264話 結末は……
前回のあらすじ「敵の召喚魔法発動!」
―「ドルコスタ王国・東の森 開けた場所」―
「気を付けて!」
シェムルが繰り出す何かに警戒する僕たち。
「いくよ!!」
ピピピ……
シェムルが仕掛けるタイミングでアラームのような音が周囲に鳴り響く。その発生源は……シェムルからだ。
「って……何?」
シェムルが中断して、丸い何か……恐らく通信機みたいな物を取り出して耳に当てる。
「え?集め終わったけど……うん。今、薫達と遊んでる……だって……ええ~……分かったよ」
シェムルが通信を終えと、その表情は明らかにげんなりしている。
「残念……お遊びはここまでか。じゃあね~!」
飛んでいたシェムルはそのまま、王都とは反対方向に飛んで行ってしまった。罠かと念のために警戒し、周囲に怪しい物が無いかシエルに確認してもらうが無いとの事だった。
「ふう……疲れましたね」
「そうですね」
戦闘が終わったことを確認したところで集まる僕たち。
「シェムルがいたとなると、今回の件は魔族の犯行。そして目的は……」
「トゥーナカイの角の回収……」
「でも、一体何に使うんだぜ?」
「それは分からないのです……でも、ろくでもない事に使われるに決まってるのです」
グウ!
ニガリオスが一鳴きした。きっとレイスの意見に同調しているのだろう。
「……とりあえずは終わりですかね」
「そもそも今回はトゥーナカイ調査だったような気がするんだぜ……」
―クエスト「赤目のトナカイさんを見つけよう!」クリア!―
報酬:モグラ型の魔獣の素材、トゥーナカイの角
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―戦闘終了後「ドルコスタ王国・城門付近」―
「いや~!!生きた心地がしなかったな!!」
「言ってる場合じゃ無いよリーダー!」
仲間にツッコまれつつも、大笑いするグラルさん。あの後、グラルさんたちとトゥーナカイの群れと再度合流した僕たちは、一緒に王都へと戻って来た。今は怪我したトゥーナカイたちの手当てを兵士さんたちに任せ、僕はグラルさんたちと今回の戦いを振り返っていた。
「まあ、何だかんだ俺も契約したからな!戦力強化に報酬も得られる!結果オーライだろう?」
「まあ、そうだけど……」
再び大笑いするグラルさん。トゥーナカイの群れの長が今回の件を重く受け止めており、今後の事も考えて数匹のトゥーナカイが人と契約した。多くはこの王都の兵士だったのだが、戦っていたグラルさん姿を見ていたトゥーナカイの一匹が、一緒に戦ってみたいと彼と契約してくれたのだ。
「前向きですね」
「なのです」
「今回はイレギュラーだしな。魔法使いの勇者様ならともかく、俺達は本来なら逃げ帰れれば、それだけで良かったのに、これだけの成果を得られたんだ。そう考えたら笑うしかないだろう?」
「そうですね」
「さてと……俺達は拠点に戻って一杯やるかな……それじゃあ元気でな」
「そちらも」
僕はグラルさんと握手して、グラルさんたちと別れた。その後、ギルドマスターとローグ王にも報告を済ませた僕たちも帰路に……。
「帰っちゃいやーー!!」
「娘がすまん……」
「いえいえ……」
シルビアちゃんに足を掴まれてしまって、彼女をなだめるのに時間がかかり自宅に帰るのが夜になるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―12月24日「カフェひだまり・店内」―
「「「「メリークリスマーース!!」」」」
泉たちが乾杯の音頭を取り、クリスマスパーティーが始まる。今回は僕たちと泉たち、そしてひだまりスタッフ全員の計8人である。
「ユノさんたちが来れなくて残念ですね」
「まあ……クリスマスの文化はねえからなあっちは」
「そうだね……そうなんだよね……」
泉が何か含みのある返事をする……きっと、今、女性陣が着ているサンタ服をユノに着せたかったんだろうな……。ちなみに僕は普通の……そう普通の男性としての服装でいる。ミニスカサンタ服を着せられるかと、警戒していたのだが……何を企んでるのだろう。
「薫?大丈夫?何か黙ってこちらを見てるけど……」
「大丈夫だよ昌姉。チョット考え事をしていただけだから……」
「シェムルの事?」
泉が、僕が何を考えていたのかを訊いてきた……まさか、訊いてきた本人が何を企んでるのかを考えていたとは言えないので、泉が言ったシェムルの事で誤魔化すとしよう。
「うん……シェムルがあの時何をしようとしていたのか……魔石を使った極大の魔法を放とうとしたのか……それとも、二つの魔石を使った召喚魔法を呼ぼうとしたのか……」
結局、見れずに終わってしまったシェムルのとっておき……見れなかったことで、後々、後悔しなければいいのだが……。
「召喚魔法に二つの魔石って出来るんですか?」
「あみちゃんのその質問なんだけど……前にカシーさんたちが試しにやったらしいんだよね」
「それで……どうだったんですか?」
「普通の召喚魔法だったよ。黒い魔石は弾かれてダメだったみたい」
「それじゅあ、他の魔法を?」
「それも考えてるんだけど……どうだろう?黒い魔石はそれ自体に意味が無いから、何かを強化する目的だったと思うんだけどね。でも、シェムルは魔族だから他の使い方もあるかもしれないし……」
「戦いがより厳しくなったわけだな……」
マスターの言葉に頷く僕。きっと、他の四天王といわれる奴らは召喚魔法を使用してくるだろう。そして魔王であるアンドロニカスはきっとそれ以上の魔法を……。
「まあ、考えるのはそれだけじゃないんだけどね」
地球でもヘルメスが何かしらのアクションを取る可能性があると、ショルディア夫人から連絡を受けている。その対策としてデメテルでエリクサーを使った回復薬を作っている最中である。これが上手く活躍するのかどうかは分からないのだが……。
「かなりヤバいですよね……」
「いや?そうでも無いよ。だって……」
「かお~る!」
「何?れい……冷た!」
言いかけた僕にレイスが何か氷結させた物を顔にぶつけてくる。ガチガチに凍ていた訳では無いので、痛くは無かったのだが、顔がその液体で濡れてしまった。
「……これって、シャンパン?」
「あ!?レイスさん飲んじゃったみたいですよ!!」
近くにあったコップを持ち上げる雪野ちゃん。それは昌姉が使用していたグラスで、さっきまでシャンパンが入っていた。
「ジュースだと思って、間違って飲んじゃたみたいッス……」
「フィーロは大丈夫なの?」
「うちは飲んでないッスからね……ほら、お水ッスよ」
「はぁ~~い!」
水を飲み始めるレイス。これで少しは落ち着けばいいのだが……。
「ほら。タオルだ」
「ありがとうマスター」
マスターからタオルを受け取った僕は一度、トイレに行って顔を洗い戻ってくる。戻ってくると、テーブルの上にレイスが静かに寝息を立てて寝ていた。
「楽しみにしていたのに……」
「そうだね……」
今日は御馳走を食べる予定だったのに、早くもダウンしてしまったレイス。
「レイスちゃんのために、少し取り分けておくわね」
「ありがとう昌姉」
「よし!寝ちまったレイスの分も楽しむぞ!」
「そうですね!ってことでもう一度!かんぱーい!!」
雪野ちゃんが再度、乾杯の音頭を取ったので、僕たちもグラスを持って乾杯をするのであった。
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―旧ユグラシル連邦「???」シェムル視点―
「はい……」
「全く……お前って奴は……」
「いいじゃないか……我慢してたんだから、少しくらい……」
俺は頼まれていた特別な魔獣だか何かの角をネルに渡す。ネルは作業机で何か忙しく仕事をしているようだけど……。
「何やってるの?この前の戦いはこっちの勝利でしょ?そんなしかめっ面で紙束と睨みあってるなんて?」
「ああ……確かに勝った。これで魔王様の計画はまた一歩進んだことになるが……被害が甚大過ぎる。ここは一度、補充が必要だ……エイルにも既に指示をしている」
「指示?魔王様は?」
「ここの修復中だ。外部は手下どもにやらせてるが、内部……古代の魔道具を直せるのは魔王様だけだからな。集中したいからお前に指示を任せる。と仰られた」
「へえー……ご苦労なこった」
「今日はこれで休んでもらっていい。また、明日の昼頃に次の指示を出す」
「りょーーかーい……」
また、お預けをくらってどんよりする俺。今日はこのままふて寝してやる。
「……あ、そういえば一つだけ訊きたいことがある」
「ん?何?」
俺が扉のノブに手を付けたと同時にネルが訊いてきた。正直言ってめんどくさい。
「お前が戦った勇者はどうだった?」
「どうって……何が?」
「前と比べて強くなっていたかどうかだ」
「ああ……なってたよ。黒い魔石を使用しているみたいだし」
「そうか……ロロック共の魔石を使って強くなったのか……」
「そうそう!あいつの武器面白かったな……バリエーションさらに豊富だったし」
「バリエーション豊富?」
「そう!変形するんだ。籠手に剣……同じ剣でもサイズをデカくしたり!」
「妙な武器を使う物だな……その勇者というのは」
「妙な武器を使うから楽しいんだよ!また、遊びたいね……あの黒い武器」
「黒い武器……か」
「で、他に何か?」
「いや。それだけだ。呼び止めてすまなかったな」
「それじゃ、休ませてもらうね……」
俺は再びノブに手を伸ばし、扉を開いてその部屋を後にする。
「……ふふ」
あの時の興奮を思い出してしまった。今度、会う時はもっと楽しい時間になるだろう。
「次も楽しみにしてるよ……薫」




