309話 浮遊石を作ってみた
前回のあらすじ「今度は正規ルートから潜入中」
―「軍事施設エーオース・正面玄関」―
「結構、深くまで下りたな……しかもトラップだらけだ」
「分かるんですか?」
「ここ……継ぎ目が無いように見えるが丸い穴らしき物がある。それが複数あるところからして、無数の針が襲ってくるか、毒ガスのような物が噴き出す噴射口と推測してる」
「あん?」
「やらなくていいからね?」
こっちを向いて鳴くクーに、僕は念の為に注意しておく。こんなところでそんな物を見せられたらたまったもんじゃない。ちなみに、武装は解除していて子犬の姿になっている。
「あれが……玄関?」
「ただの鉄製の両開きのドアにしか見えないッスね」
正面玄関前に着くと、エーオース内へと入る為の扉が見える。すると、僕たちが来たことを感知して、ドアが自動で開く。
「この道の方が断然近かったのです」
「そうだね」
昨日、一緒に地獄の道を進んだレイスが素直な感想を述べるので相槌を打つ。そして、そのまま中へと入ると、エントランスとかは無く。そのままエーオースの通路へと出る。
「飾り気が無いですね……」
「軍用施設……だからだろうな」
「うーーん……クロノスと同じ材質かしら?」
「そうか?もっと堅そうな金属で出来てる気が……」
皆が、入ってすぐにエーオースの調査を始める。建物の材質、今の僕たちがいる所から見て取れる施設の構造、後は直ぐ近くになる部屋を覗いたりしているグループもいる。ここにいる全員が他の2つの施設とは違う施設だというところを多少なり実感したところで、僕は皆に質問をする。
「そうしたら……最初はどこへ案内しましょうか?」
「「「「格納庫!!」」」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「軍事施設エーオース・格納庫」―
「これが……飛空艇ですか。本当に船ですね……」
「ああ、ただ両脇に折り畳み式の羽が付いている。こんなのは普通の船についていないぞ」
「それもそうだけど……空を飛ぶための魔石はどこだ?」
「こっちに魔石を見つけたぞ!!」
船上を大勢の人が行き交っている。右にある大砲らしき物を見たと思ったら、今度は左にある使用方法がよく分からない物を調べたりと……。
「まるで子供みたいなのです」
「そうッスね」
と、思いながら、僕たちは適当な場所に腰かけて眺めている。
「ああ……バターの甘みが体に染み渡ります……」
「色々、お疲れ様でした……緑茶と紅茶、それとコーヒー。どれが飲みたいですか」
「コーヒーで……それと、ミルクを」
「はい。ユノと泉はどうする?」
「私達はいらないかな。それより探索したいかな」
「そうしたら、行って来ていいよ。流石にセラさんを労ってあげないと……」
昨日、カシーさんたちに袖を掴まれて連行されたセラさんは隙をついて逃亡、事前に用意した転移魔法陣でエーオースへ逃げきって、ここで一夜を過ごしたそうだ。
「うう……ありがとうございます……」
連日、残業したOLみたない表情でお礼を言うセラさん。ボロボロの施設ではゆっくりと休めなかっただろう。
「今日はうちに来ますか?ご馳走しますよ」
「ぜひ……」
「あら?彼女の前で女性を家に誘うんですか?」
「ユノ……こんなお疲れのセラさんに変な事をすると思う?」
「ふふ!それは無いですね!」
「全くもう……」
セラさん曰く、コッペリアという機械だが男性を慰める事も出来ると言っていた。つまり夜のお世話を所長権限で、無理やりやらせる事が出来るらしいのだが……そんな趣味は無いし、逆に萎えてしまうだろう。
「そうしたら所長もどうぞ……私は一人でゆっくりしてますので」
「分かりました。何かあったら、そこで休んでいるクーに守ってもらって下さい」
「はい……」
疲れ切っているセラさんをクーに任せて、僕はユノたちと一緒に船内の探索を始める。
「こんな大きな船をいくつも収容してる施設が地下にあるなんて……」
「うん。ここには左右に3隻。計6隻が収納されてるんだって」
僕は事前に渡されたタブレットを操作しながら説明する。昨日、ここに逃げてきたセラさんはこのままだと怨霊化した研究員に無茶振りされる!と思って、事前に情報をタブレットにインプットしておいたらしい。そのかいもあって、ここに来た研究員たちはタブレット画面を見て船内の探索をしている。
「船の大きさは大体200m……駆逐艦ぐらいの大きさか」
「どのくらいの大きさなのか良く分からなくなるね……」
「大型客船と比べたら小さいぐらいしか言えないかな……そもそも、寝泊まりする船じゃないし」
「これって一応、戦闘機なの?」
「それも兼ねているようなのです……でも、主に物資運搬の方がメインと書いてあるのです」
「主砲が一つに左右に三連装砲が一つずつ……それ以外に無属性魔法による防御機能があるみたい」
「対空ミサイルとか、レーダ探知機は無いの?」
「それは船員の役目みたい。下手の武器より船員たちの魔法の方が強かったみたい」
「そういえば、薫さんのお婆様が大規模破壊魔法とかを使っていたくらいですもんね」
「うん……だから普通に船員が船上から魔法を撃った方が、戦力的にも、コスト的にも良かったみたい」
人が船の兵装の役目を果たすなんて……と普通は思うのだが、僕たちが普段使っている魔法の威力とかを考えると、この理由に納得してしまう。
「あ、ここが動力室みたいッス」
船内を歩いていると、お目当てである動力室に到着する。この船内の中で1、2位を争うくらいに広い動力室に置かれているボウリング玉ほどの大きさの白銀の魔石。普通なら各属性の色である火属性の赤、水属性の青、風属性の緑、地属性のオレンジ、無属性なら紫であって、未加工の魔石は虹色である。総じて、この魔石は特殊と言えるだろう。
「この浮遊石と言われる希少な魔石で浮いているのです……まあ、今なら作成できると思いますが」
ここにある船の浮遊石は、空を飛べる魔法が使えるイレーレの方々が作った物である。しかし……当の本人たちはその仕組みを全く理解しておらず、空気中の魔素のおかげだと判断し、魔石にイレーレ数人で力を込めれば、低確率で作れるという貴重な物だったそうだ。
「けれど……この世界の仕組みを理解しているこっちからしたら、浮遊石の力は重力の力の籠った石……開発にはそう時間はかからないかもしれませんね」
「そこなんだけど……レイス。もう作ったよね?」
「「「「え?」」」」
「でも、小粒なのですよ?」
「それでもさ……」
僕はアイテムボックスから小さな白銀の魔石を取り出す。
「一応、出来ちゃったには変わらないからね?」
「出来ちゃった……で、済まないですよ!?」
すると、どこで聞いていたのか、ソフィアさんを先頭に船内を探索していた全員が動力室に集まって来た。
「そんな軽いノリで作れるものなの!?」
「昨日、ここに来た際に、資料室にほんのちょっとだけ立ち寄った時に、浮遊石の情報が載っていたレポートを少しだけ読んだんです。それで大人数で魔石に力を込めるっていう力技だったようなので、知識のある僕たちなら、小さい物なら作れるんじゃないかな……って」
「そうしたら出来たのです。これで重たい荷物も軽々と持ち運べるのです」
「それは便利ですね……じゃないですから。そんな簡単に作れることにビックリしてるんですから」
「まあ……帰り道に手慰みで作ったから……簡単といえば簡単?」
「歩きながら、適当にやったら出来たのです」
それを聞いた全員が溜息を吐く。まあ、何を言いたいかは分かる。僕もこの発見をいつ話すべきか迷っていたところだし。
「あの……この場で作ってもらってもいいですか? お試しということで……」
「僕はいいですよ。レイスは?」
「問題無いのです。すぐにでも作れるのです」
「それじゃあ……」
僕は未加工の魔石をアイテムボックスから取り出して、両手でそれを優しく包み、そこにレイスが手を当てる。
「虚空」
そして、手の中に包まれている魔石を宙に浮かせる。高さは手の中に収まるようにして、その力が魔石の中に取り込まれていくようなイメージをする。
「呪縛」
今度は、魔石が宙に浮いた状態を維持したまま、今度は下に落ちる力を加える。そして、その力も先ほどの虚空と同じように魔石に流れ込むイメージをする。こうすることで、手の中にある魔石は浮力に重力の両方が掛かっていて、魔石はそれらを取り込もうとする状態になっている。この状態をしばらく維持し続けると、手の中からまばゆいほど白銀色の発光が起きる。
「よし。完成」
僕は包んでいた手を開いて、出来た白銀色の魔石を皆に見せる。すると、カシーさんがすぐにその魔石を手に取って、動力室に放置されていた道具箱を宙に浮かせる。
「……」
「ね? 便利でしょ? これであなたもサイキッカーに……」
「「「「早く言えーー!!」」」」
研究員の方々から怒鳴られる僕。いや、だって……そんな事を言ったら、怨霊化した皆さんに襲われる可能性があったんだから仕方ないと思うんだけど?
「薫さん。これっていくらで作成してもらえますか? 必要なら100万から出しますよ」
「ソフィアさん。気が早いです」
僕はとりあえずこの場をどうにか治めて、飛空艇とエーオースの探索を続けるのであった。




