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28話 魔女の宅急便(ただし、内一人は男)

前回のあらすじ「薫は犠牲になったのだ」

―「高速道路・車内」―


「すごーーい! 速いのです!」


「は、速すぎるッスよ……」


 高速道路に入って30分くらいだが…フィーロが参っている。


「意外に乗り物に弱いの?」


「馬車とか乗ってるから揺れは平気ッス。そうじゃなくてこの速さに酔ったッス……」


「ちょっと、サービスエリアに寄った方がいいかな? お昼も近いし」


「そうだね。ちょうどここのサービスエリアにフードコートがあるからここにしようか」


「た、助かるッス……」


「大丈夫なのです?」


「……ムリ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「Kパーキングエリア・フードコート」―


「いやー…速いッス。速すぎるッス」


 落ち着いたフィーロが感想を述べている。今はフードコート内の、なるべく人目が付かない席に座って、料理が出来るのを待っている。


「私は楽しかったのです♪」


「あたいからしたら、あれは速すぎるッスよ!」


 ミニチュアのコップで、レイスとフィーロがお茶を飲んでいる。先ほどまで倒れていたフィーロも調子が良くなったようで、すっかりいつもの調子に戻っている。


「でも……ちょっと意外だったかも。何となくだけど、フィーロって乗り物に強いと思ってた」


「僕も思ってたよ」


「なのです」


「人を見た目で判断しちゃいけないッスからね!?」


「もう少しで降りるから後少し我慢してね。酔い止め薬を買ってこようか?」


「適切な量が分からないから止めといた方がいいよ。飲み過ぎて何かあったら大変だから」


「大丈夫ッスよ。少し休めば良くなるッスから」


「25、26番の方ー!!」


 どうやら料理が出来たらしいので、2人を残して料理を受け取って席に戻る。


「美味しそうなのです」


「舞茸の天婦羅に蕎麦だね。そういえば天婦羅は初めてかな?」


「そうですね。揚げ物とは少し違うようですが?」


「これは小麦粉を卵と水で溶いていてちょっと違うからね。はい。どうぞ」


 蕎麦と天婦羅を取り分けてレイスとフィーロに渡す。


「フィーロ食べられる?」


「大丈夫ッスよ。それより……キノコをこっちに来て食べるようになったッスけど。違和感が無くなってきたッスね……」


「分かるのです。今までキノコなんて毒殺に使う物ですからね」


「あっちのキノコ事情って……」


「そういえばカーターたちが言ってたね。これも食べられるから安心してね」


 そういえば最初にレイスにキノコを出した時は驚かれてしまった。が、今では美味しそうに食べてくれている。


「うーん! 美味しいのです!」


「レイス! このお蕎麦の汁に入れて食べるのもいいッスよ!」


「本当だ!」


 2人が美味しそうに食べていく。ふと、辺りを確認する。


「……どうしたの薫兄?」


 お蕎麦を食べていた泉が、僕の挙動が不審だったのか、何をしているのかを尋ねて来た。


「いや。こっちを覗かれていないかなって」


 机の上に鞄を置いて2人が見えないようにしているブロックしているが、声を聞いて周りの人から怪しまれていないか気になる。


「大丈夫だよ。平日と悪天候で人が少ないから。見られても女性2人がはしゃいでいるなって思うだけだよ」


「僕、男……」


「今は女で……ね」


 この状況のため強く否定できない僕は、そのまま静かに蕎麦をすするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「コンビニ・駐車場」―


「ここのコンビニで最後だっけ?」


「うん。これより先は無いから必要な物はここで買っておかないと……。2人は何かこんな物が欲しいとかあるかな?」


「大丈夫なのです」


「問題無いッス」


 お婆さんに届ける必要な物をひだまりから運び始めて3時間。マスターのお婆さんが住む家の近くのコンビニにやってきた。まあ、近くとはいっても車で30分はかかるみたいだが……ちなみに配達する物は、ストーブ用の灯油、その他に保存の効く食料や飲料水なんかも一緒に持ってきている。


「それじゃあ、出発するよ」


「レッツゴーッス!!」


 買い物を済ませた僕たちはコンビニを後にし、目の前に見える雪に覆われた山に向かって進む。少し目をずらすとレイスとフィーロはフロントガラスからの車窓を楽しんでいる。


「後は、人目のつかない場所に車を止めないといけないね」


「ここの近くに冬季はやっていないお店があるからそこの駐車場に止めさせてもらおうか。ここなら除雪作業をしているところから大分離れているから作業している人たちから見られないと思うし」


「ただ、なるべく早く帰らないといけないね」


「そうだね」


「でもさ。このまま行って大丈夫なの?」


「何が?」


「お婆さん……驚かないかしら?」


「マスターが、驚くような方法で配達するからよろしくな! と伝えておいたって」


「……」


 まあ、言いたいことは分かる。事前に伝えてはいると言っても人が空からやってくるのは想定外のはずだ。


「そこは気にしないでおこう……」


 僕としてはそう言うしか無かった。会ったらすぐに事情を説明しよう。分かってもらえるかは知らないが……。とにかくそう心に決めるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―10分後「冬季休業中のお店・駐車場」―


「着いたよ」


「誰もいなくて丁度いいね」


「ここから飛ぶのですか?」


「うん。ここなら戻る時も便利だからね」


「ここら辺少し雪で埋もれてるッスけど」


 お店の駐車場に車を止める。目の前にはお土産屋さん兼飲食店がありそこには冬季休業中と書いてある。


「吹雪いてはいなかったけど、道が雪で覆われているから見づらくて少し恐かったわね」


「逆に言えば、それは最近誰も来てないということなのです」


「……今なら雪が止んでいるし急いで飛んでいこうか」


「「「りょーかーい!!」」」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後―


「GPSの設定いいよ」


「皆服装オッケーかな」


「オッケーなのです!」


「大丈夫ッス!」


 スマホで現在地と目的地の設定をした。これで上空でも道に迷うことは無いだろう。2人も僕たちの服の中に潜り込んでもらっている。


「それじゃあ行くよ!」


 飛翔を発動する。みるみるうちに地上が遠ざかっていく。そして視界は周辺の木より高い位置にくる。


「こっちの方向に真っすぐ行けば村に辿り着くわね」


「道を気にしないで直線距離で行けるのは楽だね」


「でも、風があって寒いのです」


「息が真っ白ッス」


 口から白い息が漏れる。服の下にカイロが無かったらかなりきつかっただろうな。


「寒いわね…」


 泉がマフラーで口元を隠す。


「そうしたら、あたいらの世界に耐寒使用の生地なんか売っている店があるから今度行ってみるといいッス」


「そんな生地があるの?」


「はい。それに耐火、耐熱や防刃いろいろあるのです」


 さすが異世界。期待を裏切らないな。そういえば……。


「鉄壁を使えばいいんじゃ……」


「フィーロ行くよ! プロテクション!」


 すかさず泉が魔法を使用する。防御魔法は魔法使いの身を守る魔法である。それなら……寒さを防ぐ効果もあるのではないかと思ったのだが……。


「おおー!! 寒いけど寒くない! 全然イケる!!」


「本当ッスね!」


 どうやら、効果有りのようだ。


「そうしたら僕たちも」


「はいなのです」


 僕たちも鉄壁を唱えて、寒さから身を守る。


「凄いねこれ。まるで某秘密道具みたいだ。」


「秘密道具?」


「今度、そのアニメの映画借りてくるよ」


 国民的アニメの説明をここでするより、映画を見ながら楽しく説明をした方がいいだろう。


「それじゃあ行こうか」


「うん」


 障害物が存在しない空を進んでいく。ちょうど雲の隙間からほんの少し青空が見えていて、しばらくは降雪を気にしなくていいだろう。


「真っ白なのです」


 レイスが地面に向かって指を差したのでそちらを見ると、地面は木々が雪で一面真っ白になっており純白の絨毯のようになっていた。


 ちなみに、あまり速い速度を出すと危ないので自転車かそれより少し速いぐらいで飛行中である。


「魔法って凄いねフィーロ!」


「そうッスね! あたいもまさか魔法でこんな風に一緒に飛べる日が来るなんて思ってなかったッス!」


「私もなのです! 私達、精霊だけならなんとかいけるかもしれないですが、その他の種族と飛ぶなんて考えたことがなかったのです!」


 3人が笑顔で会話を弾ませる。皆、寒い中だが空の散歩を楽しんでいるようだ。しかも風の影響も防御魔法が少しばかり防いでくれているみたいで大分話しやすい。


「こんな風に自由に空を飛ぶのが当たり前の世界になるのかもしれないけどね」


「そうなのですか?」


「泉の箒みたいに、空飛ぶ道具って感じで出来るんじゃないかな」


「某秘密道具で思ったけど、頭に着けるアレとかは?」


「出来るんじゃないかな? 回転する羽だけの力だと体が大変なことになるっていわれているけど、今の僕たちみたい全体を浮かべれば問題無いだろうし」


「……そうするとプロペラ要らなくない?」


「そうなんだよね……」


 全体を浮力で浮かせるならば、そもそも意味が無い気がする。そんな話をしつつポケットからスマホを取り出して画面を確認する。


「……少しずれてるね」


 スマホの画面を見ると、多少向きがずれていたので軌道修正する。


「真っ直ぐ進んでいたと思っていたけど気がつかないものね」


「目印になる物が無いッスからね。あたいらも飛んでるとたまにあるッスよ」


 フィーロの言うとおり、前は白くなった山と木々ばかりで村は見えていない。なので、スマホの位置情報を頼りに進んでいる。


「多少ずれたけど……それでも大分速く移動できてるよ」


「もう少しで半分なのです」


 予定していた時間よりかなり速い。魔法によって風や寒さの影響を抑えられたのが一番だと思うのだが……これなら思ったより早く着きそうだ。


「今度は秋にここ飛んでみたいね。紅葉がキレイだろうし」


「そうだね」


 なんの束縛も無いこの広い空を自由に飛ぶことを楽しみつつ、村へと向かうのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「マスターの祖母の家・屋根」―


「あんれま~……びっくりする方法って聞いとったが、まさか空から女の子達が来るとは思わんかったわ。しかも小人なんか連れて~」


「そうですよね……」


「いや? 僕、男なんだけど?」


 外で屋根の雪掻きをしていたマスターのお婆さんに挨拶をする僕たち。なお、飛んだままである。


「はあ~……変わった男もいるもんだ。んで……中に入っていくか? お茶とか出すからさ~」


「ありがとうございます!」


「お邪魔するッス!」


 脚立を使って屋根から降りたお婆さんが玄関に案内してくれた。


「うわー! 温かい!」


 泉がストーブに近づき暖をとる。


「2人は大丈夫?」


「私達、2人は服の中に入ってたから寒く無かったのです」


「同じくッス。むしろ暑かったッス」


「そうか」


 防御魔法とカイロで寒さを防いでたもんな。それは暑くもなるか……。


「それで、お婆さん。マスターから頼まれて持ってきた荷物はどこに置けばいいかな?」


 台所で急須に茶葉を入れているお婆さんに尋ねる。


「灯油は外の物置に置いてもらえればいいんだけどさ……その荷物はどこにあるんかね?」


「僕が持ってます」


 僕は台所の床に向けて手をかざし、灯油以外の食料品とか必需品をアイテムボックスから取り出す。


「あらま~……これは凄いなー。これどうやってるさ?」


「まあ……魔法です」


「はあ~……まさかこんの年で、魔法なんてもん見られるとは思わなかったわ。ははは」


 僕は驚きながらもストーブに載っかっているヤカンを手に持ち急須にお湯を入れていく。


「お茶入ったぞー」


「ありがとうございます」


 精霊2人は僕が持ってきていたコップに入れてもらい、ここにいる全員が一息つく。


「落ち着くのです」


「そうッスね」


「ミカンも食べな~」


「ありがとうなのです」


 レイスとフィーロが炬燵に置いてあるミカンを食べ始める。と、どこからか着信音が鳴り始める。するとお婆さんがポケットから携帯電話を取り出す。


「もしもし。武人か~?」


 どうやら丁度良くマスターが電話を掛けてきたようだ。


「うんうん。届いたよ~。ありがとうな~。……そりゃあ、おったまげたわ~」


「ちゃんとマスターが説明してくれているね」


「まあ、驚く方法でだけじゃあね。じゃあ、僕は灯油置いてくるね」


「分かったわ」


 僕は居間を出て、さっき言われた物置に灯油を置きに行くのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後―


 灯油を置いて居間に戻ってくると、4人が楽しそうにお喋りをしていた。


「あ、おかえり」


「なのです」


「悪いね~。働かせちゃって」


「いいえ。全然力仕事してないので」


 アイテムボックスから取り出しただけなのだ。肉体労働でも何でもない。


「それと、武人に言われたんけどこのことは黙っとくから安心しな~」


「ありがとうございます」


 このことを秘密にしてもらうお婆さんに僕はお礼を伝える。


「そういえば停電中で大変じゃないですか。上空から見たらここって村から少し離れてましたよね?」


 泉の言う通りで、山の奥にポツンと一軒建っている感じだった。


「大変だんけどさ。昔の方が大変だったから問題はないさ。今なんか車もあるしな~」


「いや、うちらも野宿なんかやったりしてたんッスけど、この寒さは結構大変じゃないッスか?」


「あの時は寄り添って一緒に寝ていたのです……」


「おんやま。小さいのに中々苦労してるな~」


「そんなこともないッス」


「いや、そんなこともあるでしょ」


 ストーブで暖かくなった部屋で、皆してつかぬ間のお喋りを楽しむのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数時間後―


「お邪魔しました」


「何言ってるんさ。こちらが大助かりだよ。ありがとうな~」


 また、魔法を発動させて宙に浮く。あの後、少しだけ雪かきのお手伝いなどをしていたが、また雪が降りそうになったのでお暇することにした。


「気を付けてな~」


「はいなのです」


「お婆さんも気を付けてね」


 手を振り、僕たちは帰路に着くのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―夕方「冬季休業中のお店・駐車場」―


 帰りのフライトも何の障害も無く駐車場の所まで戻ってこれた。そしてそのまま車に乗り込み車のエンジンをかけて暖房を付ける。


「どっかよっていく?」


「よっていってもいいけど調べていないし……それにもう時間も遅いしね」


「それもそうか……そうしたら今度にしましょうか」


「何かあるのですか?」


「ここだと、温泉にコンニャクの施設、後は神社や珍しい建物とか」


「へえ~。見てみたいのです」


「ただ、遅いから今から行っても施設が閉まっているかな。今度、明るい時間帯にでも行こうか」


「それは残念ッス」


「あ。それならラスク買っていこうか? 前の職場でお土産何かで良く持っていったし。お店も多分まだやっているはずだよ」


「ラスク?」


「お菓子だよ。多分2人も気に入ると思うよ」


「食べてみたいッス!」


「同じくなのです!」


「それじゃあ、ほんの少し寄り道していきましょうか。薫兄近い店を調べて」


「分かった」


 そして泉が車を走らせ始める。この後、2人がお店の中を見てそのお菓子の量に驚きつつも、僕たちは目的の品を手に入れることが出来たのであった。


―クエスト「孤立した家に燃料を届けよ!!」クリア!!― 

報酬:「帰りに食べな~。」と渡された温泉饅頭とミカン沢山、ひだまりでの暖かい晩ご飯

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