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270話 初詣

前回のあらすじ「一年を振り返って……」

―お正月 早朝「薫宅・居間」―


「新年……明けましておめでとうございます」


「明けましておめでとう……ユノ」


 新年が明けて、早朝の時間。ユノが泉たちと一緒に着物姿になって家にやって来た。


「……?目を逸らしてどうしたのですか?」


「いや……何でもない」


 色々な姿のユノを見たが、この晴れ着姿のユノの破壊力は一番かもしれない。


「もしかして、薫兄って着物姿の女性が好みとか?」


「あら?そうなのですか?……でも、この格好を毎日は……」


 そう言って着物のズレを直すユノ。その姿も何か……いい。ただ、そんな事を正直に話す訳にもいかないので、ここは冷静に……。


「いや。珍しいから驚いただけ……」


「ふーん……布団の上で着物がはだけたユノの姿を思い浮かべた?」


「な訳ないでしょ」


 僕は同じように着物を着た泉の額を軽くデコピンして否定しておく。でも、頭の中では泉の言った内容が再生されていて顔が熱くなりそうである。


「それで、そんな格好してどうしたの?」


 これ以上変な想像しないように、話題を切り替える。


「何って……私達がこの格好をした理由……初詣よ!ということで行こうと思って呼んだの」


「なるほどね……」


スパーーン!!


「ってことでいくよ!」


 襖を勢いよく開け、着物を着た母さんとあかねちゃんが居間の隣の部屋から出て来た。


「振袖でも違和感が無いな……家の母さん」


「うん?いいじゃないか。結婚式じゃあるまいし」


「まあ……そうだけど」


 既婚者は振袖を着てはいけないと言われてるが、あくまで時と場合である。特に気を付けないといけないのは結婚式で既婚者が振袖を着てしまうと変な誤解を生みかねないので気を付けないといけない。


「昌達も直接、神社に行くっていうから私達も行くよ!」


「それじゃあ……車を出すね」


「何を言ってるの……?薫兄も……」


「うん?どうやって目的の神社に行くのかな?」


「それは……」


 僕は笑顔で回答する。この家の周辺には神社が無い。そして、ここは都会のように地下鉄がある訳でも無く、まして路線バスも頻繁に通っている訳では無い。移動するには自転車や自家用車は必須なのである。


「免許を持ってるのは4人。車は2台。それで、母さんと泉は着物を着ている……さらに、この地域は運転時の服装に関して決まりがあるんだよね……タクシーを呼んでもいいけどそれだとレイスたちが大変だよね……」


「くっ!?」


「ということで、僕と父さんが運転するから今日は無しだよ」


 悔しそうな顔をする泉。勝った!これで僕は着付けされずに……。


「お母さん……明けましておめでとうございます」


「おめでとうございます」


「二人共。明けましておめでとー!」


 僕はその声を聞いて玄関に目を向けると、昌姉たちが……。


「何でここに?先に行ったんじゃ……」


「そうしようと思ったんだけど……薫に着付けしたら運転する人がいなくなるでしょ?」


「昌がそれに気付いて、こっちに一度寄ったんだが……あ」


「マスター……それなら止めて……ん!?」


 僕の体を何かが纏わりつくように捕える。見るとそれは人の腕……。


「ふふ……可愛くなりましょうね薫兄……♪」


「手伝いますね♪」


「さっさとやるのです♪」


「40秒は無理だから、せめて10分で終わらせるッスよ!!」


 女性陣が一致団結して僕を居間の隣の部屋へと連れて行く。


「じゃあ、私も手伝うから……武人さんは母さんたちと少しだけ待ってて」


「分かった……ナムサン薫」


「助けてーー!!」


 そして僕はそのまま部屋の奥へと連れて行かれるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから少しして「隣町の神社」―


 あの後、着物を着せられ、ばっちりメイクをされた僕。そのまま車に乗せられて現在神社の参道である階段を皆と上っている……やっぱりこの格好って歩きにくいな……。何か鞄も女性用の物を用意されてるし……初詣帰りの男性たちの視線が痛い。


「しかし隣町の神社に来るなんて……」


「ここは縁結びの神社でもあるからね……それに写真を撮るには最高じゃないの!」


「ああ……そうか……」


「どういうことですか?」


 隣を歩いていたユノがこちらに顔を覗かせてくる。


「ここって映像のまちでね。映画やドラマを取る際に町が様々なサポートをしてくれるんだ。特に撮影に利用する施設の調整とか情報提供。後は宿泊施設やロケ弁の紹介とか……」


「ちょうどやってるよ」


「え!?」


「皆様!明けましておめでとうございまーーす!!私は今!縁結びの有名なこの神社から生中継をしています!どうして……」


 母さんの言うアレ。レポーターの人がカメラに向かって喋っている。僕たちは中継の邪魔にならないように誘導員の人の指示に従って、階段を上がっていく。


「あれは生中継で違ったね」


「そういえば、去年の流行った映画でここ撮影現場だったかな」


「ああ……武人さんと一緒にみたアレよね。あのクイーンを目指す少女の物語は面白かったわね」


「クイーン……クーデター側を主人公にした物語ですか?」


 ああ。お姫様であるユノからしたら、この話の内容からそうイメージするか……。


「違うよ。クイーンはその競技のチャンピオンに与えられる称号なんだ……泉って本持ってなかったけ?」


「あるよ!今度、貸すね!」


「はい!」


「もしくは……今度のお泊り会でその映画鑑賞しようか?」


「それは面白そうです!」


「(楽しみッス!)」


「(なのです!)」


 僕の鞄に隠れているミニ着物を着たレイスたちも小声で話に参加して、いつお泊り会をするかの話を始めたので、なるべく目立たないように泉とユノの傍を歩くように心がける。


「そうしたら……」


「で、それと……」


 僕の事を気にせずにお泊り会の段取りについて話す4人。しかし、境内に着いた所でその話題は一旦終了になる。


「うわー……大きいですね!」


 綺麗に清掃された広い神社の境内。僕たち以外にも参拝客が大勢いる。


「それだけじゃなくて……後ろ見てごらん」


「後ろ……?」


 この神社は高台に建てられていて、先ほど上って来た階段の方を振り向くと町並みを一望することが出来る。


「かなり遠くまで見通せますね……」


「遮る山が近くにないからね。この平野を一望できるよ」


「ほら!お参りに行くよ。そこの美女達!!」


 前にいた母さんが大声で呼ぶ。その美女という言葉に反応してか、境内にいた周囲の人達の視線がこちらを向く。


「うわ!本当に美女!!」


「すごーい……モデルさんかな?」


「俺。黒髪の子がタイプ……」


「金髪に着物はヤバい……」


「というか……真ん中の粟色の子……めっちゃ美人じゃね?」


「「分かる!!」」


 何か周りがざわめきだしたので、あまり面倒ごとになる前に、母さんたちとすぐに合流する。そして手水舎で清め、本殿でお参りをする。


「あかーーい!!」


「朱色って呼ばれる色だね……あかね。ここは神様の住むお家だからね。あまり大声をだしちゃダメだよ?」


「ごめんなさい……」


「いいんだよ……それで、ここではこうやって……」


 父さんがあかねちゃんにお参りの仕方を説明する。それをユノも見てマネをしてお参りをする


「僕も……」


 僕もお賽銭をいれてお参りをする。願い事は色々あるが、ここは縁結びの神様である。やっぱりここはユノとの関係がより良い物になるようにお祈りしとこう。


「あかね。おみくじ引いてみようか?」


「うん!」


 先にお参りを終わらせた母さんたちが、隣に置いてあるおみくじを引いている。


「僕たちも引いてみる?」


「もちろん!!」


 僕たちも、母さんたちに続いておみくじを引いてみる。


「私は……中吉?」


「ふふん!私は大吉!!」


「私達は小吉だったのです」


「そうッスね……で、薫は?」


「大凶……」


「「「「……」」」」


 それを聞いた泉たち、さらには母さんたちが何とも言えない視線を僕に向けて来る。


「薄幸の美女らしいというか、佳人薄命が合うねあんたは」


「ちなみに薫?そのおみくじに書かれている内容は……?」


「うーーん……色々上手くいかないって感じの内容かな……」


「ドンマイ……薫兄」


「あ、うん……とりあえず結ぼうか」


「薫お姉ちゃんどうしたの?」


「悪い結果が出たらしいの」


「……元気出してね」


「ありがとう」


 あかねちゃんが励ましの言葉を掛けてくれたので、笑顔で返事を返しておく。皆が僕を憐れんでフォローを入れてくれるが、そもそも、おみくじの結果に関しては僕自身はあまり気にしていない。だって……神社のおみくじの凶の割合って30%程……かなりの確率で引くのである。それだから、あまり気にするものでは無い。


「うん?」


 おみくじの結果をそこそこにして、そのおみくじを結んでいると、母さんが何かに気付く。


「すいませーん!アレ鳴らしていいですか!!」


 すると、母さんが社務所にいる巫女さんに訊いて、何かを鳴らす許可を貰おうとしている。


「あなたが鳴らすの?」


「じゃなくて、あの二人!」


 母さんが僕とユノに指を差す。巫女さんは一瞬呆気に取られたような表情をするが、すぐに満面の笑顔になって。


「いいわよ!!」


「だって!二人共鳴らしなよ!」


 またまた大声で話す母さん。また周囲の視線がこちらに向き始める。


「……母さんの言うアレって愛の鐘だよね?」


 境内にある恋人である二人が鳴らすと幸せになると言われる鐘……。母さんはそれを僕とユノに鳴らせと言っているのだ。そう……女装中の僕とユノで……。


「ほほほ……仲がいいの……」


「そうですね。おじいさん」


 多くの人たちが僕とユノが鳴らしても女友達でふざけて鳴らすと思っている……が。


「はっ!これは百合の気配!!?」


「口からさ、砂糖が……!!」


 一部の人はさらに発想が進み。そのような関係だと思われている。


「今、境内の鐘が鳴らされようとしてますね!」


 さらにはテレビの中継が、境内の所まで移動してきて、僕とユノが鳴らすのを待っている。


「え?これ鳴らさないとダメなの!?」


「そうみたいですね……」


 僕の隣に来ていたユノ。すると、ユノが僕の手を掴み歩き出す。


「え?ユノ?」


「鳴らしましょうか!恋人には間違いないですから」


 僕の手を引っ張って歩くユノ。周囲からは、きゃあきゃあと騒いでいる中、鐘の所に着いた僕とユノ。


「はい。薫」


「う、うん……」


 ユノに促されて、鐘から吊るされている紐を持つ。ここまで来たら鳴らすしか無いだろう。


「それじゃあ……」


 ユノと顔を見合わせ、息を合わせる。


「「せーーの!!」」


 境内に鳴り響く鐘の音。それを見た人達が写真を撮ったり、拍手をしたりしている。


「ふふ!よろしくお願いしますね薫♪」


「こ、こちらこそ……!」


 周囲から見られているこの状況で恥ずかしくて堪らない僕はどうにかしてそう答えるのであった。

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