311話 穏やかな夜……?
前回のあらすじ「エーオースを散策」
―夜「薫宅・居間」―
(薫君!浮遊石を……)
「電話を切ってもいいですか?」
僕はボタンを押して、電話を切ろうとする。
(おいおい!それは無いだろうって……)
「冗談です。でも、これをひたすら作る気は無いですよ?」
(もったいない……1個100万から買い取る。って言われたんだろう?100個売れば1億円の大金持ちなのに……)
「既に大金は頂いてますからね……今さらです。それに婚約者の父親から、均等に配分してくれ!ってかなり真剣な表情で言われてますので、とりあえず10個限定でお譲りしますので……その方が国も都合がいいでしょうから」
(全く……何か必要な事があればすぐに言ってくれ。それを貰った分の礼はするぞ)
「ありがとうございます……」
「お風呂を先に頂きました」
後ろからセラさんの声が聞こえる。振り向くとセラさんとレイス。そしてユノがお風呂から上がって来たところだった。
「あら?電話中でしたね」
「気にしなくていいよ。そろそろ通話を終わらせるつもりだったから」
(聞き覚えのある女性二人……君、女性二人をお風呂に入れて、これから何をするつもりなんだい?)
「何って……晩御飯ですけど、それが何か?」
何を言いたいのか分かっているので、語気を強めて返事をする僕。
(あはは!冗談だ。それをするとも思っていないしな)
「……この電話のセクハラ内容をメディアにでも売り飛ばしましょうか?」
(おいおい!冗談だ……とりあえず、浮遊石が出来たら笹木クリエイティブカンパニーの方に預けてくれ。そうしてくれれば、息子の竜也から受け取れるからな)
「分かりました」
(ああ……それと、あのニュースは見たか?)
「見てる最中ですよ。これも早すぎるのでは?」
ここにいる皆も先ほどから点けっぱなしになっているテレビから流れるニュースを見ている。そこに映ってるのは……。
(こ、これは!?)
(我が社で保管している異世界の素材です。こちらはマダーウッドと言われる植物型の魔獣の枝でして、未加工のままロープとして使える素材になりますね……その隣にあるのは……)
何と紗江さんが、笹木クリエイティブカンパニーで保管しているグージャンパマの素材の説明をカメラに向かって行っている。
(この会社は妖狸とお付き合いがあると?)
(はい。それとアイ・コンタクトとセシャトは隣にあります工場で、大量生産を行っています)
(なるほど……あ、あそこを歩いている方ですが魚みたいに鱗が……)
(オアンネスの方ですね。彼はここで研究を行っている従業員です。それと……)
あたかもそれが当然のように話す紗江さん。そのまま次の場所に案内する。
「まさか、取材で隣にあるアザワールドリィと関係性を訊かれて、あっさり認めて会社見学させるなんて……」
(笹木社長の意思だ。これからは大々的に活動するという意思表示らしい)
「一言くらい言って欲しかったな」
(まあまあ……それだから、あまり笹木クリエイティブカンパニーには行かないでくれ。うっかり君達の事がバレるかもしれないしな)
「分かってます」
そう言って、電話を切る菱川総理。
「この3日間で色々あり過ぎなのです」
「だね……」
初日に国会での説明。次の日はエーオースへの侵入の為に迷宮を進み。そして今日は復旧したエーオースの調査に今のニュース……。
「明日は有給休暇でも取ろうかな……」
「それもよろしいかと……あまり、働きづめも悪いですよ」
「今のセラさんがそれを言うと、妙に納得するよ……っと、それじゃあ晩御飯にしようか」
「手伝いますね」
「いいよいいよ!まだ、髪を乾かしてないでしょ。ゆっくりしていって」
僕は皆にそう伝えて、電話に出るために中断した料理の続きをするために台所へと向かうのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―薫が台所に行ったと同時「薫宅・居間」ユノ視点―
「何か所長に悪い気が……」
「本人は気にしていないので、お言葉に甘えて髪を乾かすのです」
そう言って、レイスは慣れた様子で髪を乾かしていきます。私もドライヤーとブラシを手に取り……。
「セラさん。どうぞこちらへ」
セラさんは遠慮しますが、最後は折れて私の正面に座ったところでセラさんの髪を乾かしていきます。
「凄く綺麗な髪ですね……これって私達と同じように伸びたりするんですか?」
「ええ、伸びますよ。私の場合はどれだけ生物に近づけるかという趣旨の元で作られていますので。なんなら殿方相手に夜のお相手も出来ますよ?」
「あら?そんな事を言わないで下さいよ。それだと薫を狙ってるように聞こえますよ?」
「私としては二人でお相手するのもありかと思ってますけど?そうして無理矢理でもしないと薫様がユノ様を襲わない気がして……」
「それは……どうでしょうか。ああ見えて、薫は肉食だと思いますよ?」
私に壁ドンで迫って来た事があるのですから、見た目は美少女でも男性としての本能はしっかりあるのは間違いありません。
「そうだといいんですが……アンジュ様のお孫さんである薫様を見ていると、少し心配で……気分はおばあちゃんですね」
「おばあちゃんはお孫さんを夜這いしませんよ?」
「ふふ……それもそうですね」
そのまま静かに髪を乾かしていく私。ブラシは何かに引っかかることなく、セラさんの髪を梳かしていく。
「羨ましいほどの髪なのです」
「ですね」
「ありがとうございます」
髪を乾かし終えたレイスが、セラさんのところまで飛んできて、その髪を触って、感触を確かめる。
「こんな髪をしているセラさんをコスプレをさせたいのです……」
「ああ……分かりますね。この緑色の髪がよく似合うキャラとかいましたよね」
セラさんの髪を乾かし終え、私もその髪を確かめます。
「あ、あの……?お二人共?」
「それに、このメリハリボディも羨ましいですね……ここ最近、食べ過ぎてお腹が気になるのに、コッペリアのセラさんにはそれが無いって言うのは……」
私は寝間着の上からセラさんの体を触ります。お風呂で見たセラさんの体は女性である私も惚れ惚れするほどの綺麗な体でした。そもそも美人だとは思っていましたし……だから。
「着飾ってみたくなりますよね」
「なのです……」
「ちょ、ちょっとお二人共!どこを……いやっ!ちょ、ちょっと!!」
「お胸もハリがあっていいのです」
そのままレイスがセラさんの胸を触っていきます。嫌がるセラさんはレイスさんを振りほどこうとして暴れて、着ていたパジャマが着崩れしていきます。
「胸にほくろがありますね……わざわざ付けるなんて、セラさんを作った人のこだわりを感じますね……」
前ボタンが外れ、胸の谷間が顕わになってしまったセラさん。お風呂に一緒に入った時には、特に気にしていなかった胸のほくろがセクシーさを強調しています。
「お二人共!いい加減に!」
「何してるの……?」
振り返ると、料理をお盆に持った薫が居間の入り口に立っていました。
「セラさんをコスプレさせるとしたら、どんなのがいいのか話し合っていたのです。そうですよね?」
「ええ。少々やり過ぎた感はありますけど……」
「ならいいけど……そろそろ料理ができるからほどほどにしてね?」
「薫様!?これがほどほどですか?」
薫に、今の自分の姿を見せて訴えるセラさん。冷静になって、その姿を見ると、女性としてかなりはしたない姿なのですが……。
「……僕の場合はそこから衣装を着せられて、お化粧を施されるまでがセットだからね。しかも、パット付きのブラジャーもさせられるし……」
そう愚痴をこぼししつつ、炬燵の上に料理を置いていく薫。そして、何事もなかったように、次の料理を運ぶために台所へと行ってしまいました。
「流石、薫なのです」
「ですね」
「お二人共……所長をもう少し労ってあげて下さいよ」
冷静になった私達は、薫が料理を運びきる前に、乱れた衣服を整え、私は自分の髪を乾かしながら静かに待つのでした。
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―夕食後「薫宅・書斎」―
「うーーん……」
夕食を終え、お風呂にも入って後は寝るだけの僕は手帳を捲りながら、ある事を考える。
「寝ないんですか?」
「いや。寝るけど……ユノはどうしてここに?」
「あら?婚約者と一緒に寝てはいけないんですか?」
「それは……」
既にユノとは何回も一緒のベットで寝ている。今さら否定しても説得力が無い。僕は手帳を閉じ、電気を消してベットの中に入る。
「ふふ……それで、何を気にしていたのですか?」
「今後の予定。エーオースも見つけたことだし……今後は何をしようかなーって。やる事はたくさんあるんだけど、これといった最優先する用事も無いんだよね」
「それだったら、それでいいんじゃないですか?とりあえず……」
ユノが寝ている僕の体に抱き付く。
「今はぐっすり眠りましょう」
「……だね。お休みユノ」
「はい。お休みなさい」
お休みの挨拶をして、眠りに就く僕。今だけは何も考えずに、ユノのぬくもりを感じながら眠り落ちるのであった。