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282話 晩食会

前回のあらすじ「君が戦いを止めるまで、叩きつけるのを止めない」

―「ヴルガート山・山頂 高原地帯」―


「うわ……血まみれ……」


「うん……」


 血まみれの謎の魔道具をマジックハンドで掴んだまま皆の所に戻った僕とレイス。この血まみれの魔道具をどうやって綺麗にするか考えていると、魚の群れが謎の魔道具に近づいて綺麗に洗浄してくれた。ありがとうの意思を伝えるためにセイレーンに手を振ると、あちらも手を振って返してくれた。


「さて……これは何でしょう?」


「決まってるであろう。一種の洗脳魔道具だ……さて」


 ゴルドさんが静かに上昇して、ある方向を向く。その視線の先には無数の何かがここから離れようとしている。

 

「ゴミ共め……我らドラゴンに手出しした事をあの世で後悔せよ……!!」


 そう言って、ゴルドさんが炎のブレスを放つ。それはすさまじく、空一面を一気に赤く染め上げる。そして、その熱波はそこそこ離れている僕たちも少し熱く感じるほどである。


「す、すごいッス……リーダーと戦わずに済んで良かったッス……」


「だね」


「俺達は運が良いようだな」


「ええ……」


 あまりの広範囲で高火力のブレスに驚いている4人。当然だが、僕とレイスも驚いている。


「まあ……あれでも本気では無いですけどね」


「「「「え?」」」」


 ハクさんのその言葉に僕たちはさらに驚く。これで本気では無いとは……本当にゴルドさんと戦う事にならなくて良かったと思う。


「まあ、強すぎるのが原因で皆さんにこのような手間をお掛けしてしまったのですが……」


「これだとうっかり弟さんを殺めてしまいますもんね……まさかゴールドドラゴンでもここまでの差があるなんて……」


「ふん!我は王だぞ?この位は当たり前だ!」


 途中から話を聞いていたゴルドさんが、空から下りて来る。


「ちなみに逃げた奴らって?」


「少々、知能のある魔物らしき奴らだ。奴らが愚弟に何かをしたのは分かっていたが……対応に遅れた。それが今回のリーダー争いの理由だ」


「それって魔族?」


「そうです。ちなみに今ので逃げた魔族は全て消し飛びましたね……周辺にも反応はありません」


 マクベスがこう言うのだから、今ので魔族の奴等は全て始末出来たのだろう。それは良かった……。


「ほう?お前は分かるのか?そいらつがどこにいるのか?それと数も?」


「はい。ここの施設とリンクしてますから、この周辺の事は……」


「それを知りつつ放置してたと?」


 マクベスを睨みつけるゴルドさん。まあ……怒って当然だよな。ゴルドさんにとって、知ってるなら教えるなり排除しろと言いたいよな……。


「ここで私が動くと余計な面倒が増えますよ……それこそ、私と同等以上の存在が来ます」


「……なるほど。それは面倒だな」


 そう言って、引き下がるゴルドさん。神殿内でのあのマクベスの底知れない強さ……それ以上の奴が来るとしたら面倒極まりないだろう。


「ほほほ……虫がいなくなったのはいいことですな……これで静かになりますわい」


 そう言って、キリュウさんが何かを引きづってやって来た。その何かは黒い羽とヤギの頭をしている典型的な悪魔だった。本来なら武器を取り、戦う所なのだが……首があらぬ方向を向いているそれは既に事切れていた。


「ごくろう。取り残しは、こいつが言うには無いそうだ」


「キリュウさん……お強いんですね……」


「うむ。これでも先代のリーダーですからな……このくらいの相手なら遅れを取ることは無いですな」


「というかだ。俺の次に強いのはこのキリュウだからな。愚弟はその次だ」


「……戦う相手がお二人じゃなくて良かったのです」


「うむ?そうですかな……あのセイレーンという魔法……これよりも強いとお見受けしますぞ?流石の私もアレと戦うのは少々きついですな」


「そう……ですか?」


「キリュウがこう言うのだ。それくらいにはアレは強い。もっと自信を持つといい……さてと」


 ゴルドさんはその首を持ち上げて、この戦いを観戦していたドラゴンたちを見る。


「決着は着いた!勝者はこの小さき者達である!お前達の中には自分達こそが至高の存在とうぬぼれている者がいるだろう……しかし!そのような考えがこの愚弟を敗北に負いやった!己の満身こそが最大と敵と見よ!どんな存在も我らを倒せる可能性がある事を今一度、その心に刻み込め!そして勝者であるこの者達に喝采せよ!」


 ゴルドさんの演説に賛同するかのようにドラゴンたちの遠吠えが聞こえる。


「おお……これは壮観だな。こんな事はなかなかお目にかかれないぞ」


 ワブーがこの状況に心を躍らせている。今までドラゴンの巣に入った者が少ない以上、これが史上初なのかもしれない。


「あ!あれを見るのです!」


「綺麗ッスね」


 セイレーンからの勝利のお祝いなのだろう。魚の群れを操作して、綺麗な虹を空に架けるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―その日の夜「竜の居城 ドラッヘンシュロス 聖堂内」―


「すまなかった……俺の不注意でここまでの面倒ごとになるとは……俺の体内にあった魔道具を取り除いてくれて感謝する」


 そう言って、いたるところに包帯を巻かれたペクニアが頭を下げてきた……いや?ちょっと。


「キャラ変わり過ぎじゃない?」


「そうッスね……」


 泉が調理中の僕に代わって代弁してくれた。さっきのオラオラ系はどこに行ったのか……。


「この愚弟はこれが普通だ」


「そうですね……まあ、結構長い間あんな感じでしたが……」


「それなら、もっと早く取り除いてあげて下さいよ……」


 泉がゴルドさんとハクさんにツッコむ。僕だけじゃなく、ペクニアと戦った全員がそう思っているであろう。


「兄上とキリュウ様では暴れる俺に上手く加減が出来ずに殺してしまうでしょう。それほどの差がありますから」


「逆に私だと負けてしまいますね」


「つまり、暴れるペクニアさんと同等か少し強い相手がいなかった。そこにちょうどよく私達が来たと?というか……私達って、このパーティーで戦えばハクさんより強いって事でいいんですか?」


「そういう事ですね。やはり、一対多数もありますが……やはり、薫さんのあの武器は対処しにくいですね」


「そう考えると、私達が強いというよりかは、薫がいてこそ強いって感じなのです?」


「我はそう思わないがな……あのセイレーンはキリュウと同意見。そして愚弟はアレにコテンパンに叩きのめされていたしな」


「今なら、もう少しはいい戦いを出来たと思いますが……あれこそ多勢に無礼ですからね」


 感想を述べるペクニア。その傷だらけ体でそのような事を言われると妙に説得力がある。


「……あれ?つまり元々、戦わせるつもりだったんッスか?」


「まあな。お前達がここに侵入すれば、愚弟から来ることは分かっていたしな。それに、あのレッドドラゴンのように馬鹿なマネをするような者はいなくなるだろう……2つの問題が一気に解決する。まさに合理的であるだろう」


「それをさせられるこちらの身になって欲しいわ……」


 カシーさんが出された食前酒を飲みながら愚痴をこぼしている。初めてゴルドさんたちと会った時よりも遠慮が無くなったな……。


「まあ……無事に終わってよかったですね。ペクニアさんのご厚意で自身の折れた牙や鱗を頂けたのですから……」


 口は無いが、ニコニコと笑ってるのが分かるマクベス。確かに、当初の予定であった素材の回収は無事に終わった……が。


「……あれ?これマクベスが裏で上手くやってくれれば、ここまで面倒にはならなかったのでは?」


 レイスのその言葉を聞いた全員がマクベスに視線を向ける。マクベスはここにいる僕以外の全員の視線を浴びて少々戸惑っている。


「え?いや……さっきも言った通り、僕がここにいると魔王が来て、もっと面倒ごとになりますから!!」


「それでも……ねえ?」


「そうですね……確かに何か手はあったのではと思ってしまいますね」


「そんな!?私は確かに色々、出来ますけど……上手く出来ない事もあるんですよ!」


「へえ……自慢ッスか?」


「じゃないです!」


 マクベスの必死さに皆が笑い出す。僕も声を出して笑う事はしなかったが、顔はつい緩んでしまう。


「さてと……」


 僕は揚げたての唐揚げを切ったレモンと一緒にお皿に載せる。


「はい。熱いから火傷に気を付けて食べて下さいね。後はこれに合うお酒ということでハイボールをご用意したのでどうぞ」


 アツアツの唐揚げとハイボール……相性抜群の組み合わせである。お昼はカレー。そして今日の晩御飯の献立は居酒屋メニューとなった。というのも、お昼に出て来たメニューが玉子焼きとか唐揚げなどで、何かお酒を飲みたくなった。という個人的な理由だったりする。


「ほう?これがお酒ですか……?私の知る物とは大分違いますな?」


「キリュウさんはお酒を飲んだことがあるんですか?」


「昔の事です。ちょっと、遊びで町に行きましてな……その際に小麦色のお酒を飲んだことがあるだけですな……」


 そう言って、ハイボールを飲むキリュウさん。ゴクゴクとグラスの3分の1ほど飲んで、そのグラスをテーブルの上に置く。


「うまい!こんなお酒があるとは……いや、これは素晴らしいですな!」


「ほう……」


 饒舌になったキリュウさんを見て、ゴルドさんも後に続いてハイボールを飲む。そして同じように3分の1ほど飲んだ後、唐揚げを口に入れる。


「こ、これは……!!」


 ゴルドさんは続けて唐揚げをもう一つ食べ、そしてハイボールを飲んだ。


「何だ……これは?こんな物があったとは……!」


 そして、唐揚げをつまみにハイボールを飲むゴルドさん。それを見たハクさんやペクニアも同じように食べ始める。


「店員さん!こっちにも同じの!!」


「はいはい。飲み過ぎないようにね?」


 そして同じ物を泉たちにも出したところで今日の夕食が始まるのであった。


「あれ?うちの唐揚げは?」


「え?罰として唐揚げは食べちゃダメでしょ?」


「そんな!!?あんまりッスよ!!!!」

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