310話 施設内の散策
前回のあらすじ「片手間で作れる浮遊石」
―「軍事施設エーオース・格納庫 船内」―
「……出来ないけど?」
「あれ?」
他の人に浮遊石の作り方を教え、それを実戦してみるが誰も出来なかった。
「おかしいな……」
「あ……出来たよ」
その声に、浮遊石を作ろうとしていた賢者さんたちが、その声を出した人物に顔を向ける。
「うわ……これ、面白いね」
「これを使えば、ゲームに出て来る宙に浮くインテリアの作製も出来そうッスね……あ、これを衣服に仕込めば、フワッとした表現に使えるんじゃ?」
「ああ!それいいね!」
作った浮遊石を見て、二人の物づくりのインスピレーションが湧いたみたいで、次に何を作ろうか、その場で相談を始める。
「そんな希少な物を、そんな事に使わないで下さい!!」
「ソフィア。彼らにとって浮遊石はいくらでも作れる物……希少でも何でもないだろう」
「それはそうですけど……」
「それより……どうして、薫たちと泉たちしか作れないんですかね?」
「そうですね」
ここにいる賢者の誰もが作れないで、僕たちだけが作れる……その差は一体何なのかと考えているが、何となく答えは分かっている。
「皆さん……この中で地属性の魔法に適性のある方はいますか?」
「「「「……」」」」
僕の質問に黙ったまま、互いに目を合わせる賢者さんたち。彼らの顔色からして適性者がいないのが分かる。
「ああ、なるほど……賢者って国の防衛に大きく関わる人達でもありますから、最弱と言われ続けていた地属性魔法に適性がある賢者というのは少ないのですね」
「そうだったのか……てっきり、この中に一人くらいはいると思っていたんだが……」
「俺も思っていた……まさか、いなかったとは……」
「これは……地属性に適応のある魔法使いを抱き込まないとマズいな……」
「国へ報告しないと……」
地属性の魔法は今まで不人気だったために、一人ぐらいは適性者はいても、魔法の熟練度が低い者しかいないという国もあったりする。きっと、この後、大急ぎで募集だったり練度を上げるための特訓とかをすることになるだろう。
「薫。後でお父様に必要な数を訊くので……浮遊石の生産をお願いしてもいいですか?出来れば泉にも……」
「「「「ズルい!!?」」」」
ユノのお願いを聞いた人たちが一斉に声を上げる。まあ、ビシャータテア王国は婚約という形で僕たちと泉たちは関係があるのだから仕方ない。
「日本も忘れずに頼むぞ?」
「ああ!ズルいですよ!?我が国と組織にも!!」
自衛隊から来た特技兵さんとソフィアさんが言い争いになる。それが連鎖してここにいる全員で言い合いになってきたので、とりあえず……例のセリフを言う。
「皆さん……静かにしないと出禁にしますよ?」
笑顔でドスを利かせた声で、その一言を言い放つと、その途端に皆が静かになった。
「ず、ズルい……」
「誰かが無理矢理止めないと言い争ったまま、いつまで経っても話が終わらないですから……それより、他の場所も探索しなくていいんですか?」
「そうだな。我々も今日中には一度まとまった報告を上げないといけないしな」
「確かに……この飛空艇だけの情報というのは、少し物足りないですもんね」
オリアさんとソフィアさんの言葉を受けて、賢者さんたち数名が頷いている。彼らも遊びで来ている訳では無い。この後、自国に報告するという仕事があるのだ。いつまでもここで愚痴をこぼす訳にはいかないだろう。
「とりあえず、この話はここまでにしましょう」
「納得いかないが……仕方ない」
「ドルコスタ王から突っつかれてるしな……素直に従うとするか」
「そうしたら、次に行きますよ。いいですね?」
「「「「はーい」」」」
大人しくなった皆を連れて、僕たちは船上で休んでいるセラさんと合流しようと船上に上がる。すると、そこには先ほどまでいなかったミリーさんとカイトさんが一緒に置いておいたお茶を飲みながら、雑談をしていた。
「二人共どうして……いや、どうやってここに?」
「このクーっていうロボット犬が私達が来たことを察知して案内してくれたのよ」
「それで、ここまで案内されて……お疲れの彼女と雑談をしていた訳さ。それで薫?その手に持っているのって飛空艇に使われている浮遊石かい?」
「同じ物だけど、これは僕たちが作った浮遊石だよ。まあ、小粒だけど……」
「「作った!?」」
「薫様!?作ったって、どういうことですか!?それを作るのにイレーレもマクベス様でも作れるかどうかなんですよ!?」
「コツさえ掴めば普通に……ほら、これ2個目だし」
「うちらも作ったッスよ。そうッスよね泉」
「そうそう。ほら!」
そう言って、僕たちは作成した浮遊石を見せる。
「……あ、これで薫達への対応がまた変わるわね」
「だね……っと、薫。その浮遊石を一個当たり、100万で買い取るから作成依頼を……」
「「「「ダメだからな!?」」」
「皆、同じことを考えてるのね……」
僕たちの後ろにいる方々の殺意のある視線を感じて、何かを察したミリーさん。
「ですね……それにユノに頼まれたので、そっちを優先に……」
「それは分かるけど……大丈夫?ストレスであなたのお父様の胃に穴が開かないかしら?」
「我が国の発展の為には必要なことですから♪」
実の娘に国のために犠牲になってくれと言われてしまった王様……ユノの性格からして冗談だとは思うが、けれども早々に何かご機嫌どりした方がいいかもしれないと思うのであった。
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―「軍事施設エーオース・武器庫」―
「これは凄いわね……」
「ああ。保管されている武器全てがレアだからな」
保管されていた武器を見学する僕たち。武器庫という名前が付いていたので、大量の武器がここに……と思っていたのだが。
「でも……小隊分の武器しか無いのね。この銃とかあったらドラゴンにも負ける気がしないんだけど……」
ミリーさんがデメテルで泣く泣く返却した銃と同じ物を手に取って眺めている。欲しそうな表情をしているが、あげるつもりは毛頭ない。
「これらは厳しい管理下で使用するので、ダメですよ」
「分かってるわ……でも、増産するわよね……?」
「それは……無理ですね」
セラさんが話に入って来る。そして、その発言を聞いた周りの人たちの視線もそちらに集中する。
「どうして?これがあるってことは作れるのよね?」
「はい。作れます……製作に一個当たり50年ほどかかりますが……」
「ご、50年!?」
「こちらの武器なんですが、昔いた研究員が自身が魔法の才能が無くて、それをどうにかしようとして試行錯誤の結果出来た物なんです。そして、その研究が認められて、彼が作成した専用の製作魔道具がここに置かれたのですが……」
「膨大な時間が掛かるのが最大のデメリットってことね」
「それだけではなくて、その製作する魔道具……魔工武具生成装置がその研究員じゃないと分からない内容でして……それを、伝える前に彼はお亡くなりになってしまったのです。だから、この施設でも稼働してるのはその一台だけですね」
「そ、そんな……」
ガクッと肩を落とすミリーさん。これから魔族との戦いで有利に立てると思ったのだが……そうは上手くいかないか。いや、平和になった後の事を考えると増産できない仕組みで都合が良かったと思うべきか。
「この施設が閉鎖中でも、その機械だけは動かしていたので1つくらいは出来てるかと……」
「それでも……今から作ってもらったとしても、私がその前に引退してるわよ……はあ」
「はははは……それじゃあ、魔族との戦いではここにある武器を大切に使って下さいってことですね」
「その通りです。銃に必要な弾は、その機械じゃなくても作れるので安心して下さいね」
笑顔で話すセラさん。しかし、それなら銃を大量生産出来る仕組みを残してくれよ。と言わんばかりの表情を皆が見せる。
「まあ……それなら、魔法の研究をしたほうが早いのか」
「昔はそれで全て解決できますからね。だから、この研究も後回しになってしまったのです」
ミリーさんが持っている銃なら下級のドラゴンを倒せる力がある。しかし、僕たちだったら、戦い方にもよるが、上級ドラゴンとも戦うことが出来る。そう考えたら、希少な金属を多用し、時間のかかるこれらの製作は後回しになっても仕方ないのだろう。
「そして平和になってしまえば、これらの兵器もただのガラクタか……」
「むしろ、これだけの数があることに感謝するべきかしら」
「だな」
カシーさんたちを含む賢者さんたちが説明を受けて、この武器の少なさに納得する。
「それに……近接で魔族と戦うのは避けるべきだ。強力な武器で遠距離から攻撃するのが基本……それを考えると、これらの武器では不十分だな」
「それより飛空艇の増産を考えるべきだな」
「そうしたら、次は資料室にご案内しますね」
この後、他の場所も巡っていく僕たち。一通り施設の中を探索し終わった頃には、すっかり日が暮れていたのであった。




