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289話 特攻する妖狸

前回のあらすじ「SBUとの共同作戦開始」

―会談から2時間後「海上・改造タンカー船 船長室」クラーケ視点―


「日本政府から何かしらの反応はあったかしら?」


「いえ。今だに沈黙を保ったままですクラーケ様」


「そう……奴らは本当に抗ウイルス薬を?」


「それはありえません!時間を掛ければ出来るかもしれませんが……間に合うはずがありません」


 確かにこいつの言う通りだ。あれには莫大な費用と時間を掛けて作ったのだ。それに対する薬がそう簡単に作られてはたまったもんじゃない……そう、普通なら……。


「しかし……奴らにはその常識が通用するかしら?」


「通用しないですね。常識が通用するならスパイダー様はやられていませんから……それに空飛ぶトカゲを連れて来るなんてありえません」


 研究グループのリーダーと船内の警備隊長との定時報告。かなり深刻な状態なのに、日本政府は沈黙を貫いている。数分前にあった日本政府と妖狸達の接触……そして、ありえない生物……。


「……撤退ね」


 私のその発言に二人は驚かない。もし私が言わなかったらどちらかが具申していたのかもしれない。


「行先はどこへ?」


「日本を離れて、インド洋に向かうわ……そこで、補給などを済ませる。それにリーダーとの今後の展開を話さないと……」


ゴンゴン!!


 誰かが扉を強く叩く。そのまま私の許可を得ずに隊員が扉を開けて入って来た。


「失礼します!」


「会議中だぞ!」


「申し訳ありません!緊急事態……恐らく敵襲です!!」


「何だと!?」


 敵襲?ここは陸地からかなり離れた場所……そんなはずが……とりあえず、話を聞きましょうか。


「続けなさい」


「レーダに反応あり!真っすぐこちらに向かってきています!!」


「真っすぐ?」


「はい!速度的にはヘリコプターかと……」


「……迎撃の準備をしろ。近づいてきたところを撃ち落とせ。それと船内に何か不審な物が……」


「大変だ!!」


 さらに、そこにもう一人船長室に入って来た隊員。


「今度はどうした?」


「敵影視認!輸送ヘリコプターが一機。そして……未確認飛行物体複数!形状的には……ドラゴンかと……」


「よ、妖狸……ま、まさか……?」


 研究グループのリーダーが慌てふためく。あいつらが総理と会ってから、そんなに時間は経っていない。つまり、あいつらは総理に会ったその足で、軍と合流してこちらに攻めてきたことになる。


「戦闘配置に付け!いいか!何としても数を減らせ!!」


「りょうか……!?」


 隊員の返事が返る前に、船が大きく揺れる。そして、謎の雄たけびが船内まで響く。


「まさか……?」


 ドラゴンが外で暴れているのか?


「バズーカ砲を用意!船に備え付けの砲塔も使え!!撃ち殺せ!!」


 隊長は部屋を他の隊員と一緒に慌てて出ていく……こんな状況……どうしろと言うのよ?


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―同時刻「海上・改造タンカー船 上空」―


「撃て撃て撃て撃て…………!!!!」


「……ふん」


 船に突撃したペクニアさんが、銃を乱射する船員をその尻尾で弾く。船員はそのまま近くの手すりにぶつかり、その場に倒れる。その手すりが大きく曲がっているところからして、船員の骨は何本か折れているに違いない。


「(あんな玩具でドラゴンに勝てると思ってるのかな?)」


「あれでドラゴンに勝てるかどうかじゃなくて、あれでしか対抗できないんだと思うよ……」


「そんなのバズーカ砲とか対戦車ライフルとかいうのを持ってこないとダメに決まってるのです」


 あのコンテナ船の中にそれがあれば対処できるのだろうが……それでも難しいと思う。


(妖狸。聞こえてるでしょうか?)


 ここに来る前に一度立ち寄った空母で渡されたトランシーバーから輸送ヘリに乗る隊長さんの声が聞こえたので、トランシーバーを手に取る。


「聞こえている」


(これから、ヘリを船上に近づけて着陸します)


「分かった。妾たちはその間、そちらに攻撃がいかないように防御し、隊員全員が下りた段階で、妾たちが先行して船内へと侵入する……で、合ってるな?」


(はい。それと後続機も来るので、そちらの護衛用にどなたかいていただければ)


「妖狐とドラゴン3体が外で待機する。それで十分だろう?」


(了解……それでは作戦を開始します)


「全員!これより船の制圧に入る!作戦は言った通りだ!全員心して臨むように!」


 そして、そのまま泉たちを置いてコンテナ船に下りていく僕たち。


「アイス・スリップ!」


 船上を凍らせるシーエさん。武器を持って移動する船員は突如、凍ってしまった船上で足を滑らせてしまい武器をこちらに構える事が出来ずにその場に倒れてしまう。それでも中には膝を付けて銃をこちらに構えている船員もいる。


「こっちに銃を向けてるのです!」


「まあ、無駄だがな……」


 僕は周囲に魔石のかけらと混ぜ込んだ砂をアイテムボックスから取り出して周囲にばら撒く。


「さあ行け……蝗災!!」


 いつもは砂を蛇の姿にして暴れさせる蝗災を、今度は羽虫のようにして周囲に飛ばす……そして。


「銃が!!」


「砂が詰まって……!」


 銃器に侵入させて、撃てないように妨害する。それでも運良くそこから離れた場所にいる船員の攻撃は鵺を大盾にして防ぐ。


「ヘリを落とせ!!」


「無理です!バズーカ砲も防がれてます!!しかも……あのドラゴンにダメージが通っていません!」


 僕たちが下りて来たのに気付いたペクニアさんが、ヘリを守る為に防御に徹してくれている。しかし……バズーカ砲を喰らって無傷なのか……チョットだけ驚きである。僕たちがそんな風にして妨害をしている間にヘリは船上に着陸して、そこから自衛隊の方々が小銃を持って、ヘリから降りていく。


「妖狸さん!こちらに構わずどんどん進んで下さい!」


「分かった。妾たちは下に行く。そちらは操舵室を頼む……妾たちでは船の操作は無理だからな」


「分かりました。通信機の電源は常にオンの状態でお願いします」


「心得た……氷鬼!下に向かうぞ!ペクニアはここで自衛隊の隊員の援護を」


「分かりました。どうかお気をつけて」


 ペクニアさんと隊長さんに見送られながら、シーエさんたちと一緒に船内へと続く階段を下りていく。


「来たぞ!」


 船に入ると、狭い通路と階段……そして、先ほどの船員たちとは違い、しっかりとした防具を着た小銃を持った戦闘専門の船員が待ち構えていた。


「どうするのです妖狸?」


 レイスが悪い顔をして訊いてくる。そんなの決まっているのに。


「まかり通るだけだ……これを防げるのがいればだがな」


 僕は蛇の姿にした蝗災をこの狭い通路で先行させる。


「セイクリッドフレイム!」


 さらに蝗災を炎で熱して高温状態にする。


「ひっ!?」


 まだ、消えない炎を纏った大蛇を見て、先頭にいた船員が悲鳴を上げて後退しようとしている。僕はそんなのお構いなしに蝗災を前進させる。


「ぎゃあ!!!!」


「た、助け……!!」


 高温の蛇が狭い通路を進む……その道を塞ぐ武装した船員を飲み込み、その体の水分を抜き、さらに高温で熱する……吐き出されるのは、渇きを訴える亡者となった船員……。


「これって、私達必要なのかだぜ?」


「必要ですよ……その証拠にほら、先ほどのバズーカ砲という物を持った奴らが背後から狙ってますからね……フリーズ・ウインド」


 シーエさんがそう言ったのと同時に後ろを振り返ると、先ほど僕たちが通った通路に霜が出来ている。そして、バズーカ砲を構えた男がそのままの状態で固まっていた。


「安心して下さい妖狸……生きてますから」


「……そうか」


 いや!?身体が凍結するって死んでるよね!?アニメみたいなご都合主義ってそこまで働くの!?うっかり素でツッコむところだったんだけど?


「そんな事を言ったら、スパイダーを生け捕りに出来た理由が説明出来ないのです」


 分かってる……レイスの言う通り、そうなんだけどさ……そうなんだけど……後、レイス気持ちを読まないで……。


「……普通にするべきか」


 妖狸であるために、ツッコめない弊害……かなり困るかも。


バー―ン!!


 音と共に背後から砂が飛び散った。急いで後ろを振り返ると蝗災がいた方向の地面には強い衝撃でへこんだ床と壁、そして奥には何か投げようとしている船員が……。


「アイス・グレネード!!」


 僕が何かをする前にシーエさんが、前方に何かを投げる。それは投げようとしていた船員のとこまで転がり爆発して、新たな一体の氷像を作った。


「安心して下さい……死んでいませんから」


「そうか……って、安心できるか!!」


 いやいや、これは死んでるよね?ほら!顔が氷漬けなんだよ?さっきのバズーカ砲男よりも酷い状況なんだよ!?


「お、おい!?しっかりしろ!」


 その変わり果てた姿を見た船員が、氷像に声を掛けるがそれは何も言わない。


「蝗災!」


 僕は急いで、飛び散った砂を再集結させて今度は羽虫の状態で前方に飛ばす。男は慌ててそれを払っているところを、接近して獣王撃で通路の先までぶっ飛ばしておく。


「妖狸……そのパンチの方がよっぽど大丈夫か心配なんですが?」


「そうだぜ?」


「大丈夫……その時、不思議な事が起こった。があるからな」


「「「……」」」


 3人から冷たい視線が……うん。分かってる。人の事より自分はどうなんだよ。って言いたいんだよね……。


「ほら。そんな事より進むぞ……」


 僕はそう言ってこの場を収めようとする。が、3人の視線は変わらない。そんな3人の視線を背中で感じつつ、さらに船内の奥へと進むのであった。

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