254話 慰霊祭
前回のあらすじ「冒険からの式典への出席」
―「ビシャータテア王国・墓場 慰霊祭会場」―
~♪~~♪♪
会場内にラッパの音が響き渡る。そのラッパを合図に騎士団の方々が国旗を掲げる。そして教会前に設置されたステージでコンジャク大司教とビシャータテア王国を担当している司教が祝詞を唱える。参加者たちはそれを静かに見守っている。
「……」
ステージ前には国旗を掲げた騎士団がいて、その騎士団の後ろ、柵越しで市民が黒い服を着て静かに祈りを捧げている。その周辺の建物は黒い布を上から垂れ流して、哀悼の意を示している。
「……」
静かに……そして厳かに行われる慰霊祭。僕たちも用意された専用のスペースで静かに祈っている。この時ばかりはお喋り好きのフィーロも静かに祈っている。
僕たちは、異世界の門がある蔵を通ってこちらに移動すると、そこにはいつもの鎧とは違い、黒い軍服のような服を着たカーターたちが待っていた。その後、カーターの案内でここまでやって来て、今に至っている。
「……」
慰霊祭が始まってから、誰も一言も喋らず、静かに亡くなった方々へ祈りを捧げている。すると、一組の騎士団が祝詞を上げ終わって誰もいない舞台へと近づいていく。その中央には長い黒いベールを被り、これまた黒いドレスで身を包んだ金髪の女の子……というよりユノがいた。騎士団と一緒に舞台近くまで来て、そこから一人で舞台上に上がる。
~♪~~♪~~♪♪
静寂にユノの歌声が響き渡る。亡くなった人たちへ捧げる鎮魂歌。亡くなった人たちが無事に神様の元へ行けるようにという祈りが籠った歌。グージャンパマでの死の考え方だが、故人と会えなくなるのは悲しいが、神様の元へ行けるめでたい……というより祝福するもの……という考え方である。それだから、日本で使うようなお悔やみの言葉は無い。だから、安らかに眠れることを願うような言葉がふさわしいとのことだった。
~♪♪~~~♪~~
響き渡る歌声。ユノの歌声はプロの歌手とも思えるほどの腕前で、死者たちために祈りを捧げてるのに、思わずその歌声に魅了されてしまう。
~♪~♪~~…………
歌い終わったユノ。拍手も喝采も無いまま、静かに舞台から降りていく。そして今度は王様が舞台上に上がってスピーチを始めるのであった。
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―慰霊祭終了後「ビシャータテア王国・王宮 会議室」―
「この度は、我が国の慰霊祭に来て頂き感謝する」
「先日の戦闘は非公式ですが参加しましたし、全くの無関係じゃないですからね……それに、ここにいる薫君が得た情報から考えて、すぐにでも話し合いをしないといけないと思いましたから……」
「僕……必要ですか?」
「「「「当たり前だ(です)!!」」」」
慰霊祭が終わった後、他の代表と一緒にこの会議室に連行される僕。ちなみにレイスは泉たちと一緒にユノとお茶をすると言って逃げた。
「……」
「何か言いたそうですけど……薫さん?」
「重役ばかりの会議室に平社員が連れて来られた気持ちなんですが……」
「そこまで緊張しているような玉では無いと思うのだが?」
王様の言う通りで、その重役全員が顔見知りなので全身がガチガチになるとかは無い。ただ、社会人時代の感覚が残っているだけである。そう……そこまでの内容だったらその程度なのだが……。
「これから世界平和に関わる会議をするんですから、しっかりお願いしますね?」
「……」
ソフィアさん。重い。内容が重すぎる……。会社のためとかまでなら問題無いが、世界規模の会議とかは勘弁して欲しい。
「大丈夫よ。そのうち慣れるわよ。来年になったら、今度は地球の各国の代表の前で演説するのかもしれないわよ?」
「え?それ本気ですか?」
「ショルディア夫人のそれはもしかしたらだな……あ、来年の国会では参考人招致として君を呼ぶからよろしくな?」
「え?待って?国会に出席しろと?」
「安心してくれ……妖狸として仮面と改造巫女服を着て出席してもらえれば……」
「性別を偽ったり、仮面を付けたままって……」
「証人喚問じゃないから問題無い」
「えーーと……」
僕は菱川総理と一緒に来た方々に、本当に大丈夫なのか目で訴える。すると、事前に打ち合わせをしたのではないかと思う位に息ぴったりで、全員が親指を立てて、問題無い。と黙って訴える。
「いいのかな……」
「それはいいから……それより報告をここでしてくれ」
「あ、はい……それでは……」
僕はレルンティシア国で起きた出来事を時系列順に話していく。レルンティシア国までの道のり、そこでの調査とブルードラゴンとの和解。さらに上空で発見した空中庭園デメテルの詳細な情報……。質問を受け付けながら話を続けた。
「……イスペリアル国には要塞エーオースがあるのか、そして飛空艇」
「でも……発見に至ってないんですよね……」
コンジャク大司教がそう言って、大きな溜息を吐く。セラさんの言う通りなら、聖カシミートゥ教会の下にあるはずなのだが……今だに発見には至っていない。
「飛空艇の発見と増産……それが無ければ、まともに空中戦を出来ないだろうしな」
「でしょうね……昔の大戦時に、日本が誇る戦艦大和も空を飛ぶ爆撃機に落とされてる以上、制空権は必須でしょうね」
「ですね……スペインの無敵艦隊がイギリス海軍に負けたように、ただ大きさと火力だけではダメですからね」
「素早さと小回り効くというのは必要ですよね」
「それと作戦だな。作戦がダメなら全てが台無しになる」
何かどうすれば戦争に勝つかどうかの話になってきている。これって話の趣旨から逸れてきている気がする……。
「対策の話ですよね?」
「うん?ああ、そうだったな……なるべく簡潔に……俺もゆっくり出来ないしな」
今回、菱川総理はお忍びでここに来ているのだ。そんなゆっくりしていられる暇は無いだろう。
「そうだったな……それで、その会議に我が国の誰かを出席させればいいのだな……」
「ええ」
「そうしたら、カシー達を出席させよう。あの二人は比良として一度、あちらの表舞台に出てるしな。それにあの二人なら、仮面を外すことになっても、あまり痛手にならないだろう」
「ありがとうございます。その代わりとして何ですが、薫の住む町にビシャータテア王国の方々が住める住居を用意しようかと思います」
「なるほど……こちらの行動がしやすいようにすると……」
「はい。ただ要望次第ではグージャンパマの各国の方々が使用してもいいように計らいますが」
「うむ……」
考え始める王様。ここで他国を出し抜くにはいい提案である。しかし、それをやってしまうとやっかみを受けるのは必至である。
「なら、ここは各国も使用できるようにして欲しい。むしろ、ユノとカーターたちが日本で住むことになっても、問題が無いように今から準備をして欲しいところだ」
「なるほど……確かにビシャータテア王国にとってはそちらの方が良さそうですね……薫君……面倒だからもう君の嫁として戸籍を作っていいかい?」
「いやいや!?未成年ですからね?」
「固いな……じゃあ、カーターは泉の夫として戸籍を作ってもいいと思うか?」
「あ、そっちは大丈夫だと思います」
王様の提案に笑顔で答える僕。この会議から逃げた泉が悪いのだ。それだから……。
ドンッ!!
すると、いきなり扉がぶち破られたんじゃないかと思うような音が起きる。僕は席から立ち上がり、恐る恐る扉の外を覗くと、怒った泉の姿が……。
「……ダメ?」
コクコク!
首を縦に振って、意思表示する泉。泉の意見が分かった所で、僕はそのまま静かに扉を閉める。
「ダメか?」
「ダメだそうです」
僕は再度、席に着席して、出されてから時間が経って、すっかり冷めてしまったお茶を飲む。
「どうして分かったのかしら?」
「たまたまかと……」
ハンカチを持っていたので、恐らくお花を摘みに行っていたのだろう。まあ、会議には関係無いからそう言っておけば問題無いだろう。
「まあ、そもそも戸籍偽造になると面倒なんだがな……」
「なら、アメリカもお手伝いします。そうすればアメリカから引っ越ししたってことに出来ますし……」
「……そうしてもらえると助かる」
「無理強いしないんですね?」
「私達はあなたたちの活動をしっかりバックアップする。そのバックアップを受けるあなたたちが嫌がる事は極力しないわよ?難しいなら、私の方で手を打とうと思ってたから」
「そうしていただけると助かったんですがショルディア夫人?」
「ふふ……それと、土地なら抑えてるから、そこに建てればいいわ。マンションを建てても迷惑にならないわよ」
「準備がお早いようで……」
「あら?もうこっちの世界の領事館があるなら、こちらの世界の領事館があちらにあってもいいと思うんだけど……違うかしら?」
「……ですね」
「ショルディア様の言う通りですね……それにしばらくは日本にしか異世界の門を設置できないでしょうし」
「だな……次はどこに置くかで、各国が睨みあってるしな」
各国が異世界の存在を知り始めた今、次の門の設置についてはかなり慎重になっている。唯一、許されているのは、既に置かれている日本だけであり、一つはグージャンパマと初めての文化交流の地である僕たちの町。そしてもう一つは首都である東京辺り。計2ヶ所は決定している。
「それで話を戻すが……当日の段取りとかをするためにカシー達を呼ぶか?今日はエリクサーの件でこちらにいるはずだしな」
「まだ詳しい内容とか決めていないのでまだいいです。それに……大仕事の前にゆっくりと温泉に浸かろうかと思っているので」
「温泉か……」
温泉なんて最近、行ってないな……。今度、レイスがお泊りするタイミングで一人旅でも……。
「それと薫君達も連れて行くので、ユノ姫とカーター君達もご一緒にどうかと?」
「それなら許可しよう。それで日にちは?」
「3日後にでも」
「分かった。そうしたら……」
「僕たちの意見も聞いて下さいよね!?」
いきなり決まった温泉旅行。再度、扉を見ると、泉がこっそりこちらを見ていて、その手は親指を立てたオッケーのサインになっているのであった。




