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273話 バイオテロ

前回のあらすじ「正月休み終了」

―元旦から3日後「薫宅・居間」―


(……という状況だ)


「そうですか……」


 元旦から3日経ち。両親はあかねちゃんを連れて東京に帰り、僕は小説家としての仕事始めのつもりだった今日。その予定はことごとく崩れ去ってしまった。


「僕たちはとりあえずデメテルとクロノスに向かってみます」


(頼んだ……君たちは検査の結果、異常が無いのは確認済みだが、もし何か不調が出たら遠慮せずに言うように)


「分かりました」


(では)


 そう言って、総理からの電話が切れた。


「どうなんだい?」


「とりあえずは、僕たちは感染していないって。だから一安心かな」


「それは良かった……それで、あんた達はどうするんだい?」


「泉たちも来たら、グージャンパマに行って、薬の精製のお手伝いをしてくるよ。母さんたちは家で待ってて」


「あたしたちは大丈夫。それで、あんたのパソコンを借りるけどいいかい?」


「問題無いよ。むしろ父さんが無いと困るでしょ?」


「急遽、在宅ワークすることになったからね……」


 父さんが洗面台から出て来る。父さんの会社も今回の緊急事態を受けて、出勤はせずに在宅での仕事になってしまったらしく、都内の自宅に戻るのも危険という事でここで仕事をすることになった。


「しかし……見られても大丈夫なのかい?」


「そうそう……秘蔵の画像集とかあるんじゃないの?」


「……二人共。それを実の息子にオブラートに包むことも無く話すのってどうなの?そもそも別のアカウントで入るんだから見ることも無いよね?」


「ははは!そうだな……薫。気を付けていきなさい。レイスちゃんもだよ?」


「はいなのです!」


「家の家事は私がやるから、さっさと終わらせてきてちょうだい。分かった?」


「うん」


「レイスお姉ちゃん。薫お姉ちゃん……」


「どうしたのあかねちゃん?」


「……いってらっしゃい」


「うん!いってきます!」


「行ってくるのです!」


 僕たちはかわいい妹に見送られながら、外で待っていた泉たちと合流してグージャンパマに向かうのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから2時間ぐらい「魔導研究所クロノス・所長室」―


「それでは現状の説明に入ります……」


 僕たちがクロノス到着後、賢者たちにセラさんとポウ、それにミリーさんとカイトさんもアリーシャ女王の指示を受けてやって来ていた。皆が緊急事態という事だけしか知らないという事だったので詳しい説明を僕からする。


「まずはこれを……」


 所長室にある魔石を使用した特製のプロジェクターを使って映像を流す。


(現在、ヘルメスによるウイルスを使ったテロが発生しています!そして……今、私も感染してることが分かり、この病院内から自分のスマホを使って撮影しています!すでにここでも入院患者は一杯になっており、また患者の診ている医師からも感染者が出ており、より緊迫した状態になっています!)


(ありがとうございます。ご自身の体調を第一に取材を続けて下さい……以上、病院内からの中継でした。ここで今回の事件の振り返ってみましょう……)


 そこから流れる、ネット上に上がったヘルメスの犯行声明。長々と言ってるが簡略すると、日本政府と僕が何故か率いってることになっている面妖の民が我々のメンツをことごとく潰した。その粛清として、国内にウイルスと薬をばら撒かせてもらった。ワクチンと解毒薬が欲しければ日本円で50億を用意しろと要求してきた。


(ウイルスによる感染者は既に全人口の8%といわれて……)


「たった数日で8%……凄くヤバいウイルスだね……」


「そうなの?あまりピンと来ないんだけど?」


 カイトさん以外、その感染率の凄さが分かっていないらしく頭を傾けている。


「日本の年間のインフルエンザ感染者数がその位だよ。だから、ざっと1000万人が同時に感染してるって事」


 僕が明確な数字を言った所で、皆からどよめきが起きる。


「それって、都市が機能するのかしら……?」


「ううん……もう、あっちこっちで弊害が出てるよ。電車は運行本数を減らしたり、宅配便も遅れが出てるし……日本への渡航制限が出たりして……大パニックだよ」


 そう。本当に大パニックである。今回の事件を受けて、スーパーでは水や食料の買いだめが起きて品薄になったり、このウイルスはワクチンが無ければ治らないという事が、ヘルメスの犯行声明の中に告げられていたりして、乱心になっている人もいる。そして……それ以外にも問題が起きていて……。


「さらに問題として……薬を服用して凶暴化した人達による事件なのです」


「うちらも二人、遭遇してるッスね」


 フィーロの言った通りで、コスプレ会場で出会った男と元旦に遭遇した男は両方とも麻薬という名の劇薬を飲んだ奴らで、これを服用すると、最初は麻薬特有の幸福感が訪れるが、すぐに攻撃的になり無性に暴れたくて堪らなくなるという薬である。しまいには脳のオーバーワークによって精神崩壊を起こし、数日以内に死が訪れる。ちなみに、その二人は末期の状態だったようで既に死亡している。ヘルメスはこの薬を麻薬と銘打って、格安で売っていたという事も分かっている。


「とはいっても……たかが普通の人間が暴れてるだけなのだろう?それほどに問題になるとは思えないが?」


「それが大問題なんだ。今の病院は既にウイルスの事で手一杯なのに、凶暴化した人たちによる犯罪によって、病院にはさらにケガ人が運ばれて医療現場を圧迫する。一番厄介だったのはその病院で暴れて、多数の負傷者を出したりとかしてるんだ」


「なるほど……ちなみに今の被害状況はどうなんだい?」


「ウイルスによる患者が1000万人。そして薬を服用して暴れた奴らによって二百人ほどの負傷者……さらに薬を服用した人たちが百数名いたんだけど……その薬の効果で既に十数人が死んでいるよ」


「まあ、薬を飲んで死んだ奴らには同情する気は無いわね……むしろ面倒ごとを増やしてはた迷惑だわ。それだからあなた達も同情しないようにね」


「え?私達ですか?」


「そうそう。この犯行声明の言い方だと、全ての原因はこっちにあるような言い方をしてるわ。だから私達にも責任がある……なんて事にはならないわ」


「だね。元々の原因はあっちこっちで暴れるヘルメスだし、薬を服用した奴らは自業自得。だから、ヘルメスは何をどう言おうがこっちには非が無い!いいね?」


 ミリーさんとカイトさんの意見に全員が賛同する。


「えーと……分かりましたけど……どうして?」


「皆、僕たちには非が無いのだから慌てずに、そして俺たちを頼れ!って言いたいんだよ。要は励まし」


「そういうことよ。ってことで状況把握はこれでいいとして……これからどうするの?」


「大人しく身代金を払ったからって、奴らがワクチンと解毒薬を渡すとは考えられない……だから、こっちの薬であるハイポーションの提供、そしてエリクサーを使ったワクチン開発の完成を急ピッチで目指します。直哉たちも感染していないのが分かった人からこっちに来るので、適宜、役割分担していってもらえればと思ってます」


「ハイポーションの提供は私が行くわ。後は転移魔法陣で移動するために魔法使いがいれば……」


「なら、私達が行く!」


「そうッスね。難しい開発とかは無理そうッス」


「残りはヘルメスとデメテルの二手に分かれての行動だが……薫はどうするんだい?」


「僕はポウを連れてデメテルに行ってみます。ここはセラさんがいれば施設の機能を全て利用できますから」


「お任せください。所長である薫が満足する成果を挙げてみせます。それとデメテルはポウがいれば問題無いように設定し直したので、閲覧許可が必要な資料室の入室許可はクポから取ってください」


「大仕事ポウ!張り切るポウ!」


「嬉しそうだけど、こっちはそうじゃないんだよね……」


「なのです」


「なら、僕は薬の開発のためにクロノスに残るかな。もう一度文献通りに作って効果の検証をしてみるよ」


 互いの役割を把握した僕たち。その後、僕たちは所長室から出て、各々の仕事場所へと向かうのであった。


―クエスト「侵蝕感染」―

内容:ヘルメスによるバイオテロが起きています。ハイポーションによる凶暴化した人たちの治療と無効化、そしてエリクサーを使った新薬を完成させて、感染拡大を抑えましょう!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「官邸・記者会見場」菱川総理視点―


「総理!この状況をどうされるおつもりですか!?」


 現状のヘルメスのバイオテロによる被害報告と、それによる政府としての対応を話したのだが……。一人の記者からそのような質問が投げかけられた。


「どうするとは?」


「今回の事件は面妖の民と言われている妖狸達にも責任があります!そんな彼女達に何らかしらの法的処置をするべきでは?」


 周囲の記者達が一斉に俺の方に向く。この法的処置という意見はかなり前から野党からも言われ、このように数名の記者からも言われ続けている。


「……検討中です」


「総理!死者が出てるんですよ!そんな悠長な事を言ってる場合ですか!」


 こんな状況で彼らの法的処置を今すぐに決めろとか言ってるこの記者の方こそどうなのかと思うが……まあ、口に出せないが。それに、既にこの後の回答も決まっている。


「法的処置については、今度の国会で参考人招致として妖狸を招くので、その際に内閣の意思をお伝えします」


 その瞬間、どよめきが会場内に起きる。これは今日の朝に既に薫君達には伝えている。


「そして、今回の件に関してすでに協力を得ています!先立っては凶暴化した市民に対して有効と思われる薬の提供をするとのことです!薬としての安全性は確認済みなので、届き次第、随時必要な場所に提供する予定です!また、蔓延するウイルスに対しても有効なワクチンに心当たりがあるということで、そのための行動を取っています!」


 さらに、どよめく会場。今まで彼らとの関係を誤魔化していたのに、ここまでしっかり発言したことに驚いているのだろう。


「そんなすぐに準備出来るなんて、彼女達はヘルメスと繋がってるんじゃないですか!?」


 そこで、さらに変な事を訊く記者。ここはしっかりと言っておくとしよう。


「それはありません。それと……数か国の代表代理として権限を持つ妖狸に対してそのような発言は今後控えていただきたい!」


「え?」


「妖狸はあちらの大使として……そして、可能ならこちらの日本の大使として就任してもらう予定です。これは既に本人と数か国のうちの一つの国の代表との極秘会談で話しています……ここでの会見は以上です」


「総理!まだ……!!」


 記者が何か言ってるが、俺はそれを無視して足早に会見場を後にする。少しだけ気持ちがスカッとしたが、それもすぐに切り替えて、このバイオテロの対応について歩きながら考えるのであった。

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