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287話 腹ごしらえ

前回のあらすじ「ドラゴン達と和解」

―その日の夜「薫宅・居間」―


「明後日だな。分かった」


「すいません。ご迷惑をお掛けして……」


「いや。その判断は正しい。それほどに強い竜を味方に出来るなら安い物だ。それに色々、吉報を持ち帰ってくれたしな」


 グージャンパマから家に帰って来た僕はすぐさま菱川総理にヴルガート山での一幕を報告をした。菱川総理は驚きつつも、内容を理解してくれた。


「それでこちらの様子は?」


「……重篤者も出始めた。その患者達のご家族に相談して新薬の被験を頼めないか交渉中だ。感染者も……前よりは落ち着いているが、上がりっぱなしだな。君達は大丈夫か?」


「市内で感染についての話は出ていますが……家族も含めて、全員無事ですよ」


「そうか……とにかく、ご苦労だった。明日はしっかり休んで明後日のゴルド氏との会談の補佐を頼む」


「はい。それではお休みなさい」


「ああ。お休み……あ、それと息子の様子はどうだ?」


「榊さんなら頑張ってますよ。他のクセのある人物たちと上手く折り合いをつけながら」


「はは。そうか……それを聞けて良かった。では」


 菱川総理はそう言って電話を切った。僕は手に持っていた受話器を下ろして、溜息を吐く。これでやっと一息つける。


「へえ……人型になるドラゴンにロボットか」


 ポリポリとせんべいを食べながら、僕が装着していたカメラの映像を見ている母さん。あかねちゃんはテレビの画面に食い付いて、目をキラキラさせている。


「さっぱりした~!!やっぱりお風呂に入らないと!」


「なのです」


 そこにお風呂から上がって来た泉たちが居間に入って来た。泉たちは疲れている事もあって、今日はこっちに泊って、明日家に帰ることにしたそうだ。すでに晩御飯も済ませ、後は寝るだけである。


「あ、お風呂空いたか……それじゃあ、あかね。一緒に入ろうか?」


「うん!」


 今度は入れ替わりで母さんとあかねちゃんの二人がお風呂に入りに、居間を後にした。


「お、ニュースがやってるッスよ」


 リモコンを操作して、ニュース番組にチャンネルを替えるフィーロ。そこには病院が映され、マスクをしたリポーターが状況を説明し終わって、スタジオに戻って来る。


(支払期限が刻々と迫る中、政府は依然として支払いの意思は無いという事ですが……)


(それですが、恐らく妖狸が率いる面妖の民達の協力の元、薬の製造がされているかと思われます)


 一人のコメンテイターが話を遮って喋り出す。


(その証拠に、妖狐が手渡した薬によって理性を失った暴漢達を治し、鎮静化することに成功しています。恐らく、現在進行中でウイルスに対するワクチンを製造しているのかもしれません)


(今回の事件、彼女達が犯人の可能性は?)


(それは無いでしょう。菱川総理だけではなくアメリカ政府でも彼女達の事を認めてるのですから……ちなみに、聞いた話だとかなり有名なグループ会社や資産家さえも彼女達を贔屓にしているそうですよ)


(その情報確かなんですか?)


(ええ……どうも利用されている感じはあるのですが、情報自体は確かです。この情報を提供してくれた仲間なんですが……この情報を公開して欲しい。と頼まれたみたいです)


(それは……誰にですか?)


(そこはさっき言った方々ですよ。彼女達はどうやら政府や富豪……多くの有力者達から重大な仕事を引き受けているらしく、ヘルメスはとんでもない奴らに手を出していたみたいです。自分の知り得た情報はここまでですね。知り合いにも同じような情報が回っているそうです)


(それはつまり……一部の有力者が知っていた彼女達の情報が公開されていると?)


(今回の事件はそれだけ重い……もしかしたら、ヘルメスは彼女達を完全に怒らせたのかもしれませんね……あの雷を自由に操る獣を召喚出来る彼女達を……)


 そこで司会者が仕切って、次のニュースに入る。とはいっても、このバイオテロ事件関連だが。


「4人とも、何か大変な役を頼まれてしまったようだね」


 父さんが背を伸ばすストレッチをしながら、居間に入って来た。僕は母さんが用意していた父さんの分の晩御飯を電子レンジで温め直す。


「今、仕事が終わったの?」


「ああ……社内でも感染者が出てるらしくてね。その仕事がこっちに回って来たんだ。ただ……」


「ただ?」


「この状況下だから、上も開店休業状態を覚悟していたみたいなんだけど……何故か大きな依頼とか来てるらしくてね。会社としても赤字にならずに済みそうだとか……もしかして、薫達の事を知っている誰かが介入しているのかい?」


「それは……無いといいきれないかも」


「だよな……まあ、助かるからいいとするか……」


 そう言って、父さんが炬燵に入って、テレビをぼーっと見始める。


「疲れているみただけど、ビールでも飲む?」


「ああ。いただくよ……でも、大丈夫なのかい?今は流通が止まってるから品薄のようだけど?」


「うん。大量に買っておいたから……はい」


 僕はアイテムボックスからビール瓶を置く。このままだと生温い状態なので、レイスに頼んでビール瓶を冷やす。


「便利だね……もしかして、ドラゴンにご馳走するために買ったビールかい?」


「そうそう。余ったから……ね。むしろ消費してくれるとありがたいかも」


「そうか……じゃあ、いただこうか」


 僕はビール瓶の蓋を開けてグラスに注ぐ。


「美人の娘に晩酌されるって、どんな気持ちッスか?」


「いいね!」


 フィーロのおふざけに、同じくおふざけした回答する父さん。


「ふざけてると注ぐの止めるよ?」


 僕がそう言うと、父さんは笑いながら誤って、ビールを飲む始めるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―明後日のお昼「カフェひだまり・店内」―


「うむ!美味い!!」


「これはこのソースを付けると、より絶品なのです」


「ほほう……これは美味いな」


 レイスの勧めで、タルタルソースを付けてエビフライを食すペクニアさん。その隣にいたハクさんはカキフライを同じタルタルソースで食べている。


「それは良かった。ってか……まさかドラゴン相手に料理を振る舞う日が来るとは……」


「あらあら。いい経験じゃないかしら?」


「それはそうなんだがな……」


 やれやれと言いたそうな表情を浮かべるマスター。世界広しといえども、こんな経験を他にしている者はいないだろう。


「我とて人が作る料理にここまで夢中になるとは思ってもいなかったぞ。出来れば主人には俺様の専属料理人を頼みたい所だが……あそこでは十分にその腕を振るわせるのは難しいだろうな……」


「そうですね。それにこれ程の美味を毎日食べていたら自堕落しそうですし、この状態がベストかもしれませんね」


「そうかもしれんな。ああ。それと薫。ここの代金はお前に支払ってもらうが、その費用は鱗からの売り上げから引くようにな」


「大丈夫です。そこはしっかりやってますので」


 僕はお盆に載せた料理を置きながら答える。


「おはよう!って、あれ?何で薫兄が給仕してるの?しかも、妖狸として演じる際に着る巫女服にエプロン姿って……」


 泉がそう言うと、パシャ!とシャッター音をさせて写真を撮る。スマホで撮ったその写真は後で昌姉やユノに配られるのだろうか……。もう、そこを気にしてもしょうがないので、とりあえずどうして僕が給仕をしているのかを説明する。


「雪野ちゃんとあみちゃんが来れなくなったんだ……ついには電車がストップしちゃったからね」


「そうなの?」


「朝のテレビでやっていたのです。もう、そこまで影響が出ているのです」


 遂には、2000万人に到達した感染者数。この為、ありとあらゆる交通機関がストップしてしまった。それによって物流も滞り、所によっては残った品を奪い合うという事件も起きている。


「それなのに、食材は準備できたの?」


「知り合いがお客の為に溜め込んでるらしくてな。薫の紹介で自衛隊もお得意様になったからな……食料が必要なら俺が頼めるから、泉も食料が無くなったら言えよ?」


「うん。分かった」


 マスターが話している知り合い……毎度おなじみの鈴木商店である。僕もヴルガート山に行く際に頼んだので、当然その事を知っている。


「お前らも食べてから行くだろう?」


「いただくッス!今日のメニューは何なんっスか?」


「海鮮フライの盛り合わせ定食……って、ところか。それと匂いで分かると思うがライスはシーフードカレーに出来るぞ」


「私は普通のライスで」


「うちはカレーッス!」


「あいよ……薫とレイス。お前達も食べろ。この後、何があるか分かったもんじゃないからな」


「何かって何なのです?」


「……お前らの事だから一暴れするんじゃないか?」


「ああ……そうかもしれないのです」


「無いから……暴れる予定は無いから……」


 そんな、話をしつつ僕たちも昼食を取る。マスター特製のタルタルソースを付けたエビフライを堪能していると、お店の扉が叩かれる。ゴルドさん達を見られるとかなりマズいので、お店には鍵をかけてもらっていたのだが……。


「薫!いるか!?」


 直哉の声だ。僕は席を立ち、扉の鍵を開ける。


「よかった!まだいたか!これも持っていて欲しくてな」


 そう言って、直哉が小さく頑丈なケースを手渡してくるので、僕はそれを受け取る。


「これって……」


「抗ウイルス薬だ。とは言っても、臨床実験はまだだがな」


「それって大丈夫なの?」


「あっちで実験する訳にはいかないからな。こっちで頼むしかないんだ……で、それと」


「私が来たぜ!」


「ということです」


 後ろを見るとシーエさんたちも来ている。


「どうしてここに?」


「護衛任務として私らも来たんだぜ!後々、一国の騎士団の隊長が護衛していましたって言う話にしたいらしいぞ」


「それにニガリオスはこちらでは目立ちますからね。こちらのトナカイとはまた違いますし」


「ああ……なるほど」


 騎士を乗せた空飛ぶ黒いトナカイとなれば、結構、目立つかもしれない。それに見た目はトナカイだが軍馬替わりにはなるくらいに、がっしりとした体型だ。威厳に関しても問題無いだろう。


「うむ……では、少ししたら行くとするか」


「ですね」


「じゃあ……私らも早く食事にするんだぜ!」


「マーバ。少しは自重という物を覚えて下さい……それで大丈夫ですか?」


「ああ。問題無いぞ。ライスはシーフードカレーにも出来るが……」


「じゃあ、それでお願いします」


「同じく!」


「私も食事していくか……」


 3人が店内に入って適当な席に座る。昼食が済んだらいよいよ国会議事堂に向かって出発することになる……とは言っても、ある程度は打ち合わせ済みで、長時間話すことは無いので気は楽だったりする。


「ほら。お前もしっかり腹を満たしておけよ」


「うん」


 僕も席に戻って、午後のお仕事を無事にこなすために、しっかりご飯を食べるのであった。

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