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27話 薫、体を売る。

前回のあらすじ「手品手品サギ」

―「カフェひだまり・店内」―


「こんばんは!」


 閉店間際の店に泉たちがやってきた。


「いらっしゃい」


「薫兄。レイスの服を作ってきたんだけど、試しに着てもらっていいかな?」


「分かった。レイス! 今いいかな?」


 店内には人はもういないので厨房にいるレイスを呼ぶ。この前の魔法の練習中に精霊2人の服の話になったので、泉が作りたいと目を光らせていたのでお願いしたのだ。


「こんばんはなのです」


「こんばんは」


「ウィース!」


 泉が肩に掛けていた鞄からフィーロが出てくる。


「そしたら着てもらっていいかしら?」


 鞄から服を出していく。


「分かったのです」


「あらあら。どんな服を作ってきたのかしら?」」


 昌姉も話に入ってきたところで、僕はその場から離れようとする。


「薫兄どこにいくの?」


「お店の片付けに戻るよ。女の子の着替えとか覗く訳にはいかないでしょ」


「……そういえばそうね」


 何で一瞬の沈黙があるのか分からないが、下手なツッコミは入れずに後にする。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―約1時間後―


「マスター片付け終わったよ」


「おう。お疲れ様。何か温かい飲みもん淹れようと思うんだが緑茶とコーヒーどっちがいい?」


「えーと……コーヒーで」


「あいよ」


 カウンター席に座り女性陣に目をやる。かなり盛り上がっている所からしてまだまだ時間はかかりそうだ。


(続きまして、次のニュースです)


 テレビから夜のニュースが流れる。大学入試やインフルエンザのニュースなど今の季節に関係することばかりだ。


「ほれ。入ったぞ」


「ありがとう。マスター」


「コーヒーでも飲みながら待つとしようぜ」


「うん」


 テレビのニュースが流れていく。すると、大雪で道が封鎖したという話題が流れる。


「雪で渋滞か……ここら辺なんてしばらく雨さえ見てないがな」


「だね。まあ、洗濯物が乾くからいいんだけどね」


 おもむろに窓から外を見たが真っ暗だった。


「暗いね」


「だな。本当は街中に店を構えても良かったんだが車を停めるスペースが無かったからな」


「ここら辺、車がないと買い物とかキツいからね」


 田舎町であるここではバスが頻繁に通っている訳では無いので、車や自転車がないと少々生活が厳しい。


「きゃあ~!! かわいい!!」


「ダッフルコートすてきね~! 写真撮らせてもらっていいかしら~」


「これかわいいのです」


「作るのを手伝ったかいがあったッス」


「手伝ったのですか?」


「細かいところになるとどうしてもね。フィーロの手先が器用で助かったわ」


「お役に立ててうれしいッス」


 声を聞いている限り、あちらは大分盛り上がっている。まだまだかかりそうだ。


(この大雪により一部の地域では孤立状態になっているところもあるとのことです。)


「うん? 婆さんが住んでいるところか……」


「どうかしたのマスター?」


「いや。大雪で孤立しているところっていうのがうちの婆さんが1人で住んでいるところだと思ってな。まあ、大丈夫だとは思うんだが」


「へえ~。一緒に住まないんですか?」


「うちの両親も聞いたんだがな。死んだおじいちゃんと暮らした大切な家だから住めるうちは住み続けたいってことだったよ」


「思い入れがあるんですね」


「叔父と息子である親父と暮らした大切な家だからな……。それだから両親も無理にとは言わず本人の意見を尊重するってことだ」


「いい話じゃないですか」


「ふっ。そうだな」


「ねえー! 薫兄どうかな?」


「うん?」


 呼ばれたので見に行くと白いダッフルコートを身にまとったレイスがいた。


「うん。似合ってるね」


「えへへ。ありがとうなのです」


「これからも私がちょくちょく作るからね!」


「はりきっているけど、大丈夫なの?」


「大丈夫よ。その変わり薫兄よろしくね」


「ふぇ?」


「体で払ってね♪」


 言い方に語弊があるが、今度コスプレしろとのことらしい。


「他じゃダメ?」


「今回はダメ♪」


「え、あの? 薫に迷惑をかけてるんじゃ……?」


「うん? えーと。いいよいいよ。パートナーだしダイジョウブ」


 ここでダメって言って悲しませるわけにはいかない。いかないんだけど。うん……。


「なんか大分落ち込んでいて大丈夫じゃなさそうなのです!?」


「薫兄がああいうんだから大丈夫よ」


 少し憂鬱な気分になったがしょうがないと思ってあきらめたのだった。


「……薫。お前、絶対に結婚したら女に尻を引かれるな」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―店を後にして数分後「田園地帯」―


「あの~良かったのです?」


「うん?」


 帰宅中、自転車のかごに乗っていたレイスが聞いてくる。ちなみに車ではなくいつもは自転車でひだまりに向かっている事を知ったレイスが、それで行ってみたいとのことだったので今日は自転車で通勤していた。


「なんか嫌がっていたので……」


「ああ、大丈夫だよ。それにああいう時の泉は折れてくれないから」


 今回、僕が魔法を使えるようになったのでどうしてもそれを生かした衣装を着せたいようだ。


「それならいいのですが」


「まあ、これが初めてじゃないから気にしないで」


 そう。これが初めてでは無いのだ。何回かこんなお願いはされたりしているので慣れてはいるのだ。気分が憂鬱になるけど。


「それより、その服どう?」


「暖かくて可愛いくて気に入ったのです」


 朝に着ていたあちらの世界の服は少し薄着だったので助かった。


「他にも服を貰ったので大切にするのです♪」


 大きな袋を持って喜ぶレイス。自分の体を売ったかいがあるというものだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―次の日「カフェひだまり・駐車場」―


 翌朝、再び自転車に乗って店に来る。レイス曰く馬車に乗っているようで何かこれはこれで落ち着くとのことだが、籠の中なんてガタガタして落ち着かない気がしてならない。


「おはようございます」


「おはようなのです」


 店内に入ると昌姉たちがいた。しかし、その表情は少し困っているようだった。


「どうかしたの?」


「あ、薫ちゃん。それがね……」


「おう、おはよう。うちの婆さんの話を薫には昨日しただろう? その後、雪が降り続いて遂には停電になったらしくてな。それでエアコンなんかの暖房器具が使えなくなったらしい」


「それ大変なんじゃ?」


「石油ストーブで何とかしのいでいるらしいんだが、灯油が切れそうだってことで電話があってな……少し困っているんだよ」


「暖が取れないって、かなり危ない状況なんじゃ……」


「ああ。道は雪で埋まっているから行けないしな。まだ、この後も雪が降るらしいから除雪作業もすぐには無理だろうし……」


 うーん。と唸りながら困っている。道が塞がっていては車で行くのは無理だろう。まさか雪山を登山で超えるわけにはいかないだろうし……。よくあるのは災害救助でのヘリコプターで空からの……。


「空は無理なのですか?」


 レイスが僕の思ったことを言う。そう、今の僕たちは飛べるのだ。


「そういえばそうね」


「忘れていたな。しかもアイテムボックスなんていう便利な物もあって適任だな」


「おはよう!」


「うぃーッス!」


 話をしている最中に泉たちが来る。


「泉ちゃんもいるからいけるんじゃないかしら?」


「だな」


「へ? なに?」


「車で近くの駐車場から飛べば何とかなるか?」


「そうしたら4人にお願いしましょうよ!」


「あの~。なんの話ッスか?」


「えーと。実は……」


 レイスが何があったかを2人に説明する。


「なるほどッス」


「そしたら厚着しないといけないわね」


「そしたら持っていくものとか準備しないといけないのです」


 皆行く気満々で、僕も構わないのだが……。


「危ないからとか、遭難の危険があるからとか止める人がここにいないの……?」


 ここに1人くらい冷静に引き留める人がいてもいいような気が……。


「そこは、お前が飛ぶタイミングとか冷静に判断できるだろう? だから問題は無いだろう。それに、無理そうならすぐに引いてくれて構わないしな」


「よろしくね。薫ちゃん」


 そこは僕任せですか。


「はあ~……まあ命に関わることだし、魔法の練習がてらに行ってくるよ」


「バイト扱いにするから……ね?」


「溜息ついた理由はそこじゃなくて、長距離で空を飛ぶなんて始めてになるからさ。それが心配なだけだよ。それですぐに行かないと不味いのかな?」


「確認してみる。それと他に必要な物があったら一緒にいいか?」


「重量オーバーにならなければ大丈夫だよ」


「軽自動車一台分の重さの荷物なんて用意しねえって。それじゃあ、ちょっと待っててくれ」


 マスターはスマホを取り出して誰かに電話をする。恐らく、相手はおばあさんだろう。


「今日すぐに行くなら私の車で途中まで行けばいいかな」


「そこからテイクオフだね」


 すると電話が終わったみたいで、マスターがこちらに来る。


「明日までには来ないと少し不味いらしい」


 となると、すぐに行った方が良さそうだ。飛ぶタイミングは天候次第になりそうだし。


「そうしたら、すぐに行きましょう」


「そうだね。いつ雪が弱まるかなんて分からないしね」


「これってクエストッスかね」


「確かにそれみたいです!」


「じゃあ……報酬として暖かい料理と甘いスイーツを準備しとくわ」


「やったのです!」


「頑張るッス!」


 あっちの世界の二人からしたらそんな感じになるのか。


―クエスト「孤立した家に燃料を届けよ!!」―

内容:雪で孤立したマスターのお婆さんの家にストーブ用の燃料を明日までに届けよう。


「そしたらすぐに買い出ししましょう」


「そうだな」


「僕たちも空を飛ぶから準備しようか」


「ええ」


「なのです」


「初めてのクエスト楽しみッス!」


 遅れると命に関わることだから不謹慎な気もするが……。まあ、いいか。


「そしたらミッション開始だよ」


 おおー! と皆して気合をいれるのであった。

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