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318話 鬼娘オライン

前回のあらすじ「新たな種族登場」

―「山中・横穴」―


「あぐあぐ……!」


 僕がアイテムボックスから出したお菓子を勢いよく食べる鬼娘のオラインさん。見た目は僕より若いと思っていたが114歳の立派な大人だそうだ。


「美味しいのじゃ!」


 その小柄な体型と、童女を思わせる顔立ちからの笑顔……その姿は子供にしか見えない。ちなみに寒そうな薄着だったので、今は泉が出したジャージを羽織ってもらっている。


「美味しいのです?」


「ぐう!」


 そして、オラインさんの横で、熊のグラッドルはクルミを美味しそうに食べている。あの後、どうにか自身の置かれている状況を理解してもらった所で、彼女がねぐらに使っている横穴で話を聞いている。


「つまり、あなたは魔族との戦闘で片腕を失くし、その状態のまま魔族の罠に引っ掛かってここに飛ばされた……ってことであってますか?」


「うむ!その通りじゃ!」


「さらにユグラシア大陸にある魔国ハニーラスの戦闘部隊の隊員さんでもあるのです?」


「そうじゃ……しかし、ここが異世界とは……それじゃあ、あの動く金属の兵器は?」


「あ、それって……車のことかな?あっちだと馬車とか馬の替わりなんですけど……」


「何じゃと!?あれが移動手段のためだけの魔道具なのか!?」


「そもそも、この世界には魔法と呼べる技術は無いですよ。つまり……別の技術で進化を果たした世界と思っていただければいいかと」


「はあ~……なるほどなのじゃ……」


 出されたお菓子を食べ尽くし、楽な姿勢を取るオラインさん。大分、落ち着いてくれたようだ。


「じゃが……お主らは魔法を使ってるのはどうしてじゃ?」


「この薫と泉は、異世界を行き来出来るんッスよ。それで、うちら精霊と契約して魔法をバンバン使ってるッス!」


「異世界を行き来できる……もしかして、儂って帰れる!?」


「人族が住む大陸までなら。何せユグラシア大陸行きの船とかは無いので……」


「う、うむ……それはそうじゃったな……」


「けれど、このままここにいてもらうのは問題になるのでご同行をお願いしたいのですが……その片腕を治療した方がいいと思いますし……」


「もしかして、ハイポーションを持ってるのかのう?」


「あります。しかし……その片腕の具合からして、一度医者に診てもらってからの方がいいと思います」


 オラインさん左腕は上腕の半分から先が無い。そして残っている上腕はところどころ紫や黒い斑点が浮き出ていて、壊死している可能性がある。それに……。


「失礼ですが……体を清潔に保つために、体を洗ったりしてますか?」


「う!?……臭うか?一応、数日前に川の水を使って洗ってはおるのじゃが……」


「薫兄?」


「うん」


 泉も先ほどからの悪臭に気付いたようだ。しかし……不摂生とかの臭いではない。


「もしかして、体の調子が悪かったりしないですか?」


「……うむ。少しばかり疲れやすくなったかのう……もし、お主らと戦闘になっていたら、すぐに息切れしていたかもしれないのう……」


「薫。このままだとかなりマズいと思うのです」


「私も同意見。いつ容態が変化してもおかしくないよ」


「何じゃ?片腕を失ったくらいで……」


「その左腕にある黒い点ですが……おそらく、そこは腐ってる可能性があります。そのまま放置しておくと、突然死を招く恐れがあります」


「既に半年以上経ってるのじゃぞ?出血も止まってるし……そんな訳……」


「グージャンパマの医療技術とこっちの医療技術を比較したら天と地の差があります。風邪は悪い気が起こしているとかじゃないですからね?」


「なんじゃと!?」


 オラインさんのその反応……初めて知ったカーターと同じなのを思い出す。


「とりあえず!あなたを病院に緊急入院させます!それと、あなたの事をグージャンパマの各国の代表に伝えて、解決策を考えますので……それでよろしいですか?」


「それは願ったり叶ったりじゃが……何の見返りを求めているのじゃ?」


 すっ……と、和んだ表情から疑いの目で僕たちを見るオラインさん。まあ、流石に全て善意の行いというのは怪しまれるであろう。


「魔族の情報を教えてもらいたいんです。僕たちは魔王アンドロニカスの凶行を止めるために行動をしているので」


「魔王の名を知ってるとは……その名を知ってるのは限られた者しかいないのじゃが?」


「まあ、色々ありまして……それと僕たちが知らない残りの四天王二人についても、知る限りで教えて欲しいんです」


「なるほど……そこは別に構わんのじゃが……お主の知ってる四天王は?」


「シェムルとアクヌムです」


「その二人を知ってるのか……その二人は四天王でも実際に群れを率いて先陣を切る奴らでな。特にアクヌムはあっちこっちで大暴れしておるのじゃ。儂も一戦交えたことがあるが……アレは厄介極まりない奴じゃよ」


「となると……アクヌムがいなくなって、あっちはかなりの痛手を負ってるってことッスね」


「アクヌムがいなくなったじゃと!?そんな一体、誰が……もしや?」


「薫兄がぶった切りました。魔石と一緒にコアも」


 泉の話を聞いて、驚いた表情で僕を見るオラインさん。僕はある物をアイテムボックスから取り出す。


「これが証拠です」


「なっ!?これはアクヌムの……」


「体を維持するコアですね。どうでしょうか?」


「これは儂らにとっても好機なのじゃ!!四天王の一角が人族に敗れているとは……!」


 嬉しそうにするオラインさん。きっと、すぐにでも自国の戻って報告したい事柄なのであろう。


「それを報告するためにも、お体の方を調べさせてもらいたいんですが……よろしいですね?」


「うむ……これだけの物を見せられたら、信じるしかおるまい。ちなみにじゃが……グラッドルは……」


「一緒に連れて行きます」


「連れて行くんッスか?」


「この熊さんは、もう野生の熊じゃ無いもの。ここに残したら大変な事になりかねないよ」


「泉の言う通り……オラインさん。移動中にこのグラッドルが人を襲わせないように注意して下さい」


「そこは問題無いのじゃ。この子は賢いからのう……のうグラッドル?」


「がう!」


 大きな返事をするグラッドル。先ほどからオラインさんの言いつけを守って大人しくしてるので、問題無いのかもしれない。


「そうしたら、早速移動を始めたいんですが……出来れば日が暮れる前に」


「うむ。それは分かったのじゃが……今から移動するとなると……」


「あ、そこは大丈夫なので、とりあえず準備を……」


「う、うむ……?」


 オラインさんがそのまま準備を始めたので、僕たちは横穴から出て準備が整うのを、外で待っている間に、僕はスマホを取り出して、ある人に電話を掛ける。


「電波あるの?」


「圏外じゃなかったよ」


(もしもし?薫君か?)


 電話の相手である菱川総理に繋がったので、僕は自分の指を口に当てて泉に会話に入ったことを伝える。


「あ、もしもし。薫です。お仕事中すいません菱川総理。調査中に問題が起きまして……至急、入院させたい人物がいるんですが……ええ。それと熊も一緒に連れて行きます」


(入院?何があった?)


「調査中、ユグラシル連邦があった大陸に現在住んでいる住人を保護しました。種族は魔物。片腕が壊死し始めていまして……彼女を不安にさせないためにも、一緒に過ごしていた熊も連れて行きたいんですが……それらの条件を満たす病院なんてあるのかと思いまして」


(かなり厳しい要望だな……そうしたら、ショルディア夫人とも相談してすぐに対策を取る。とりあえず、この前、利用した旅館に連れて行ってくれ……そこからなら近いだろう?)


「観光地でかなり目立ちますよ?」


(ああ。だから、この前寝泊まりしたあの建屋じゃなくて、ホテルの方に連れて行ってくれ)


「……宿泊中のお客さんに迷惑かけそうですけど?」


(そこは……君の采配に任せる!)


「あ、ズルい!?」


(とりあえず、女将の玉置には伝えておくからな。それじゃ!)


 そう言って、電話を切る菱川総理。まさか、僕たちに全部任せるなんて……。


「何だって?」


「任せるだって」


「匙を投げたッスね……で、どうするッス?」


「とりあえず、今日はこの前の旅館を管理しているホテルに連れて行くよ。今日はそこで一泊して……後は連絡待ちかな」


「明日には一度、帰らないといけないのに……」


「明日……何かあった?」


「とぼけないのです。明日は薫の誕生日である3月3日なのです!」


「相応しい衣装を用意したッスから、着てもらわないと!!」


「何だろう……誕生日なのに罰ゲームを受ける感じなんだけど……」


「待たせたのじゃ!……って、何かあったかのう?」


 元気良く横穴から出て来たオラインさん。特に何も持っていない気が……あ。


「そのアンクレット……アイテムボックスをお持ちなんですね」


「当然じゃ。これが無いと長期の遠征に不便じゃからの……で、どうやって行く気じゃ?」


「そうしたら、グラッドルの背中に乗って、落ちないようにしっかり掴んで下さい」


「うむ。いいかのグラッドル?」


「がう!」


 グラッドルが屈んだところで、その背中に乗るオラインさん。


「じゃあ、僕たちも」


 僕たちも、外で待たせていたユニコーンの背中に乗る。


「じゃあ、行きますよ……虚空」


 僕は魔法でグラッドルを浮かべる。


「な、ななな……!!?」


「がう!?」


 急に宙に浮いたことに驚くオラインさんとグラッドル。


「な、何じゃ!?まさか、風属性の魔法で運ぶ気か!?」


「あ。これ地属性の魔法です。こっちの方が安定して運べるので……落ちないように気を付けて下さいね」


「いや!?ちょ、心の……!?」


「出発進行なのです!」


「いけぇーッス!!」


 心の準備をさせる気が無い精霊二人の掛け声を聞いたユニコーンたちは、そのまま空へと翔けていくのであった。


「下ろしてなのじゃ~~~~!!」


「がう~~~~!!」

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