286話 ドラゴンとユニコーンの本気
前回のあらすじ「人理継続保障機関……?」
―その日の午後「ヴルガート山・山頂 高原地帯」―
「それでは……ここでお別れですね。僕と連絡を取る時はクロノスとデメテル、そしてエーオースのいずれかにある通信装置を使って連絡してください。それと、魔族の何か動きが見えたら逐一お知らせしますね」
「分かった。その時もその3つの施設に連絡する感じかな?」
「ええ。これならアンドロニカスにはバレないはずですから」
「薫兄!そろそろ行こう!」
僕とマクベスはヴルガート山を離れる前に、互いの協力内容を確認する。今後はマクベスからの監視システムの情報を得られるようになれば、魔族対策にはかなり有効的になるだろう。
「それじゃあ、よろしく」
「はい」
そして、僕はシエルの背中に乗って移動の準備を整える。
「では留守を頼んだぞ!」
「お任せを……まあ、若い奴らも大人しくなったので問題無いでしょうが」
「兄上?我もですか?」
「うむ。各国には代理として数名構えているようだからな。こっちも我以外にも二人は用意するべきだろう。これまでの失態を挽回せよ」
「はい」
ゴルドさんたちの話が終わった所で、イスペリアル国に向かって飛行を開始する。
「そういえば……ペクニアさん訊きたいことがあるんですが……」
「何でしょうか薫さん?」
「ゴールドドラゴンであるペクニアさんにこれを仕掛ける相手ってどんな奴ですか?」
昨日、ペクニアさんから取り出した謎の魔道具を見せる。ペクニアさんはそれを苦々しい思いでこれを見て、その時の事を話してくれた。
「女です。緑色の髪をした人型……ただ、人間ではないですね。皆さんのように精霊には頼らずに、我々と同じように飛んで、さらには魔法を使っていたので」
「魔族ですね」
まあ……ゴルドさんが消し飛ばした魔族たちも潜んでいたので、そこは予想していた。その後はどうなったのかだ。
「ええ。それで背中に攻撃を喰らったところで姿を消しました……今、思えばあの忌々しい魔道具を取り付けられたからでしょうね」
「恐らくは愚弟を使って、我々に人間共を殺させる手筈だったのだろうな。まあ……我が強すぎるためになかなか上手くはいかなかったようだがな!」
大笑いするゴルドさん。魔族がまだ攻め時では無いと判断してそのままにしていた可能性もあるが、ペクニアさんを狙った辺り、その理由も確かにありそうだ。
「そいつの顔……覚えてますか?」
「ああ……それなら薫さん。何か紙のような物はありますか?あれば我の目に入る場所に」
僕はアイテムボックスからスケッチブックを取り出して、ページを開いてそれをペクニアさんが見えるようにその横を飛ぶ。
「では」
すると、開いたページに女の姿が……しかもカラーである。
「おお……凄いのです」
「コピーという魔法ですね。まあ、人が使うには効率の悪い魔法ですが……我々ならこの通り」
「そうしたら、後はこれを大量に印刷して、注意喚起しないと」
「愚弟を相手にするなら、並みの魔族では無いだろうな。注意する事だな」
緑色の髪にエルフのような耳……それ以外は、普通の人と変わらない女性。ゴルドさんの言う通りで、きっとこいつは四天王の一人だろう。この姿だと人ごみに紛れたら、すぐには魔族と気付けないだろう。すぐにでも警戒しないと……。
「さて……そろそろ本気で飛ぶぞ?」
(どんとこい!)
ゴルドさん相手に強気な発言をするシエル。果たしてゴルドさんの本気はどれほどの速さなのか……いや待てよ?
「泉!フィーロを安全な場所に!」
「え?」
「じゃあ……いくぞ!」
レイスも先ほどの会話を聞いて察したのだろう。僕の服の中に隠れる。フィーロとワブーもそれぞれ安全な場所に避難する。
「うわーー!?」
横から泉の悲鳴が聞こえる。これまでに感じたことの無い重力……鉄壁を使ってなければ気絶もあり得たかもしれない。
「……これ。大丈夫なのです?」
「……ダメかも」
僕は振り落とされないように、手綱をしっかり握るのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―1時間後「イスペリアル国・カシミートゥ教会」―
「……お疲れ様です。皆さん」
「「「……」」」
事前に話を聞いて外で待っていたコンジャク大司教から労いの言葉を掛けられるが……それに返答出来ないほどに疲れた。ガルガスタ王国の王都から2時間程だったのだが、それよりもっと長い距離であるイスペリアル国まで1時間とは……。
「ほう……やるな?」
(ふふん!足ならドラゴンにも負けない自負があるからね!でも、やっぱりドラゴンは強敵だったよ!)
竜人の姿になったゴルドさんとシエルがお互いの速さへ健闘を称え合っている。
「ドラゴンとユニコーンの速さは……ほぼ一緒……うぷ」
「だな……し、しかし何故だ?お前より……楽な所にいたのに……」
地面に突っ伏しているカシーさんとワブーが、その身を持って検証した結果について話をしている。そこにユニコーンは僕たちという荷物を背負ってそのスピードだと付け加えて欲しい。
「き、気持ち悪いッス」
「う、うん……」
泉とフィーロはアイテムボックスから取り出した飲み物を飲みながら、自分たちが契約したユニコーンの体に寄り掛かって休んでいる。
「……レイス?」
「……」
目をそちらに向けると、地面に寝転がっているレイス。チーーン……。という擬音が聞こえたような気がする。
「さて……と、コンジャク大司教。素材の回収が終わったので、さっそく……」
「それは私が施設に持っていく」
そこへ直哉が他の賢者さんと一緒に駆けつけて来た。
「ここからは開発班の出番だ。お前達は休め……と言いたいところだが、そちらの案内があるだろうからな。まあ、頑張れ」
「うん……一番いい薬を頼んだよ。後、謎の魔道具も回収したから解析をよろしく」
僕は頑張っていい笑顔をしながら、直哉に集めた素材が入ったアイテムボックスと例の魔道具を渡す。
「変なフラグを立てるな。それじゃあ、いくぞ……その二人も連れてな」
賢者さんたちがカシーさんを引きづっていく……ワブーをカシーさんの体の上に乗せながら。
「休ませなくていいのでしょうか?」
「大丈夫なのです……あの二人は…その方が回復する……のです」
「というわけでハクさん。気にしないで下さい……レイス。無理に喋らなくてもいいからね?」
僕は立ち上がりながら、ハクさんにそう答える。あの人たちはその方が体が休まる特異体質である。それに、研究に加わらなかったら後で文句を言いそうだ。
「それじゃあ……ご案内しますね」
「大丈夫ですか勇者様?」
「大丈夫じゃないですけど……待たせるのも悪いですから。3人は教会内で休ませてください」
「まあ、そうだな。さっさと話をするとしよう……」
「分かりました。それでは……」
シエルたちにお土産を持たせた所で帰還させ、僕はお馴染みの各国の代表が集まる会議にゴルドさんたちと一緒に参加した。会議では竜人としてゴルドさんたちの今後の会議への参加が認められ、さらに輸出品として下級の竜の鱗などを提供することになった。そしてその売り上げの管理は……。
「僕ですか?」
「ああ。短い間だが、貴様は悪い意味で無欲だと分かったからな。そんな奴なら管理を任せても問題無いだろう。」
それを聞いた会議参加者全員が頷く。そこはいい意味じゃないの?
「だが、お前が最終確認すればいいだけだからな。それ以外の作業は下にやらせろ」
「そうですね……うーーん……」
こうなるとは思わなかった。どうしたものか……。
「そこはこのイスペリアル国の商業ギルドに頼むのがいいだろう。ここは各地の商業ギルドを統括してる。それに素材を卸すなら、まずはそこだしな」
サルディア王の言う通りで、中立であるイスペリアル国に一度卸してそこから各地に回すのが一番だろう……でも。
「個人で大丈夫でしょうか?一応、国の産業に当たるでしょうし……」
「そうだな……商会……いや、領事館としての業務にしてしまえばいいだろう。個々の売買はしないで、あくまで竜人と商業ギルドの橋渡し役として勤めればいいだろうしな」
「まあ……そうですね」
「それに……どれほどの間隔で竜人達が納品するかにもよるしな」
「そうですね……」
ハクさんが話を聞いて指を使って何かを数え始める。
「今の分はすぐにでも……でも、指定された置き場所に置いたらすぐに埋まってしまう量なので、数回に分けて。そちらを暦で言うなら6ヶ月でしょうか。それが終われば同じ6ヶ月に一回のペースで問題無いかと」
「もしくは一年でもいいかもしれないな。そんなに大量に出してしまうと値崩れというのを起こすかもしれないのだろう?それなら一年単位でいいだろう」
ハクさんの意見にペクニアさんが異論を唱える。確かにその方がいいかもしれない。何せ自分が把握しているだけでも、売りさばくのに、そのぐらいかかると思っているのだから。しかし、ペクニアさんを連れて来て正解だったかもしれない。商売に関して無知であるはずの竜人にしては、ペクニアさんはすぐにそこら辺を理解しているので商人としての才能があるかもしれない。
「そうしましょう。今ある一部は領事館に置いてもらって……それが売り切れたら補充して、それらが無くなったら一年単位での補充という事で」
「いいだろう。それと愚弟よ。お前には商売というのに理解があるようだからな。財政官の役を与える」
「兄上がご納得できる成果を挙げられるよう努めてまいります。後の細かい内容は薫さんと決めても?」
「ああ。こちらに損が無いように上手くやるといい。それと、薫への報酬についてもお前に任せるぞ」
「はは!」
しばらくはこの体制でいく事が決まった。将来的には全てを竜人に任せられるように人材育成もしていかないと。
「さてと、これで今日の会議は終わりだな……で、竜人の一行は直ぐにでも地球へ行くのか?」
「いや。明後日だ」
ヴァルッサ族長にゴルドさんがそう答える。
「明後日の朝にここへまた来る。その際に、あちらへ案内しろ」
「明後日ですか?」
「そうだ。お前に頼んだ料理の準備もあるだろう?それの準備も兼ねて一日あればいいだろう?」
「分かりました。今回は僕が頼み込んで何とかしてもらいます。その後はあちらの予定とかも考慮させていただければ」
「いいだろう。そもそも貴様には他の仕事もある中で負担をかけているしな。そこの予定関係はハクにでも任せるとしよう」
「よろしいので?」
「……こやつが軽食を持って来ることがあるかもしれないぞ?」
「やります!」
ハクさんが即答する。流石、ドラゴンのリーダー……ハクさんの性格を理解している。その後はこまごまとした決め事を話し合ったところでお開きになって、ゴルドさんたちは帰っていった。
「……貴様とか失礼な発言だったが……いいのか?」
「そうだぞ。もっと強気に……」
会議が終わって、他の代表から訊かれる。確かにそうかもしれないが、ゲームやアニメではあんな強気な発言はするが中はしっかりしているキャラがいる。そして、まさにゴルドさんはそのタイプなので、あまり気にしていない。
「気にしてませんよ。それに……空一面を炎で埋め尽くすような強さを持つ人の機嫌を損ねるのも……」
「「「「……」」」」
その後、代表たちから無言の肩ポムをされるのであった。




