕の言葉に反応して、カーターとサキが大声で緑髪の女性に呼び掛ける。


「どっちも同じよ! このままいけば、魔王様の元に戻れると思ったのにーー!!」


 魔王……ってことはやっぱり。


「えーと……四天王のエイルであってますかーー?」


「そうよ! ふふ……この私を怒らせた事……後悔させてあげるわーー!!」


 僕たちと四天王エイルの距離が離れている為、大声で話しを続けているのだが……チラッとこの窪みから山の頂上の方を見ると、かすかに雪野にヒビが入っており、それがどんどん大きくなってきている。


「あのーー!!」


「何よ!! 私の名前を聞いてビビったかしら!? でも……許してあげないから!!」


「いや……! その……!」


「何、はっきりしない女ね!?」


「僕、男! 女じゃなーーーーい!!」


 僕が一際大きい声で訴える。すると、ヒビが一気に大きくなって……それは下へとエイルの方へと、ゆっくり進んでいく。


「はあ!!? 男!? あははは!! 男のくせに、そんな姿じゃビビらな……うん? 何か五月蠅いわね?」


 エイルが頂上の方へと視線を向ける。きっと、その目には自分に迫りくる雪の津波が見えているだろう。速度を増した雪の津波……雪崩は淵を越えて巣の中へと侵入してエイルを上から潰そうとしている。


「え!?」


 間の抜けた声を上げたエイルは、そのまま雪崩に巻き込まれてしまった。僕たちも巻き込まれるかと思って武器を構えていたのだが……エイルに何か恨みでもあるかのように、どんどん上へと積み重なって山になっていく。これなら、こちらに被害が及ぶ心配は無いだろう。


「さっきの暴風とかで弱くなっていたんだろうな……」


「そうね……」


「クエ……」


 カーターたちが複雑そうな表情で、雪崩後に出来た雪の山を見る。きっと、四天王と激闘を予想していたのに何故か勝手に自滅してるのだ。意気消沈しても仕方ない。


「今度こそ一件落着!」


「ほな、さいならッスね!」


「そうは……行くかーーーー!!!!」


 すると、雪の山から大声で叫びながら飛び出す人影……エイルが飛び出してきた。しかし、すでにボロボロである。


「流石……四天王ッス」


「うん……芸人レベルがかなり高いよね……」


「誰が芸人じゃーー!! くっそ……」


 徹底的に、エイルを煽る泉たち。そのため、どうしてもこのエイルが弱そうに見えてしまう。


「あんた達……消してやる!」


 そう言って、恐らくアイテムボックスから液体の入った数本の試験管を取り出すエイル。中に入ってるのは毒……もしかしたら、このマスクの効果を潜り抜ける特殊な物かもしれない。


「どうやら……戦闘になるのは免れないな」


 カーターはそう言って、剣を構える。泉もヨルムンガンドを構えて、いつでも魔法を放てる準備をしている。


「僕も……」


 僕は鵺を籠手にして、戦闘の準備に入る。切り札の四葩はここで出す必要は無いだろう。


「四天王エイル……推して参る!」


「やってみろやーー!!」


 こうして、四天王エイルとの戦闘の火蓋が切って落とされたのであった。

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