241話 レルンティシア国の調査パート2
前回のあらすじ「30代美少女系おじさんの着ぐるみパジャマ……需要があるのだろうか?」
―お昼頃「レルンティシア国仮役場・モノリス周辺」―
「何も見つからなかったか……」
モノリスがある湖のほとりを歩く僕たち。2時間ほど捜索したが何も見つからず。時間も12時になりそうだったので、森での調査を切り上げ、徒歩でここまで戻って来た。ちなみに帰ってくる間も不審な物が無いか確認したが、これと言った物は見つからなかった。
「どうでしょうか……そもそも、これほどの人数がここに滞在してるのに不審な物が見当たらないとなると、捜索範囲を広げた方がいいのではないかと……」
「セラさんの言う通りなのです。でも……」
そう言って、レイスは少し遠くにあるモノリスを見る。
「アレは一体何なのです?」
全くもってレイスの言う通りである。自然に存在する物としてはいくら何でも不自然過ぎるモノリス。磨かれた様にキレイな端面でキレイな直方体。長時間置かれているはずなのに経年劣化が全く見当たらない。それなのにそれ自身も、その周辺にも原因となる物が見つからないというのは怪しすぎるし、そもそもあのモノリスがあそこに何の為にあるのかも分からない。
そんな話をしながら、モノリスの近くまでやってくると、その前でアリーシャ女王が目を瞑ったまま祈りを捧げていた。そのモノリスの下には花束が添えられている。それを見た僕は、ここが王家の墓があった場所だったのを改めて思い出した。
「お墓参りですか?」
目をパッと開けて、驚いた表情でこちらを見るアリーシャ女王。
「薫さん達でしたか……」
そう言って、アリーシャ女王はモノリスを再度見ながら話を続ける。
「ここには、私の両親……王家の墓がありました」
後ろを振り返るアリーシャ女王。見つめる先には何も無く。ただの地面が広がっている。察するに、ご両親の墓石がそこにあったのだろう。
「静かに眠れるように、お花や草木が生えていて……ガーデニング霊園と言えば伝わりますかね?」
「あ、はい。何となく……」
ガーデニング霊園とはよくある墓石だけの霊園ではなく、季節ごとに色とりどりのお花や緑があふれ、所によっては噴水などがあったりして庭園のような霊園である。今は地面がむき出しでモノリスだけになっているが、火事で焼失する前は美しい庭園が広がっていたのだろう。
「二人が亡くなって女王となって……政務で上手くいかなかったりして落ち込んだ時には、よく訪れていて……懐かしいですね」
「……今は何も無くても大切な場所なんですね」
「ええ……」
しみじみと話すアリーシャ女王。先ほどの墓参りは両親に帰ってきたことを報告と共に自分を元気づけるためのものだったのだろう。
「それで、どうでしたか?何か見つかりましたか?」
「すいません。これといった物は……」
「あれ?」
先ほどから静かにしていたレイスが声を上げたので、それに釣られて僕とアリーシャ女王はレイスの方へと振り返ると、セラさんとレイスがモノリスのある一ヶ所を見て何かを話していた。
「セラさん……これ」
「そうですね……」
「お二人共どうしたんですか?」
「今、レルンティシア国の前王様と王妃様のご冥福の為にモノリスに向かって、お祈りしてたんですが……ここを見て下さい」
レイスがある一ヶ所へと指を差す。そこには特に目立ったものは無かった。それこそ昨日、サンプルを取る際に削った跡さえも。
「確かここですよね?削った場所は……」
「確かそこだったと思うけど……」
「間違いありません。確かにそこですよ」
セラさんがはっきりと肯定する。つまり、僕たちが昨日削った後、ここの部分だけ誰にも知られずに修復されたことになる。
「これって……」
「どうやら。今も何かしらの力が働いているみたいですね……レイス。何かしらの魔力の反応とか感じる?」
「いいえ。全くなのです」
「おーーい!薫兄!!」
僕たちがモノリスを調べていると、旧王都の調査をしていた泉たちが戻って来た。
「どうしたんッスか?何か見つかったんッスか?」
「実は……」
後から来た皆にモノリスに起きた変化を話す。
「修復された……つまり、何かしらがここで起きたのは間違いないわね」
「そうだが……うーーん……」
ワブーがモノリスに手を当てて唸っている。魔力の反応が無くて困っているのだろう。
「昼食を取りながら、この後の相談をしましょう。ミリー達も戻ってくるはずでしょうし」
僕たちはとりあえず調べるのを止めて、昼食を取るために食堂へと移動するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから30分後「レルンティシア国仮役場・食堂」―
「なるほど……いい情報だねそれは」
「ええ。現在も何かしらの力が動いていて、何かがあるのは確かってことだものね」
ミリーさんとカイトさんと食堂で合流した後、昼食を取りながら僕たちは情報を共有したのだが、モノリスの傷が直った以外に新たな発見は無かった。
「でも、その力の仕組みが全然分からないわね」
「そうですね……」
皆が悩む。モノリスが怪しいのは分かっている。でも、何が起きてるのかが全く理解できないのだ。
「取っ掛かりとなるのはモノリスってのは分かってるんッスけどね……」
「そういえば、私達が来る前にどんな調査をしたんですか?」
「地中は事前に金属探知とか地中レーダーを使って調査済み。湖の中もダイバーや海中ロボットを使って調べたしな……」
「分からないわよカイト。もしかしたら、隠蔽工作のある何かしらの力が働いていてもおかしくないんだから」
「そうなんだよね……」
手に持っていたフォークを置いて、腕を組んで考えるカイトさん。しかし、いい案が思い浮かばないのだろう、その表情は優れない。
「掘るしかないかしら?」
「それは……もう少し待っていただいてもいいですか?あの周辺はお墓だったので……」
「そうだぞカシー。少しは人の心を持て」
「ワブー。少し失礼じゃないかしら?」
「言われたくないなら、少しは察してやれ……で、お前達は何か無いか?」
ワブーが先ほどから黙っていた僕たちに話を振って来た。先ほどから話を聞いて考えていたのだが……。
「私は何も……お二人は?」
セラさんに聞かれて、僕とレイスは目を合わせる。
「何よ。その反応?」
「あ、気にしないで下さいなのです」
「うん。気にしないで!」
「そう言われると気になるから話しなさいよ。皆もそうでしょ?」
ミリーさんの意見に頷く皆。いや、これは本当にくだらないことだから話したくないんだけど……。
「何でもいいから話しなよ薫兄。もしかしたらって事もあるじゃん」
「そうッスよ。レイスも躊躇わずに話すッス」
泉たちにもせっつかれる僕たち。僕たちは諦めて、そのくだらない内容を話す。
「上空なのです。周囲を調べて何も無いなら、もう上しか無いかな……って」
「それであのモノリスは停泊の目印みたいな物かなー……って」
「その根拠は?」
「無いのです。だって……」
「だよね……」
「いいからいいなさいよ!」
怒るミリーさん。だって、この考えに至った理由を聞いたら、それはそれで絶対に怒ると思うんだもん。仕方がないので僕とレイスはせーので話す。
「「ゲームのイベントシーンとそっくりだったんだもん」」
「「「「……え?」」」」
「ゲーム……ああ!あの空島に行くイベント?」
「そうそう。そういえばあれも何も無い場所にポツンとある石板を使って移動したからさ」
「ああ!あの空島での冒険は熱かったッス!主人公とヒロインの関係が……!」
「ああ!喋らないで欲しいのです!!まだ、空島に入った所なのです!」
「ゴメンゴメン!!でも、確かに似てると言えば似てるッスね」
「だよね!」
他の人たちを置いといて、泉たちとゲームの話をして笑う僕たち。ここに来る前に某RPGゲームの新シリーズをこっちに来る直前までやっていたので、ふと、そのシーンを思い出してしまったのだった。
「あんたたちね!!!!」
怒ってるミリーさん。だから、くだらないって言ったじゃないか。
「空に何かあればいくら隠蔽工作しても地面に映る影とかで分かるでしょうが!!しかもそれを昔のレルンティシア国の住民が誰も気付かなかったなんて……!!」
「それは僕たちも分かってますって。だから言いたくなかったんですよ」
「はははは!まあ、調べていないのは確かかな!」
大笑いするカイトさん。先ほどから真剣な話をしていたのに、そんな話を出されるとは思っていなかったのだろう。
「全く……」
「とりあえず、念のために調べてみてくれないか?まあ、そんな物があればの話だけどね」
「だから無いって言ってるじゃないですか。まあ、言いだしっぺなので調べますけど」
笑いながら答える僕。行き詰まってる事だし気分転換に空を飛ぶのもいいだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―昼食後「レルンティシア国仮役場・モノリス周辺」―
昼食を済ませた僕たちは再びモノリスまで来て、シエルを召喚する。ちなみにミリーさんとカイトさんが、先ほどのモノリスの件で確認するために一緒に来ていて、泉たちは再度、旧王都内を調べに戻って行った。
(今日はどうするの?)
「今日はここの上空の散歩だよ」
「なのです」
シエルの頭を撫でながら答える僕たち。
「散歩ってね……あなたたち……」
「まあまあ。そうしたら僕たちはこのモノリスを調べるとしようか」
「そうね。そうしたら……」
後ろでモノリスを見ながら、どんな調査をするか話し合う二人。
(空の散歩か……うん!楽しそう!)
「そうだね……」
(それに、何か面白そうな物が浮いてるから見てみたいし!!)
「そうか……面白い物が浮いているか……うん?」
今、シエルが何か変な事を言った気がする。
「……薫。今なんか変な事を言いませんでした?」
「えーと……シエルが面白そうな物が浮いているって……」
「そうでなのですか。面白いのが浮いているのですか……見つかって良かったのです♪」
「そうだね!」
笑う僕たち。今日は笑う事が多くていい日だな……。
「何現実逃避してるの!!私、急いで泉たちを呼び戻してくるわ!!」
「僕も行く!!三人ともちょっと待っててくれ!必要な道具を持って来るから!!」
二人が慌てて周辺の隊員も巻き込みつつ、集落へと戻って行った。
「ちなみにシエルちゃん?いつから上に何かあるって気付いていたのです?」
(え?昨日ここに来た時に、何かあるな……。って)
「ここに来た時には気付いていたみたいだね」
「それを早く言って欲しかったのです」
何か素直に喜べない僕たち。とりあえず、僕たちが捜していた何かがこうして見つかるのだった。




