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292話 地獄に落ちる者達

前回のあらすじ「ペクニアさんとハクさんが仕事を放棄しました……」

―「海上」ハク視点―


「ナんだ……?」


「「「「シャア!!」」」」


 戸惑うクラーケンに襲い掛かるヒュドラ。クラーケンは急いで、触手から溶解液をヒュドラに吹きかけていますが、元は海水であるそれには無意味そうで……ヒュドラはそのまま噛みつきにいったり、口から水を高圧噴射したりしています。クラーケンもそれに負けずにと、ヒュドラの首と同じ大きさの触手を使って、巻き付けて絞め殺そうとしています。他の二人も援護はしていますね……。


「シャア!?」


 すると、クラーケンの触手から繰り出された薙ぎ払いによって、ヒュドラの9つある首の内、1つが吹き飛でしまいました。相手も確かな手応えを感じて、喜びの声を上げていますが……。


「押されてますね……」


「うん?全然ですよ。だってヒュドラは……不死ですから」


 その泉さんの驚愕の返答と共に吹き飛んだヒュドラの首が再生して、何事も無かったように、再び攻撃を始めています。


「本当ならヒュドラは切られた首が2倍になって再生するッスけど……それだと邪魔になったんッスよね……」


「首は9本で十分だもんね」


 泉さんとフィーロさんが飛んでもない話をしていますね……こんなバケモノはこの地球にはいないという話だったのでは……?


「~~♪~♪」


 ヒュドラとクラーケン達の戦闘の最中、それまで静かに、唯一戦闘に参加して無かったヒュドラの頭の上で佇んでいたセイレーンが歌い始めました。


「歌ダと……?」


 クラーケンが戸惑いの言葉を述べている間にも、歌い続けるセイレーン……。


「泉さん?何が……?」


 私がそれを聞く前に、海から現れた空を泳ぐ大型魚の群れ……しかし、それらは全身が黒い鱗に覆われ、ドラゴンのような頭のような頭をしていて……。


「♪~~~~♪♪!」


 セイレーンの歌の曲調が強くなった途端に、それらが一斉に相手に襲い掛かり、傷を負わせていきます。しかも中には魚同士が融合して、さらに大きな魚になってクラーケンの頭のヒラヒラを喰い千切っています。


「いけーー!!」


「そこッスよ!!」


 お二人がセイレーンの戦いにエールを送っていますが……。


「……泉さん。それにフィーロさん?」


「ハクさんどうしたッスか?」


「あの……このまま討伐される気ですか?」 


「「あ」」


 お二人から不安な声が漏れています。魔獣と同じように対処しようとしていたのでしょうか……?


「すいません……いつもの気分で……」


「いえ。分かってもらえれば……」


「それだから、そろそろ終わりにしますね……セイレーン!!」


 背中に乗っていたお二人が空を飛んで戦闘域の上空へと移動し、そして泉さんが手に持っていた杖を構えました……。


「邪神が作りし世界に迷い込んだ愚かな者たちよ……深淵の底へと落ちよ!!アビス・ムーン!!」


 泉さんがそう唱えた瞬間に先ほどまで戦っていたヒュドラと魚たちが消え、その代わりに敵の周囲の海から白い肌をした無数の亡者が海を覆い尽くすように現れて、クラーケンと黒い蛇を押さえ付けようとしています。唯一、空を飛んでいた男が空へ逃げようとしましたが、そこにはセイレーンが先回りしていました。


「どけ!!」


 叫ぶ男……しかし、セイレーンはそれには動じずに、自身の青い髪を2本の鎌状にして、男の羽……つまり両腕を切断して、そのまま亡者の腕で一杯の海へ落としてしまいました……って、アレは死んだのでは?


「泉さん……あの~……」


 泉さんに問いかけようとして、そちらを見ると、いつの間にかセイレーンが泉さんの背中から抱き付いていました……その顔は死人のように青白く、一部朽ていました……。


「ふふ……」


「くく……」


 泉さんとフィーロさんが笑っています。その目には光が無く、いつものお二人なら決してしないような冷めた笑い方をしています……。


「背中に死神を纏った魔女……」


「……確かに」


 ペクニア様の言う通りでして……そして、セイレーンが泉さんの持つ杖に触れると、空を覆うように黒い氷の玉が現れました……いえ、その禍々しさに本当に氷なのか疑わしいですが……。


「……生きてれば……手加減だよね?」

 

 恐ろしい事を言う泉さん。つまり、死なないようにいたぶるということでしょうか……?


「ユニの敵討ちだーー!!」


 泉さん!?怒ってる所悪いのですがあのユニコーンは死んでませんよ!?私の心のダメだしも空しく、杖の先端から放たれる無数の黒い大氷らしき物。それらは亡者達のせいで身動きが取れないクラーケン達にぶつかっていきます。両腕を切断されて、完全に身動きが出来ないあの男なんて、何度も鉄球を叩きつけらていると変わらないはずでしょうに……。


「さあ、覚悟してよね……!!」


 構えていた杖をクラーケン達に向ける泉さん。その先端から黒い靄を纏った小さい氷の玉が出てきました。そして、それは徐々に大きくなっていき…………。


「ヤ、やめて……!!」


 下から聞こえるクラーケンの攻撃を止めて欲しいという懇願。しかし、その姿は巨大な氷のせいで見えず、そもそも、この高さでは人間である泉さんたちには聞こえていません。でも……。


「……♪」


 セイレーンが笑っていました。敵が叫んだと同時に……。彼女は気付いていたのでしょう。クラーケンが絶望に瀕してることに……自分達の勝利がゆるぎないことに……。私が彼女に対して恐怖を感じている間にも、大きくなった巨氷……綺麗な球体ではなく歪な形をした黒い靄を纏った氷の塊。


「これで……トドメだよ!」


 泉さんはそう言って、それをものすごい速さで下に撃ち出しました。直後に爆音と水しぶき……クラーケン達が逃げないように取り押さえてくれていた亡者達も道連れに放たれた慈悲無き悪魔のような攻撃……。


「……手加減はどこへ」


「え、ええ……」


 直後まで聞こえたクラーケン達の悲鳴……今はそれも聞こえません。あんなのを喰らっては……。すると、泉さんがそのまま海面へと下りて行かれるので、私達も慌てて付いていきます。


「……!!」


 セイレーンが楽しそうに指を差す方向。そこにはボロボロになりつつも息をしている3人の男女の姿。それと、彼らが持って逃げた荷物を待ってたり、親指を立てたポーズをしている亡者の腕達。


「い、生きてるのか……」


「言ったじゃないッスか……手加減するって」


 ペクニア様の言葉にフィーロさんがそう返して来ましたが……。


「これは手加減じゃありませんから!!」


 ついに、私は我を忘れてダメだしするのでした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後「海上・改造タンカー船 甲板」―


「「……」」


 静かに正座する泉とフィーロ。その前には今回の作戦に参加した自衛隊の隊長さんが鬼の形相で睨みつけている。


「お二人共……生きて連れて来たのはいいです……でも、これはやり過ぎです!!」


 隊長さんが指差す方向には、失血はしていないが両腕を失くした男、その隣には主犯格である全身に打撲痕のある女、同じく全身打撲にあらぬ方向に曲がった足をした男……。全員がもれなく上の空状態である。


「これで良く生きてるんだぜ……」


「死んでいないのが不思議ですね……」


 シーエさんたちがその屍一歩手前の物を見て、そう感想を述べる。


「……ハイポーションで回復できるだろうか」


「……さあ」


 とりあえず、ハイポーションを掛けてあげよう……許せない相手だけど、ここまで酷い姿になってしまっては逆に哀れに思ってしまう。


「迷惑をかけた……」


 僕は一緒に追従してくれたペクニアさんとハクさんに謝罪の言葉を述べて頭を下げる。


「いえ……止めなかった我々にも責任が……」


「ああ……ただ、まさかあそこまで徹底的に潰すとは……」


「お前ら……何で止めなかったのだ?」


「それは……兄上を止めろと同義ですから……」


 そのペクニアさんの言葉に何も言わずに沈黙するゴルドさん。ゴルドさんもあのセイレーンの危険性を危惧していたのだ仕方がないと判断したのだろう。


「手加減と言うのはですね!!」


 隊長さんから、お叱りを受けている二人から目線を外した僕は、他の隊員さんに手伝ってもらいながら3人への応急処置を施し、それ以外の皆も何かしらの仕事にかこつけて、その場から離れるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―そこから数時間後「官邸・執務室」菱川総理視点―


「そうか……分かった」


 俺は静かに電話を切る。今回の事件の首謀者達の確保とそれを製造する船の拿捕……犠牲者もゼロということで、こちらの完全勝利と言えるだろう。まあ……薬のせいで死んだ犠牲者もいるため、完全とは言えたものではないが……。


「総理よろしいでしょうか?」


「ああ」


「失礼します」


 今回の事件を担当している内調の田辺が部屋に入ってきた。


「それで……どうだった?」


「薬の投薬の結果ですが……意識不明の重体だった者の意識が戻ったそうです」


「そうか……引き続き、観察の方を頼む。それと首謀者共は全員お縄になったぞ」


「そうですか……どうやら、もうひと踏ん張りですね」


「だな……とりあえず、スクープを待っている報道陣に発表するとするか……」


 俺はスーツの上着を着て、田部と一緒に部屋を後にするのであった。

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