261話 トゥーナカイ探索2日目
前回のあらすじ「東の森を探索中……」
―翌日「ドルコスタ王国・東の森」―
「さてと……」
早朝に来てくれたシーエさんたちと合流して、再度トゥーナカイがいると思われる森にやって来た僕たち。今日中に見つけ無いと明後日のクリスマスパーティーに間に合わない。何とか見つけないと……。
「それで、どうするだぜ?また、今日も森の中に入って探すのか?」
「それだと効率が悪いかな……森は薄暗いし、ぬかるんでるし、川もある……武器や魔法も限られた物になるし……」
昨日、森の中で魔獣と戦ってる時、長剣である四葩は使わなかった。というのも木々が密集していて、長剣である四葩を使うと、枝にぶつかったりして上手く振れない可能性があったからだ。そんな中でシーエさんは普通に長剣を振るっていた。そう考えると、僕とシーエさんの剣の腕を比べるとシーエさんの方がやっぱり上なのだろう。
「そうですね……となると何か策でも?」
「うーーん……地球のトナカイと同じ……いや、野生動物の多くに当てはまる方法なら……」
「あるのか?」
「あるよ。ただし、近隣に大迷惑になるかも」
僕は冒険者ギルドから借りた地図を皆に見せる。この僕たちがいる場所から東の森を挟んで、開けた場所がある。
「それを使って、ここに誘き寄せる」
「なるほど、自ら見つかりやすい場所へと移動させるんですね……でも、どうやって?」
「レイス……轟音だけど……」
「……耳栓ありますよね?」
「もちろん……この魔法を使用するかもと思って、ちゃんと用意してあるよ」
僕はアイテムボックスからイヤホン型の耳栓を取り出す。
「ごうおん?何だそれ?」
「雷が落ちる時って、凄い音がするでしょ?アレを魔法で再現するんだけど……」
「それをどこに起こすんですか?」
「……目の前で」
シーエさんたちは、それ以上は何も言わずに耳栓を受け取り装着する。そして僕たちも耳栓を付けてハンドサインで互いにタイミングを取る。
「鳴り響き……轟け!轟音!」
僕が手を前にかざすと小さい光の球体が発生して、ふわふわと前に進んでいく。そして……。
ゴォオオオオオオンーーーーーー!!
魔道具で作られた特注の耳栓をしてても、まるで目の前を電車が通った時くらいの爆音が起きる。これを最初にクロノスで小規模でやったら、耳を塞いでいたのに鼓膜が破れるかと思うほどだった。しかも、その爆音で施設内がチョットしたパニックを起こすなどして、周囲にとんでもない迷惑を掛けてしまった魔法である。
「……!」
シーエさんに肩を叩かれて、口パクで何かを伝えようとしていたので、耳栓を外す。
「凄い音でしたね……これなら、この音に驚いて移動してるかもしれませんね」
「ですね……後はこれを何回もやれば……」
グウッ!!グウッ!!
すると、変わった鳴き声が前の方から聞こえる。
「もしかして……トゥーナカイでしょうか?」
「違うんじゃじぇねえのシーエ?流石にそんな……」
「多分、トゥーナカイだと思うよ……」
トナカイは低い声で鳴く。このグージャンパマの生物が地球由来であること、先ほどの鳴き声も低かったことを踏まえると、トゥーナカイの可能性は高いだろう。
「うーーん……何かどんどん鳴き声大きくなってねえか?」
「こっちに来てるんでしょうね……」
そう言いながら、とりあえず武器である剣を抜くシーエさん。僕も鵺を籠手にして構える。森からは様々な鳴き声が聞こえてくるのだが、先ほどの低い鳴き声だけは大きくなっていく。そして……それが森から現れる。
グウッッッーー!!!!
大きく嘶くトナカイにいた生物。その体は黒の毛で覆われていて、目は赤い。今回の目的であるトゥーナカイで間違いないだろう。
グウッッッ!!!!
僕とレイスに向けて、その頭を突き出して突進を仕掛けるトゥーナカイ。すると、トゥーナカイの角が氷で覆われてより大きく、先端が尖ったものになった。
「城壁!」
鵺を前に投げて黒い壁を出現させる。衝突音がした後、直後に後ろに下がったみたいで足音が小さくなっていく。
「アイス・ソルジャー!」
トゥーナカイの突進攻撃の際に、僕たちから離れていたシーエさんとフィーロ。僕がトゥーナカイの攻撃を防いだのを確認して、氷の兵士たちを呼んで、突撃させる。僕も素早く鵺を籠手に戻しておく。
グウッ!
その大きな氷の角でアイス・ソルジャーの一体を打ち上げ、そのままもう一体を角で串刺しにして破壊する。
「薫さん!ユニコーンを呼んで下さい!」
「分かりました!」
僕は急いで、シエルを呼び出す。
「(あ、見つかったの?)」
呼ばれたシエルが暴れるトゥーナカイの姿を見て、のんびりとした口調で訊いてくる。
「うん!それで、何とか説得できない?」
「(えーと……君!ちょっと待ってくれないかな!?)」
グウッ!?
突如現れたユニコーンを見て驚くトゥーナカイ。それを見てシーエさんが氷の兵士の魔法を解いて、剣もしまう。僕も鵺をいつものブレスレットに戻す。
「(実は僕達は君を探していたんだ。君達って本来なら、もっと東の森にいるんでしょ?それなのに、どうしてここにいるのかなって)」
グゥ……
「(言うと思うか?じゃないからね?薫!アレ!アレを出して!)」
「アレ?」
「(そうアレ!印籠を出して!)」
「印籠……ってコレ?」
僕はアイテムボックスからシルバードラゴンの鱗を取り出す。
グゥオ!!??
それを出すと、トゥーナカイが立ったまま体を震わせる。この光景に見覚えがあるな……しかも、つい先日……。
「(この薫に逆らう事はシルバードラゴン……ひいてはあのゴールドドラゴンにケンカを売ることになるんだよ?それでもいいの?)」
グゥオア!?
「シエル!それ違うから!ゴールドドラゴンとは会ったこと無いし、シルバードラゴンとはただの知り合いだから!」
グゥ……グゥオオ!!
「何て言ったんだこいつ?」
「(何だ……って、大した違いじゃねえよ!!だって)」
「僕の言ったことと、シエルの言ったことに大した違いが無い!だって」
「ツッコんでたんだなそいつ……」
グゥ!!
「これは何となく分かりますね……当たり前だとかそんなところでしょうか?」
シーエさんの言う通りである。彼からしたらゴールドドラゴンもシルバードラゴンも自分達より強い魔獣であり災害でしかない。
グゥオオ……
「(それで、俺に何用だ?)」
シエルが翻訳してくれるので、僕はそのまま、トゥーナカイに先ほどと同じ質問をする。
グゥオ……ググゥオ。グゥオ
「(分かった。ドラゴンと知り合いであるお前たちなら話しても問題は無いだろう)」
「ありがとう……それじゃあ早速……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
― 十数分後 ―
「魔獣から逃げてきた……か」
「相手は地中から襲ってくるですか……」
黒いトゥーナカイから聞いた内容をまとめると、彼は群れと一緒に東の森林地帯で静かに暮らしていて、有事の際には先陣を切って戦う戦士とのことだった。先ほど、僕たちを襲ってきたのは轟音から発生した爆音を聞いて、自分達を狙う敵だと判断して、驚異の排除のために戦ったということだった。
話を戻すが、東の森林地帯で静かに暮らしていた彼らにある事件が起きた。ある魔獣が突如現れて、昼夜問わず襲ってきたとの事だった。そのため自分達の平穏な暮らしが出来なくなり、逃げるためにここまでやってきたとの事だった。そして、その魔獣は地中から襲ってくるということだったのだが……。
「聞いたことが無いですね……そんな魔獣がそもそもいる事、それ自体が驚きですね……」
「そうなんですね……他の皆はどう?聞いたことが無いかな?」
「シーエが知らないなら、私も知らないぜ」
「私もなのです」
「そうか……」
僕はあごに手を当てた状態から、ゆっくりと……シエルに目線を合わせる。
「(……知らないからね)」
「それは……残念。となると、誰も知らない魔獣が今回の相手になるのか」
この黒いトゥーナカイから聞いた、その魔獣の特徴は爪が長く、鼻面も長い……恐らく、その特徴からしてモグラ型の魔獣じゃないかと判断する。
グゥグゥオ……グウオグゥオウ
「(それで、ここまで逃げて来たんだけど……そいつも追って来た。って)」
「その魔獣もこの近くに来てるって……」
「それは不味いですね……近くにはドルコスタ王国の王都もありますし……放っておくと、そのまま王都まで地中を掘って、人々を襲うかもしれません」
「それより……冒険者ギルドの冒険者が犠牲になるぜ。薫の持ってた依頼の事も考えると、この森で魔獣を狩って生活を立ててる奴もいるだろうしな」
「となると……僕たちのやることは……」
「……それの討伐でしょうか」
「その前に王都に報告して警備を強化するべきなのです」
「うーーん……どうしようか……」
黒いトゥーナカイから聞いたモグラ型の魔獣……対策をすぐにでも講じないと不味いだろう……。
「とにかく、冒険者ギルドにローグ王への報告しないといけないよね……」
「なら一度、王都に戻ってすぐにでも警戒するように報告しましょう。私達はローグ王に会って話をするので、冒険者ギルドには薫さんたちにお願いしようと思うのですが……どうですか?」
「そうですね……すぐにでもやりましょう。その前に……君もそいつの討伐に手を貸してくれるかな?」
グゥオオーー!!
「(もちろん!アレを排除してくれるなら有難い。だって)」
「よし!そうしたら、君は群れにその話をしてもらっていいかな?」
グゥ!
黒いトゥーナカイは元気の良い返事をして、森の中へと戻って行った。
「それじゃあ急ぐのです!」
「だぜ!」
僕たちも急いで王都に戻る……地中に潜む魔獣討伐の為に……。




