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315話 初春のお仕事

前回のあらすじ「その後、セラさんは完全週休二日制を手に入れることに成功した模様」

―「薫宅・書斎」―


「さてと……」


 僕は出来上がった原稿を送信して、背筋を伸ばす。2時間ほど集中していたのですっかり体が固まってしまっている。


「お疲れ様なのです」


「ありがとう」


 色々な事があった2月が終わって、3月が始まった今日。締め切りに十分余裕を持って原稿を終わらせることが出来た。


「午後にイスペリアル国の領事館に行くのです?」


「うん……ドラゴンの素材の補充をしないといけないからね」


 笹木クリエイティブカンパニーで研究にドラゴンの素材が必要という事で、それの補充の仕事がある。


「その前に……お昼にしようか。カップラーメンでいいかな?」


「いいのです。時間も無いですし」


 僕とレイスは書斎を後にして、台所でカップラーメンと作り置きの総菜で昼食を済ませ、いつもの巫女服で身を包み出掛ける準備をする。僕が一足先に準備が終わったので居間のテレビを点けてニュースを確認すると……。


(現場の小室さーーん!!)


(はーーい! 私は今、話題のスポットである笹木クリエイティブカンパニーがある町にやってきていまーーす!! 見て下さい! 最寄り駅では少しでもいいから異世界を味わいたい人で賑わっています! ここから笹木クリエイティブカンパニーまでは駅前に用意された臨時バスに乗って近くまでいけるようになっています!)


(臨時バスはどのぐらいの間隔なのよ!?)


(臨時バスは1時間に2本! 30分おきに出発していますよー! この後、私も移動して現場の状況をリポートしようと思いまーす!)


(気を付けて行ってくださいね~……それでは次はこちらの企画にいってみましょう!!)


「凄い賑わいなのです」


「そうだね……」


 準備を済ませたレイスがいつの間にか居間にやって来ていて、先ほどの中継の感想を述べている。笹木クリエイティブカンパニーが、妖狸と親密な関係であると公表してから数週間が経ち、この町の新しい観光スポットとなっている。ただ、敷地外にたむろされても困るので、数時間おきに抽選で内部の見学ツアーを行っているとのことだ。


「さてと……準備はいいかい?」


「オッケーなのです!」


 僕はテレビを消して、羽織を羽織ってレイスと共にグージャンパマへと出掛けるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「イスペリアル国・領事館 敷地」―


「大きくなったのです!」


「ぐぉ!」


 レイスが領事館の庭に仮住まいしているグリーンドラゴン夫妻の子供の頭に乗って、一緒に庭を走り回っている。


「お子さん。すくすく成長して良かったですね」


「グォオオーー」


 グリーンドラゴン夫妻の子供は順調に成長して、今は大型犬ぐらいの大きさになっている。今はお父さんと一緒に狩りの訓練をしており、もう少し翼がが大きくなったら飛行訓練をするとのことだ。


「グォオ」


「ありがとうございます」


 僕はお母さんから鱗と牙を受け取る。牙は大きさからして子供の物だろう。


「グォオオ……グォ」


「うん?もしかして、ここを離れるという話ですか?」


「グォ!」


 ちょっと前にペクニアさんとハクさんが領事館に来て、家族と会話をしていたのだが、その際に二人から親子がここから元の棲み処に戻る事を聞いている。


「お子さんが飛べたら、故郷に帰られるんですよね……その時はぜひ見送らせてください」


「グォオオ!」


 大きな返事をするお父さんドラゴン。グリーンドラゴン夫妻もしっかり挨拶をしてここを離れたいようだ。


「それじゃあ……そろそろ約束があるので、行きますね。レイス行くよ!」


「はーーい!じゃあねなのです!」


「ぐお!」


 子供ドラゴンと挨拶をして、こちらにやってくるレイス。


「もう少しでお別れはチョット淋しいのです」


「そうだね」


 僕たちはグリーンドラゴンの家族との別れが近づているのを惜しみつつ、領事館へと入っていく。


「お二人共!お帰りなさいませ!」


「ただいま。何かあったかな?」


「特にご用件は預かっておりません」


「分かりました。僕たちはこの後、クロノスに行ってしまうので引き続き、管理をお願いします」


「はい」


 領事館を維持するために教会から来ている修道士に指示をして、僕たちは新しく出来た金庫室にやってくる。


「えーと……」


 暗証番号と魔石で加工された金庫専用キーを使って、ミスリル製の扉を開けて中に入る。


「どのくらい持っていくのです?」


「グリーンドラゴンの鱗を20枚にブルードラゴンの鱗5枚……レッドは1枚だね」


 僕とレイスで手分けして棚に置いてあるドラゴンの素材を中央に設置してある机の上へと並べていく。


「ブルーとレッドはオッケーなのです」


「りょーかい。グリーンは……一枚足りなかった」


 僕は足りなかったグリーンドラゴンの鱗を棚から1枚出して、中央の机に置く。その後、それらをアイテムボックスにまとめて収納する。


「牙や骨は不要なのです?」


「うん。牙って中々抜けない素材だし、骨なんてあってはならないからね」


 今回の鱗の使い道は、エリクサーを使った新薬の製作に使われていて、バイオテロで使われた薬をもっと安価で作れないかというのがコンセプトである。また、同時並行でこれと同じ物を地球の素材で作れるかというのも研究中だ。


「さてと……次は」


 僕たちは金庫室の戸締りをした所で、今度は隣室にある転移魔法陣でクロノスに飛ぶ。


「ここも大分、雰囲気が変わったのです」


「壁を直すだけじゃなくて、見た目もこだわってるよね……」


 少し薄暗い雰囲気だったポータル場も、今は白を基調とした塗装がされ、明るい雰囲気でありながら、どこか厳かな儀礼場を彷彿させる。


「何か神々しいんだよね」


「あ~分かるのです。何か神事を行うような雰囲気が……」


 どこか厳かな雰囲気があるこの場所。ここにある転移魔法陣を使ったら別の場所に飛ばされて、神隠しにあってしまうのではないかと思ってしまう。そんな事を思いつつも、笹木クリエイティブカンパニー行きの魔法陣で、僕たちは地球に戻るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「笹木クリエイティブカンパニー・第一倉庫付近」―


「え?妖狸……」


「本当だ!」


 僕たちが笹木クリエイティブカンパニーの敷地内を移動していると、見学中のグループと紗江さんに見つかってしまった。


「あ、お疲れ様です妖狸さん!例の素材の搬入ですよね」


「ええ……ドラゴンの鱗を持ってきたけど……」


「ありがとうございます。そうしたら、アザワールドリィに持ち込んでもらってもいいですか?」


「分かったわ。紗江さんも工場案内頑張ってね」


「妖狸さんも」


 こちらを向いたまま、後ろにいる取材陣に見えなところで必至に笑いをこらえる紗江さん。色々、ツッコミたいがここで素を出す訳にはいかないのでさっさとこの場から離れる。


「妖狸さん! ぜひ取材を!!」


「申し訳ありません! 妖狸は個人での取材は今のところ受けないとのことです!」


 笑いを耐えきった紗江さんが後ろで撮影している報道陣を説得している。報道陣も是が非でも僕に取材をしたいところなのだろうが、ここは笹木クリエイティブカンパニーの敷地内。ほどなくして、取材を申し込む声が静かになった。


「妖狸? 取材を受けないのですか? 見学ツアーに参加している子供が羨望の目で見ていたのですよ?」


「……僕にさっきの口調を使わせたいだけでしょ?」


「純粋に子供の期待に応えたいと思っただけなのです」


 絶対に違う……そんな作り笑いで僕は騙されないからね? そんな一幕もありつつ、アザワールドリィと笹木クリエイティブカンパニーを行き来するための門を抜けて、そのままアザワールドリィの施設内に入る。


「すいませーん」


「薫様。お待ちしておりました」


 そう言って、受付の女性が立ち上がってお辞儀をする。


「薬の研究に必要な素材を持ってきました」


「ありがとうございます。すぐに担当者をお呼び致します」


「ああ!いいよ……!もう来てるから!」


 そう言って、アザワールドリィの黒人の男性研究員が後ろに他の研究員と台車を連れてやってくる。


「早いですね?」


「さっき、君がテレビ映ってたからね。すぐに周りの奴らに呼び掛けて準備したんだ……で、例の物は?」


「こちらです」


 僕はアイテムボックスから竜の鱗を台車の上に出していく。


「赤1、青5、緑……30だね。うん。確かに受け取ったよ」


 黒人の研究員は、連れて来た他の従業員に台車に乗せたそれらを運ぶ指示を出す。


「ありがとう。今のところ成果があるのはこの方法ぐらいでね……」


「気にしないで下さい。これも仕事の内ですから」


「そう言ってもらえると助かるよ。君達の戦いに役立つような物も作ってるから楽しみにしてくれ」


 黒人の研究員はそう言い残して去っていった。僕たちもやる事は済んだので、受付嬢の人に挨拶をして施設を後にする。


「とりあえず、これで午後のお仕事は終わりかな」


「なのです。この後、どうします?」


 この後、領事館に一度戻って、書類の整理をしようかとレイスと話し合いながら歩く。冒険者としてクエストを受けるにしても、午後の時間帯では大した依頼は残っていないだろう。


「後は……エーオースに行ってみようか。あそこもまだまだ準備がいるだろうし」


「賛成なのです」


 すでに午後2時過ぎ。これらの仕事をしたら、今日の一日の業務は終わりにしていいだろう……。


「うん?」


 僕は振動するポシェットからスマホを取り出す……。


「マスターからだ……」


 周りを見渡して、一般人が近くにいないか確認してから電話に出る。


「もしもし?」


「もしもし。こんな時間に電話して迷惑だったか?」


「うんうん。今、仕事が一段落して、あっちで書類の整理とかをするところだったんだけど……どうかしたの?」


「いや……うーーん……ちょっとな」


 はっきりしない返事である。いつもハッキリ言うマスターがこんなごもごもした感じで返事するのは珍しい。


「何か厄介事?」


「厄介事なんだが……お前らに頼むほどでもない……って感じでな」


「話してみてよ。ダメならダメって言うからさ」


「そうか? それなら……」


 マスターから、ある相談を受ける僕。僕としてもすぐに返事を返せずに、各関係個所に連絡してからと返事をするのであった。

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