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2話 主人公は罪作りな女のような男

前回のあらすじ「きれいきれい詐欺」

―真実を告げられた直後「薫宅・居間」カーター視点―


 俺はきっと夢を見ている。きっとそうに違いない。俺は異世界に来て初めて会った女性に恋をした。その子は粟色の髪に小顔で鼻は高く、くりっとした目に艶のある唇。肌は白く瑞々しい。背は小さく胸は乏しいがそれ以外は完璧なボディだった。重たい棚や荷物を軽々と持ち上げるほど力強く。見ず知らずの俺達に美味しい食事を提供してくれるし相棒のサキの手当てもしてくれると気立てもいい。サキに、付き合ったら? の少し悪ふざけた問いでも思わず頷くほどだった。正直言って付き合いたい! しかし彼女は異世界の娘。ここはお友達から初めてそれから……。なんてことを思っていた。それほど可憐だった。それなのに……。


()()()()()!!!!!!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―カーターが叫んだ直後「薫宅・居間」―


「嘘よ! こんな可憐な娘が男なんて!」


「ゴメン。嘘じゃないんだ」


「……神よ。どうしてあなたはこの娘にこんなひどい仕打ちをしたのですか?」


「いやいや!? カーターひどくない!? というより上を向いて涙を流しながら祈らないでよ! なんなら恥ずかしいけど確認してもらえば……」


「すまない……俺にはできない。多分確認して薫が男という確証した瞬間に、俺の心が砕け散る……」


「何そのガラスのハート!?」


 祈っていたカーターは肘をつけ激しく落ち込む。


「カーターの意見に同意するわ。私より……いえ誰よりも美しいのに男なんて……はっきりいって自分に自信を無くすわ……」


 その言葉が僕の心にグサッと突き刺さる。


「……仲良くなった女性に言われたよ。あなたといると自分に自信をなくす。っておかげで恋愛なんて一度もなくて……ぐす」


 そうだよ。おかげで女性とは一度もお付き合いできずに気付けば30歳童貞になって魔法使いの仲間入り。友達からなんて「男色のある奴と付き合えばいいんじゃないって?」言われる始末。はっきりいって泣きたいよ。


「わわ! ごめんなさい。傷つける意味で言ったんじゃないの。ただ男って言われても本当に信じられなくて。この世界の男ってあなたみたいな感じなの?」


 僕はその問いにテレビに向かって指を差して答える。


「僕の世界……この国の男性はあんな感じだよ。僕がイレギュラーなだけ」


「なるほど」


 自分でイレギュラーって言ったが、少しへこむ。


「……しかし、テレビって色々写すわね。それでいて動くなんて」


「ああ。こんなのは初めて見た」


 そこで話題がテレビに移ろうとする。これ以上、見た目の話を続けると僕の心が削れていくので、別の話にするとしよう。


「確認だけど。他にこちらに来た成功例はないの?」


「俺の曾祖父達以外は、さっき話した通り、ことごとく死んだよ。それでも多少情報や物を持ち帰ることもあって、それによってその国がいきなり大きく発展したり珍しい美術品、装飾品ができたりとか何かしら残る。しかし……テレビに関しては初めてだ。」


「往復に成功しても黙っていたっていう人もいるんじゃないの?」


「それもアリだが可能性は低いな」


「それならそれで何かしら形に残すわ。あっちでは行けば死ぬが常識なのよ? 私なら覚悟を決めて苦労して得た情報なのに黙ってるなんて嫌だわ」


「それもそうか」


 自分も小説家だ。面白い話を思いついたのにそれを書かないというのは確かにない。


「それにこのテレビはあっちの世界でもウケると思うわよ。娯楽が少ないし。後、さっきやっていた天気予報だっけ?あれなんかは仕事でかなり助かるわ」


「テレビだけじゃ天気予報はできないけどね。……でもあれば便利っていえば便利だもんね」


 僕たちの世界では当たり前の天気予報。それがあっちでは夢おとぎ話。ここから察するに科学技術は全くと言っていいほど発展していないみたいだ。


「「……」」


 2人は黙ってテレビを見ている。僕は片付いた食器を集めて台所に下げる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後―

 

 洗い物をして居間に戻る。ふと、視線がテーブルの上に座ってみかんの実を食べていたサキに向かう。夕食にミカン……この小さな体に食べた物がどこにいってるのだろうという疑問はますます深まる。


「はあ~。ここに来るのもかなりの覚悟をしたはずなだけどなぁ~~」


 そう言いながらカーターが机の上に突っ伏す。お腹一杯のうえでのこの炬燵の居心地のよさに屈服したようだ。その緩んだ表情で分かる。


「カーターだらしないわよ」


「そう言うな……色々ショックやら衝撃があったからな。それにお前もくつろいでるだろう?」


「まあね」


 ミカンを食べ終わえお茶を飲みながらサキは答える。ミカンは既に皮だけとなっていた。


「もてなす側としては嬉しいけどね」


 僕は2人に向かって笑顔で答えた。


「あぁ~!! 女性だったらどんなによかっただろう!!」


 僕の笑顔を見たカーターは、両手で頭を押さえ、とても残念そうな顔をする。


「そうね。30歳の男性じゃなければこの笑顔をどれだけ素直に受け入れられたのかしら」


「……泣いていいかな?」


 ふぁ~。とサキが欠伸をする。かなり眠そうだ……カーターも炬燵に突っ伏している。


「お布団引こうか?」


「いや……。すぐに食料を確保して持って行かないと……」


「そうね……」


 2人はそう言うが明らかに瞼は重そうだ。お腹一杯になって疲労が一気にここできたのだろう。


「無理しない方がいいよ」


「でも……」


 その一言を発して静かになる2人。しばらくすると寝息が聞こえてくる。サキはタオルを布団代わりにして、カーターは机に突っ伏したまま眠りに就いている。


「……かなり疲れていたんだね。」


 それから、僕は2人がゆっくり眠れるように寝床を準備しそこに眠かせてあげる。小さいサキはともかく、カーターは鎧を脱いでいてくれたおかげで、思った以上に運ぶのは簡単だった。


 僕は2人が熟睡しているのを確認した後、お風呂を済ませてから、自分の書斎で今日の話を元に小説を書いていく。これだけのファンタジーな話を聞いて書かずにはいられない。忘れないうちに書き進めていく。


「あ、手帳にもまとめておかないと……」


 そういえば、もっと詳しい話を聞きたい事があったな……明日聞いておかなければ。


カタカタ……


 パソコンに異世界の世界観、精霊、魔法などの物語の設定を書いていく。そこから集中して小説を書いていく。


「……ふう」


 一息吐いてから、ふと時計に目を向ける。針は丁度12時を指していて、小説もきりがよかったので、パソコンの電源を落として眠る準備をする。ベットに入り瞼を閉じてからも、僕は明日の普通ではない予定を考えながら眠りに就くのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「薫宅・居間」カーター視点― 


チュチュン。チュ…。


 外から鳥の声が聞こえる。眠りから覚めた俺は体を起こし周りを見る。隣では厚地の布で出来た寝床でぐっすり眠っているサキがいる。そこから部屋を見渡すと、そこは城壁内の一室のような石ではなかった。壁の一つは木を格子状に組み立てそこに紙を貼ったような物が一面壁代わりになっていたり、扉だろうか変わった取っ手が付いた戸があったり、床には草を編んだようなものが引かれていて、その上に今自分がいる布団が引かれていた。この布団……かなり触り心地が良い……このままもう一度眠りに就きたいと思ってしまうくらいだ。いや、寒いしもう一度……。


「……うん?」

 

 多くの普通ではない物を見て、俺は急激に意識を回復させる。そうだここはどこだっけ。えっと城壁は食料不足でそれを何とかするために俺は……。すると扉の向こうから小さく声をかけられる。


「起きた?」


 ああ。そうだったと思い出す。俺は異世界に来たんだと……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―同時刻「薫宅・居間」―


 起きて着替えた僕はカーター達が寝ている部屋に向かって声を掛ける。


「起きた?」


「ああ。今起きたよ」


 その声を聞いてふすまを開ける。カーターは布団から体を起こしていた。サキの方はまだ眠っているようだった。


「ぐっすり眠れた?」


「すごくすっきりしたよ」


「それは良かった。しばらくしたら朝食が出来るから待っててね」


「分かった。何から何まですまない」


「気にしないで」


 そう言って僕は部屋を後にして居間の暖房をつけた後、台所に立つ。買ってあった食パンをトーストしお皿にサラダ、ベーコン、スクランブルエッグをワンプレートにまとめる。サキ用に小さいのも用意する。


「おはよう」


「うーん。おはよう…」


 出来た料理をもって居間に行くと2人は起きていた。引いてあった布団などは部屋の隅にたたんで置かれていた。サキはまだまだ眠そうで、目を擦っている。


「大丈夫? 眠いならまだ眠っててもいいけど」


「大丈夫よ。それに食料を持って行かないといけないもの」


「そうだな。急いで戻らないと」


「そうか……でもその前に、ちゃんと朝ご飯食べようか」


 出来た料理を2人の前に置き朝食を食べ始める。2人ともケチャップやドレッシング、ジャムの味に驚きながら美味しそうに食べていく。そして食事しながらこれからのことを話す。


「2人は食料が欲しいんだよね」


「ええ」


「ちなみに人数は」


「100人だな」


「城塞って聞いたからもっと大勢かと思ったんだけど……意外と少ない?」


「大きくはないという理由もあるんだが……魔石を使っての防衛手段もあるからな。それだから大勢の人数は常駐していないんだ。本来はこの半分の50人ぐらいだしな」


 その話を聞いて、僕は予想より少なくてよかったと思った。お金の無いこの2人が食料を購入するとは不可能なので、必然的に支払いは僕になる。だから、どれだけ僕の懐事情を直撃するか心配だった。まあ……100人でも大分痛い出費だけど。しかし生で小説のネタを手に入るのなら多少の出費なんて!!


「そうしたら大量の食材を売っているお店にいこうか」


「でも、私たちこっちのお金なんてないわよ」


「僕が出すよ。その代わり費用に見合った物を貰うっていうのはどうかな。ギブアンドテイクってやつ」


「分かった。その約束しっかり守ろう」


「私もよ。むしろここまでしてもらってお礼をしないのは心苦しいわ」


 ……貰えるお礼に若干ながら期待はしている。その反面、来るのが難しいのに無事に帰れるのだろか? そういう心配もある。


「それじゃあ食べ終わったら行こうか」


 この後、食事が終えた僕たちは外に出かける準備をする。カーターには鎧の下に着ていた服の上にロングコートを羽織ってもらう。おじいちゃんが使っていいたもので少し古いが問題ないだろう。鎧姿なんて目立ちすぎてかなり不味い。ちなみにサキはそのままである。


「変わったデザインだな」


「でも似合ってるわよ」


「これなら問題ないかな。靴もおじいちゃんのでサイズ合わないかもしれないけど我慢してね」


 カーターの着替えが終わったところで外に出てガレージに向かう。車の前に来て鍵を開ける。


「これが昨日テレビというものに映っていた車というものか」


「そうだよ。さぁ乗って」


 カーターを助手席に乗せ、近くのスーパーへ走り出す。


「速いな。それに綺麗に道が整備されている…」


「すごーい!馬が引いてないのにこんな速く走るなんて!カーター見て!あっちにデカい車があるわよ!」


 カーターの膝の上に座っていたサキが、窓から顔を覗かせ、バスに指を差している。


「あれはバスだよ。大勢の人を乗せて走る車なんだ。それと向こうのはトラックって言って大量の荷物を載せて走る車だよ」


「荷馬車より大量に積めそうだな」


 走っていると信号が赤だったため止まる。


「ねぇ薫。あの機械って何のための物かしら。何か赤色に光っているけど」


「あれは信号機だよ。交差点とかに設置されていてあれで通行の優先を決めていて、赤が止まれ。青は進め。黄色はその中間で安全に止まれないならそのまま進んで止まれるなら止まれっていう意味だよ」


「しっかり整備されているんだな」


 話していると、信号が青になったので進む。


「薫。さっきの信号機の色なんだが緑じゃなかったか?」


「僕たちの国、日本では緑を青って呼んだりすることがあるんだ。昔は青って呼ぶ色の範囲が広かったのが理由らしいけど」


「へー。変わってるな」


 色々な質問を受けて僕が答える。サキはフロントガラスから外を見ている。目立つかなと思ったが女性ドライバーでぬいぐるみを置く人もいたりするから問題ないだろう。見た目だけなら僕は女性に間違えられるし……。


「薫? 何か具合悪そうな顔してるけど大丈夫?」


「ダイジョウブデス。キニシナイデ」


 うん。こういう時にこの顔で良かったと思ってしまたことに、何を考えているんだ僕は!! と自分を責めているだけですから。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―およそ十分後「スーパーマーケット・店内」―


 車で十分ほどのスーパーに着く。事前にカーターとサキには目立たないようにと話しをしている。


「色々な物があるのね」


 ロングコートのポケットから顔を覗かせてサキが小声で喋る。少しその目は輝いてるように見える。


「凄いな。これだけの商品が一つの店に置かれているのは俺達の世界にはないぞ」


「これよりデカいところがあるといったらどうする?」


「あるの!?」


「モールっていって色々なショップが入ってるよ。洋服なんかも売ってる」


「ぜひ行ってみたいわね!!」


「サキ。食料確保」


「あ。ごめん」


「ふふ!! それじゃあ買っていこうか」


 周囲に不自然に思われないように気にしながら話す。万が一サキのことがバレるとかなりまずい。下手すると大騒ぎになるだろう。


「凄い…こんなに種類があるなんて」


「薫この食材は何だ?」


「それは……」


 話しは出来ても書かれている商品名は読めないため、僕が説明しながら買い物をしていく。ちなみにテレビの音声も分からないとも言っていた。


 それで、今回来たスーパーマーケットだが、ダンボールごと売ってたりするので大量買いには向いている。100人分の食材となるとかなりの量だが、これも僕の小説のためと思って買い物をしていく。


「これはジャガイモか?」


「そうだけど。そっちにもあるの?」


「ジャガイモに玉ねぎがあるぞ。まあ、この世界から持ち込まれたものだけどな」


「へぇ~。そうなんだ……」


「ねぇ薫!! この金属は何?」


「金属? ああ、それは缶詰だよ。これは中にコーンが入ってる」


「コーン?」


「甘みのある野菜で美味しいよ。これも買っていく?」


「ぜひ!!」


「サキ……」


「だって、こんなに食材が豊富なんだもの! あの白い棒状の物とか、あのでかい葉物! どんな味がするかワクワクするじゃないの!」


「えーと。大根に白菜か…。煮物や鍋にすると絶品なんだよね」


「じゃあ、それも!」


「……薫。すまない」


「気にしなくていいよ」


 あの2つの野菜はサイズが大きい割には安いからむしろ嬉しい。懐へのダメージを気にしつつも、ワイワイ楽しくお喋りしながら買い物を進めていく。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―商品購入後「スーパーマーケット・駐車場」―


「かなりの量だよね……。車に入るかな?」


お会計を済ませて食料を荷台に載せて車の前に来る。買った量が量なので荷物が大量だった。そして金額も凄かったな……。と思っていたらカーターが横から声をかけてくる


「この食料をここに入れるのか?」


「うん。そうだけど」


「入りきらないだろうこれは……薫。こっちにはアイテムボックスは無いのか?」


「なん……だと……」


 思わず、どこぞの死神のセリフを口にしてしまう僕。しかしアイテムボックスって……ゲームとかにある何でも入るあれのことだろうか?


「その様子だと無いようだな。それじゃあ俺の方に入れるよ」


 そう言って、指輪をはめている腕を前に出すカーター。その瞬間、荷台に載っていた大量の荷物が消える。そのあまりの出来事に僕の目は丸くなった。


 あの指輪、ただのアクセサリーかと思ったけど、まさかあれがアイテムボックスとは……。というか荷馬車いらないよねこれ?

 

「と!?」


 急いで僕は周囲を伺う。よし誰もいないよね? あの子供が驚いた表情で指を差して何かこっちを見てるけど……まあ、子供だから問題ないよね? 僕は長居は無用と判断し、慌ててカーターたちを車に乗せ、そのまま車を走らせる。車が走り出した後、サキがカーターが着ているコートのポケットから顔を出して質問してくる。


「どうかしたの?」


「子供が驚いてこっちをガン見してたよ」


「そうか。すまなかった。これだけの技術力があるからこっちにもあるかと」


「さっき荷馬車とか言ってたから油断してたよ。まさかそんなオーバーテクノロジーが普通に存在するなんて……」


「普通……では無いわね。この魔道具って高級だから、一部の人しか持っていないわよ」


「どんな人が持ってるの?」


「俺の場合は曾祖父のお陰だな。言っただろう? 異世界の技術は利益になるって。それの恩恵で農業関係の重役に抜擢。貴族として他の人より収入があるって訳さ。それに俺自身が数少ない魔法使いだから色々融通が利くんだ」


「ちなみにジャガイモや玉ねぎに関してはカーターの曾祖父が持ち帰ってきたの。おかげで国の食の事情が大分良くなって、国の発展に大きく貢献したの」


「……呼び捨てにしてたけど。様とかつけた方がいいかな?」


「気にしないでくれ。様とか堅苦しいのは合わないんだ」


「そう? それなら今まで通りに接するけど」


「それで頼む」


 イケメンで貴族とは。多くの男共からは非難轟々、女性からしたら憧れの設定である。


「そういえばさ」


「どうしたサキ?」


 サキがイタズラっぽく笑った。そして……。


「2人ともかなり目立ってたわよね。2人を見て夫婦なんて言ってたし」


「ぐふ!」


 その一言が、僕の心に矢となって貫いていった。


「薫は男だからな」


「分かってるわよ。でも2人して買い物の相談してるところとか見ていると言いたい事は分かるなって思って」


「心が……痛い」


「薫がショック受けてるぞ」


「ごめんごめん。でも薫の仕草なんだけど男らしくないというか、ほら女じゃないっていうんだから男らしく振る舞えばいいのになと思って」


「自分としては女らしく振舞っていないんだけどな……それと、まあ、色々理由があるということで」


「もしかして言いたくないことだった?」


「まあね。それに話すと長くなるよ」


 そう話すと長い。それこそ自分の人生30年分を話さなければならない。決して男と扱われなかった悲しき人生を。


「聞いてみたいが、また今度だな」


「今度って、またここに来れるのかしら……?」


「礼はしないといけないだろう」


「僕としては小説のいいネタを貰ったから深く気にしなくていいよ。それに命は大切にしないとね」


 大勢の人が行方不明になったり死んだりしているらしい異世界の転移。僕にお礼をするのに死なれてしまっては後味が悪すぎる。


「騎士の誇りがあるからな。必ず礼はするさ」


「ふふ。楽しみにしているよ」


 そんな決して守ってもらわなくていい約束をして我が家に向けて運転をする。2人が無事に元の世界に帰れることを祈って。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―帰宅後「薫宅・蔵」―


「ここだな」


 そう言ってカーターは自分たちが来た場所の床を見る。今のカーターの服装は初めて会った時の鎧姿であり、目的を果たした今、元の世界に帰投するだけだった。


「あれ?床に魔法陣書かれているわよ?ホコリなんかでかなり見ずらいけど」


「へ?」


 蔵の中にあった箒で床を軽く掃いてみる。……本当だ。棚何かが置かれていたため今まで気づかなかった。


「転移魔法を使うとこうなるとかじゃないの?」


「普通の転移魔法ではこうはなら無いんだが……。これは特別だからもしかしたらな」


「私達が使った物と違う物だけど……魔力の反応もあるし直ぐに使えるわ」


「となると後は起動させればいいだけか?」


「これこのまま使って大丈夫なの?」


「まあ、魔力の反応があるしな。それに帰るための魔法陣なんて知らないから、おそらくこのままこれを使ったほうがいいだろう。まあ、色々と疑問は残るが……後で考えるとするさ」


 そう言って2人は魔法陣の中に入っていく、サキが祈る体制を取るとそれが淡く輝きだす。


「それじゃあ薫。色々世話になった。本当にありがとう」


「気にしないで。2人とも頑張ってね」


 2人がこちらを向いて頷く。そして。


「「異世界の門(ニューゲート)」」


 そう言って2人は帰って……行かなかった。


「どうしてだ?」


「おかしいわね。問題ないはずなんだけど」


 2人の会話を聞いていると、どうやら何かあったらしい。


「うーん。困ったわね。」


 2人とも困っている。ふと、魔法陣の一部が発光してないことに気づく。よく見ると溝に何か詰まっている。


「ちょっとごめんね」


「薫?」


 僕は一言断って魔法陣の中に入りその箇所を手で払う。するとその箇所も光始めた。


「ここ。溝に小石が詰まっていてこれが原因で起動しなかったんだよ」


「なるほどね」


 原因が解決したことだしその場を離れようとした瞬間。周囲が光に包まれる。原因が取り除かれた事で魔法陣効果が即座に働いたらしい。


 何とも間抜けな話だが……これが僕の初めての異世界入りになったのであった。

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