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320話 病室での新事実

前回のあらすじ「熊の背中にファスナーは付いていません!」

―午後「アザワールドリィ施設内・病室」―


「ご紹介遅れて申し訳ありませんでした……私はビシャータテア王国、サルディア王の娘のユノと申します。薫の婚約者でもあります」


 着ていた水色のスカートを広げて、挨拶をするユノ。オラインさんはその名乗りを聞いて、姿勢を整え、頭に手を当てる敬礼のポーズで自己紹介する。


「魔国ハニーラス、第5番隊隊長のオラインと申します……一国の姫様がご挨拶しに訪問してこられるとは思っていなかったの……ん?」


 ユノが一国のお偉いさんと知って、語尾の「のじゃ」を失くしたまま話すオラインさん。今、僕たちはアザワールドリィ内に用意された病室で話をしている。オラインさんは入院着を着てベットの上に座り、グラッドルはその近くで寝ている。ここは急遽用意した部屋……というわけではなく、ショルディア夫人の指示の元、グージャンパマのお偉いさんがこちらで入院することになった場合を想定して、予めあった部屋である。


「薫の婚約者……?」


「はい」


「……それって、つまり薫は王族の関係者なのか?」


「そうですよ♪」


「大変失礼したのじゃ!」


 すぐさま、僕の方へと振り返って、頭を下げるオラインさん。そこまでしなくても……。


「ユノの冗談ですよ」


「え?じゃあ、婚約者では……」


「いえ。婚約者ですけど、そこまで畏まられるほどの……」


「畏まれる立場じゃろうって!? 何じゃ無自覚で言ってるのかこやつは!?」


「そうなのかな……?」


「そうなのじゃ……一国の姫様と婚約関係なら、次期王婿じゃろうって……」


「いえ。ユノのお兄さんであるアレックスさんがいるので、僕は無いですよ」


「アレックス王子が子を設けておらず、その状況で不幸があった場合、次期継承権は?」


「私ですね。私が女王になって、だから夫になる薫が王婿となりますね」


「つまり……お主にも一国の王になるチャンスがあるのじゃ。だから、このような王家の仕事もこなしてるじゃろう?」


「これは全然関係ない……ん?」


 僕はオラインさんの言葉に何か引っかかった。王家の仕事……アリッシュ領での鉱山視察以外にも、ユノのお父さんであるサルディア王からギルドを通して依頼を受けていたことがあったのだが……まさか?


「そんな訳が……」


 そう言って、ユノを見るといつも以上にいい笑顔を見せる。


「マジで!?」


「お兄様が継ぐのは確定ですが……もしもの時も考えて、しっかりお父様は考えていらっしゃいますよ」


「新たな王の誕生……」


「しないから……そのネタ古いから……」


 まさか、そんな第二プランが密かに進行中だったとは……。かといって、婚約者のお父さんの依頼を断るなんて……。


「あ、これって僕の性格上、断らないと思って仕事の依頼をしているのかな?」


「さあ……どうでしょう♪」


 なるほど……僕の性格を考慮しているんですね。ユノの今の笑顔でそれが良く分かった。


「さてと……そんな話はここまでにして、私がこのような場所に出向いたのは、今回の件がそれだけ重要だと捉えているのと、こちらには魔国ハニーラスといざこざを起こす気は無いという意思表示にもなります」


「うむ……分かっておるのじゃ。ただの一国の隊長風情にここまで厚い歓迎を受けてるのじゃ。そして、その見返りは我が王との謁見かのう?」


「ええ。既にご理解していただけてると思いますが、ここは私達が住む世界とは別の世界。そして私共の国は他国と一緒に異世界といわれるこの地球と国交を結ぶために、交流を始めています」


「そこに我々も混ざって欲しいと……?」


「可能でしょうか?」


「うむ……」


 顎に手を当てて考え始めるオラインさん。千年近くこちらとの国交が無い国。文化や思想が全く異なる可能性がある。それこそ、他国との関わりを厳禁する国かもしれない。


「恐らくは……可能じゃ。既に隣国の夜国ナイトリーフと協定を結んでおるしな。魔族共はダメだが、人族との関係を結ぶ気はゼロでは無いはずじゃ」


「他にも国があるんですね」


「ああ……とは言っても、後はその国と儂が住む国の2つだけになってしまったのじゃが……」


 頭を下げて、弱々しく話すオラインさん。つまり……それ以外の国は魔族に滅ぼされたということだろう。


「確か……昨日の話では半年前に魔族と戦って、この世界に飛ばされたんですよね」


「うむ。我らが守っていた古代遺跡を奴らが襲い掛かって来てな……しかも四天王の内、3人が来ていたのじゃ」


「……およそ半年前。ちょうどアクヌムが我が国に侵攻して、返り討ちにした頃ですね」


「だからこそ、あの戦闘にアクヌムは来なかったのじゃろうな……けれども、あの時の魔族は全力だったのじゃ。兵の数も桁違い……最後まで儂も粘って、死ぬことも覚悟したのだじゃが、敵の罠でこの世界に吹き飛ばされたのじゃ。まあ、運よくあの山の森に飛ばされた程度で済むとはのう……」


「オラインさんは運が良いッスね。下手すると高所から落ちたり、火口に落ちたり、海の底で溺れ死んでいたかもしれなかったッスよ」


「それは勘弁なのじゃ」


「それで……どうして、その古代遺跡を魔族は狙ったのです?」


「分からないのじゃ。ただ、古代の技術が眠っているとされる遺跡で、詳しい使用用途は不明……そもそも壊れていたのじゃ」


「壊れていたのです? それは本当なのです?」


「間違いないのじゃ。何せ、魔道具に穴ぼこがあったり、切断された跡があったり……とても、それを使用できるような状況じゃなかったのじゃ」


 何者かによって、徹底的に破壊された施設……それって……。


「……その遺跡の名前って、ユグラシル連邦第一研究所?」


「な!?」


「……当たりなんですね」


「う、うむ……少し名前のニュアンスが違うのじゃが……その通りじゃ。ここは先代の魔族の魔王が3人の勇者によって倒された場所でな。歴史的価値を考慮して保管されていたのじゃ……そこを何故か奴らは総動員で襲い掛かって来てな……」


「そこが魔王アンドロニカスの体を再生するために必要な施設だったってことか」


「何を言ってるのじゃ? それでは今世の魔王には体が無いみたいじゃないではないか?」


「そうだよ……今の魔王アンドロニカスと、オラインさんが言っている先代魔王は同一人物。あいつはその時の戦いでは死なずに、意識だけを逃がしていたそうなんだ。マクベスがそう断言している」


「マクベス!? 勇者マクベスは健在なのじゃ!?」


 勇者マクベスか……となると、残りの二人も想像が付く。


「それじゃあ……ララノア様はどうなのじゃ?」


「魔人としては長生きだったようですが……すでに」


「そ、そうか……それは残念なのじゃ……」


「でも安心して、マクベスならいつでも連絡を取り合える状況だし、お婆ちゃんが残した武器なんかも受け取ってるから」


「それは良かったのじゃ……うん? お婆ちゃん?」


「ここにいる薫と泉はおそらく最後の勇者の一人であるアンジェさんの血縁者で……お孫さんですね」


 ユノの説明を受けて、首を傾げていオラインさんがゆっくりと首を起こす。すると今度は、見る見るうちに顔が青ざめていき、座っていたベットから飛び降りて、僕たちの方を向いてどけ座をする。あまりの勢いに、地面に頭を打ったのではないかと思うくらいだった。


「ちょ!? どうしたんですか!」


「も、も……も、申し訳ありません! まさか、王族の人間にため口をしていたとはーー!!」


「「「「……え?」」」」


 王族?さっきの話からしてユノの婚約者としての話の続きでは無いだろう。つまり……。


「僕と泉は魔国ハニーラスの王様とは親戚関係かもって事?」


「そ、そういうことです……アンジュ様は現国王の姉上でありまして……まさか、あの方は戦いの最中に死んだと……もしや?」


「君と同じさ。こっちに飛ばされて……その後、こっちにやって来たララノアとしばらく旅をして……その後、おじいちゃんと結婚して穏やかな余生を過ごしたそうだよ」


「そ、そうでしたか……」


 恐る恐る顔を上げるオラインさん。その表情は今にも泣きだしそうである。とりあえず、このままだと意思疎通するのに不便なので、ここでは、そのような敬意を払うとかはいらない。と優しく言わねばならないだろう。


「まあ……普通にしてよ。僕たちって王族って雰囲気じゃないでしょ? それに、それを証明するような物も無いしね」


「そ、それはそうじゃが……もし、そうだったら儂って大変失礼な事をしてるんじゃが……!?」


「まあまあ……気にしない気にしない。それよりも、しばらくはこっちで過ごすことになるから、こっちの生活で必要な情報を教えるね。例えばそこの機械や、この腕輪の使い方とか」


 僕はアイ・コンタクトをオラインさんに見せる。後はセシャトを渡せば、こっちでのテレビや本なども読めて、入院生活に退屈することは無くなるだろう。その後も様々な機器の使い方を僕は実践しながらオラインさんに説明していく。


「……ってことで、今日はこの部屋でゆっくりして下さい。何かあればこの備え付けの電話で要望を言ってくれれば、可能な限りで応えるとのことなので」


「うむ。分かったのじゃ」


コンコン!


「どうぞ」


「失礼しますね……お待たせしました。準備が出来たので行きましょう」


 曲直瀬医師が他のお医者さんを数人連れて室内へと入っていく。


「えーと……」


 チラッと僕たちを見るオラインさん。どうやら、大分、信頼を得られたようだ。


「僕たちも一緒でいいですか? オラインさんもその方が安心できるでしょうから」


「もちろんです。グラッドルも部屋の前の廊下で待機してもらえるなら、一緒に付いて来てもらっていいですよ」


「グラッドル?」


「がう」


 先ほどから耳をピクピクと動かして、寝たふりをしていたグラッドルがゆっくりと立ち上がる。


「本当に……賢いですね」


「がう~」


 曲直瀬医師の誉め言葉に、返事をするグラッドル。本当に賢い……もはや、中に人が入ってるのでは? と思う位だ。そんな事を、僕は思いつつオラインさんの検査に付き合うのであった。

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