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298話 アリッシュ領での変化

前回のあらすじ「宝石を探して三千里」

―「アリッシュ領内・喫茶店」―


「うん!美味しい!!」


「このソースは絶品なのです」


 お昼の時間。あっちこっち歩いて、お腹が空いたので、近くにあった真新しい外装のカフェらしきお店に入って食事中の僕たち。レイスとサキの二人はこのお店のオススメであるハンバーガーを、僕とカーターはサブマリンサンドを頼んだ。


「うん……これは凄いね……」


「ああ。地球で食べたのと遜色が無いぞ……これ」


 サブマリンサンドには野菜と鶏肉に自家製のマヨネーズと特製のドレッシングが掛かっており、実にいい塩梅になっている。


「ここのコックさん。かなりの腕だね」


「だから、こんなに人が多かった訳か」


 店内の席は全て埋まっており、その皆が美味しそうに料理を食べている。


「しかし……本当によく出来てるよな……」


「うん……」


 ここの料理のあまりの美味しさに不思議に思いながらも、そのまま昼食を済ませた僕たちは、店を後にして鉱山へと続く道を歩いていく。


「この街も大分、賑わってるね」


「前よりもお店が増えたような気がするのです」


 宝石を購入するために通りを歩いていた時から感じていたのだが、前にここに来た時よりも人が多く出歩いているように見えるし、路上に出店するお店も増えている気がする。


「そうなのか?」


「間違いないと思うのです。前はもう少し静かだったのです」


「何かあったのかしら?」


 半年の間に、急激に栄えたアリッシュの街。原因は何だろうと僕たちが考えながら街中を歩いていると、近くにあったお店で売られていたある物が目に入った。


「これは……」


「お!お嬢さんお目が高いね~!それは何と異世界の商品をモチーフにした物なんだよ。どうだい買っていくかい?」


「あ……えーと……」


 ガラの悪そうな店主に薦められるそれ。昔に流行った遊具でありモチーフではなくそのままである……。


「魔石を組み込んでいないのに、こんな風に長時間クルクル回るんだよ」


 店主が指の間に挟んだそれを回し始める。これ同僚が仕事の休憩がてらに回していたな……。


「ハンド……スピナー……」


「そうそう!どうだい?買わないかい?」


「いや……持っているのでいいです……」


「何だい……冷やかしなら帰ってくれ……!」


 僕がお客じゃないと分かった途端に悪態を付く店主。


「すいません……ちなみに、これって異世界の住人が教えてくれたの?」


「うん?そうだけど教えないからな?さあさあ情報を盗もうとする盗人は帰った帰った!」


 睨みつけるような視線で怒鳴る店主。冷やかし気味になってしまった事を申し訳なく思いつつ、必要な事は聞けたし、これ以上、長居するのは失礼なので後にしよう……。


「薫。そろそろ、その異世界に帰るのですよ……後でここの店主が失礼な奴だってことを、他の皆に伝えておくのです!」


「え?」


「そうね……しかも、勇者を盗人扱いなんて……ここでの商売する権利を剥奪するように領主にも伝えた方がいいわね!」


「え!?」


 大きな声で話すレイスとサキ。その声に反応して、通りにいた精霊たちがこちらを眺めている気がする。


「僕は別に気にしていないけど……」


「あなたは気にしなくていいわよ……単に精霊の私達がムカついただけだから」


「なのです。それだから気にしなくていいのです」


「ちょっと……!?」


 店主がかなり驚き、青ざめた表情を見せている中、僕はハンドスピナー店から離れる。


「本当にやるの?」


「冗談は半分よ。半分は……ね」


「半分はやる気なんだね……」


「ええ……領主様に報告はしないであげる♪」


 サキが笑顔で答える。ということは、皆に知らせるということはするのだろう。まあ、クロノスにいる人達だけだし、そこまで面倒には……。


「あの商人……大分、苦労するだろうな……」


「え?そこまで?研究所にいる人達だけなら……」


「あの騒ぎを聞いていた精霊達がいただろう。で、このグージャンパマで精霊にケンカを売ったらどうなるか……知ってるだろう?」


「それは知ってるけど……そこまで困る気が……今の僕みたいに魔法使いとしてなら困るけど……」


「あまりイメージ出来ないかしら?」


「うーーん……そうだね」


 僕の場合は魔道具に電子機器の両方が使えるので、生活や仕事に支障をきたすことがあまりない。それだから、どれだけ苦労するのかが今一、分からない。


「あのハンドスピナー作ったのはあの男ではなく、別の職人だろう……で、ああいった道具を作る職人は必ず精霊の力を借りている。細かい作業するのに精霊の力は必要だからな」


「うんうん……」


「で、その職人があの男が精霊から嫌われるような行為をしたことを知ったら?それが自分にも及ぶとしたら……?」


「そこまで広がるの?」


 まさか、そこまで……。


「それで中規模の商店が潰れたわよ?従業員全員とその家族が精霊の恩恵を受けられなくなって」


「……マジで?」


「さっき大声で言ったからね……早々にこの土地から離れるべきね♪」


「こ、こわい……」


 何て恐ろしい……うん?待てよ?


「カーター……レイスと初めて会った時の暴漢たちって……」


「すでに出所したぞ?まあ……無一文で、今はどこを彷徨ってるのか……」


 遠い目でどこか遠くを見ているカーター。その表情が何を言いたいのかを物語っている。


「……僕も気を付けよう」


 僕もうっかりこんな目に遭う事が無いように心がけるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから1時間後「ビシャータテア王国・魔法研究施設カーンラモニタ 第二研究区画」―


「これだけの素材があれば、十二分に作れるぞ!」


「それは良かった」


「で、デザインとかはどうするんじゃ?一応、こんなのを用意してたんじゃが……」


「それなら……」


 ドルグさんたちとカーターたちがアクセサリーのデザインについて話し合っている。これで明後日に間に合う事を祈るだけである。一方、僕は……。


「ああ……確かに、ハンドスピナーとか持ち込んで子供と遊んでいた方とかいましたね」


「だな」


 アリッシュ領であったことを、ちょうどカーンラモニタにある魔導バイクを見に来ていた直哉と紗江さんに尋ねてみた。


「料理の知識も?」


「ああ。領主の承諾の元で行っている実験の一環だな」


「実験……?」


「こちらの世界の情報の広がり方、それによって市民の活動にどのような影響を及ぼすかのかの検証だ」


「何でそんな実験をしてるのです?」


「グージャンパマで地球の情報を得られる場所というのは、今のところ各国の首都以外ではあそこぐらいしかないんだ……しかも、首都じゃないというのがポイントだな」


「どういうこと?」


「この逆……私達の住む町の影響を疑似的に調べているところです。地球にはスマホやインターネットで情報の拡散力、車に電車の交通手段と違いはかなりありますが、それでも参考にはなりますから」


「あの町は地球とグージャンパマを繋ぐステーションを有する町として栄えていくだろう。それこそ高層ビル群が建つようなくらいだ」


「まあ、そこはなんとなく……でも、東京に設置するから、そっちに行くんじゃないのかな?だから首都の流れを調べた方が……」


「もちろんそれも協力して調べている。それとだが……東京に設置する案はなくなった」


「え!?どうしてなのです?……交通の便とかを考えたら……」


「レイスの言う通り、利便性を考えたらその方がいいんだが……資金や、必要な施設の設置を考えた時には不都合だ。異世界の門(ニューゲート)を設置場所に、それを管理・監視する施設。さらに税関、検疫……今だけでも空港を一つ建てるぐらいの規模の土地が欲しいくらいだ」


「既存の施設を利用するのは?」


「もちろん。菱川総理の方で検証したが……安全性とかを考えると一から作った方が早いという結論に至った。他国が利権を得ようと睨みあっている以上、しばらくは日本にしか置けないしな」


「アメリカは?」


「当分はいらないそうだ。他国との付き合いもあるからな。同盟国だからという理由で設置するというのも考えたが……無駄な争いが増えるだけだろうということになった。もし設置するなら何ケ国と一緒に設置するという時だ。と言っているそうだぞ」


「それ……何十年後の話かな……」


「さあ?長い議論にはなりそうだがな……ともかく、地元の土地を買い漁っておいた方がいいかもしれないぞ。絶対に高騰することは分かっているからな」


「そんな事をするつもりは無いよ」


「大金を稼ぐチャンスなのにもったいないな……まあ、人の事は言えないが……」


 そう言って、ドルグさんたちとカーターのやり取りに目を移す直哉。近い将来に起きる地元での異世界フィーバーがどれほどの物か……真顔で話していたところからして、ありとあらゆる分野の知識を持つ彼にとっても、未知数なのかもしれない。


「そうしたら……ここを……」


「いいね!これは作り甲斐があるよ!」


 どうやらデザインが決まって、製作に入る段階になったようだ。


「さてと……!そろそろ私達は会社に戻るぞ」


「そうですね……あ、薫さん?ご迷惑でなければ転移魔法陣を起動させてもらっていいですか?」


「いいですよ……レイス。そろそろ家に帰ろうか」


「なのです」


 買い物に付き合うという役目を終えた以上、僕たちが付き添う理由も無い。僕たちはカーターたちに一言挨拶してから、帰路に着くのであった。

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