295話 それぞれの物語
前回のあらすじ「夕暮れの学校での禁断の逢瀬」
―学校でのイベントから2日後の夜「泉宅・寝室」ユノ視点―
「これは……私の予想を上回る展開だったわ……」
「壁ドンからの抱き締めッスか……」
「私もこれには驚きました……」
カメラで撮られた映像を見ている3人に私はココアを飲みながら答えます。2日前に学校であった薫と私にあった出来事……今、思い出しても頬が赤くなるのが分かります。
「怖かった?壁ドンって実際にやられると怖いし、不快感を感じることが多いって聞いたんだけど……」
「恐らく普通はそうなのですが……薫だと不安とドキドキが混ざり合った感じでしたね。その後、抱き締められた後に耳元で本気って言われた時には……もう……!!」
「うわ!?頬が一気に真っ赤に……!!」
「今、思い出してもドキドキが止まらないです……!!」
「それは良かったッスね」
ニヤニヤしながら私を見るフィーロ。そんな顔で私を見ないで欲しいです……。
「でも……どうして薫はあんな行動に出たのでしょうか……?近頃の薫は大胆な事が多い気がします」
「年明けてから、そんな風になった気がするのです」
「レイスも詳しくは分からないのね……」
「うーーん……思いつかないのです」
薫のパートナーとして、いつも一緒にいるレイスが分からないなんて……それ以外に薫について良く知っている人となると……。
「それなら薫のご両親かお姉さんなら分かるでしょうか?もしくは親友の直哉さんとか……」
「どうだろう……晶姉とかならもしかしたら……明日、ひだまりで訊いてみようか?」
「……いいのでしょうか。何かズルいことをしている気がして仕方ないのですが」
「かといって、モヤモヤしているのも嫌なんでしょ?」
「まあ……はい」
「それなら明日、聞きに行くッスよ!ということで、ゲーム大会を始めるッス!」
「なのです。ここで考えても埒が明かないのです……今は女子会を楽しむのです!」
お二人がそう言って、コントローラーに手を掛けていたので、泉と私も考えるのを一旦止めて、ゲームに集中するのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―次の日の朝「カフェひだまり・店内」ユノ視点―
「分からないわね……」
次の日の朝、私達は朝食も兼ねて、薫のお姉さんである晶さんに会いに来ました。料理を待っている間に訊いてみましたが……晶さんでも分からないようです。
「でも、元旦の時から様子が変わった気がしたわね。ねえ、武人さん?」
「うん……?ああ。そうだな。確かお前さんたちが揶揄って、それを返り討ちにしていたな」
調理の手を動かしながら答えてくれるマスターさん。フライパンで炒めていた料理をお皿に載せていく。
「ほい。ひだまり特製のモーニングセットだ。冷めないうちにどうぞ」
マスターさんが私達の前に料理を出していく。具だくさんのコンソメスープとトーストされたパンにバター。大皿にはサラダとスクランブルエッグにベーコンとウィンナーがキレイに盛り付けられている。
「いただきまーす!」
「美味しいのです!」
「それは良かった……ジャムがいるなら言ってくれ、イチゴとブルーベリーしかないがな」
すると、マスターさんは自分と晶さんの分も用意して、適当な席に座ってお二人も朝食を食べ始めました。
「ユノ。冷めるッスよ?」
「あ……はい。それでは……」
私も皆から遅れて朝食を取り始めます。グージャンパマでは今だに味わうことが出来ないこれらの料理。王族とはいえども、これらの美食にはちょっぴり贅沢な気分になります。
「という事は……やっぱりその頃から変わったのかな?」
泉がサラダを口にしながら、話の続きをします。
「そうね。それで間違いないと思うけど……元旦の前日とか何かあったかしら?」
「うーん……あったといえばあったよね?」
「クリスマスパーティーですよね」
「うん?クリスマスパーティー?」
「うん。あっちにクリスマスの習慣が無いから……だったら、クリスマスを作っちゃえと思ってやってみました!」
「楽しかったのです!」
「美味しかったッスね!」
フィーロとレイスがバターをたっぷり塗ったパンを美味しそうに食べながら、あの時の事を思い出して話していますが……器用に食べながら涎を垂らしています。もしかして、ご飯を食べているのにケーキも食べたくなったのでしょうか?
「それで。その時に何かあったかしら?」
「無いかな……」
「そういえば……薫。王様に呼ばれて二人で別室で何か話していたのです」
「それでしたら今年の予定について話していたそうです。薫がそう言ってましたから」
「王様と今年の予定か……」
マスターさんがカップに入ったコーヒーを飲みながら、何か考えています。
「何か分かった?」
「いや?今年の予定について話しただけじゃ……な」
「それもそうか……残念」
「まあ……あまり深く気にしなくてもいいんじゃないか?それよりお前さん達にはあのイベントが待ってるだろう?」
「イベント……豆まきかな?」
「泉ちゃん。とぼけちゃダメよ?カーターさんに愛情たっぷりのチョコを送るんでしょう?」
「いや!?でも……ほら。バイオテロの影響でチョコレートって手に入りにくく……」
「あるから安心しろ。なんせ昌がはりきって用意してるからな」
「ということで、頑張りましょうね?」
「は、はい……」
「私もですか?」
「もちろん。もしかして、グイグイ来られて薫の事が嫌いになっちゃた?」
「いいえ!そんな事はありません!」
「ふふ!それじゃあ、一緒に作りましょうか……薫の好きなチョコレートレシピを教えてあげるわ」
「ありがとうございます」
その後、朝食を終えた私はお城へ戻るために、泉たちと一緒に店を後にするのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―ユノたちが帰ってからしばらくして「カフェひだまり・店内」マスター視点―
「ねえ武人さん?」
「うん……?何だ晶?」
朝食で使用した食器を洗いながら、朝の仕込み作業をしている俺に何か訊こうとする晶。
「さっきの話だけど、武人さんは何か心当たりでもあるんじゃないかしら?」
「どうしてそう思うんだ?」
「武人さん……おもむろに話を変えたの気付いているんだからね」
「そうか……」
それとなく心当たりがあったが、俺の勘であって、確かな証拠などは無い。仮にもしそれが当たっていても、それは薫の口から話すべきだろう。
「それでどうなの?」
「今年の予定……そしてユノの父さんである王様とのさしでの話。奥さんの父親と話ってなったら……」
「あら♪もしかして……」
「結婚についてだろうな。まさか、ヘルメスと魔王の件が終わるまで結婚を待ってくれ!なんてわけにはいかないだろうしな……っていうのが俺の考えだ」
「あらあら♪いつ、結婚するのかしら?」
「さあな……まあ、今すぐっていう訳では無いだろう。何せユノはまだ学生だしな」
「そうか……そうしたら、3人で出席できたらいいわね」
「そうだな……うん?3人?」
「ええ……」
食器の洗い物を終えた晶が自分のお腹を押さえる。
「え?まさか……」
「生理が来ないから、もしかしてとは思っていたけど……検査薬の結果は陽性だったわ」
「マジか!!って!働いて大丈夫なのか?こんな時はあまり動かない方が……!?」
「あらあら!気が早いわよ……でも、私もいよいよお母さんになるのね……」
「そ、そうか……俺も父親になるのか……」
「ええ……」
「となれば……今から準備をしていかないとな。病院には行っていないのか?」
「バイオテロで行きにくい状態だったから……」
「そうか……でも、早めに行かないといけないだろうし……曲直瀬医師にでも相談してみるか?もしかしたら、最寄りのいい病院を教えてくれるかもしれないしな」
「そうね。薫の入院の時にもかなりお世話になったものね……」
「今日の仕事の合間に一度、連絡を入れてみようか。善は急げってな!」
「ふふ!そうね」
「さてと!仕事も頑張らねえとな!!」
突然の晶の告白に驚いた俺だが、その嬉しい知らせに俺は喜ばずにはいられなかったのだった。




