265話 冬の風物詩(異論は認める)
前回のあらすじ「設定では魔王軍は意外にもホワイト企業だったりする」
―クリスマスから4日後「東京・某有名会場」マスター視点―
「ふふ~ん♪」
「上機嫌ですね!カメラなんか拭きまくってもう!」
「当たり前ですよ?久しぶりにイズミに会えるのですから!」
「ですな!」
ああ泉のファンの奴らか……と思いながら、カメラのチェックをする俺。昌と泉に頼まれてSNSにアップする写真を撮るために準備をしている。
「夏に会って以来、会えてませんでしたからね!」
「ええ!全くですな!……うん?あれはイズミでは!」
「おお!それでは……?」
お目当ての泉を見つけた男性二人が固まってしまった。そういえば事前に薫達も参加するとか知らせて無かったな。
「あ、あれは……アッキー……」
「隣にはカオリもいますぞ!!しかも金髪美女と腕を組んで!!」
俺もそちらを見ると、薫とユノが仲良さそうに腕を組んでいる……いや、薫の奴恥ずかしがってるな。それとアッキーか……その名前で昌が呼ばれてるのも久しぶりだな……。
「「ブレイカーズですと!!!!」」
昌と薫、そして泉の3人で活動した時に付いた通り名を叫ぶ男共。それが伝播して他の奴らもそちらへと目を向けるのであった。
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―先ほどの出来事から少し前「東京・某有名会場 女子更衣室近く」―
「え?四葩を使ってなかったの?」
「うん。それに黒装雷霆・麒麟も使って無いから……きっと、黒い魔石で多少の強化はされたぐらいでしか思ってないと思うよ」
着替えが終わった泉、そして一緒に行動していたレイスとフィーロで昌姉とユノの着替えが終わるのを持ってる間にこの前の戦いについて話をしている。
「あの時はシェムルの登場で慌ててたので気付かなかったのです……」
「シェムル相手に手の内を明かすのは、危険だからね……アイツの怖い所はその素早さだからね」
「勝つつもりは無かったッスか?」
「無い。あっちにはまだ僕たちが弱いってイメージを与えておきたいんだ。アクヌムは倒せてもシェムルには押されてしまう。ってね。どうも……あっちは侵攻より優先する事項があるみたいだしね」
「セラさんは準備って言ってたよね?」
「うん……イレーレたちを滅ぼす際に使用した魔法が使えない以上、きっと魔王は自分の状態を万全にしてくる最中……これもセラさんが言ってたね。とにかく、こちらの準備が整っていない今、そちらに集中してもらっていないとね」
「はあ~……まさか、頭脳戦を繰り広げていたとは……」
「手の内を全て明かさないように……切り札はここぞという時にね」
「お待たせ!」
「着替えてきました!」
僕の話が終えると同時に、昌姉とユノが合流する。ユノの格好……コートの前が開いていて、中の衣装が見えているのだが、今、流行りのアニメのキャラクターのコスプレをしているのはいい。けど……凄く……ある場所に目がいってしまう。
「どうしたんですか?」
「いや。何かコスプレしてるユノの格好……似合ってるというか違和感というか……」
僕は上手く話を逸らそうとする。何か胸がいつもより大きく感じるのは気のせいかな?この前の温泉旅行の時は……。
「胸が大きくなってるのが気になりますか?」
「え!?」
ユノがズバリと僕の考えてる事を指摘する。
「このキャラクターをリアルに再現すると、この位なのよね。まあ、詰めてるだけなんだけど……にしても、薫兄のすけべ……」
「違うから……」
「でも、この前、裸を見ましたよね?」
「……はい」
実際に見てしまったので、素直に答える。どう言い繕っても無駄だし……。
「そう。ユノの裸を見たのね……うん?薫兄がユノの裸を……え?」
「そうなのね……やっと、そこまで……」
泉が驚いている中、昌姉はハンカチで涙を拭っている。その表情はどこか嬉しそうである。
「二人が思ってるような事は起きて無いからね?アニメの主人公のラッキースケベのような事が起きちゃっただけだからね?」
僕は強くそこを否定する。嘘を吐いているのでは無いかと、ユノ以外の皆が疑うような目を向けてくるが、ユノが僕の意見に同意した事で疑いが晴れる。
「ビックリした……もう、そこまでと……」
「ふふ♪私としてはカーターと手を繋いで楽しくデートしていた泉が気になりますが?」
「あ、え!?そ、ソレハーデスネ……」
泉の声が明らかに上ずっている。ここは仕返しに……。
「そうか……泉。僕より大人に……母さん達を呼んで、あちらとしっかり挨拶を……」
「ないから!!」
「それじゃあ……ある程度、コントが済んだ所で行くッスよ」
「じゃないと……結構の人がこちらを見てるのです」
鞄の中から外には出ないでこちらに喋るレイスとフィーロ。二人に指摘された通り、こちらへの視線が数多く感じる。
「おい……あれってカオリじゃねえ?」
「ほんとだ!って、アッキーさんもいるよ!?うわ……私、生で3人が揃うの初めて見たけんだけど……」
「それに負けず劣らずのあの金髪美少女って何者!?」
徐々に増えていく視線……とても痛いです。
「じゃあ、武人さんに待ってもらっている場所までいきましょう」
「はーい!」
泉が元気よく返事をして、レイスたちが隠れている鞄を持って昌姉の横を歩き出す。
「じゃあ、行きましょうか!」
ユノが僕の腕に抱き付いてくる。その瞬間、さらに人の視線が集まった気がするので、僕は腕に抱き付かれたまま、急いで二人の後を付いていくのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―現在に戻って「東京・某有名会場」―
「ポーズお願いしまーーす!!」
「えーと……」
「(ユノ。僕と腕を組んで)」
僕は小声で指示をして、互いに腕を組んで、カメラの方に笑顔を向ける。あの後、外で待っていたマスターにレイスとフィーロが隠れている鞄と一緒に荷物を預けた後、撮影を始める僕たち。とりあえず、僕は変な事が起きないようにユノと一緒に行動している。
「ありがとうございます!」
「こっちもお願いします!」
「はーーい!」
声を掛けられたので二人でそちらに振り向きポーズを取る。
「(カオリ。ノリノリですね?さっきまで嫌がってましたよね?)」
相手に気付かれないように、小声でかつ僕の耳元で喋るユノ。相手がそれもポーズの一つだと思って、写真を撮ってくる。
「(ここでノリノリの雰囲気を出さないと、僕だと気付かれるかもしれないからさ……)」
今度は逆に僕がユノの耳元で話す。すると、カメラマンがここぞというばかりに写真を撮ってくる。ちなみにカオリはコスプレイヤーとしての僕の名前である。
「(それって誤魔化せるものなんですか?)」
「(それが……バレないんだよね……)」
今の僕はいつもの粟色の髪ではなく、メインの青に紫とピンクの3つのグラデーションされたウィッグを着けている。さらに、しっかりメイクも決めているのと、かなりノリノリでポージングを決める事もあって、意外にバレなかったりする。さらに……。
「(こんな胸をしてたらね……)」
さらにパットを入れて、小ぶりの胸を再現している。そのため、僕をカオリと分かっても、薫と分かる人は少ない。他のコスプレだが、腐れ縁の直哉と大輔の二人も、これは……分からない。と言ったことがある。それだから、赤の他人だったら男と気付かないだろう……と思いたい。
「(確かに……気付かれないかもしれませんね)」
「(だから……ここは女性として演じきった方がいいんだよね……)」
「(そうですか……)」
そう言って、二人で必殺技のポーズを取る。その瞬間にカメラのシャッター音が一斉に鳴り響く。
「二人共!こっちに来て!」
泉に呼ばれたので、合流して4人でポーズを取る。
「さっきから何か話してた?」
「うん。色々ね」
「楽しかったですね」
「あらあら♪お姉ちゃんとしては二人が上手くいってるの嬉しいわね」
「からかわないでよ……」
「顔が赤くなってるよ薫兄?」
「だから……あ」
僕は素早くポシェットから、このキャラが武器にしている棒状の投擲武器……に模した道具(材質はアダマンタイト)を素早く、ある方向に投げる。
「いて!?」
隠し撮りをしている奴の頭に命中。それに気付いた他のカメラマン達が取り囲む。
「おお!カオリのパーフェクトガード!久しぶりに見たですな!!」
「彼女のおかげで、隠し撮りは100%不可能と言われてますからな!」
撮影するために待機していた人達が僕の話をし始める。
「凄いですね……」
「カオリ……さっきのクナイ。ドルグさんとメメさんに頼んで増産しておこうか?」
「いや。こんな高級な投擲武器はいらないから……そもそも、これで命中するの何故かこんな場面だけだし」
カメラマンの一人から投げた投擲武器を受け取り、再度ポシェットに入れながら話す僕。小さい頃からコスプレイヤーとして活動させられていた僕。隠し撮りや動画、無理なポージングを頼んでくる奴らが気になった僕が考えた対策……それが、投擲武器である。最初は投擲武器を投げて、相手のカメラを破壊していたが、弁償とか言ってきて面倒になったので、最近は相手の急所を狙って投げている。ちなみに、何故かこの時だけ命中率は100%であり、外したことが無い。
「どうしてこの時だけなんですかね?」
「カオリの痴漢特効のスキルが発動してるんだと思うよ。きっと」
「ゲームならともかくリアルでそれは無いから……っと!」
別のコスプレイヤーさんが、執拗に男性からナンパを受けていたので、先ほどと同じように投げておく。
「ありがとうございました!」
そのコスプレイヤーさんが投げた武器を回収して手渡してくれた。すると、先ほどの男性が起き上がり、こちらに走って近づいてくる。
「てめえ!何をするんだ!」
「会場内でのナンパはダメですよ?」
「うるせえ!そんな格好を……!!」
話の分かる相手じゃないと早々に判断した僕。
「お客様……」
このキャラのセリフを言いながら、男に近づく僕。そして、寸勁で相手のボディをぶん殴る。男は苦悶に満ちた顔を見せる間もなく意識を失くす。
「お休みなさいませ……良い悪夢を」
近くのスタッフがこちらに気付きそのまま倒れた男を連れて行った。被害を受けていた女性から再度お礼を述べられ、またカメラマンからは、シーンの再限度がたけぇ!!と言われながらイベントの時間が過ぎていくのであった。




