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308話 正面玄関から入ってみる

前回のあらすじ「内部をチョットだけ堪能」

―その日の深夜「薫宅・居間」―


(ご苦労だったな……それで)


「飛空艇を見つけましたよ。それより、連絡が早すぎですって……」


 エーオースの探検後、帰ってきた僕たちは遅めの夕食を取って、レイスはお風呂に入浴中、僕はエーオース探索中に使用した道具を片づけようとしたら、スマホに菱川総理から電話が掛かってきた。


(気にするな)


「気にしますよ……それで施設は明朝から調査します。いつも通りに人員を寄こしてくるんですよね」


(もちろんだ!すでに、他の所も大騒ぎだからな?飛空艇がどれだけの価値があるか、想像できるだろう?)


「スピードがどれだけ出るかは不明ですが……垂直離着陸が出来る旅客機、燃料はほぼ不要。それだけで色々、活用できそうですよね」


(君が思ってるよりもっとだ。すでに飛空艇を宇宙空間で活用出来ないか、考えている奴らもいるぞ)


「そこまでですか……」


(そこまでだ。君が思ってるよりも、既に話が進んでる。多分、オリアやソフィアなんかは既にそっちで待機してると思うぞ)


「そんなことして、目立たないんですか?」


(俺が目立ってるからな。今のところ……な?)


「そうみたいですね……」


 僕は電話をしながら、テレビから流れているニュース映像を見ているのだが、昨日の国会での答弁が放送されている。丸一日経った今では、路上インタビューや海外での反応。さらに、ネットでの反応と……ありとあらゆる場所での反応を放送しようとしているのが伺える。


(それと、ショルディア夫人も取材を受けてたな……しかも、出資者の一人としてな)


「え。そうなんですか?」


(長年、経済界に大きな影響を及ぼしていた人物だぞ?そんな人が、建物をわざわざ移築して、その隣に会社を極秘で建てて運営している……しかも妖狸がいる土地でな)


「まあ……当然ですよね」


(本人は隠す気はさらさら無かったようでな。既に出資者だと告白している。それと、隣にある笹木クリエイティブカンパニーも怪しいと噂されているぞ)


「大丈夫ですかね?」


(むしろバラしてもいいと思っている。そうすれば、あそこに自衛隊員が入っても、警察が巡回してもおかしくないだろう? それに……耳の長い美形の男性や足が魚のような女性が普通に敷地内いたり、小さい小人が飛んでいても問題無いだろう?)


「ああ。なるほど……って、日本への不法入国ですけど?」


(既に、各方面と話し合って対策を練っておいた。数日後には、特例として彼らの国内での活動を限定的に認めるという事を発表するつもりだ……君だって、彼女を連れ回すのに都合が良いだろう?)


「はは……。既に織り込み済みなんですね」


(それと……異世界の住人ということで、何か言ってくる輩もいるだろうしな。そこは検疫の結果や、君達が集めたグージャンパマの環境を公表したりして、対処するつもりだ。君は出しゃばらないでいいからな。ここはこっちの仕事だ)


「分かりました。僕もクレーマー処理は会社員時代から苦手でしたし」


(任せといてくれ。それじゃあ、明日も早いだろうから、ここら辺で失礼するよ)


 菱川総理からの電話が切れて、持っていたスマホで、そのままSNSを眺めていく。


「妖狸は新時代の我々なのか……か」


 ある記事の一文を読み上げる僕。去年の今頃は異世界での探検に、ノリと勢いでワイバーンを狩ったり……命がけだったが、あのどこかのんびりとした感じだった頃が懐かしく思えてきた。それが今では世界の変革者扱いである……。


「僕も流されている側なんだけどな……」


「どうかしたのです薫?」


 すると、お風呂から上がって来たレイスが頭をタオルで拭きながら、居間に入って来た。


「いつものやり取りだよ」


「菱川総理からなのですね……お仕事が早いのです」


 そう言って、炬燵の上で魔石内蔵のミニドライヤーで髪を乾かすレイス。


「ジュースでも飲む?」


「飲むのです!」


 僕はお喋りして渇いた自分の喉を潤すために、お風呂上がりで喉が渇いているであろうレイスの分も一緒に飲み物を用意するために台所へと向かうのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌朝「イスペリアル国・街中」―


「うわ……そんなところに行かなくて良かった……」


「そうッスね……ゲームなら歓迎ッスけど、リアルはノーサンキューッス……」


「お二人が無事で良かったです」


 泉とフィーロ、そして学校がお休みだったユノと一緒に、カシミートゥ教会へと続く道を、昨日のエーオース探索の冒険譚を話しながら歩いている。


「お!かわいい子ちゃん!ここは……」


「やめとけ。アレ……勇者だからな? お前のような変態は壁に埋められるぞ?」


 後ろから男たちの変な話声が聞こえる……ちなみに服装は施設内で何があってもいいように巫女服姿である。それもあってか、周りにいる男たちが僕たちを勇者ご一行様だと分かって、声を掛けて来ないので助かる。


「その道中で二度も落とし穴に嵌ったのです……飛べないセラさんなんて、涙目だったのです」


「そうだったんですか?」


「うん……それだから、ご褒美にこれを作って来たんだけど……」


 僕は手に持っているバスケットの中身を見せるために、皆が見えるよな位置に持って来る。


「バターケーキだけど……もっと、いい物が良かったかな……」


「短時間で用意するなら十分だと思うよ……帰って来たの深夜だったんでしょ?」


「うん。あの後、セラさん……カシーさんにクロノスに連れて行かれて深夜まで働いていたんじゃないかな……うん?」


 道の先にあるカシミートゥ教会。その入り口付近に大勢の人がいる。なんか、騒がしい……。


「あ、あれって賢者さん達じゃないかな……」


「そうッスね……おーーいッス!」


 フィーロが大声で、その集団に呼び掛ける。すると、その声に反応して、全員の顔がグルッとこちらに振り向く。


「「「「ひっ!!?」」」」


 僕たち全員が小さな悲鳴を上げる。想像して欲しい。大人数で瞬きをせず、無表情で、ぎょろっとした目でこちらを見てくる……しかも、僕たちを見つけた途端に、無言でゆっくり迫って来るのだ。これに悲鳴を上げない人物はそうはいないだろう。


「やっと来たわね……」


「いや。やっと来たって……朝の9時ですよ? 皆さん。いつからいたんですか?」


「6時には待っていましたよ」


 後ろからソフィアさんの声が聞こえたので、振り向くとオリアさんと、クロノスでよく会っている特技兵さんたちと一緒にやって来る。


「皆さんもですか?」


「仕事ですから。まあ、そんな早く来る訳が無いと思って、先ほどまで笹木クリエイティブカンパニーの出張所で報告書とかの作成をしてましたよ。彼らも個々で仕事をしていましたし」


「私だけトレーニングだな。で、さっさと案内しないと、そこの集団がヤバそうだが?」


「そうですね……」


 オリアさんのご指摘通り、後ろから怨念のような物をヒシヒシと感じる。これ以上、お預けして怨霊になられた困るので、さっさと向かうとしよう。


「それじゃあ……さっそく、エーオースに行きましょう」


 僕たちは怨霊化寸前の集団を連れて、聖なる場所であるカシミートゥ教会内に入る。そして、そのまま左側の通路にある小さな資料室へと入っていく。


「へえ……これが通路?」


「あくまで徒歩で入る場合の通路だけどね……基本は転移魔法陣による移動だって」


 資料室の床を壊して、現れた地下へと続く階段。まだ、掃除が行われていないため、木材や土などが周囲に散らばっている。また、正面玄関に続くにしてはこじんまりしていて、人、二人分の横幅ぐらいしかないくらいに、コンパクトである。


「こんな通路にトラップが仕掛けられていたんだよね……それで、大丈夫なの?」


「それは……」


「あんあん!」


 すると、クーが鳴きながら階段を駆け上がって、僕の足元でクルクルと回り始める。


「かわいいですね……これもロボットですか?」


「うん。昨日は大型の魔獣で襲ってきたけどね。お迎えご苦労様。クー」


「くぅ~~ん♪」


 ユノと泉に気持ちよさそうに撫でられながら、返事を返すクー。周りはぎらぎらとした目で、クーを観察している。


「(ロボット犬か……中には軍用として運用されているのもあるが……やっぱりこちらの方が上だな)」


「(ええ……しかも、戦闘時には装甲を身に纏って戦っていたみたいですし……)」


 特技兵さんたちとソフィアさんがひそひそと、そんな話をしている。新しいタイプのロボットを見て感想を述べあっているようだ。


「あれ?薫兄……この子っていつもはここを守ってるんだよね? それならベヒーモスで戦うには、ここって狭くないかな?」


「ああ。それはね……クー。いいかな?」


「あん!」


 クーは皆から少し離れると、突如、装甲が空中に出現して、そのまま某変身ヒーローやロボットの合体みたいにガシン!とくっつく。今の姿はドーベルマンってところか?


「ワン!」


「って、具合に内部に搭載したアイテムボックスから、その時に応じた装甲を装着するんだ」


「ワン!」


 ドーベルマン姿で僕にじゃれつくので、その頭を撫でてあげる。ちなみに、触覚はしっかり働いているみたいで、先ほどと同じように気持ちよさそうにしている。


「いいわね……私も……!」


「……ワン」


 クーが怪しい雰囲気を醸し出すカシーさんの姿を見て一鳴きすると、カシーさんの横を矢が一本通り過ぎていく。方向的には、エーオースに続く階段の方から飛んできただろうか。


「ちなみに皆さん。変な考えをしていると、この通路のトラップでクーにやられちゃいますから……気を付けて下さいね?」


「「「「……はい」」」」


 今ので肝が冷えて、冷静さを取り戻した怨霊たち。カシーさんも先ほどの出来事にビックリして尻もちを付いたままだ。


「矢か……軍事施設の防衛システムにしてはずいぶんと原始的だな」


 オリアさんが、壁に突き刺さっていた矢を回収して、まじまじと観察している。すると、僕に一度了解を得てから、ナイフを取り出してその矢を削ろうとする。


「シャフトが木製なのにチタンより硬い……いや、これ全部がチタン合金より硬質……」


「これって、デメテルで発見されたフソウをシャフトに使用された矢じゃ……もしかして、矢尻も特殊金属?」


「かもしれないな」


 オリアさんは回収した矢をクーに渡そうとすると、クーはそれを口に咥えると同時にどこかに消えてしまった。


「もしかして……再利用するのかな?」


「……多分」


 意外にもエコロジックな軍事施設のようだ……。もしかしたら、昨日のトラップで撃ち出された回転鋸とかも再利用しているのかも……。そんな事を考えつつ、僕たちはエーオースへと続く階段を下りていくのであった。

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