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238話 お昼休憩

前回のあらすじ「ミリーさんは大食いキャラです」

―飛び始めてから1時間ほど「レルンティシア国 山岳付近の上空」―


「えーと……目印は……」


「見当たりませんね……」


 人目に付かない空の上なので、セラさんをアイテムボックスから出して上げて、今一緒にフラッグを探してもらっている。


「見つからないね……どうしよう。ここも北の方向に進む?」


「それしか無さそうね……」


 飛び始めてからおよそ一時間。途中の山岳地帯まで来たのだが、先遣隊が用意したフラッグが見当たらない。


「山間で天候も変わりやすいだろうし、吹き飛ばされたのかもね」


「だろうな……ここまで来るまでにも、間隔的にフラッグがあるであろう場所に無かったり、ポールが倒れていたりしてたしな」


 今回の道中は順調とは言えなかった。なんせ用意された道標は魔獣の被害に遭ったのか倒れていたり、今のように無かったりして、ほぼコンパス頼みになっている。


「うーん……一度、町に戻るのです?」


「いや。もっと進んでも問題ないと思うよ。方角とかならユニコーンの二人がしっかり分かるみたいだから」


(そうそう。何となくの感覚で分かるから問題無いよ?)


 そう答えるシエル。どうやらユニコーンの二人には渡り鳥のように方角を判断できる機能が備わっているらしい。


「シエル。あの町から出てどの位ズレてるかって分かる?」


(ちょっと西側にズレてるよ。少し東側に修正した方がいいかも)


「それでお願い。それでもう少し進んだら休憩しようと思うんだけど……皆はどう?」


「うちらはそれでいいッスよ」


「じゃあ……もう少し進んでみようか」


 そして、山岳地帯をとりあえず北へと進んでいく。山岳地帯はすでに雪が積もっていて、また天候もいいとは言えない。少ししたら雪が降るのではないかと思ってしまうような黒い曇り空だった。


「薫様。とりあえずここは抜け切ってからフラッグを探しましょう。このままだと吹雪に当たるかもしれません」


「セラさんの言う通りかも」


「だね。シエル、ユニ、一気に抜けよう」


(りょーかーい)


 天候が荒れる前に、僕たちは山岳地帯を一気に抜けていく。山岳地帯を無事に抜けると、そこには葉を枯らした森林地帯が再び広がる。


「あ!あそこ!」


 泉が指を差す。その先を見ると、森には不似合いな煙が上っていた。


「誰か火を焚いてるのかしら?」


「あんな煙が出てるならそうだろうね……」


 僕たちはゆっくりとそこへ下りていく。そこにはグージャンパマではまず見ることが無い防弾チョッキと小銃を装備している人がいる。すると、あちらも気付いたのだろう。手を大きくこちらに振っている。


「薫さんたちですね?」


 敬礼して挨拶する一人の隊員。その後ろには同じような装備をした隊員たちがいた。


「そうです。この部隊は?」


「レルンティシア国先遣隊のメンバーです。ただいま、この辺りの調査をしてました。皆さんはモノリスの調査ですよね?」


「そうなんですけど……目印のフラッグが見当たらなくて……」


「実は昨日、この辺り一帯の天気が荒れまして……」


 道理で見当たらない訳だ。コーガの町ではそんな話は全く無かったのだ。どうやら通って来た山岳地帯の前後で天気に大きな差があるみたいだ。


「恐らく、この先のフラッグも倒れてる可能性があるので、方位磁石で北東方向に進んで下さい。我々だと1日ほどかかる行程も、皆さんなら1時間ほどで行けると思います」


「ありがとうございます」


 ぐう~う~……。


「……」


 隊員さんと僕の会話中に謎の音が聞こえた。


「フィーロ?」


「あはは……お腹が空いたッスね……!」


「精霊のお腹の音って聞こえるものなんですね……」


 隊員さんの素直な感想に対して僕も同じことを思った。小さな体からどうすれば……。とりあえず空気を読まないフィーロのお腹の音、時計を確認するとちょうど12時を差していた。実に正確な腹時計をフィーロは持っているようだ。


「この辺りで昼食にしようか……皆さんもどうですか?」


「え?ありがたいですけど……よろしいですか?」


「基本的に多めに作ってるんで、それに……無くなったら作ればいいので」


 材料はアイテムボックスにあるので、食べたければまた作ればいいので問題無い。


「それじゃあ、買ったパンをトーストして……作ってあるビーフシチューを温めればいいんだよね」


「そうだよ」


 僕はシエルから下りて、いつものキャンピングシンクを取り出す。


「泉。椅子と机を出してくれないかな?」


「りょーかい」


 同じくユニから下りた泉が、食事する為に椅子と机を自分のアイテムボックスから取り出してセッティングしていく。レイスとフィーロは僕の準備のお手伝い、その間カシーさんたちは先遣隊の人と情報交換をしている。


「そういえばどうしてビーフシチューなの?食べやすいサンドイッチとかおにぎりとか……他にもあったような気が……」


「それは……」


 そう。このような移動が多いクエストの時は、泉の言う通りでいつもは手頃で食べやすい物を用意するのだ。それなのにどうしてビーフシチューなどという凝ったものでかつ食器類が必要な物を用意したかというと。


「テレビでやっていたビーフシチュー……美味しそうだったのです……」


「だよね……」


 単純にニュースの特集で、ビーフシチューの名店紹介をしていて無性に僕たちが食べたくなったからである。そこに深い理由など無い。


「何か意外かも……」


「そう?意外に僕が用意する料理って自分が食べたい物を作ってるよ?まあ、この頃寒さが厳しくなってきたから温かい料理が食べたいなって思っていたけど」


「まあ、美味しそうな料理が食べれるなら問題無いッス!」


 温め直しているビーフシチューから、デミグラスソースのいい香りが周囲に充満する。ちなみにこの匂いを嗅ぎつけて魔獣や野生動物がここに集まらないように防臭の魔道具を使ってるので、広範囲にこの匂いが広まる事は無い。


「うん。キレイに焼けたね」


 泉が焼いていたパンをお皿に盛りつける。その面には網の焼き目がキレイに付いていてデミグラスソースに負けない小麦の芳ばしい香りが漂ってくる。その香りに釣られてカシーさんたちと先遣隊の方々がこちらに寄ってくる。


「今回は大当たりだな」


「調査中はこんな料理にありつねえからな」


 先遣隊の人たちからそんな声が上がる。すると一緒に聞いていた泉が料理をその二人に出したタイミングである質問をする。


「料理とか作らないんですか?」


「こんな風に少人数で行動するときはしないな。それにこの世界は魔獣も出るんだ。しっかり見張らないと死が待ち構えてるしな」


「ああ。確かに私達もドレイクと戦闘した後は……」


「いや。魔獣の危険度が桁違いだからな!?そんなのとも戦ってるのか?」


「魔法使いというのはこんな物だよ。私達の火器じゃ相手にするには難しい相手を普通に一蹴。この前のスパイダーの戦いなんて、私達なら完全に撤退でしょ……」


 女性の隊員さんがパンをビーフシチューに付けながら答える。菱川総理も国内でミサイル攻撃をする一歩手前だったと言ってたくらいの相手なのだから通常の装備では勝てる相手ではない。


「あれはそこにいる薫兄達だから出来た芸当で、私達じゃ無理ですね」


「僕たちも賭けだったけどね」


「黒装雷霆・麒麟を全力で使ったのはアレが始めてだったのです」


「それは私達も気になるわね」


 カシーさんたちが話に混じって来た。


「あの進化型って私達も使えるのかしら?」


「うーーん……僕たちの場合は鵺があるからあんな使い方が出来た感じなので……泉たちはどう?練習してるよね?」


「してるッスよね泉」


「フィーロの言う通りでやってるよ。私たちの場合は黒の魔石の力を使ってセイレーンの衣装を変える感じかな」


「衣装を……変える?どういう事かしら?」


 カシーさんが食べる手を休めて興味津々に訊く。


「黒の魔石の魔法強化って、一発一発に黒の魔石の力を込める感じじゃないですか。でも、召喚魔法にそれを施すとなるとかなり重労働で精神的な疲労も馬鹿にならないじゃないですか。だったら、それを繰り出す大本を強化するイメージの方が楽なんですよね」


「ほほ……でも、それが衣装チェンジとどういう関係があるんだ?」


 今度は手帳にメモしてるワブーが尋ねる。それを泉の代わりにフィーロが答える。


「うちらの装備と同じッスよ。装備することで魔法の威力を強化したり、自分たちへの精神的な負担を減らしたりするって事をそのままそっくり召喚魔法にしてやる感じッス。そこにうちらはゲームの知識が加わってるッスからよりイメージしやすいんッスよね……ステータス画面って便利ッス」


 カシーさんたちは良く分からないという表情を浮かべる。先行部隊の隊員も一人を除いて首を傾げている。唯一理解出来ていそうな隊員さんはきっとRPG系の育成型のゲームをやったことがあるに違いない。


「ああ……そういう感じで強化するっていうのもアリなのですね」


「その強化方法は守鶴に施してみよかな……」


 僕たちの魔法はイメージの仕方と工夫でいくらでも強化できることを改めて感じた内容だった。


「って……うちらも食べるッス。お腹が空いたッスよ……」


「そうだったね。私達も食べようか」


 話に夢中になってて、食事をしていなかった僕たちは、ひとまず話をそこで切って、自分たちの分のお昼を用意するのだった。

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