304話 迷宮探索
前回のあらすじ「エーオースへの道を発見!」
―「イスペリアル国・エプレス教会 内部」―
「これは……」
「古そうな扉ね」
準備を整えて、エーオースへ続く通路があるエプレス教会へやって来た僕たち。教会内は古いがごく一般的な教会の造りで、祭壇と信者の方々が座る為の長椅子、それとオルガンが設置されている。中にいた神父様の案内で祭壇前に来ると、改修のために祭壇の一部が解体されていて、祭壇の下敷きになっていた、鉄製の扉が顕わになっている。その扉をよく見ると土で汚れている。
「地面に埋まっていた扉の存在に気付かずに、この教会を建てたみたいです」
神父さんが、この扉がどうして祭壇の下敷きになっていたかを説明してくれる。なるほど……それは納得だ。そういえば、セラさんはここのエーオースの管理者でもある。きっとこの扉が何なのか知っているはずである。
「セラさん。これって……」
「……えーと」
セラさんが額から汗を流しながら、目線を僕たちに合わせないようにしている。それが、この扉はセラさんにとっても予想外ということを物語っている。
「セラさん……説明をお願いします」
「……これは…その……正規通路でも無く……私が出入りに使用した物でも無いです。私が外に出るのに使用したのは魔法陣でして……それを使えば一気にエーオースに行けました……はい」
「過去形ですか……ちなみに、その魔法陣は?」
「……」
にこやかな笑顔で僕が訊くと、黙ってしまったセラさん。怒ってるわけでは無いのだが……とりあえず、チョットだけ圧を掛けて事情を説明してもらうか。
「セ・ラ・さ・ん?」
「ご……ごめんなさい!実は……」
この後、セラさんの話を聞くと、マクベスからの情報がもたらされる前よりも、もっと前、デメテルに辿り着くよりも前に、自分が用意していた魔法陣の場所へ、こっそり訪れたそうなのだが……。
「僕たちとロロックの戦いの被害で建物が崩壊していた……と」
「はい……瓦礫は全てきれいさっぱり片付けられていました……ここと同じ教会だったので、完全に取り壊しすることは無いと思っていたんですが……」
「なら……魔法陣を復元すればいいんじゃないかしら?」
「はい……私も最初は、そこまで深刻に考えていなかったのです。この体に戻って、さらにグリフォンの涙が手に入ったところで、魔法陣を復元して起動させてみたんですが……魔法陣はうんともすんとも言わなくて……。もしかして私が覚えている魔法陣が間違ってるのかと思って、一応、魔法陣は書き留めていたのでそれを見て、再度、試してみたのですが……それもダメでした……」
「……もしかして、今日という日まで、何とかしようとして裏で頑張ってた?」
「……はい。エーオースの行き方はそれと、カシミートゥ教会内部にあるはずの通路だけに絞っていたので……けれど、いつになっても通路見つからず……あれ? これどうやっていけばいいんだろうって……」
泣きながら正座姿で謝るセラさん。とりあえず、話をまとめると、これはエーオースへの正規の通路ではないということか……。
「それで……これは何の扉なんだ?」
「恐らく……非常用の通路だと思われます」
「恐らく……?」
「これは私も把握していないものです。だから、この先がどうなってるのかも……」
「うーーん……神父さん。この先は調査したんですよね?」
「階段を下りた先が3つ又に分かれてまして……さらにその先をそれぞれ進むと、さらに道が分岐していたそうです。中には行き止まりになっていた道もあり、通路も無機質で似たような造りだったそうで……そのため、これ以上の探索は遭難の恐れがあると判断して、途中で戻って来たそうです」
「なるほど……とりあえず、見てみようか」
「入るのです?」
「すぐに戻って来ちゃうけどね。今日は下見かな」
「何言ってるの!? この先には……!」
「迷子になって餓死しますよ……ここは一度、調査だけにしましょう」
「薫の言う通りだ。闇雲に進んでもダメなら戻るべきだ」
「そ、そんな……」
膝を地面に付けてうなだれるカシーさん。そんな事をしても行かないものは行きません。そんなやり取りをしつつ、僕たちは鉄の扉を開いて、その先にある人一人が通れるくらいの階段を下りていく。光源が無かったので、僕とカシーさんは魔石内臓型のランタンを取り出し、それを頼りにさらに下へと下りていくと、広い通路に出る。
「ダンジョンみたい……」
「宝箱はあるのです……?」
「……ないでしょ?」
レイスと僕は、この前プレイした有名なRPGゲームの話をする。石のレンガみたいな壁、そこにコケが生えていて、ここ探索したら何かしらのキーアイテムが入った宝箱を見つけられそうな雰囲気を醸し出している。
「どうする?ここですぐに帰るとか無いだろう?」
「もちろん。ちなみにセラさんはどっちに進んだ方がいいかとか分かりますか?」
「分からないですね……」
「それじゃあ、適当に……」
僕は鵺を棒状にして、それを地面に立たせる。
「何なのそれ?」
「うん? 道に迷った時に倒れた方向に進むっていうジンクス」
僕はそう言って、棒か手を離す。棒は少しだけその場で立つことを維持するが、直ぐに倒れて、方向を示す。
「……薫様。どう進みましょうか?」
「えーと……」
棒が倒れた方向……ちょうど前に進む道と左に進む道の角を向いている。これがどっちかに多少ズレているなら、そちらに進むのだが……。困った僕はとりあえず、その角の前に進む。
「まさか、ちょうど境目とは……うん?」
その近くに立って眺めていると、一つだけ色が若干濃いような気がするレンガを見つけた。気になった僕はそれに軽く触れると、ガコン! と音を立てて、レンガが壁の奥に入っていった。
「え?」
その瞬間、壁のレンガが動きだし新たな道を作る。その道の奥を見るとしっかりとした金属製の壁で出来ている。
「「「「……」」」」
「やったね皆! 新しい通路を見つけたよ!」
「「「「……」」」」
「いや、何か反応してよ……僕がおかしい人にしか見えないじゃないか……」
「実際にそうでしょうが……まあ、正解の道を見つけられたから文句は無いけど」
「だな……さっさと行くか」
「二人共? それ酷くないかな? ワブーはともかく、カシーさんに言われるのは心外なんだけど?」
「どんぐりの背比べはそこまでにして、さっさと進むのです」
「レイス!?」
僕の訴えを無視して、皆が新しく出来た道へと進んでいく。僕としては色々言いたいことがあるが、ここは黙ってその後を付いていく。鉄製の壁で出来た通路を進むと、下へと続く大きな円形の空洞に辿り着く。
「深いわね……」
「施設に空気を送り込むための通気口……? それとも煙突なのです?」
「うーーん。煙突はどうかな……? そこに階段が設置されてるし……」
僕の視線の先には、壁に沿って作られた手すりの無い下り階段がある。僕は今いる所からランタンで下を照らそうと、少しだけ体を外に乗り出して、ランタンを持った手を前に出してみるが、底は真っ暗だった。
「見えないか……」
「そうですね……ここからだと地面しか見えませんね。何か地面に描いてあるようですが……」
「そうですか……って、セラさん? 見えるの?」
「見えますよ? 私の目は薫様の世界のナイトゴーグルと同じように暗闇でも見えるように切り替えるかとが出来るので」
そう言って、再び何か見えないかと下を覗くセラさん。流石、コッペリアという名の高性能ロボット。そんな機能があるとは……それなのに失敗を隠したり、隠し事が下手だったり……どこか人間っぽい。
「とりあえず、下に下りてみましょう」
僕たちは壁に沿って設置されている階段を下りていく。ここで気になった事をセラさんに訊いてみる。
「セラさん。質問があるんですけど……」
「どうかされましたか?」
「ここって軍事施設ですよね……で、今歩いているここはその軍事施設の一部……それなのに防衛システムらしき物が無いような気がするんですけど……?」
「薫の言う通りなのです。クロノスにはアダマス、デメテルには警備用のロボットがいたのに、ここには全く警備関係が無いのはおかしいのです」
「そうですね……一応、ここにもデメテルのような警備ロボットがいて、それが休まずに見張ってるはずなんですが……」
「うっかり、警備システムをオフにしたりとかしてないよね?」
「それはありませんから! ちゃんと起動させた状態でここを離れましたから!単純にここが範囲外なだけのはずですから!」
「さっきの事もあったから、何かやっちゃった? と思って……」
「なのです」
「それは無いですから!トラップとか起動するようにしっかりと……!」
パアーーーン!
大きな音と同時に僕たちは下に落下する。慌てて、僕たちは飛翔魔法を掛けて、ゆっくりと地面に下りていく。ちなみにセラさんには僕の方で虚空を掛けて、宙に浮かせている。
「ごめんなさい……ちゃんと防衛システムは起動してましたね……」
「……はい」
まさか、セラさんと話をしている最中に防衛システムが働いて、階段を一瞬にして壁へと収納するとは……防衛システムには空気を読む機能でもあるのだろうか。
「とりあえず……そのまま下りましょうか」
僕の言葉に、カシーさんたちが頷く。そして、そのまま僕たちはこの空洞の底へと下りていくのであった。




