281話 ペクニア戦 その2
前回のあらすじ「デュエル開始!!」
―「ヴルガート山・山頂 高原地帯」―
「サンダー・ボルト!!」
泉たちがグリモアの力を使って、黒い雷をペクニアに向けて落とす。その雷はペクニアに直撃して動きが一時的に止まった。
「ディピロ・エクスプロージョン!!」
そこにカシーさんたちの2重爆発の追い打ちが決まり、その周辺に粉塵が舞う。
「ふん!!」
しかし、ペクニアはその羽を羽ばたかせることで風を起こし、その粉塵を吹き飛ばした。そして、すかさず口から無数の氷の槍を放つ。
「城壁!」
その攻撃を防ぐために、鵺を盾にして防ぐ。
「四葩対策なのです!」
「あんなにたくさんの槍は流石に捌ききれないからね……」
「があっ!!」
僕たちがそんな話をしていると、ペクニアはその巨体をぶつけて城壁を破壊しようとする。
「鎌鼬」
僕は鵺を黒剣に戻して、今度は左手に持っていた四葩で風の刃を放つ。それをペクニアはバレルロールで躱して、僕たちの上を通過……そのまま反対側に着地してこちらを睨みつける。
一進一退の戦い……粗暴なドラゴンと思っていたが、戦況を冷静に判断する能力がかなり高い。最初のあの鎌鼬の一撃で、先ほどの余裕を捨てて、強敵と相まみえるような姿勢を見せている。
「さっきの余裕ぶったままなら、いくらでも手があったんだけどね……」
「そうはいかないようなのです」
こちらに睨みつけたままのペクニア。こちらも武器を構えているが、何の攻撃を仕掛けるか迷っている。
「ちっ!……まさか、俺様に傷を負わせるとは……何だお前は……?」
そう言って、泉たちをほっといて僕たちを睨みつけるペクニア。
「ただの魔法が使える物書きだけど?」
「ふざけるな!」
その場で体を回転させ始めるペクニア。
「泉!フライトを!!」
ペクニアの次の行動を予測したカシーさんが泉に向かって駆け寄りながら指示をする。それに反応した泉たちはカシーさんたちと一緒にフライトで空へと逃げる。僕たちも少し遅れて空へと逃げる。
そして、僕たちが空に逃げたと同時にその下を巨大な尻尾が地面を擦りながら、すり抜けていく。
「危なかったッス……!!」
「う、うん……」
今の攻撃に狼狽える泉とフィーロ。戦いに関しては素人である二人は、もしかしたらカシーさんの指示がなかったら危なかったかもしれない。
「私達から離れないようにしなさい。離れると危ないわよ」
「はい!」
僕の後ろで、二人がそんな話をしている間にもペクニアは今度はその大きな口を広げて、巨大な火の球を作り出す。
「その攻撃はキャンセルなのです!」
「黒雷!」
火の球が撃ち出される前に、黒雷の麻痺でその攻撃をキャンセルしようとする。しかし……。
「こざかしいいわ!!」
そのまま撃ち出される巨大な火の球。それを今度は左手に持った四葩を振って打ち消そうとする。
「ふっ!!」
僕が火の球を打ち消すために剣を振り始めたタイミングで僕に目掛けて、突っ込んでくるペクニア。このタイミングだと剣を振り切った直後にぶつかる。
「ウィンド・ボム!!」
泉の声が後ろから聞こえたと同時に僕の今いる位置から上を風の塊が通過し、奥のペクニアに直撃して暴風を起こす。それにより、少しだけペクニアの突進するスピードが遅くなる。
「今だ!!」
「ネイル・ボム!!」
後ろで、魔法名を唱えるカシーさん。僕が剣を振って火の球を消すと同時に撃ち出されたカシーさんの魔法。その見た目は釘。回転するそれはペクニアの鱗を貫いて刺さった。しかし、突進を止めないペクニア……しかし、その直後に刺さった釘が大爆発。その勢いでペクニアは地面に叩きつけられる。
「な……なんだ?」
よろめきながら立ち上がるペクニア。今のはかなりのダメージを与えたらしく、釘が刺さった前足から血が噴き出している。
「……内部から爆発か」
冷静に分析するペクニア。
「その通りよ。あなたみたいに硬い相手のために作った新しい魔法……どうお味は?」
「最悪だな……」
静かに、それでいて怒りに満ちた声で話すペクニア。
「まさか……ゴールドドラゴンの俺をここまで傷を負わせるなんて……」
ペクニアはその場で立ち上がり、その背中の大きな羽を広げる。
「許さんぞーーーー!!キサマらーーーー!!!!」
その怒りを表すかのように、ペクニアを中心に周囲の土が大きく隆起して、その土が鎧のように纏わりつく。その土の量はかなりのもので、デカかったその体がさらに2周り程大きくなる。土が纏わりつくのが落ち着くと、そこには無骨な土で出来た鎧を纏ったペクニアがいた。そしてその状態で僕たちよりさらに高い場所へと飛び上がる……。
「喰らえーーーー!!」
そして、その高い位置から僕たちに向かって急降下するペクニア。慌ててその場から離れると、ペクニアはそのまま地面に激突する。その衝撃で小さなクレーターを作る……そして、そのクレーターを作った本人は無傷そうだ。
「彗星なのです」
「だね。でも……かなり厄介だけどね」
僕がレイスとそんな話をすると、再び空へと飛びあがるペクニア。同じ攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。この攻撃の厄介な所はこれだろう。自身が砲弾である以上、自身の限界が来るまで同じ攻撃を仕掛けられる。
「また来るのです!どうするのです!!」
「……手伝ってあげるだけだよ。呪縛でね」
「それって、さらに加速させるのです?」
「そういうこと」
僕は作戦をレイスに伝えて、ペクニアが落下するタイミングを計る。先ほどの攻撃でタイミングは分かっている……それは相手が羽を閉じた時。
「今だ!呪縛!!」
相手が落下体勢するタイミングで発動。地面に落下する速度をさらに上げる。そしてペクニアは落下するタイミングをずらされたために、僕たちに目掛けて落ちるはずのその軌道を大幅にずらして落ちていった。
「ぐっ……!!動きが!!」
そして、その体は地面に深くめり込んだために、すぐには動けない。
「ネイル・ボム!!」
そして、別の場所から攻撃のタイミングを狙っていたカシーさん達の貫通爆撃が決まる。
「ぐぉおおおお!!!!」
土の鎧を砕くほどの爆発。しかし、本体に刺さっていなかったのだろう……爆発の後、のっそりとクレーターから出てくる。
「くそ!許せねえ!ぶっ殺してやる!!」
激怒するペクニア。しかし、それは……無理だろうな。何せ、カシーさんたちと一緒にいるはずの泉たちが今どこで何をしているのかを把握していないのだから。そんな事を思っていると、湖の横から青い光が発生する。そして、そちらから青い髪の悪魔……セイレーンが音楽を奏でながらやって来る。
「何だ……ふざけて……」
歩いてこちらに来るセイレーン。その後ろには水で出来た大量の空飛ぶお魚の群れがいる。すると、それの危険性を察したのだろう。すぐに炎のブレス攻撃を仕掛けようとする。
「ダメだよ!」
僕たちはその間に入り、放たれたブレスを切って無効化する。後ろを見ると、こちらに微笑むセイレーン。そして、手を前に出して魚たちにペクニアへの攻撃の指示を出す。無数の魚の群れがペクニアを囲み、その体を包もうとする。
「この……!」
羽ばたいて、魚の群れを吹き飛ばそうとするが、すぐに再集合してその形を触手状態に移行。そしてペクニアを地面に叩きつけようとして持ち上げる。
「なっ……!?」
地面に叩きつけられるペクニア。今度は反対方向に叩きつけようとする。
「この……!!」
自分への多少のダメージ覚悟でブレス攻撃をして触手を破壊する。しかし、その後ろで別の触手がペクニアを掴む。
「ああ~~……!!」
そのまま不意を突かれたペクニアは、頭から叩きつけられる。
「……薫兄」
声が聞こえたので後ろを向くと、泉たちがこっちに飛んできた。
「上手くいったね」
「それはそうだけど……どこまでやればいいんだろう?」
「ああ~~~!!?」
何度も何度も叩きつけられるペクニア。ダメージはその頑丈な体のために軽微だとは思うが……あんなにグルグルさせられたら目を回しそうだ。
「狂気のアトラクションなのです」
「ジェットコースターでもああはならないッスよね……」
二人が呑気にそんな会話をする。カシーさんたちも離れた場所で杖を下ろして戦闘態勢を解いている。
「見事だな」
すると、ドラゴンの姿に戻ったゴルドさんとハクさんがやって来た。
「この戦いは小さき者達の勝利……後は仕上げだな」
「それでどこですか?弟さんを操っている道具は?」
「愚弟の背中……羽と羽の間だ。そこをその青い魔剣で切り取ってくれ……それで終わりだ」
「分かりました……泉。いいかな」
「うん!セイレーン!お願い!!」
セイレーンが頷き、魚たちに指示を出してペクニアの四肢を触手で地面に縛り付ける。目を回しているのだろう。もはや声を上げる余裕も……というか、目をクルクルさせている。
僕とレイスはそれを確認して、倒れているペクニアの背中に到着。その背中をよく見ると、うっすらと紫色に光る怪しい所がある。僕はそこを四葩で鱗ごと切り、そこから謎の魔道具をマジックハンドにした鵺で取り出すのであった。




