284話 黄昏の庭園……そしてノーネームの正体
前回のあらすじ「ちなみにべろんべろんに酔った人はいない模様」
―その日の夜「竜の居城 ドラッヘンシュロス 崩れた左棟の近くの庭」―
「ふう……シャワーが浴びる事が出来るっていいね」
「作ってもらって正解だったッス」
「~♪」
レイスは鼻歌を歌いながら、3人が簡易シャワーから出て来た。アイテムボックスに入れられるように軽量で折り畳み式のシャワー室を笹木クリエイティブカンパニーで作ってもらったらしく、それを使って汚れを落としてきた。
「じゃあ私が入って来ていいかしら?」
「どうぞ。僕は最後でいいので」
組み立てたテントの横で、椅子に腰かけたまま僕はそうカシーさんに伝える。今日はここに寝泊まりすることにした僕たち。この施設の全てがボロボロのために宿泊が出来ないので、いつも通りのテントを張っての寝泊まりである。
「って、ワブーも行くの?」
「うん?ああそうだが?」
カシーさんと一緒にシャワーを浴びようとするワブー。身長差があるが、二人は男女である。
「私達は賢者であり、国を守る戦士として役割もあるのよ。そして……戦闘になる恐れがある場合はこうやって二人で入るわよ」
そう言って、二人は行ってしまった。
「流石、賢者ッスね……」
「うん……どうして賢者って言われるのか、少し納得しちゃったかな。今日の戦闘でも戸惑っている私に指示をくれたし……」
「ここぞという時にはしっかり、仕事をするんッスよね……」
「けれど……変態なのです」
「そうなんだよね」
そんな話を3人がしている間に、冬の外気で体が冷えすぎないように温かい飲み物を用意していく。
「ほら。飲み物を用意したよ」
「「「はーーい」」
3人が返事をして、僕が用意した飲み物を飲み始める。
「玄米茶……本当に準備がいいよね」
「2日はここに泊る覚悟してたからね……もし、明日も泊まるようなら別のお茶を出していたけどね」
「それで、どうするのです……あの要望?」
「ああ~……あれだよね」
「会ってくれるッスか?」
「聞いてみないと……まさか、僕の国の偉い人に会わせろって……菱川総理はどう反応するかな……」
そう。ゴルドさんの要望は菱川総理に会わせろ。ってことだった。
「流石に、すぐには答えられないとは言ったけど……会わせないというのは難しいかな」
そもそも、ドラゴンという強力な部族のリーダーが各国との関わりを得るために表舞台に立つと決めたのだ。遅かれ早かれ会う事にはなるだろう。
「とりあえず、明日の午前中に黄昏の庭園を見て、午後には帰宅かな。それで薬の材料をクロノスに置いたら、家に帰って菱川総理に連絡して……」
「やる事がいっぱいなのです」
「だね……それにヘルメスもどうにかしないといけないし……」
「何か分かったのかな?」
「どうだろう?日本国内に犯人がいればそいつから何かしらの情報を得られるかもしれない……でも、オリアさんが言うにはその可能性は高いけど、きっと使い捨てだろうって」
「難しいッスね……」
温かいお茶を飲みながら答えるフィーロ。その髪をレイスが魔道具で乾かしている。
「一番は……相手の本拠地に乗り込んで、おばあちゃんがやったように徹底的に叩き潰せればいいんだけど……場所が分からないんじゃ……ね」
本拠地が分かれば、そこまでひとっ飛びして、相手の施設を破壊……。
「今回は過激なのですね?いつもなら一歩引く考えを話すのに……」
「今回は時間との勝負にもなるからね……今でもウイルスで苦しんでいる人たちがいるしさ」
「そうだね……犯人を見つけたらぎったんぎたんのめためたにしてやるんだから!」
「それ。どこのガキ大将のセリフだか……」
僕がそうツッコむと、皆から笑いが出るのであった。その後、僕もカシーさんたちと替わってシャワーを浴びてから床に就くのであった。
この時、今回の事件の首謀者がぎったんぎたんのめためたの方がマシだったと思えるような魔法で成敗されるとは思ってもいなかったのだった……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―翌朝「竜の居城 ドラッヘンシュロス 聖堂」―
「皆様、おはようございます」
マクベスが一同の前で挨拶をする。僕たちは、ゴルドさんたちと一緒に朝食を取った直後に来たので、もしかしたら黄昏の庭園内でタイミングを見計らっていたのかもしれない。
「いいタイミングだ。で、案内してもらおうか?」
「分かりました。では……」
マクベスが指を鳴らすと、壁から光が発生して玉座の後ろを照らす。玉座の後ろを見ると、昨日、マクベスが現れた際に見た魔法陣が出来ている。
「これってここに出来るの?」
「いえ?この聖堂内なら他の場所にも作り出せますよ。単に、昔はここから飛んでいただけですから……」
「そういえば、マクベスはさっきはどうやって来たッスか?壁は光ってなかったッスよ?」
「私はこれが無くても移動出来るんです。昨日は分かりやすくするために、ああやって登場しましたが……さあ、どうぞ」
マクベスがそう言うと、光で出来た魔法陣はそのサイズを大きくして、ここにいる皆が入れるような大きさになる。そして、僕たちが中に入ると魔法陣が起動して、一瞬にして別の所へと飛ばされた。
「……え?ここって地中……え?」
泉があっちこっちを見渡す。かなり広大な空間……しかし、この空間は岩壁で覆われている。上を見上げると、透明な何かが覆っていて、そこから光が入り込んでいる。
「ここはさっきの聖堂の近くにある湖の底ですよ。あっちからはここが見えないようになってますが」
「ほう……我も気付けぬ空間があるとはな……」
「それは……ここにある植物が原因ですね。この空間の魔素はかなり濃いので……」
「濃いか……それって、私達のような普通の人が入っても問題無いのかしら?」
「ありません。昔はこんな場所はもっとありましたし……皆さんの祖先はその中で普通に暮らしてましたよ」
「それより……あの木の方が気になるのです!」
レイスの言う木。それはここの中央に根を張り、そしてここの天井である透明な膜の付近まで伸びた大樹。それは天井より取り込んだ日の光より強く発光し、この空間を黄昏に染め上げている。またその周囲には大小様々な木や草が繁茂していて、それら全てが光の粒子を飛ばしている。湖から漏れ出ているあの光の粒子の元はこれらなのだろう。
「あれが……賢者の石の情報を書き換えることの出来る装置……セフィロトです」
マクベスがセフィロトに向かって歩き出すので、僕たちもその後に続く。すると歩くたびに地面の草から光の粒子が発生し空へと向かって飛んでいく。そんなお伽噺のような空間を歩きながら話は続いていく。
「セフィロト……それもおばあちゃんが付けたの?」
「はい……この星の文明を維持し、これを悪用すればクリフォトとなって世界に終焉をもたらす……と、言ってましたね」
「でも、それ以前からあったんでしょ?元の名前は使わないの?」
「えーと……正式名称だとグージャンパマ維持装置第十施設……なんとかかんとか……」
「……ロボットなのに忘れたッスか?」
「それほどめんどくさい名前でして……正式名称はもう覚えてませんね。ちなみにこのような施設は他には既に存在せず、今ではここが唯一の施設ですね」
「そんな施設があっちこっちにあったら大変では無いのか?アンドロニカスのように消されたらどうするんだ?」
「消すことは出来ません。あくまで存在していた施設は全て情報を書き込むだけの施設です。消す方法は今では存在しないノーネームを使用しないと無理ですから」
ノーネーム……オリハルコンと同等かそれ以上の価値がある金属。そして、アンドロニカスはこれを使った魔法によってグージャンパマを一度崩壊させた……。
「ノーネームってどんな金属なの?」
「分かりません。何せ……情報が少なくて……偶然、作られた金属。その性質はオリハルコンとはまた違った物としか……ただ、見たことはあります。それの破壊には僕も加担しているので」
「ほう……話は聞いていたが……世界を崩壊させる金属か。それはどんな色でどんな特徴だったのだ?」
「それは……」
口を濁すマクベス。何で言わないのだろう……いや、何で……僕を見るのだろう。皆もそのマクベスの視線に気づき、そして何かを察する。
「薫さんがもしかしてお持ちなんですか?」
ハクさんのその言葉に、マクベスはゆっくりと頷いた……。それはもう答えを言っているような物である。僕が持つ特殊な金属といえば……鵺しかない。昨日、マクベスが言っていた、これは一体?という言葉。知らないと言っていたが……本当はどうして壊したノーネームがここにあるのかという意味だったのだろう。
「まさか……ね」
「いや……鵺しか無いだろう」
カシーさんたちが驚いた様子を見せている。
「流石、ラスボスッスね……」
「違うよ。きっと裏ボス……」
泉たちはいつものノリで何となく助かる……とりあえず、僕はその場で鵺を黒剣にする。
「これが……ノーネーム?」
「はい。とはいっても特徴が非常に似ているだけの別物という可能性もありますが……でも、昨日の戦いの際に見た限りでは間違いないかと……」
マクベスはそう答えた。まさか、僕の専用武器として作ったはずの鵺が、この世界を崩壊させるに至った金属ノーネームだったなんて……。
「恐らく、薫さんの本当の魔法使いとしての武器は四葩だったのでしょう。けれど、何か下手な要因が働らき、ノーネームが出来たのかと……」
「あります……武器を作る際に変な物を混ぜました……」
直哉が作った巨大な金属ごみ……アレが原因だと、僕はそう確信するのであった。




