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277話 交渉……それから昼食

前回のあらすじ「我輩系の竜の王様」

―「竜の居城 ドラッヘンシュロス・聖堂内」―


「うわ……ボロボロだけど立派な装飾だね」


「ゲームとかなら荒廃した神殿とかッスね」


 そう言ってフィーロが近くのろうそく台を見てる。


「これ何の金属ッスかね?他の物と比べて新しく見えるッス」


「それもここのものだ。キリュウがいた頃からあったはずだ」


「そうですな……恐らくこの建物が作られた当時からあるかと、そもそもここは小さき者達が建てた建物でしてな。いつの間にかいなくなったらしく、それからはすっかり我々の棲み処になってますわい」


 となると、そのろうそく台は貴重な金属で出来ているかもしれないな……。


「人が消えたのって、どれ位とか分かるのです?」


「さあ……私の前の王の頃からいなかったようですが……具体的な日付は……」


「そもそも長寿である我らに、人の使う時間という感覚は抜けておる。お前達にとって長き時間に感じても、こちらからしたらわずかな時間だろうな」


 ドラゴンは長寿である。エルフやドワーフに精霊の3種族は千年単位で生きるが、ドラゴンはその倍の2千年ぐらいらしい。


「それはともかく、まずは我に献上する品を見せてもらおうか?」


「あ、はい……でも、どれを出せばいいのかな?」


ガシッ!……ミシ……


 僕の骨が軋むほどに強く肩を掴まれる。誰かと思って振り向くと……。


「カレーでお願いします!!」


 人型になったハクさんが目を輝かせていた。


「……骨が軋んでるので離してもらってもいいですか?」


「分かりました」


 僕がそう言うと、ハクさんは素直に手を離してくれたのだが……少々、肩が痛い。


「そうしたら、温めるのでここでキッチンを出してもいいですか?」


「許可する!それと……キリュウ。連れの者達を案内してやってくれ。どうやら大分、気になってるようだからな」


「ほほほ!分かりました……」


 すると、キリュウさんはその姿を変えて、長く白いお鬚が特徴的な着物のような服を着た老人の姿になった。


「私は調査しにいくわ」


「俺もだ」


「それなら皆で行って来ていいよ。そこまで凝った事はしないし……」


「いいのです?」


「うん」


「じゃあ……」


 キリュウさんの案内で、この建物を見学に行く皆を見守りつつ、キッチンにテーブルと椅子をアイテムボックスから出して、出来た料理を温め直す準備をしていく。


「ほうほう……その量だと、この状態ではあっという間だな、我も姿を変えるとするか」


 ハクさんが人型になる時と同じように、体を発光させるゴルドさん。光が収まると、金髪で切れ目の黒い肌をした美男子になったゴルドさんがいた。そして服装だが……アラブ系の民族衣装を彷彿させるような服だった。


「これなら、味わって食えるな……しかし、火を入れてもいないのに、この段階でここまでの匂いがするのか。不思議な物だな。匂いでここまで食欲を掻き立てる食べ物に出会うとは」


「ええ……私もこの料理を出された時は、思わず何杯もおかわりをしましたよ」


「大勢に振舞えるように大きな鍋に作ったので、いくらでもどうぞ。それと今回はお米も用意したのですが……こちらも用意したので食べてみてください。ナンと言ってこれもカレーに付けて食べる物なんです」


「ほうほう……」


 出したナンをそのまま食べるゴルドさん。


「ふむ……もちもちとした感じだが…味としては物足りないな」


「カレーはかなり濃い味付けの料理なので、それと一緒に食べるお米やナンは薄味なんです」


「ふむ。なるほどな……」


 そのまま、近くのボロボロに椅子に座るゴルドさん。あのドラゴンの質量でどうしてボロボロの椅子が壊れないのか……まあ、そもそもどうやったら人型になれるのかが疑問なんだけど……。


「さてと、そのカレーとやらが準備出来る間に、そちらの訪れた理由を聞かせてもらおうか?」


「はい。実は……」


 料理をしつつ、ゴルドさんに今回の訪問の理由を説明する。


「ほうほう……我々の目には見えないほどの生物が悪さしてると」


「そして、それを退治するための薬を作るのに竜王の牙……つまりゴールドドラゴンの牙が欲しいって事ですね」


「そうです」


「聞いた限りだと、ゴールドドラゴンまで成長した者ならどいつでもいい感じだな」


「資料にはそう書かれていました。ただ、キリュウさんぐらいのご高齢の牙で効果があるのか……」


「ふむ……ゴールドドラゴンは我も含めて3体しかおらん。そしてキリュウがダメとなると、我かあの愚弟の牙しか無いな」


「愚弟……もしかして、リーダー争いしている相手って弟さんですか」


「そうだ。あのバカがイキりだしてな……まあ、理由はあるのだが……」


「理由?」


「うむ……まあ、それはどうでもいいだろう。とりあえず、お前達は俺の牙が欲しいって事だな。そしてその対価として、それらの料理を振舞うと」


「そうです」


「足らんな!」


「あ~……やっぱり?」


 まあ、これは予想していた。これで交換できれば御の字だったのだが。


「しかし……その願いを聞いてやらんことも無い」


「本当ですか!?」


「その料理と……この扉を開けることで、譲ってもいい」


「扉……」


 玉座の方に指を差すゴルドさん。その後ろにはボロボロの壁画があるのだが……。


「あの壁が扉?」


「そうだ……しかし、お前も上から見たと思うがこの建物大きさからしてアレの向こう側は外のはずだ。だが、キリュウの話ではあそこから小さき者達が出入りしていたそうだ」


「なるほど……ちなみにどんな風に扉は開くんですか?」


「そこは詳しくは知らん。キリュウが帰ってきたら詳しく訊いてみるといい」


「分かりました」


「……即決か。確認もせずに了承するとは、何か妙案でもあるのか」


「まあ、何とか……」


「それより……そろそろいいのでは!?」


 ハクさんが僕とゴルドさんの話を遮って、ぐつぐつと音を立てるカレーに指を差す。


「ですね……それじゃあ」


 僕は底が深い器にカレーをよそって、平たい皿にナンを置く。


「ご飯はまだ炊けていないのでこちらからどうぞ」


 出来たそれらを二人の前に出す。


「ナンはちぎって、カレーに付けてから食べて下さい」


「いただきます!」


 ハクさんがリーダーであるゴルドさんより早くカレーを食べ始める。ゴルドさんはそれに注意をすることは無く、遅れて食べ始める。


「……う!!?」


「え?まさか喉に……?」


「うまい!!」


「あ、はい……」


 そう言って、再びナンをちぎって、カレーに付けるゴルドさん。カレーの美味さに感動していただけたか……。


「まさか……ここまでとは……」


「ですよね!しかもこの前、食べた物より美味しい気が……」


「今回は料理のプロに作ってもらいましたから、それと今、食べて頂いているのがビーフカレーで、こっちはシーフードカレーです」


 僕は違う器に盛りつけたシーフードカレーを出す。


「これは……」


「言うな!これは……今、食べたビーフカレーに負けず劣らずの美味だと、食べなくても分かっている!!」


 何かを言おうとしたハクさんの言葉を遮るゴルドさん。どうやらかなりお気に召されたようだ。


「うむ……!」


 笑顔で食べるゴルドさん。どうやら胃袋を掴むことには成功したようだ。


「美味しい……薫の国では、これが普通なんですよね」


「ここまでのプロの味には叶いませんが、この前、食べてもらったカレーぐらいなら」


「ふむ……薫と言ったな……ここで料理人する気は無いか?その条件ならすぐにでも牙を用意するが?」


「それはちょっと……僕にも色々あるので……」


「まあ……そうだろうな」


 簡単に引き下がるゴルドさん。どうやら、本気で僕を料理人にする気はなさそうだ。


「いい匂い!」


「食欲を搔き立てる匂いッスね!」


 この神殿の見学に行っていた皆が帰って来た。


「あ、おかえり。どう?何かいい情報得られたかな?」


「残念ながら収穫は無しよ。壁画もあったけど、目ぼしい物は一つも無かったわ」


「道具は全てボロボロだった。魔道具も多少見つけたが……核となる魔石は使えそうだが、道具本体はダメだな。そっちは?」


「竜王の牙を条件付きで譲って貰えることになったよ。そろそろお昼頃だし昼食を取りながら話そうか」


 僕はアイテムボックスからマスターが持たせてくれたお弁当を取り出す。僕からそれを受け取った泉がお弁当の蓋を開ける。


「おお!豪華!」


「皆で食べれるようにって、重箱で用意してくれたからね……」


 精霊がその見た目以上に食べることを分かっているマスター。重箱の一段目にはおにぎりとお稲荷さん、二段目にはから揚げや玉子焼きとお弁当の定番料理が入っていて、三段目には栄養バランスを考えて煮物や温野菜のサラダが入っていた。


「そちらも美味そうだな……」


 先ほど席に座ってカレーを食べていたのに、いつの間にか泉たちの近くまで来ていたゴルドさん。


「え?この人だれッス?」


「ゴルド様だよ。人型になるとそうなるんだ」


「ああ。なるほどッス……でも、このお弁当はダメッス!!」


「うむ?我に意見すると?」


 お弁当を前に手を広げて死守しようとするフィーロと、そのお弁当を食べようとするゴルドさん。これで交渉決裂になるのは困るんだけど……かといって、お弁当を渡すと僕たちのお昼が……今から作るのも面倒だしな……。


「わわ!!フィーロ!」


「ここは引かなきゃダメいけないのです!!」


 慌ててフィーロを引かせようとする泉とレイス。まあ、ここは……。


「いや。それなら今日の晩御飯に用意するよ。様々な下味をつけて、後は揚げるだけのから揚げに、それとスクランブルエッグを食べたいとか色々要望があったし……」


「む?我に献上するのはこのカレーだけでは無かったのか?」


「はい。交渉が長引くと思っていたので……それに、少なくともハクさんが食べにくると思っていたので」


「もちろんです!薫さん……いえ。異世界に行かないと食べれない料理……ここでしっかり堪能しないと、次はいつの事になるか……!」


「うむ……まあ、それならここは引いてやるとしよう。我もお前達の料理に興味を持ったしな。キリュウも食べて見よ。あの世へ行く前のいい土産話になるぞ」


「ほほほ!ゴルド様がそこまで言われるとは!どうやら大分、気に入られたようですな!」


「御託はいい。さっさと食べてみよ」


「では……」


 キリュウさんが席に座った所で、二人が食べている者と同じ物を出す。お口に合うかな……と気にしていると、二人の食べ方をマネしながら美味しそうに食べている姿を見て安心する。


「それじゃあ、私達も昼食にしましょうか」


「ですね……あ、それと罰としてフィーロ。から揚げ食べちゃダメだからね?」


「泉!?それはあんまりッス!!ご飯を守っただけなのに!!」


「どうしてそうなったかは明日まで考えておくこと!」


「それって晩御飯のから揚げも食べちゃダメって事っスか!?」


「まあ……妥当かな」


「だな。お前のせいで交渉決裂の危機だったからな。罰としては軽いだろう?」


「そんなーーーー!!!!」


 とまあ、そんなくだらないやり取りをしつつ、昼食を取り始める僕たち。その後はドラゴンの皆さんと談話しながらのお食事会になるのであった。

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