272話 元旦の午後
前回のあらすじ「着物を着ての撮影会」
―元旦 午後「薫宅・居間」―
「美味しい!!」
「それは良かった!作ったかいがあるってもんだ!」
マスター特製のお雑煮を美味しそうに食べるあかねちゃん。他の皆もおせちなどを美味しそうに食べている。
「うーーん……これもお米から作られてるんですよね?」
「うん。もち米って言って、粘り気が違うんだ。グージャンパマで育てている米はうるち米と言って、もち米とは少し違うんだ」
「へえー……」
「そういえば……あっちでもち米を育てれば団子とかも作れるのか……」
「それはいいかもしれないですね!こっちのお正月みたいに、お餅を食べて祝うというのは面白そうです!」
「そして着物も着る……薫兄。自分の嗜好の為にも……」
「変な事を言わないの!!」
♪~♪~~
僕たちがお昼ご飯を食べていると、玄関の呼び鈴が鳴らされる。
「って……誰か来たのかな?」
直哉や大輔たちも明日来るから違うだろうし……。
「王様かな?」
「それは無いと思います。今日はしっかり自分が休まないと、周囲も休めない。とお考えなので、ある程度人目に付くお城でゆっくりしてると思いますよ」
「なるほど……」
「とりあえず出たらどうだい?」
「そうだね」
僕は廊下に出て玄関へと向かう。扉を開けるとそこにはカーターとサキ。そして年配の男女がいた。
「カーターとサキ……明けましておめでとうございます」
「……ああ!新年の挨拶か!!明けましておめでとう」
「おお!美女が!!ぜひ私の側妻として……」
ゴン!!……バタッ……
隣の女性が、いきなり僕に告ってきた男性の首に手刀を喰らわせて気絶させる。
「ごめんなさいね。旦那が変な事を言ってしまって……」
「いえいえ。それに僕、男ですから……」
「……そんな可憐な姿なのに?」
「あ!?」
忘れてた!今の僕……女装してた!!
「こ、これはユノたちに……」
「言わなくても分かってるわよ薫……あなたの趣味だって事は」
「初対面の人が勘違いするような事を言わないでよサキ!!それより、こちらのご夫婦って……もしかしてカーターのご両親?」
「ああ、そうだ。いつもは王都から離れた町で仕事をしているんだが、年始で王都に戻っきたんだ。それでだが……こちらにいる間に挨拶に行きたいってな……邪魔だったか?」
「大丈夫。むしろ母さんたちもいるし……君の婚約者もいるよ?」
「おい!サキがからかったお返しに俺に当たるなよ!」
「ふふ……仲がいいのね」
笑顔で僕に訊いてくるカーターのお母さん……こう見るとカーターってお母さん似だったんだな。
「まあ、そうですね。それよりどうぞ」
「ありがとう……っと!」
自分が倒した旦那さんの襟首を持ち、引きずりながら中へ入っていくカーターのお母さん。
「それじゃあ失礼しまーーす!!」
さらに僕の横をサキが飛んでいく。
「……賑やかな両親だね」
「こっちの言葉で言うなら……かかあ天下っていうのかな?」
「なるほど」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―数分後―
「初めまして。ソフィー・リーブルと申します。うちの息子がお世話になっております」
「ジョン・リーブルです。いや……こんなに美女が勢ぞろいとは、ぜひ……ごふっ!?」
奥さんが持っていた鉄扇で自分の旦那の頭を思いっきり叩き気絶させた。
「すいません……浮気性な旦那でして……」
「いえいえ。あ、私は成島 茂です。こちらは私の奥さんで明菜です」
「明菜です。泉ちゃんとは叔母の関係にあります。こうしてご挨拶出来て良かったです」
「母さん……キャラ違くない?」
「あんたは一言多いっての!!」
母さんが引っ叩こうとするので、僕はそれをサッと避ける。
「避けないでよ!」
「避けるって……」
「ふふ!気になさらないで下さい。私も元は庶民だったので、そちらの方が性にあってますので」
「そうですか?まあ、それなら……」
「それで……そちらがカーターの思い人かしら?」
「は、はい!多々良 泉と申します!!よろしくお願いしましゅ!」
泉が緊張のあまり下を噛んだ。そのせいで、さらに緊張している。
「ローリンから聞いてるわ。大魔導士を妻にするなんて……あなたも隅に置けないわね」
「母さん……。たまたまだよ」
「あらあら!頬を赤くして……ふふ♪」
初々しい二人を見てほほ笑むソフィーさん。
「どうぞ……こちらの料理でお雑煮です」
「ありがとうございます……あなた。料理が来たのだから起きなさい」
「うう……手厳しい……」
奥さんに言われて、机に突っ伏していたジョンさんが体を起こす。気絶していたと思っていたが……そうでは無かったみたいだ。ジョンさんはそのまま何も無かったようにお雑煮を食べ始める。
「うん!美味い!!」
「そうですね……この独特な味付けは初めてですね」
「こちらに使われる調味料はグージャンパマでは得られない物ばかりですからね」
「そうですわね……もしかして、ユノ姫も薫さんの料理でメロメロに?」
「ええ。でも……それだけじゃないですよ?」
ソフィーさんの問いにそう答えて、僕の腕に抱き付くユノ。
「ほうほう……どうやらご結婚間近という噂はホントのようですな」
え?噂?僕が王様に結婚するって話をしたのは、昨日なんだけど?
「まあ、頻繁に通っていればそうなりますよね」
「娯楽が少ないグージャンパマで、勇者とお姫様の恋愛話って一番の話題ッスよ……働いているお店の女性従業員も噂してるッスね」
「え?そんな噂になってるの僕とユノって?」
「かなり有名な話題ですが……その話題のご本人である勇者様は知らなかったようですな」
「その通りなのです。パートナーである私が保証するのです!」
「あのね……」
どうやら、昨日の話が漏れたとかでは無いようで一安心する僕。いや……バレても問題無いのか?
「って……泉が何も言ってないような気がするけど?」
「き、キニシナイデ……」
「カタコトになってるけど……というより、僕たちは席を外した方がいいかな?」
「お、オキナサラズ」
先ほどから緊張が解けない泉。そこまで緊張しなくても……。
「泉……もう、息子さんとお付き合いさせてもらってます。って所は過ぎてるんだから、そこまで緊張しなくても……」
「いや……だってほら……お付き合いするとか……自分の口では言ってないし」
「あら?今、言ったわね」
「え……いや!そうじゃなくて!こう……しっかりとしたというか何と言いますか!?」
「あらあら……ほら。あなたあどうするのかしら?」
「……父上、母上」
カーターが母さんたちと自分の両親の方を向いて畏まる。
「俺は泉と結婚を前提としたお付き合いをさせてもらっています。結婚は、まだすぐとはいきませんが……俺達の意思が決まったら、お知らせします」
「……明菜?」
「うん……泉の母親に代わって、いい返事が来るのを待ってます」
「泉さん……こんな息子ですがよろしくお願いしますね」
「は、はい!」
「カーター……泉殿にご迷惑をかけてはいけない。だが、一緒に歩むのだから、自分ばかり溜め込むのはダメだからな。そこは忘れぬように」
「はい。父さん」
「それにだ……ビシャータテア王国では重こーーーん!?」
何か雰囲気をぶち壊しそうになったので、ソフィーさんが後頭部を鉄扇で叩き、僕は某会場でコスプレイヤーしてた時に使った棒状の投擲武器を額に当てる。その両方の攻撃を受けたジョンさんは倒れることも許されずに、その姿勢のまま気絶した。
「ありがとうございました」
「いえいえ……カーターがそれに似なくて良かったです」
「本当に……真面目に育ってくれて良かったわ。とりあえず、私達二人共、あなたたちの事を応援してるからね」
「ああ」
「さてと……折角こちらに来たんですから、こちらの文化を色々楽しんでみませんか?」
今まで静かに話を聞いていた昌姉が居間に置いてあるタンスから何かを取り出そうとしている。
「それって……かるた?」
「羽子板とか凧あげとかもあるけど……これもよくあるお正月の定番の遊び道具でしょ?」
昌姉が箱を開けてかるたをソフィーさんに説明し始める。確かに定番と言えば定番だが……。
「だけど、こっちの文字を知らないソフィーさんには厳しくないかな?」
「いえ。勝敗とかは気にしないので、やってみてもいいでしょうか?」
「ソフィーさんがそう言うのなら……」
「よし!じゃあ、ご飯を食べたらカルタ大会をしようか!ほら!そこのカップル!分かった!?」
「「は、はい!」」
こうして、昼食後にかるた大会が催されることが決まった。しかし……楽しく遊んでもらえるだろうか?あのかるたは、県の名所や偉人を題材にしたものであって、県内の子供なら必ずそのかるたを使った大会に参加する。そのため、多くの県民が頭の文字からその後に続く文章が言えるくらいである。何が言いたいかというと、要はこちらには文字以外にも絶対的なアドバンテージがあるのだ。
「まあ……いいか。いざとなればすごろくゲームもあるし」
こうして、食後にかるた大会とすごろくゲーム大会が開催されて、元旦という日が過ぎていくのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―同日「都内」とあるコンビニ店員の視点―
「ゴホゴホ……!」
「ありがとうございました……」
お客さんが買った物を手に、咳をしながら帰っていった。
「今のお客さん……大丈夫ですかね?」
「ああ……大分酷い咳だったな……インフルエンザじゃなければいいんだが」
「自分は予防接種を受けてるので問題無いですけどね」
「そっちはいいかもしれんが、俺はそうじゃねえんだよ……っと」
「そういえば……何か咳をしている人を多く見るような気が……」
「そうか?まあ、この頃、空気が乾燥してるとか天気予報で言ってたような気が……」
「ああ。そういえば、俺も見た気がしますね……」
俺が店長とそんな話をした2日後。とんでもない物に感染してるとは、この時の自分には知る由も無かったのだった。




