23話 魔法の練習をしよう!ということでまずは異世界の門から
前回のあらすじ「空を自由に飛びたいな」
―「薫宅・母屋」―
「薫兄~! 魔法の練習しよ~!」
「居間で待っててー!」
飛翔を覚えてあれから数日。今日は僕がオフということで一緒に魔法の練習をしようとなった。
「おじゃましま~す」
「いらっしゃいなのです。フィーロ」
「うぃッス。こっちの生活はどうッス?」
「私たちの世界と同じように過ごせるので快適なのです。後、色々なことが学べて楽しいのです。文化に化学や物理学に生物学……」
「何を学んでるんだ……?」
「薫兄…何教えているのよ?」
「え? 小中学校で学ぶことを教えただけだよ。火が燃えるには酸素がいるとか、水は0℃で氷結するとか」
「「「いつの間に!?」」」
台所から居間に戻ってきた僕を見て皆が驚く。普通に歩いてるんだけどな……。
「びっくりしたのです」
「薫兄いつの間にか入るんだよね」
「そうなんッスね……って、それより泉。酸素って何なんッスか?」
「火が燃えるには酸素が必要で、その酸素は空気中に当たり前に含まれているの。私達が生きるにも必要な物で、無かったら窒息しちゃうわ」
「え。火って魔力を使って燃えているんじゃ?」
「そうじゃないみたいなのです。この世には原子というものがあってそれは原子核と電子からなっていて、さらに原子核は陽子と中性子で……」
「ちょっと待って。分からなくなってきたッス」
「学習意欲高いわね」
「フィーロは頭がいいッスよ。学園トップクラスも実は控えめの表現ッスから」
「マジ?」
「マジのマジ。よく勉強を教えてもらっていたッス」
「でも文字はどうしたの? さすがに読めないよね?」
「薫に聞いて教えてもらう感じなのです。それを自分のメモ帳にメモしてるのです」
「……こうやって、文明開化が始まっていくのね」
「それを言ったら、魔法をこっちの世界に持ち込んだ僕たちも入るんだろうけどね」
この世界の歴史を間違いなく動いている! ……はずだと思う。
「そういえば、どこで練習するの? ここら辺に人気の無い場所なんてあるかな?」
「公園や河川敷で大丈夫じゃないかな。今日は平日だから人とか少ないだろうし。監視カメラとかも無いと思うけど」
「うーん。でも全く見られてないって保証が無いんだよね……」
「家でも練習してたんッスけど、目立たないようにしていたから……あのゲームってやつのようにこう、バン! とやってみたいんッスよね」
「いやいや。それやったら大変な事になるから」
~♪~~♪
玄関のチャイムが鳴る。
「誰か来たみたいなのです?」
「か・お・る! いる~!?」
カーターたちが来たようだ……ナイスタイミング!
「はーい!」
玄関に行くとそこにはカーターとサキがいた。
「おはよう薫」
「おはようカーター、サキ」
「おはようございます」
「ああ、おはよう泉」
泉の顔が赤くなる。脈ありだもんな。肝心のカーターは気付いてないけど。
「おはようございます! サキの姉御!」
「おはようございます」
「おはよう。二人とも元気にしていたかしら?」
「「はい!!」」
「……レイス飛んでないか?」
「あの後、薫のお陰で……」
「薫が? 何したの?」
「その説明は後でするよ。それより何か用事かな?」
「今日は非番だ。まだ会議の日程も決まってないしな。単に遊びに来たのとレイスの魔法を使えるようにと思ったんだけどな」
「4人は何か支度しているけど、どこか出かけるの?」
「魔法の練習をしたいと思っていたんだけど……。こっちだと目立つからどうしようかなって」
「そうなるとこっちか?」
「うん」
「だったら異世界の門を使えるようにしときましょ。そうすれば好きなタイミングでこちらで練習できるわ」
「確かにそうッスね……それが姉御の思惑ッスもんね」
「あら。私は嘘は言ってないわよ?」
少し機嫌悪そうに言ったフィーロの言葉に対して、サキが眩しいほどの笑顔で答える。確かにサキの言う通りなのだが……。
「まあ、あたいは気にしてないッスけど。というより伝説の転移魔法を使えるようになるんッスか?」
フィーロの言った通り、僕としても新米魔法使いなのに大丈夫なのか心配である。でも交流を深めようとするなら使えるようにした方がいいのも分かっている。
「まあ、とりあえずやってみるか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「薫宅・蔵」―
「ここなんとかしないとね」
「そうだね。流石に汚れすぎだしね」
いまだに使わないガラクタが放置されている蔵内部。ここが移動の拠点になるのだから綺麗にしといた方がいいだろう。
「って、あれ?」
魔法陣が光っている? と思っていたら魔法陣が強い光を放つ。止むとそこには。
「あら。おはよう」
「なんだ、皆いたのか」
「カシーさんにワブー? どうしてここに?」
「魔法陣に鍵をかけに来たのよ」
「「鍵?」」
「ああ。他の奴が使ってここに来られたら困るからな。今のうちにかけとこうと話になってな。なんせカーター達の転移魔法陣は有名だからな。いつ使われてもおかしくない」
そう言ってミノ型の道具をポケットから取り出し魔法陣に何か新たに彫っていく。コンクリートを簡単に彫っているところからして、あれも魔道具なのだろう。
「こうすれば、薫の安全も確保されるし、私の研究対象を他の人に取られることもないしね」
「助かります!」
危ない所だった……ぞろぞろとあちらの世界の住人が来ることが無くって本当によかった。
「よかったね。女の子の一人暮らしは危険だもんね」
そう言って、泉が肩をポンと叩いてくる。
「泉……からかってる?」
「その前に、薫の場合は熟練の騎士をボコボコに出来る腕があるから大丈夫じゃないの?」
「そんなことをしたのです? でも、私が捕まった時に助けてくれたから当然なのか……」
「でもあんなチンピラじゃなくて騎士ッスよ。人は見た目によらないとは言うッスけど」
「ええ。妖艶な笑顔で相手をボコボコにするあの様はまるで悪魔だったわ……」
「ちょっと待って! あの時すごくヤバイ状況だったっていうのが抜けてるよ! というか……サキ少し笑ってない? わざと?」
「薫……」
冷めた目で、僕を見る2人。
「ちょっと待って2人とも! あの時、僕ナイフで片腕を刺されて、セクハラもされてそれできれちゃっただけで…」
「ということは片腕だけで勝ったってことじゃあ…」
「しかも男性2人に精霊1人の3人相手だったしな」
「それって魔法使いを左腕一本で笑いながら勝ったってことッスか…!?」
「いや。待って! 武器を持っていたからね僕!」
「それでも強力な魔法が使える魔法使い相手に勝つなんて……」
「セクハラするために僕を不用意に近づかせたからだよ! 運が良かっただけ! あれ? でも刺されたりしたから運が悪かったのかな……?」
「からかうのはそこまでにしとけお前ら。薫が混乱しているぞ」
女性陣に追い詰められていく僕を見て、ワブーが助け舟を出してくれた。変人って思っていたけど……実は常識人じゃないだろうか?
「とりあえず……魔法使い相手に勝ったことは間違いないッスよね?」
「ええそうよ。そこに、状況的に魔法使いが呪文を唱える暇が無いほど近くにいて、超強力な武器を所持していたっていう理由があったわ」
「「へえ~~」」
「出来たわよ」
こんなやり取りしている間に、カシーさんの作業が終わった。
「後はこれを注げばオッケーよ」
今度は、ポケットから瓶を取り出す。中には虹色に輝く液体が入っている。
「あれが「月の雫」?」
「そうだ。魔石はそもそも加工前はあんな風に虹色に光っていてな。それを液体状に加工したものを月の雫って呼ぶんだ」
それをカシーさんが彫った穴に注いでいく。
「これで完成よ」
そこには円の中に新たな図形が付け加えられていた。
「正常に起動できるか試すわよ。ワブー」
「了解」
「4人ともカシー達を見てて」
「「はいなのです(ッス)」」
カシーさんたちが中に入り、魔法陣を起動させる。光に包まれて一度消えたと思ったら、すぐにまた魔法陣内に2人が出現する。
「オッケーよ。問題無いわ」
「じゃあ、やってみるか」
という事で、「異世界の門」の呪文を……。
「じゃあ、行きます!」
泉たちが一番にやることになった。
「門を開けてその中に入るイメージしてね。門はどんな形でもいいから」
「じゃあこんな形のイメージで」
スマホで門の写真をフィーロに見せている。
「了解ッス。じゃあいくッスよ」
「「「異世界の門」!」」
泉たちが魔法陣内で呪文を唱えると、光に包まれて消えていった。
「成功……でいいのです?」
「……多分」
成功したかどうかが確認できないのが痛いなこれ。
「僕たちもやってみようか」
「は、はいなのです」
「門のイメージはどうしようか?」
同じようにスマホから写真を見せる。
「えーと。あ、これがいいのです」
写真を見ると鉄格子に薔薇の蔓が巻きついている写真というより絵だった。特に異論は無いのでこれでいく。
「分かった。じゃあいくよ」
「「異世界の門!!」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「ビシャータテア王国・カーター邸宅庭」―
僕たちを包む光が徐々に止んでいく。目の前にはあの庭が広がり泉たちの姿も確認できた。少しその場から離れて魔法陣が設置されている建物をみると、前に来た時に見たあのガゼボで間違いなかった。
「薫兄達も成功したみたいね」
「……そうだね」
―特殊魔法「異世界の門」を覚えた!―
効果:特定の魔法陣から異世界へ行けます。ちなみにこの魔法陣は言語翻訳機能付きです。どうしてこんな物が自宅にあるかは自分で調べましょう。
ガゼボを見ていると中に設置されている魔法陣が光出す。そして光が止むとそこにはカーターたちがいた。
「皆、無事に来れたみたいね」
「そのようね。とりあえずこれでだれかれ構わずに来るということが無いから安心して。まあ、もし誰か来てしまったら私達やカーター達にすぐに知らせて頂戴」
「分かった。ありがとうカシーさんワブー」
「よし。そしたら4人が言ってた魔法の練習でもするか」
「どこでやるの?」
「ここでやる。あっちに俺達用に練習の場所を設けているからそこでやろうか」
ということでそこへ全員が移動する……って、あれ?
「カシーさんたちも?」
「魔法が使えない精霊の子がいたって話だったけど、どうやって治したのか聞きたいのよ」
「ああ。なるほど」
移動しながらレイスの病気について説明した。
「へえ~。そのような病気があるのね」
「うん。でもここまで効果があったのはフィーロと旅していたからだと思う。ただの小説家の付け焼き刃のカウンセリングでこうはならないはずだから」
「そうなんッスか?」
「旅の中で色々な人や物に出会って、きっと心の変化が既にあったんだと思う。僕は最後のひと押ししただけかな」
「謙遜しなくていいんじゃないの?」
「だって……一番の功労者はフィーロだもん」
「それもそうか」
僕とレイスは笑顔でフィーロを見る。それに気づいたフィーロは気恥ずかしさを紛らわすために、頭を掻きながらそっぽを向いてしまった。
「ありがとうなのですフィーロ」
「えーと…どういたしましてッス」
レイスにお礼を言われて、さらに気恥ずかしくなったフィーロ。僕たちに顔を見られないように手で顔を隠してしまった。
「人の精神が起こす体の不調か……。前にも聞いていたがなるほどな」
「前にも話したけど人の心って強いようで弱いからね」
「スメルツ達の研究内容が更に増えたわね」
「本当にあちらの世界は未知で一杯だな」
「お二人とも。私からしたらこっちの方が未知なんですけど?」
泉の言う通り、精霊と契約するだけで魔法が使えるなんてどんな仕組みだろうか。というか魔力ってそもそも何?って話である。
そんな会話しながらしばらく歩くと広場に出る。ちょうど屋敷の裏側の位置にあり、幾つかの的がある。そして的の所に誰か立っている。
「おや? これはこれはようこそおいで下さいました」
執事さんだった。どうやら的の整備しているみたいだ。
「爺すまないな」
「いえいえ。これも執事としての務めですから。それで魔法の稽古ですか?」
「ああ。あの4人の練習だ」
「それはそれは。丁度整備が終わったところですよ」
「助かるよ」
「いえ。そうしましたら、私は邸宅内で仕事をしていますので何かあったらお呼び下さい」
「ありがとうございます。執事さん」
僕たちは執事さんに頭を下げてお礼を言う。
「ありがとうございます。それでは、ごゆっくりどうぞ」
執事さんそう言ってはその場を去っていった。
「それじゃあ4人とも練習やってみるか!」




