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323話 浮遊石のプレゼン……そして次の仕事へ

前回のあらすじ「リポーターが男性か女性なのかはあなた次第」

―案内を始めてから数時間後「笹木クリエイティブカンパニー・展示室」―


「ありがとうございます! 少しの練習で、こんな簡単に浮かぶことが出来るなんて、なんて素晴らしい……ぜひ、商品開発に取り入れたいんですが……」


 僕にそう言って、男性が名刺を渡してくる。その名刺には某有名自動車メーカーの名前が載っている。ここの会社は菱川総理がグージャンパマ対策のメンバーに誘っていたはずだから、もしかしたらこちら側の関係者なのかもしれない。


「あらあら。それなら私達の方に訊いてちょうだい? この子達は調査専門なの」


「ああ。そうでしたね……それで……」


 僕が担当した男性が、そのままショルディア夫人と商談を始める。あれから、いくつかの見学者たちに浮遊石を使用方法のレクチャーをしている。泉も慣れてきたようで、今は小さな子供の手を繋いで一緒に宙に浮いている。


「見た見た!? 俺っち宙に浮いていたよ! やっべえよな?」


「流石、異世界……ロマンしか無かったなぁ!」


 近くで二人組の男性が騒いでいる。恐らく、配信者の人たちだろう。今もカメラを自分たちに向けて喋っている。きっと今頃は、ネットだけではなく、ありとあらゆる情報網から今回の出来事が知らされているだろう。


「なるほど……実際にはまだ、これらの技術を利用するのは少し先になるということですね」


「ええ。何せ流通させるにも、今のところ、この魔石は彼女達しか作れない代物。今回のお披露目は先行して情報を広めることで、いざ流通を開始する際に円滑にするためのデモンストレーションですから」


「なるほど。確かに、いきなりこんな情報が流されたら、あっちこっちで混乱が起きて流通どころの騒ぎでは無いでしょうね……これも先日、テレビで話されていた許可証を購入した者しか扱えない商品となるのでしょうか?」


「そうですわ。魔石は非常に便利であり厄介な物……こちらではしっかり管理して悪用されないように管理しなければいけないでしょうね」


「ほうほう……ただ、そうなると……」


 ショルディア夫人と男性の会話で許可証という単語が出たが、これはグージャンパマでの魔石の扱い方を参考にしている。今は地球独自のルールとして作成中だが、最終的には双方の世界で通用するようなルールを設けていく予定である。


「そうですか。そうなると、それに合わせて我が社も経営方針を変えていかなければなりませんね」


「今後も、このように笹木クリエイティブカンパニーから情報を発信してもらう予定ですので、逐一、確認していただければと思いますわ」


「分かりました。今日、得られた情報を我が社に持ち帰って、協議しなければ……今後、どんな新しい発見が得られるか楽しみにしてます」


「それは、こっちの子達の活躍次第かしら……ね?」


「……ご期待に沿えるよう、最善を尽くさせて頂きます」


 お婆ちゃんが残した施設は全て発見したことだし、浮遊石以上の大発見というのは、なかなか難しいと思うのだが……。


「お、おい……見ろよ!まさか……!?」


「じ、実在したのかぁーー!?」


 男性の大声が周囲に響く。それに驚いてそちらを見ると、先ほどの配信者たちが目を見開いて、かなり驚いた表情である一方を見ている。そして、その方向にいたのは……。


「オラインさん!? どうしてここに?」


 僕とレイスは慌てて、社員用通路から展示室へと繋がる扉から、こっそりこちらを覗いているオラインさんに駆け寄る。


「う、うむ。手術室の中に入って、うっかり寝てしまってのう……気付いたら、あの病室で寝ていたのじゃ。それで心細くなって……こうやって、病室の窓から外に出て来たのじゃ。グラッドルと一緒にのう」


 そう言って、左手で頭を掻くオラインさん。


「無事に左腕が元通りになったのです!」


「そうなのじゃ! とは言っても……ちょっと、腕の動きが鈍く感じるのじゃ」


「そこはリハビリが必要ですね」


 グッパして、腕の調子を確認するオラインさん。どこか違和感を感じるらしく、顔を渋らせている。


「妖狸さん。その子と一緒にこちらへどうぞ」


 すると、ショルディア夫人がこちらに来るように指示をする。


「オラインさんの相棒も一緒なのですが……」


「躾はされてるのでしょ? なら、一緒に来てもらってかまわないわ」


 僕は一度、オラインさんの方へ顔を向けて、確認をする。それと……


「(僕と泉の本名は内緒でお願いします。それと、演技中ですので言葉遣いとか変に感じても、気にしないで下さい)」


「(分かったのじゃ)」


 それだけを伝えて、僕たちはオラインさんとグラッドルを連れてショルディア夫人のところまで戻って来る。頭に鬼のような角を持つオラインさんはかなり目立ち、先ほどの配信者たちはオラインさんにカメラを向け歓喜の表情で配信している。また、首輪などが無い熊がのしのしと一緒に歩いてるので、見学者たちから若干の悲鳴が聞こえる。


「えーと……妖狸でいいのじゃな?」


「はい」


「それで……こちらの淑女は?」


「あら。世事でもうれしいわ。私はショルディア・バルフィア。この子たちの雇い主の一人よ。それと……」


 ショルディア夫人は近くでこちらの様子を伺っていた直哉を呼ぶ。


「私は笹木 直哉。同じく雇い主の一人だな……まあ、実際には協力者に近いがな。ってことでよろしく」


 直哉が手を出して握手を求める。それにオラインさんは快く快諾して握手をする。そして、続けざまにショルディア夫人とも握手をする。


「彼女達から私達の要望を聞いているとは思うのだけれど、魔物であるあなたと協力関係を結びたいの。あなただと返答に困るようなら、今の我々の生活を見て、協力を結ぶに値するか判断してもらえばいいわ」


「一般兵の儂にそんな権利はないのじゃが……」


 チラッと僕と泉を見るオラインさん。


「しかし、出来る限りの協力はするのじゃ」


 直哉とショルディア夫人がオラインさんの反応を見て、僕たちが何かしら上の人が気にいる要素を持ってると感じたのだろう。二人が笑顔でそれに承諾した。実際の理由は……もっと、ヤバい物なのだが。


「それよりも病室に戻りましょう。きっと今頃、皆が捜してるでしょうから……」


「う、うむ……では」


「妖狸、妖狐……彼女とその熊さんの護衛、よろしくお願いしますね」


「はい。それでは……皆様もごきげんよう」


 僕は見学者の方々に向かってカーテシーをして、見学室を後にする。


「そこまでやる必要あった?」


「高校の校則で挨拶がごきげんようだったから……それを思い出しただけかな」


 そんな事を話しつつ、オラインさんたちを連れて、僕たちは病室へと戻るのであった。ちなみに、ネット上でオラインさんという鬼娘が現れたことで、俺たちの夢は異世界にある!とか、俺は真剣に異世界に行く準備をしなければ……。とか、それなら私は妖狸をいただく!←何? お前……天才か!? とか……そんなコメントが多数あがっていたと昌姉から電話で聞くのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―夜「アザワールドリィ・病室」―


「うん……なるほど。そうしたら、しばらくはここでリハビリするのがいいかもしれませんね」


「リハビリなのじゃ?」


「はい。今回の術後の経過観察をしないといけないので、しばらくはここで過ごしてもらうことになりますね。その間に、今後のご自身の身の振り方を考える必要もありますから」


「やっぱりすぐには帰れないのじゃ?」


「あっちへの渡航方法ありませんからね……そうですよね?」


 曲直瀬医師の問いに、僕は頷いて答える。


「本当にどうしようなのじゃ……」


「いざとなったら、僕の伝手でなんとかしますので、安心して下さい」


「よ、よろしくなのじゃ……無事に祖国に帰れたら、同盟が結べるように、しっかり王に進言するのじゃ」


「それではしばらくはここに入院となります。それと……勝手に病室を抜け出さないように……」


「は、はい!」


「がうっ!」


 先ほど、無断で病室を抜け出したことに曲直瀬医師からお灸をすえられたのが堪えたようで、はきはきとした返答するオラインさんとグラッドル。まさか、熊にも恐れられるとは……。


「どんな怒り方をしたらそうなるッスかね?」


「さあ……私にも……」


 そう言って、泉とフィーロが頭にハテナマークを浮かべるのであった。


コンコン!


「入ってもいいかい?」


 扉をノックした後、扉の向こうからカイトさんの入室の許可を求められる声。曲直瀬医師が一度僕たちに確認を取ってから、入室の許可を出すとカイトさんは入ってすぐに僕たちの所にやって来た。


「……てっきりオラインさん目的で来たのかと」


「うん? ああ……確か賢者達がそんな事を言ってたな……彼女がそうかい?」


「はい」


「それじゃあ、自己紹介。僕はレルンティシア国で研究者をやっているカイトだ。君が祖国に帰るための飛空艇の解析を行っている一人だ」


「よ、よろしくなのじゃ」


 そう言って、オラインさんとカイトさんは握手を交わす。オラインさんがカイトさんの自己紹介時に出て来た飛空艇の事を訊いてきたので、飛空艇を知らないオラインさんに簡単に飛空艇の事を説明すると、笑顔でカイトさんの開発を応援するのであった。


「ところで……本当の用件は?」


「ああ、そうだった……君達に仕事の依頼。僕、個人じゃなくてレルンティシア国のね。君達に、お祭りに必要なある物を捕獲して欲しいんだ」


「お祭り……ある物……?」


「そう。レルンティシア国の春を祝うお祭りに必要な物……聖獣フェニックスの羽をね」


「「フェニックス!?」」


 カイトさんの思わぬ発言に僕と泉は驚嘆の声を病室内に響かせてしまうのであった。

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