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237話 国境の町コーガ

前回のあらすじ「ミッションスタンバイ……」

―祝勝会から3日後の朝「ソーナ王国・国境線のある町 コーガ」―


「ここがソーナ王国とレルンティシア国の国境がある街か……何か牧歌が似合いそうな町だね」


「この先には他の町が無いの。だから、ここが終点……それだから行商する商人もここまで来たら引き返すしかないのと、ここの名産は麦で他の町でも取れるから人の往来が少ないのよ」


「でも、錆びれているというより、のどかな雰囲気でいいですね」


「あ、美味しそうなパンが売ってるのです」


「焼きたてッスね」


「1つ買ってみる?」


「あなた達……これから任務でしょ?」


 コーガの町をのんびりと歩き買い物もしながら目的地まで進む僕たち。クロノスに用意されていた転移魔法陣を使って、ここの領主邸に到着。そこからレルンティシア国の調査隊の拠点にしている場所まで移動している最中である。今回のメンバーは僕たちと泉たちにカシーさんたち。ミリーさんやカイトさんもいるが例のモノリスまで飛んでいくのは僕たちだけである。ちなみにセラさんも一緒なのだが、ホログラム映像など見たことの無いここの住人をびっくりさせないために現在アイテムボックスにて待機中である。


「何か焼きたてのパンのいい匂いがしちゃって……」


「それは分からなくもないけど……」


「ミリーだってよくここで買い食い。しかも大量に……ふべ!?」


 ミリーさんの秘密を暴露したカイトさんが宙を舞った。女性の秘密を暴露すればどうなるか予想出来たはずだろうに……。


「それじゃあ買うのです!ミリーさんの分も!」


「うっ!」


「そうッスね!それが良いッス!ミリーの為にも!」


「ぐはっ!」


 執拗にミリーさんの名前を出すレイスとフィーロ。そしてそのまま近くのパン屋に入ってしまったので、僕たちもその後に続いてパン屋へと入る。中を覗くと、丸くて黒いのが特徴的なドイツパンみたいなものが売られていた。また、プレッツエルにカイザーゼンメルのようなパンも置かれている。


「おお!これってライ麦パンかな?」


「それに近い味だったわね」


「そうしたら何個か買って、サンドイッチにしたり、作ってきたビーフシチューに付けたりして食べようか」


「おお!いいッスね!!おばさーん!これ5つ下さいッス!」


 フィーロが店員のおばさんに注文してライ麦パンを5つ。さらにレイスと泉が他のパンも買い込んでいく……今日のうちに全部食べる気かな?


「今日のお昼は期待できそうね」


「だな」


「あなた達ね……」


「まあまあ……お代はこれで」


 僕はもう一人のお会計を担当している店員に銅貨で先に支払いをする。


「はいはい……それでミリーちゃんは買わなくていいのかい?」


「あ……後で買い来ますね」


 ……ここのすっかり常連であるミリーさんが店員さんに名前を呼ばれて恥ずかしそうな顔をするのだった。


「そうしたら……すいません。ミリーさんがいつも買っているパンも追加でお願いします」


「あなた!からかってるでしょ!?」


 そういうつもりは僕には無いのだが……。そんな事を思いつつ、僕はミリーさんの分であるパン5個が入ってる紙袋を受け取るのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「ソーナ王国・国境線のある町 コーガ 調査隊の拠点」―


「ここからフライトだね」


 テントでいつもの巫女服に着替え終わった僕たち……。


「おお~~……ジャパニーズエクソシスト!ビューティフール!!」


「こっち男よ?」


「ノー~~~~!!」


 一人の男性が頭を押さえて雄たけびを上げる。何やってんだか……。


「薫兄これ」


 すると、畳まれた服を手渡してくる泉。それを手に取り広げるとピンク色の花を拵えた淡いクリーム色の長羽織だった。


「この格好だと寒いからね。ちゃんと防寒具を用意したよ!」


 うん。泉たちが作った服だから性能は問題無いだろう。しかし……。


「ねえ?もっと男性的な……」


「もう一つはこれッスよ?」


 フィーロがそう言うと、泉がもう一つの長羽織を広げる。こちらは花に加えて蝶々もあしらえた桃色の長羽織……。


「他には?」


「私がどちらを着てもいいように考えた柄だから無いよ?そうそう!レイスの分の防寒具と手袋もあるから装備してね!それとカシーさんとワブーにも……」


 レイスの防寒具と手袋を手渡しした後、そのまま僕の意見を聞かないようにするためか、そのままカシーさん達の方を向いてしまう。


「着ないのです?」


「……」


 僕は諦めて無言のままそれを着る。見た目は女物で納得できないが、その性能はしっかりしていて、軽くて動きやすく、しかも温かくて実にいい物だった。その後、皆の準備が出来た所でカイトさんが他の隊員も集めて今回の計画の説明を始める。


「今日の予定だが、薫達にモノリスまで飛んでいってもらい。到着後、賢者であるカシー達が転移魔法陣を設置。魔法陣の無事を確認出来たらアイテムボックスを使って資材を運び込むところまでやるぞ……質問が無ければ各自、作業を始めてくれ。」


「了解!」


 隊員の人たちが散開する。これからアイテムボックスに優先して運び込む荷物を入れる作業をするのだろう。


「薫兄!いこう!」


「遅くなると大変ッス!」


「分かってるって……それじゃあ、二人共」


「気を付けなさいよ?」


「頼んだよ。それと行くまでの道標として、調査隊が設置したフラッグが上からでも見えるように設置してるから、それを頼りにしてくれ。もしフラッグが見当たらなかった場合は、この方位磁石で北の方へ進んでくれ」


「うん……?それってつまり北に進めばいいのではないか?」


「真北って訳じゃなくてね。少しだけズレるんだ。だから先遣隊のフラッグを頼りにした方がいいんだが……ただ途中で山を2つほど越えるから、その辺りのフラッグが風で吹き飛ばされてる可能性が高いし、置いてある目印のフラッグが魔獣によって壊されてる可能性があるしね」


「分かりました。それじゃあ……行ってきます」


 僕たちシエルを呼んで、その背中に乗って澄んだ寒空へと飛び立つ。カシーさんも泉たちが呼んだユニに乗って一緒に僕たちの隣を飛んでいる。さらにその下を覗くとレルンティシア国とソーナ王国の国境線になっている大きな川が見える。


「そういえば……薫兄?私達さ。転移魔法陣を使って移動すれば良かったんじゃないの?確か前にミリーさんが話してた通りだと、転移魔法陣を使ってあの町を起点に行って戻ってを繰り返したんだよね?それなら町にあるはずの転移魔法陣を使えば……」


「実はもう一つ、確かめたいことがあって飛んでいくのよ」


 泉の後ろにいたカシーさんが替わりに泉の気になったことを説明する。


「転移魔法陣って、私達、魔法使いが必要でしょ。それでレルンティシア国の技術で電気で発動させる技術もあるけど、大規模な発電施設が必要なのは分かるわよね?それら二つを持続的に運用するのは難しいってことで、乗り物を使って運ぶことになったのだけど……そこでまず空輸の疑似的実験して安全性を確かめるに事にしたのよ」


「空輸って……飛行機なんかを設置するんですか?」


「ええ。あの先ほどの拠点に設置するらしいわよ。確か……ホームなんとかっていう……」


「ホームビルト機ですね。加工済みの部品を持ち運んで作るやつですよね」


「そうそう。それよ。それなら薫達の世界で加工して、細かい調整だけこちらでするように出来るからって」


「それと……飛行艇の実験もするそうだ」


「飛行艇……って造ってるんですか?」


「造船技術が高いアオライ王国で側は造ってる。後は内部の機関はクロノスで研究中だな。それぞれ新型の転移魔法陣を使えばここまで輸送できると判断している」


 新型の転移魔法陣とはグリフォンの涙を使った魔法陣の総称である。これも実験中で、当初の予定である地球とグージャンパマを行き来する魔法陣増設の為に、今は笹木クリエイティブカンパニーの秘密地下施設へ繋がる魔法陣がクロノスに設置されている。今のところ転移には成功していないようだが……。


 その代わりにその研究の中で新たに出来た技術として、送りたい物に転移魔法陣を描いて、それだけを転送する方法が発見された。例えばダンボールに荷物を入れて、それだけを対象の転移魔法陣まで送る事が出来るという物である。これの利点は何と言っても大きいサイズを送れるという事だ。今までは魔法陣内に入る物限定だったが、この方法で送る物のサイズ上限は今の所は無く、設置されている魔法陣の周囲に迷惑が掛からない程度で大きい物を送れるようになったのだ。ただし、それを実現するには貴重なグリフォンの涙を使用した月の雫(ムーンティア)でないといけないという欠点があるので多用するのは難しいという事だ。


「飛空艇……乗ってみたいな……」


ヒヒン!?


 泉のユニコーンであるユニが驚きの声を上げて、泉たちの方を見ている。今の鳴き声は、僕って不要なの!?って言ったのかもしれない。慌てて泉とフィーロがユニの頭を撫でてなだめている。


(薫もそう思ってるの!?)


 シエルもこちらを向いて僕に問いかけてくる。


「乗りたいけど……でも、やっぱり小回りに移動速度があるシエルの方がいいかな」


「ケースバイケースなのです」


(ケースバイケース……そ、そんな……私っていうものがありながら……)


「どこでそんな言葉を覚えたの?」


 そんな男の浮気に対して、女性が言いそうな言葉をどこでシエルは覚えたのか疑問に思いつつ、僕たちはフラッグを頼りにひたすら北へと進むのであった。

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