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291話 セイレーンの進化

前回のあらすじ「逃げられた!!」

―「海上・改造タンカー船 甲板」―


「どうしよう……」


「今から追いかけてもどこにいるか分からない……ここは撤収するしか無いな」


 落ち込んでいる泉の質問にそう答える僕。海原に消えた3人を追うなんて、それこそ発信機が無ければ追いかけるのは不可能である。


「ごめん……」


「妖狐が謝る事ないぜ?そもそも念入りに準備した戦闘じゃなくて強襲だし……多少の失敗はあって当然だぜ」


「それに……この問題の船を拿捕できたのです。これ以上は相手も何も出来ないのです」


 レイスの言う通りで、ヘルメスにどの程度の資金源があるかは不明だが、大量の人員と高額な設備の両方を奪ったのだ。完全勝利とはいかなくても大勝利には変わらない。


「申し訳ありません……私もあの黒い蛇に気を取られて、もう一匹の攻撃に気付かないとは……」


「全くだ愚弟よ。お前はもっと広い視野で戦う癖をつけろ」


「はい」


 正座姿で反省しているペクニアさん。彼相手に力では無理と判断して、逃げるために目を潰したのは正解だろう。


「さて、反省はここまでだ……さっさと逃亡した残りの奴らを捕えてこい」


「はい。すぐにでも捕えてきます」


「「「「……へ?」」」」


 ペクニアさんとゴルドさんの会話を聞いていたハクさん以外の全員がハテナマークを浮かべる。


「場所……分かるんですか?」


「うん?分かるも何も……アイツら、魔族が持つ魔石を持って逃げたからな。バレバレだぞ?」


「3人一緒に行動しているはずですから、今すぐに追いかければ捕らえられるとは思いますよ」


 平然と答えるゴルドさんとペクニアさん。ああ……そうでしたか……。まさか、逃げた奴らも自分で発信機を身に付けているとは思っていないだろうな……。


「ハクも行ってこい。バラバラになった際には追跡して捕まえろ」


「かしこまりました」


「私達も行く!」


 泉が手を挙げて、追跡グループに参加することを示す。


「そうッスね!目指すは完全勝利ッス!」


「妖狸……いいよね?」


 泉が上目づかいでこちらを見ておねだりする。


「そんなことをしなくても分かっている。ケガをするでは無いぞ?」


「うん!」


「そうしたら私の背にお乗りください。私の方が早く移動できるでしょうから」


「ヒヒーン……」


 倒れているユニが泉たちに声を掛けている。シエルに訊くと、ゴメン。頑張って……。と言ってるそうだ。


「任せて……ユニにケガさせた奴らをボコボコにしてやるんだから!」


 そう言って、泉がグリモアを使って、地面に魔法陣を描く。


「セイレーンを呼ぶんですね……」


 シーエさんがそう言っている間にも召喚に必要な青い魔石をアイテムボックスから取り出し、そして黒を基調とした煌びやかなドレスも一緒に取り出した。


「何だそのドレス?」


「うん?セイレーンに来てもらうドレスだよ?」


 マーバの質問にサラッと答える泉。マーバがそこからさらに尋ねようとするが、直ぐに追いかけようと思っていたためか、すぐに召喚魔法の詠唱を始めてしまう。


「人々の苦痛と疑心に快楽を見出し邪神よ……今こそ、その全てを解き放ち!我らに牙を向けし愚かな者達の脳裏に深淵の恐怖を刻みつけよ!!見よ!これが世界を狂気で包み堕とす支配者の真の姿!!邪霊鬼神セイレーン!!」


 前よりさらに物騒な詠唱を唱える泉。フィーロが持っていた魔石がドレスへと向かって飛んで行き。一際眩しい黒と青の光が包み込む。そして光が収まると、先ほどの黒いドレスと頭にティアラを身に纏ったセイレーンが華麗に登場した。その美麗な佇まいは正に女王である。


「セイレーン!行くよ!」


 泉の命令に黙って頷き、その後に付いていくセイレーン。


「ハクさん!よろしく頼むッス!」


「え……?は、はい!」


 ドレスアップしたセイレーンを見て呆然としていたハクさん。慌てて姿勢を変えて、3人が乗りやすい姿勢を取る。そして3人がハクさんの背中に乗ったところで、ペクニアさんも連れて飛び立っていった。


「……妖狸。アレは何だ?」


「妖狐の召喚魔法」


 ゴルドさんの問いにそう答える僕。


「そうでは無い!何だあの膨大な魔力を持った魔法生物は!?逃げた奴らを捕えずに消し炭にするつもりか!?」


「いや……そのつもりは無い。というより、妾にはそうとしか答えられないのだが?」


 多少の情報は、本人から聞いてはいるが……。


「おい……!ちなみにアレってどれほどの力を持ってるんだぜ?」


 マーバが本人に訊けなかったことを、僕に訊いてくる。他の皆の視線も僕とレイスに集中している……僕も全てを知っている訳じゃないんだけどな……。


「……ガチで港湾都市を一瞬にして海の底に沈めるほどの力……かな?」


 その僕の答えに、聞いていた皆がそれが自分たちに向けられなかったことに安堵した表情を浮かべ、そして……代わりにそれを味わう事になる逃亡者たちに静かな祈りを捧げるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後「海上」ハク視点―


「……妖狐さん?逃亡者を見つけたらどうするおつもりで?」


 高速で飛びながら、背中に乗っている泉さん達に私は恐る恐る訊いてみます。後ろにいる魔法生物……明らかにこれは危険です。こんなのを呼んで泉さんはどうされるのでしょうか?


「もちろん!けちょんけちょんにしてから捕まえてやるんですよ!」


「ぶっ飛ばしてやるッスよ!」


「そ……そうですか……」


 元気よく答えるお二人……いえいえ……そんな莫大な魔力を持つ者が襲い掛かったら、逃げた奴らは跡形もなく消えますよ?も、もしかして……これを危険と察していないのでしょうか?


「お願いね!セイレーン!」


「頑張るッスよ!」


 自分が作り出した魔法生物にエールを送るお二人……お二人は犯人を捕らえる気は無いのでしょうか?私は前を飛んでいるペクニア様に目を向けると、ペクニア様は呆れた表情をお浮かべに……。


「(これ……捕らえられますかね?)」


「(……命があったらな。進化前の姿で、俺を制したアレだぞ?それより危険なこいつは……)」


 背中に乗っている3人に気付かれないように念話で話す私達。


「(どうしましょうか……これは素直に追いかけていいのでしょうか?)」


「(その議論は無駄だ……もう目の前にいる)」


 私が前方に目を向けると、そこに黒い羽を持った人型の何かがいて、こちらに指差して気付いた模様……。ああ……迎撃をしようと構えるのではなく、さっさと逃げたらいいのに……でも、ゴルド様の命で捕えないといけないし……。


「くそ!どうやって……」


 遠くて泉さんたちには聞こえていないでしょうが、前の男がこちらを向いて何か言ってますね……。気付いた男は降下して、下にいる仲間と合流……って、アレは何でしょうか?


「デカい……まさか、俺に墨を吐いた女なのか?」


「そうかと……隣にあの蛇もいますし……」


 先ほどまでいた船と同等の大きさを持つ何か……海に潜っていたそれが海上に姿を現しました。


「クラーケンかな……」


 泉さんがそれを見て、そう答えます。私も海で見たことはありますが……ここまで大きかったでしょうか?


「オってキたノね……しカタなイわネ……」


 クラーケンがそう言って触手を自身の前方で振ると、何か液体のような物が飛んできて……とりあえず避けときましょう。


「ふフ……!こノ溶解エきで溶かしてアげる!!」


 なるほど……溶解液ですか。私達も男の後を追って、多少は高度を下げましたが……まさか、ここまでの高さに溶解液を飛ばせるとは……。


「気を付けろ。俺達でもタダでは済まないぞ」


 私は黙って頷きます。ゴールドドラゴンであるペクニア様が危険という事は、シルバードラゴンである私では死ぬことはなくとも、大ケガは必至でしょう。


「……よし!セイレーンお願い!!」


 私とペクニア様が話をしている中、泉さんがセイレーンに指示を出します。すると、私の背中に乗っていたセイレーンがふわふわと宙に浮遊した状態で、ゆっくり下へと下りていかれました。


「行くよセイレーン!」


 泉さんがそう叫ぶと、セイレーンが祈るようなポーズを取りました……一体、何が起きるのでしょうか……。


「支配者の忠実なしもべよ!今、ここに推参せよ!ヒュドラ!!」


 泉さんが言い切ると同時に、セイレーンが海に向かって青と黒に光る球体を撃ち出し、それが海に当たると、そこから9つの蛇の頭を持つ魔獣が出現。そして、その頭の一つにセイレーンは降り立ちました……まさか魔法生物が、さらなる魔法生物を作り出すなんて……。


「「「「シャアアアアーーーー!!!!」」」」


 全ての頭が、逃亡者達に向けて威嚇をしています……。


「(ペクニア様……アレをどう思われますか?)」


 再び念話でペクニア様にセイレーンとヒュドラについて、どのように感じているかを訊く私。


「(兄上には悪いが……下手に手を出さずに見守ることにしよう。あの者達がどうなっても……だ)」


 私はペクニア様のご指示を素直に受け入れ、ここから先は傍観者として見守ることにすることを決めるのでした。

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