245話 女主人
前回のあらすじ「庭園を散歩中……」
―「空中庭園デメテル・屋敷」―
ここまで一緒に来ていたユニコーンのシエルとユニには外で待機してもらって、僕たちは両開きの扉を開けて中へと入る。そこには冒険者ギルドと同じようなカウンターと棚があって、そのカウンターの向こう側では小型のポウさんたちが慌ただしく仕事をしている。
「ポウ!!」
「ご苦労様ポウ!」
扉の近くにいる武装したポウが敬礼し、そのポウに対して労いの言葉を掛けるポウさん。そのままカウンターの方へと進んでいく。
「さっきのポウは?」
「ここの警備を担当しているポウだポウ!ここには様々な役割を持つポウ達が仕事をしているポウ!色々案内したいところだけど……まずはセラの行きたい部屋に向かうポウ!」
そして、カウンターの横にある金網状の扉を開けて、そこへ入るように催促するポウさん。
「エレベーターがあるのね。ここ」
3階建ての洋館にあるエレベーター。あっという間に一番上の3階に到着、扉をくぐりそのまま廊下に出る。窓からは日光が入り、廊下に窓枠の光の跡を映し出している。
「そうしたらこっちだポウ!」
ポウさんに導かれるまま、廊下の右奥の部屋へと案内される。
「ここだポウ!」
そう言って、ポウさんが扉を開ける。そこは貴族の女性が生活するような豪華な装飾がされていた。
「ここが目的の部屋かしら?」
「ええ……」
セラさんが一番に部屋に入り、そのまま天蓋付きのベットへと進んでいく。僕たちもその後に付いていく……すると、ベットの上に誰かが横たわっている。
「これって……セラさんだよね?」
「ええ……これもロボットかしら」
泉の問いに対して、ミリーさんがそうじゃないかと答える。そう。ベットに横たわっているのはホログラムじゃないセラさん。白のネグリジェを着て、静かに……生きている人なら当然あるだろう寝息さえ聞こえない時点で、この眠っているセラさんが人では無い事を証明している。
すると、セラさんが本体の映写機から先端に何か持った状態のままアームを伸ばす。それが眠っているセラさんの首元に触れた途端に、光りながら中へと吸い込まれていった。そして役目を終えたセラさんを映していた映写機のアームは力なくその場に崩れ、本体も機能を停止させる。
「うん……」
そして、ベットに横たわっていたセラさんが目覚めて、その体を起こす。
「うーーん……」
背筋を伸ばすセラさん。その姿はとてもロボットには見えない。
「……おお」
「はは……薫?これもあなた達の物なのかしらね?」
ミリーさんが薄っすら笑いながら突如変な事を訊いてくる。
「これもって何がですか?」
「ミリーさんの言う通りですよ。この空中庭園デメテル……そしてコッペリア達の主人であるこの私セラ……その全てが薫様と泉様の物になります」
「……え?」
「ああ……やっぱりそうなるんだね……」
「いや?薫兄?何かサラッと私も含まれているよ?」
要はお婆ちゃんの血縁の関係者であるかどうかが基準なのだろう。そうなれば当然、僕と泉になる。
「良かったわね。これだけの物があれば別の世界があるって証明できそうよ」
「そして、多くの奴らがよりこの二人に媚びを売ろうとするわけね……」
「……ハリル達に頼んで警備を厳重にしてもらうか?」
3人が僕たちの身辺警護に関して、真剣に話し合っている。まあ多分、総理とか大統領とか何だかんだ対応してくれると思うから問題無いと思うけど……。
「……とりあえず話を聞きたいんだけどいいかなセラさん?」
「分かりました……」
そう言って、ネグリジェを脱ぎ始めるセラさん……その白く陶磁器のような肌の見える範囲が次第に広くなっていく。
「えい!」
そして、僕の視界を塞ぐレイス。うん……良く分かってくれている。
「セラさん。自称男性がいるんだからダメですよ?」
「特に気にしませんよ?必要であればお相手もしますが……?」
泉?僕は生物的に男性であって自称じゃ無いからね?それにセラさん。お相手……男性のお相手……つまり、そういうことだろう……って。
「不倫!ダメ!絶対!!」
「っという事で、乙女脳の薫には不要らしいのです」
「分かりました。まあ……冗談ですけどね」
「所長である僕をからかわないで下さい!」
「ふふ。それではポウ。皆様を応接間にご案内して頂戴」
「了解だポウ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから30分後「空中庭園デメテル・屋敷 応接間」―
「……ふう。お茶が美味しいですね」
「ロボットなのに飲めるのかしら?」
「一応、エネルギーとして変換できます。けれども趣向品の意味合いの方が強いですね」
綺麗な姿勢でお茶を味わうセラさん。あの後、同階の応接室に案内された僕たちは、そこで出されたお茶とお茶菓子を頂きながらセラさんが来るのを待っていた。ちなみにお茶を持ってきたミニポウたちはメイド服や執事服などを着ていて、見た目も相まって可愛かった。
「それで……」
僕が話を切り出すと、セラさんがお茶を飲むのを止めて、その場に立ち上がった。そして頭を僕に下げる。
「今までのご無礼をお許しください。私は魔導研究所クロノス管理地域、空中庭園デメテルの女主人セラと申します。主にマクベス様にララノア様、そしてお二方の祖母であるアンジェ様のサポートをしておりました」
「女主人……」
「ええ。まあ、そういう役割と思って下さい。薫様の世界のアミューズメントパークとかにあるキャラクターごとの設定みたいな感じです」
「つまり、あなたはロボットとして主人の命令だけを忠実に守る存在ってことかしら?」
「そうですね。周りから見たら感情豊かに見えると思いますが……中はそこら辺のロボット……それこそミニポウたちと変わりません」
自分は感情の無い機械だと、淡々と話すセラさん。その表情から怒りとか不満は感じられない。確かに、ここまで僕たちを導いたセラさんは、お婆ちゃんの指示を忠実にこなした機械と言えるかもしれない。しかし……。
「僕は……そう思えないかな。だって嘘を付いたり、からかったりなんてする行為、普通は出来ないはずだもん」
「え?」
僕がそう答えると、何かに驚くセラさん。
「どうしたのです?」
「……いえ。やっぱりあなたはアンジェ様のお孫さんだな……って。アンジェ様も同じことを言ってましたよ」
「そうだったんだ……」
ほほ笑むセラさん。お婆ちゃんとセラさんがどんな関係かは分からないが、今までの事を考えるときっと親密な……それこそ仲間と呼べるような存在だったことには違いない。
「それで!私としては色々、問いただしたいことがたくさんあるんだけど?」
足を組んだ状態で尋ねるミリーさん。
「そうですね……色々あり過ぎて何から話せばいいか……」
セラさんの言う通りで、訊きたいことが色々あって困る。今のセラさんなら、この世界の過去について、そして現在、何が起こっているかも理解しているだろう。そして……魔王とは何者で、その目的も……。
「その前にアリーシャ様をお呼びしなくていいのかしら?」
「それは……そうね……」
「でしたら、エアカーゴを起動させましょう。すぐに起動できるように、ミニポウたちに指示をしておきましたから」
「それは是非とも……!」
「ああ!」
カシーさんたちが新たな未知の技術を見れると、ワクワクさせている。僕としてもここを調べてもらうための人員が必要なので一度、下に戻るのもアリだと思う。
バンッ!!
扉を勢い良く開けて入ってくるポウさん。
「大変だポウ!」
「どうしましたかポウ?」
「今、エアカーゴの調整をしてたポウたちから報告があったポウ!下の乗り場近くでドラゴンが暴れてるポウ!!」
「下……って!!?」
立ち上がって、すぐさま部屋を出て行こうとするミリーさん。
「ミリーさん!ちょっと待って下さい!ポウさん!そのドラゴンの色は?」
「ブルーだポウ!」
この前のレッドより下のブルーか。それなら何とかなるかもしれない。
「セラさん。この施設に武器はありますか?」
「1つだけ……ポウ。あの武器を持ってきてください」
「分かったポウ!」
ポウさんが部屋から先ほどと同じくらいの勢いで出て行った。
「でも……ドラゴンが何でここに?」
「例の騒動が関係しているのかしら?」
「多分……」
どんな事情でレルンティシア国に来たのかは不明だが、暴れている以上は止めなければならない。
「さっさと終わらせて、戻ってくるわよ……」
「当然だろうカシー……研究の邪魔をする奴は排除せねばな……」
カシーさんとワブーの二人から殺意の波動を感じる。止めるは止めるでも息の根を止めかねない迫力である。
「武器が届き次第、すぐに下りるから準備してちょうだい!」
「分かってますミリーさん!フィーロ。準備は大丈夫?」
「オッケーッス!レイスと薫はどうッスか?」
「いつでもいけるよ」
「バッチリなのです!」
「私はここに残ります。下の状況が落ち着き次第、エアカーゴを起動させますので」
「分かりました。それじゃあ……皆、行こう!」
部屋を後にして、屋敷の外に出る僕たち。そのまま外で待たせていたシエルたちに乗り、そして遅れてやって来たポウさんから武器をお借りしてから、再び地上へと下りていくのだった。




