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317話 雪山での追跡

前回のあらすじ「およそ3年ぶりに登場したお婆ちゃん」

―追い始めて、およそ十分後「山中」―


(下りるね)


「うん」


 ユニコーンたちが魔力の反応がある付近で山肌に下りてくれた。


「うわ……木々が邪魔かも」


「そうッスね」


 泉たちが言うように、葉を落とした木々が乱立しており、ここで武器を振るうのは難しい。一応、魔法を使って整地すれば戦いやすくはなるのだが……。


「泉。邪魔だからって木を勝手に切ったら、この山の所有者に怒られるからね?」


「……ダメ?」


 ヨルムンガルドを構えている泉に、僕は念の為に注意をしたのだが……まさか、やる気だったとは……。


「一応、猟友会の方で多少の木々の伐採は許されてるけど、過度な伐採はダメだからね」


「はーーい……」


「それよりも、熊はどこなのです?」


 レイスの言葉に、僕たちは辺りを見回す。しかし、木々が邪魔で見つけることができない。


(こっちだよ。少し先にいる)


 シエルに言われて、シエルの向いている方向に視線を向けると茶色の何かがゆっくりと動いているのが見える。少々、遠い位置にいるので、スマホのカメラのズーム機能を使って確認する。


「この熊かな?」


「そうみたいッスね」


 のしのしと4つ足で雪の中を進む熊。一方を見て、移動を続けているので、どうやらこちらには気付いていないようだ。


「普通の熊かな……」


「……あっ」


「レイス。何か見つけた?」


「あの熊の左前脚を見るのです。何か装備してるのです」


 レイスに言われてスマホの画面をよく見ると、こちらからだと奥側で見づらいが、熊の左前脚に何か光るものが付いている。


「紫色の魔石を嵌めたブレスレット……無属性?」


「そうッスね。でも、何の魔法が組み込まれた魔石かイメージが付かないッス」


 フィーロの言う通りで、他の魔石なら色からどんな攻撃をしてくるのかが予想出来るのだが……無属性である紫色はその幅広さから予想するのが難しい。しかし……これだけは言える。


「魔石を持っているなんて……一体、ここには何がいるのかな……」


「ヘルメスでは無さそうなのです」


「うん。もしヘルメスなら、とっくの前に利用してるだろうしね……まあ、そもそも、そんな貴重な品を熊に与えるとは思えないしね」


 僕たちの持つ無属性の魔石には、匂いを消したり、音を消したり出来る物がある。僕たちはクエスト時には、これらをキャンプ用品の一つとして利用してることが多いのだが、これらはかなり悪用しやすい物だ。現に熊の追跡のために、それらの魔道具を使っている。


「全然、気付いていないね……確か、熊って犬並みの嗅覚だよね?」


「うん。これが無かったら、少し手こずったかもしれないね」


 僕はシエルの鞍に吊り下げられているそれらの魔道具に目を向ける。2つとも小さなランタンのような見た目であり、冒険者がそれをベルトに吊り下げて、魔獣との戦闘をしても邪魔にならないように軽く上部な魔獣の素材で作られているらしい。


「そうしたら、さっさと捕まえるッス!」


「フィーロ。ここはあの熊に魔石を与えた奴のところまで案内させるのです。だから、こっそり後を追うのです……そうですよね薫?」


「その通り。だからシエル。このまま距離を取って、熊の後を追ってくれる?」


(問題無いよ。それじゃあ……行くね)


「お願い」


 シエルにお願いして、離れた距離から熊を追跡する。ユニコーンにとっては不慣れな雪道で、歩きにくくないのか気になったのだが、シエルたちは特に気にする事なく歩いているので問題は無いようだ。


「どんどん山奥に進んでいくのです」


「ねぐらに戻るッスかね」


「あ。止まった」


 熊がその場に立ち止まって、辺りを伺っている。すると、枯れた木々から一匹の鹿が熊を見て警戒している。すると、熊はバイク並みのありえないスピードで鹿に向かって雪道をダッシュする。それを見た鹿はすぐさま逃げるのだが、当然、熊の方がスピードが速く、その勢いのまま鹿に激突。鹿はダンプトラックにでも轢かれたかのように、吹き飛ばされる。そして……熊はすぐさま鹿に近づいて、その首を噛んだ。


(うわ……ポキッだって。首の骨を折ったよ。あいつ)


 ユニコーンのシエルには聞こえた鹿の首の骨が折れる音。そして熊はそのまま鹿の首を噛んだまま移動を始める。


「狩りの最中だったんだね」


「薫兄?熊ってあんな早く走れる生き物だっけ?」


「車と同じスピードで走れるみたいだけど……アレはいくら何でも速すぎるね。まあ、お陰であの熊の魔石が何の効果がある物か分かったけどね」


「ズバリ!身体強化ッスね!」


「その通り。正解だよ」


 ガッツポーズして喜ぶフィーロ。1つの魔石に組み込める魔法は基本一つである。そして、今回の魔石の色は無属性からして、僕たちの鉄壁やプロテクションのような身体強化系の魔法だと考えられる。


「ってことは……あの熊が全力で腕を振れば、鉄格子を斬鉄することが出来るって……ことだよね?」


「……うん」


 そう。あの切られた檻の謎だが、単純に熊の力技ということになる。


「凶悪な手刀ってことなのね……」


「人間なら胴体真っ二つだよ」


 絶対にあの熊と接近戦で戦わないようにしよう……そう心に決めるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから1時間―


「どこまで進むのです?」


 熊は相変わらず、鹿を加えたまま山中を移動している。


「……そろそろじゃないかな」


「どうしてなのです?」


「あの熊は村に頻繁に出没してるでしょ?そうなると、そこまで離れた場所には行かないと思うんだ。それに……あの鹿を誰かにプレゼントするために運んでいると考えると、そこまで離れた所にいるとは思えないんだよね」


「それは……そうかもしれないのです」


 熊は雑食だが、あまり肉というのは食べない。基本的には植物を食べていて、よく聞くであろう鮭を捕えて食べる熊は、日本では北海道に生息するヒグマだけである。


「止まったッスよ」


 今まで休まずに、動いていた熊が立ち止まって鳴き声を放っている。誰かを呼んでるのか……。


「……あっ」


 僕は慌ててアイテムボックスから、アダマンタイト製のクナイを取り出して、違和感を感じた方へと思いきっり投げる。


キンッ!


 すると投げたクナイが金属音を立てて弾かれ、雪で覆われた地面に突き刺さった。


「な、どうして気付いたのじゃ!?」


「物音や匂いは魔道具で消せても、殺気は上手く消せていないよ?」


 僕はクナイを弾いただろう両刃剣を片手で持ち、さらに赤い髪から見える童話の鬼のような二本の角、そして……ボロボロの服を着た片腕の女の子がそう答える。彼女の途中まで気配を消す技術は完璧だった……しかし、僕たちを襲撃しようとしたタイミングで殺気が漏れだしたのだろう。それが違和感となって、僕が気付いてしまったのだ。


「そんなの分からないから……ねえ。皆?」


 泉の問いかけに、全員が頷いて同意する……まさか、ユニコーンにも同意されるなんて……。


「そうかな……?ねえ、君?気付くよね?」


「敵である儂に質問するな!?そんなの儂でも無理じゃ!!」


 僕の問いかけにしっかり答える鬼娘。しかし……あれだけ上手に気配を消せるから、感知するのも上手いと思ったのだが……無理でしたか。


「あそこまで気配を消せてるなら、出来ると思ってたけど……あ。ちなみにお名前は?」


「たわけ!答えるか!いけー!!グラッドル!!」


 鬼娘がグラッドルと叫ぶと、先ほどの熊がこちらに突進をしてくる。


「カース・グラビティ!」


 僕が何かをする前に、泉が近づいた熊をグリモアで強化した重力魔法で地面に拘束する。


「な、何じゃその魔法は!?」


「ただの地属性魔法ッスよ?」


「そんな魔法、四天王でさえも使っていないんじゃが!?」


「四天王……ってことは、魔族の手先なのです?」


「そこのチビ!誰が魔族の手先じゃ!儂は魔物!!そこを間違えるのは許さん!!ったく……ん?お主らって魔族じゃ?」


「私達は人だよ」


 僕と泉は付けていたお面を外して、素顔を見せる。


「人じゃと!?どうしてここに?」


「それはこっちのセリフなんだけどな……どうして、君はここにいるのか」


「何を言っとる!?ここは戦地じゃぞ?しかも……ユグラシア大陸に人間なんぞ住んでおらん!」


「「「「……?」」」」


 鬼娘のその話を聞いて、首を傾げる皆を横目に、僕は一番重要な事を聞いてみる。


「ここはグージャンパマのユグラシア大陸ではなく、地球の日本という土地ですよ?」


「……何じゃと?」


「だから……ここは異世界の門(ニューゲート)を使わないと、来ることは出来ない異世界ですよ?」


「な、ななな……何じゃと~~~~!!?」


 目を見開き、盛大に驚く鬼娘。その後、あっちには無いスマホを見せたり、持っているお菓子で餌付け……ではなく、友好をアピールして、とりあえず戦闘を避けるのであった。


「くぅ~~ん」


「あ。解除してあげるの忘れてた」

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