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267話 年末のビシャータテア王国

前回のあらすじ「ちなみにお寿司屋さんでのお食事代+貸し切り代10万円(薫の奢り)」

―大晦日「ビシャータテア王国・王都商業地区メインストリート」―


「安いよ!安いよ!!買った買った!!」


「はーい。そこのお兄さーん!一つどうですか!!」


 僕たちは活気づいたビシャータテア王国のバザールを歩いている。アクヌムによる侵攻があったが、城壁内はほぼ無事だったのと、早期解決だったために比較的早くいつもの町並みを取り戻している。ここの人達も今日の商売が終わったら、その多くが年始の休みを取るとユノが言っていたのを思い出す。


 時期は大晦日当日、小説のお仕事も一段落付いて、家の大掃除に餅つきも済ませて、玄関に正月飾りにおせちの準備も完璧……後はゆっくり……と思っていたが。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―その日の朝―


「……暇だから、どこかへ出かけたい!!」


 という母さんのワガママがあって、車で行ける近くの大型ショッピングセンターと考えたが、この時期は込んでいる為に車を駐車するのに時間がかかるし、レストランとかも一杯だろう。それを父さんが優しく告げると。


「じゃあ、海外に行こう!」


 ここは海なし県であり当然だが港とかは無い。さらに近場に海外まで行ける空港も無い。となると普通は無理なのだが……この家では一応、遠い場所には行ける。


「あそこは海外……なのかい?」


「広い宇宙の海の果てにある星か次元の海を越えた先にある世界って表現が出来るから海外で間違いないでしょ?あかねもどこかお出かけしたいよね?」


「うーーん……私はどっちでも……」


 先ほどから熱心にテレビを見ていたあかねちゃんがこちらを振り返る。あかねちゃんとしては見る物全てが珍しいらしく、テレビでも十分楽しいらしい。そんなあかねちゃんの両肩に手を置き、顔をぐっと近づける母さん。


「出かけたいよね……?」


「う、うん……」


「子供に無言の圧力を掛けない!!」


 僕はアイテムボックスから取り出したはりせんで母さんの頭をすっぱたく。


「いたーーい!親の頭を殴るなんて何て子だい!」


「子供に無言の圧力を掛ける親に言われたくない!」


「二人共落ち着くのです……茂さんはどうなのです?」


「そうだね……僕としては出掛けたいかな。歳だから毎日少しは運動しないとね」


「流石、茂!分かってる!!」


「あかねもテレビじゃなくてリアルでの体験の方が色々学ぶだろうしね」


「そうなの?」


「うーーん……そうだな。あかね。そのお城みたいな建物をその目で見たくないか?」


 父さんが指を差すお城。西洋のお城が映っていて、どこかビシャータテア王国のお城を彷彿させる。


「行ってみたい!」


「じゃあ……」


「父さんとあかねちゃん()言うなら行こうか。レイスもいいよね?」


「もちろんなのです!」


「それじゃあ早速!!……あれ私の意見は?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―現在に戻る―


「すごーーい!!人がいっぱいだ!!ねえ!あの人ケモ耳が生えているよ!」


 あかねちゃんが見る方向には野菜を売っている獣人の男性がいた。


「ここには獣人にエルフ、ドワーフにオアンネスって言われる魚人。そんな人達も住んでる所なんだよ」


「へえー……」


 あかねちゃんが喜々とした様子で左に右とせわしなく首を動かす。


「あれは?」


 今度は魔道具を売っている店を見ている。その形が独特のため、何使うか一目では分からない物もある。


「あれは何だろうね……薫?」


「あれは魔道具屋さんだね……露店で売ってるから、そこまで高い物じゃないと思うけど」


 露店で売ってる奴は家庭での使用頻度が高く、大量に出回ってる物になる。それだから価格もかなりお安い物になっているのだが……。とりあえず、僕たちはその露店に立ち寄ってみて、商品を確認する。


「これは……?」


「お客さん珍しいね?これはライターだよ。こうすると……」


 店主が実際に目の前で使用して見せてくれる。魔石自体で火をつける事も可能なのだが、この魔道具はライターには無い機能があり、何と火をストローより細長く出来たり、逆に円状に広げたりできる。


「ほほう……これはいいかも。特にこの細い火なら細かい装飾の作業とかに便利かもしれないね」


「その通りだよ。これは素材を焼き切りたい時ときに、円状に広げるのはこのライターを固定してから、この上で炙ったりするのに使うんだ。それだから職人や、最近だと料理人さんも購入する物だけど……これって結構、日用品なんだけど……お客さんどこの田舎から来たんだい?」


 店主のお兄さんが不思議そうな顔をしている。それだけ、このライターは広く出回っている品なのだろう。


「いや……ここより大分、離れた場所に住んでいてね。今日は息子に連れて来てもらったんだ」


「息子……」


 僕を見る店主。


「精霊を連れて見た目が女性的な男性……ああ、勇者様か!ビックリしたよ。うちのような店に来てくれるなんて」


「ゆうしゃ?」


 それを聞いたあかねちゃんがこちらに視線を向ける。


「何でも無いからね……今日は家族サービスで色々見て周ってるんですよ」


「なるほど。そうしたら、こちらも日常品として広まってる物なですが……」


 そこから店主が様々な魔石を使った日用品を見せてくれる。風の魔石を組み込んだ箒や光の魔石を利用した懐中電灯。中にはあちらの世界と変わらない物もあるが……そのどれもが電池や充電、プラグ接続などがいらない物ばかりである。


「すごーーい!手品だ!」


「はは!喜んでいるみたいだね。どうです?おひとつ購入されてみては」


「そうですね……父さんは何か買いたい物ある?」


「そうだな……」


「はいはい!これ欲しい!」


 母さんがクッションを持っている。これも魔道具らしく、温度調整が出来るクッションになっている。


「暖かくなるクッションはあるけど、涼しくなるクッションがあるなんて……!」


「そちらはおススメですよ。ただ、そのまま使うとすぐ汚れてしまうので、別個でカバーを用意しないといけないですが」


「薫!私これにする!」


「母さんには聞いてなかったんだけどな……」


「えーー!買ってよ!」


「はは。元気のいい母親で……うん?母?」


「この人。僕より2倍年上ですよ?」


「え!!??」


 店主がビックリして母さんを二度見する。


「……親が親なら子も子か」


「何かその言葉は久しぶりに聞いたのです」


「そうかも……あかねちゃんも欲しいのがあったら言ってね?僕からの遅いクリスマスプレゼントだよ」


「いいの?」


「もちろん」


「それじゃあ……」


 あかねちゃんがつま先立ちして商品を眺める。その後、父さんとあかねちゃんの欲しい物を購入。その後も泉が働いているフロリアンで店主のシークさんに年末の挨拶と、衣服の購入をしたり、前より味の幅が広がった屋台飯に舌鼓を打ったりするのだった。


「ここまでの出費……やっと金貨4枚か……最初のお店なんて銀貨で済んじゃったしな……」


「薫!いくのです!!」


「あ!うん!」


 最初のお店である魔道具屋さん……あれらの半永久機関を持つ商品が1000円かかるかどうかの値段で売ってるとは……。


「恐ろしいな……グージャンパマ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―お昼過ぎ「ビシャータテア王国・城に続く城門前」―


「すごーーい……!」


 お伽噺に出るような白い城壁と木と鉄で出来た城門にそこを守る門番。


「ここに王子様やお姫様がすんでるの?」


「そうだよ」


「あら。奇遇ね」


 背後の声に反応して、振り返るとカシーさんとワブーが後ろにいた。


「二人もどうしてここに?」


「年末年始だからな。寝る間も惜しんでの研究も一休みにしようということになった。だから、今はクロノスに笹木クリエイティブカンパニーには誰もいないぞ」


「それも……そうか」


 僕も一応、笹木クリエイティブカンパニーの社員扱いなのだが、定時に出社した事は無いし、社内にいる事もほとんど無いので、その辺りの事は知らされていなかったりする。


「それで俺達も王様に年末の挨拶をして久しぶりに家でゆっくりしようと思ったのだが……そっちは?」


「年末で家にいるのも飽きたから、ちょっと王都を散歩中だよ」


「そうか。なら、一緒行くか?」


「そうだね。お邪魔じゃ無ければ」


「な訳が無いでしょ?この国を救った勇者様なら」


「ゆうしゃ……?お姉ちゃんってあの勇者なの?」


「あかねに言ってなかったけ?こんな頼りない息子だけど、ここだと勇者らしいよ」


「そーなんだ……」


「いや。キラキラとした目でこっちを見つめないで……欲しいかな」


「だって……!」


「ちなみにユノちゃん覚えてるよね」


「うん」


「あの子はここのお姫様だからね」


「そうなんだー!」


 さらに目をキラキラと輝かせるあかねちゃん。母さんたちと一緒に暮らすようになって、今まで触れることが無かったお伽噺や絵本を読むことが多くなり、その中で勇者とお姫様が恋人というファンタジーの中でもよくあるお決まりに心をときめかせてるのかもしれない。


「それじゃあ、そのお姫様と王子様に会いに行きましょうか」


「うん!」


 カシーさんの言葉に大きく返事するあかねちゃん。こうしてカシーさんと合流した僕たちは王様達に年末の挨拶をするために城門をくぐり、城壁の中へと入っていくのであった。

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