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234話 オーバータイム

前回のあらすじ「人間で干物を作った(一命は取り留めた模様)」


*今週の金曜はお休みです。来週以降は通常通りの予定なのでよろしくお願いいたします。

―「県内スタジアム・スタンド内泉視点」―


「はい……それは良かったです。ええ伝えておきますね」


 ソフィアさんが笑顔で電話を切る。


「大輔選手は無事だったんですか?」


「はい。今こっちに全速力で向かってるってことです」


「良かった……後は試合に間に合うかどうかですね……」


「薫達なら問題無いだろう。どうせユニコーンで飛んでるだろうしな。むしろ……」


「首謀者の黒後は捕まったのかしら?」


 カーターさん達が一番重要な事を質問する。その黒後が捕まらないと安心とは言えないだろう。


「……いいえ。黒後はその場には居なかったそうです」


「……そうか」


 カーターさんとサキは再び辺りの確認に戻る。先ほどまでは目で普通に確認してたが今は直哉さん達から双眼鏡を借りている。ちなみに精霊もあった方が試合観戦しやすいだろうと小さいのも用意してくれていた。


「まあ、黒後という男はここには来ないだろう。そんな身を危険に晒す理由も無いだろうし……それに、何らかの妨害をするなら誰かに依頼するだろうな」


「それは無理ですよ。何せここには元々いる警備員に加えて警察に我々の組織……さらに自衛隊、米軍関係者もこっそりいますから」


「ああ……だから、何か場違いな奴らがちらほらいるのか」


「そんなの良く分かりますね」


「職業柄だ……そういえば黒後ってどんな姿の奴だ?」


「え?知らないで辺りを警戒してたんですか?」


「うーん……それでも怪しい奴は素振りで分かるのよ……」


 サキが困ったような表情をしている。カーターさんも同じように渋った顔をしている。


「サキの言う通りで、さっきまでは良かったんだが……警備してる奴らが増えて判断しづらくなった」


「ああ……確かに。私の知っている人も中にいますね」


 梢さんと私はそれを聞いて、辺りを見回すが……分からない。


「フィーロ……分かる?」


「分からないッスよ。サキの姐さんみたいにプロじゃないッスから」


「まあ、そうだよね……」


 あからさまに怪しい奴はいないように見える。ユノも分からないと首を横に振っている。


「全然、分からない……」


「例えば……あそこの男性。双眼鏡を観客席に短い間隔で何度も向けている。普通なら選手と呼ばれる人を見るもんじゃないのか?」


「あの人は私の知り合いですね」


「それと……あの手すりに立っている女性も恐らくこちらの関係者だろう。誰かを待っているような素振りをして上手く紛れているが、時間が長い。こっちの世界にはスマホが普及しているんだ。連絡の一つくらいはしてもいいだろう」


「なるほど。そう言われれば……ってアレ?」


 私は席から離れて、その人物へと近づく。そして、その人を連れて席まで戻ってくる。


「皆さんここにいたんですね」


「あ、楓さんでしたか」


「本当ッスね」


「私も分からなかったよ。帽子を被って、化粧もあの時とは全然違うから別人かと思ったもの」


 手すりの近くで見張っていたのは警察官の楓さんだった。制服姿の彼女はがっつりとしたメイクはしていなかったのだが、今回はしっかりメイクをしていて、服装も違和感のない範囲でだが胸の谷間が見える格好をしている。


「警察官とは思われない姿を心掛けてましたからね。少し今回はやり過ぎた感はあるんですが……」


 そう言って、頬を赤くする楓さん。私達に言われるまでは気にならなかったようだ。


「それで……怪しい人物はいましたか?」


「実は、いる事はいるんですが……同じように見張りの人が多くて分別がつかないんですよね。私と同じ警察官は分かるんですが」


「うーん。それはチョット誤算でした。少し減らした方がいいですね」


「そうですね……って、こちらの方……あれ?この方ってアメリカ大使のソフィア……?」


「自己紹介が遅れましたね。ソフィア・ウィリアムです。今回はアメリカ大使ではなく、護衛として仕事をしてますが……ご内密に」


「は、はい……何か大使だったり、お姫様だったり……この頃、お偉いさんとよく会う気がしますね……」


「そう固くならずに……一緒にここを守る仲間としてお願いします」


「はい。こちらこそ……敬礼はマズいので簡単な挨拶で失礼します」


 楓さんが頭を下げる。二人が自己紹介を終えると、警備にやり取りについて相談を始めた。私は会話から外れて再度周囲を見渡す……。


「カーターさんとサキって凄いよね……この状況でそこまで分かるなんて……」


「何度も言うが職業病だから気にするな……」


「そうそう……あ、あの男もそうかしら?」


「どいつだ?」


「右側……黒い厚手のコートを着てサングラスをかけてる奴」


「うん?……ああ、あいつか。時計を何度も確認してる奴か?」


「そうそう」


 双眼鏡で遠くを見ながら確認する二人。


「鋭い目で細い顔……そして右頬にあるほくろ」


「ああ。やっぱりそうか……」


「え!?」


 すると驚いた声を上げてソフィアさんがこちらを見る。


「ちょ、ちょっと双眼鏡!貸してください!」


「え……ああ」


 カーターさんが慌てるソフィアさんに自分が使っていた双眼鏡を渡す。 


「どこです!?」


「あそこだ。右側の中間ぐらいに……」


 指を差して教えるカーターさん。すると、ソフィアさんが双眼鏡から目を離してスマホ画面を眺め、また双眼鏡を見る。そんな行動を2回繰り返す。すると、今度は慌てて無線マイクを取り出した。


「ターゲットである黒後を発見!対象はアウェーゴール側の中間……今、階段を上がっているわ!服装は黒の厚手のコートに眼鏡をしている!大至急、向かって下さい!!」


「私、いきます!」


「お願いします!」


 楓さんが黒後を捕えるために慌ててこの場を離れる。


「あいつが黒後だったのか」


「ええそうです!まさか、スタジアム内にいるなんて好都合です……が、どうしてここに?」


「そうだな……」


 どうしてここにいるのか怪しい首謀者の黒後。先ほどのカーターさんの説明通りならここにいない方がいいのだろう。


「どうします?私達も……」


「そうだな……」


「ねえ!!あれ!!」


 私とカーターさんの会話を遮って一人の女性が上空に指を向ける。それを皮切りに他の人々も上を見上げて、その何かを確認して声を上げる。何となくそれが何かを察しつつ、私とカーターさんも上を見上げる。


「お。もう来たのか速かったなアイツ」


 直哉さんがそう言ってるのが聞こえた。さっき向かっていると聞いていたが……。


「妖狸だーー!?」


 スタジアム内で驚きの声が響く中で、薫兄が大輔さんと奥さんを連れてグランドに下りてくるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「県内スタジアム・グランド内」―


「着いたぞ」


「ぜえぜえ……死ぬかと思った……」


 大輔が四つ這いになりながら、声を整えている。試合直前だったのでグランド内に直接下りたのだが……スタジアムからの妖狸コールが凄い。長居は無用だな……。


「情けないな」


「てめぇ!縄一つでジェットコースター……いや、横スライダーバンジーをしてるんだぞこっちは!?恐怖に決まってるわ!!」


 勢いよく立ち上がり僕にツッコむ大輔。


「妾などすぐに空を飛ぶのには慣れたというのに……ほれ。お主も下りるのだ」


「あ、はい」


 美咲さんも大輔の手を借りながらグランドに下りてもらいこれにて救出作戦は終了となる。


「あ、あの……」


 数名が僕の周りに近づいて、声を掛けてくる。


「監督……」


「おお。いなくなったから心配してたんだぞ!それで一体何が!?」


「試合を邪魔する悪い奴を成敗したのです」

 

「それで、被害者であるこの二人を急いでここまで連れて来ただけだ……試合はまだであろう……そうだな審判?」


「は、はい……そうです」


「そうしたら、妾たちは失礼するとしよう」


「なのです」


「チョット待て!」


 あまり長居したくないので飛び去ろうとすると、大輔が僕たちを呼び止める。


「なんだ?」


「試合を見て行かないのか?」


「見るが……妾にここまでの労働をさせたのだ……勝たないと承知しないぞ」


「ああ。任せとけ!」


「あの……主人共々助けていただきありがとうございました!」


「何……気にするな。それでは……」


~♪~~♪


「妖狸……鳴ってるのです」


「ああ」


 僕はMT-01をポーチから手に取る。この通信機もそうだがスマホなどはアイテムボックスに入れたら当然、連絡出来ないので、今の衣装に違和感の無いポーチが泉たちによって用意されたのでそこに入れている。


「相手は……」


 メールの宛名はソフィアさんの名前が表示されている。僕はそのメールを開いて中を確認する。


「……」


 僕はアウェーのゴール側のスタンドを確認する。


「すまない。ちょっと荒立てるぞ……どうやら首謀者がのこのこと来たようだからな」


「何!?」


「捕まえるのは任せて、さっさと試合の準備をしろ……いいな?」


「……ああ!頼んだぞ!」


 大輔はそう言って、親指を立てる。


「シエル!」


「ヒヒーン!!」


 その場から勢いよく飛び立つ僕たち。そしてアウェーのゴール側へと向かう。


「どいつなのです?」


「あそこ!黒い服装で眼鏡を掛けている細顔の男だ!」


「(あいつの近くに下りるよ!!)」


 シエルがメールに表記された特徴に似ている男の近くへと下りる。


「キサマがこの事件の首謀者だな?」


「なっ!?」


「スポーツの勝敗を賭けに大金を稼ぎ……時には金のために殺害を辞さないその腐った根性……ここで成敗させてもらう!これ以上ヘルメスの好き勝手にはさせぬぞ!」


 観客からどよめきの声が起きる。男は周囲を見渡し逃げようとする。


「どけーー!!」


 ここから逃亡しようとして、近くにいた帽子を被り、胸元を見せる服装をした女性に目掛けて突っ込む……が。


「はあーー!!」


 その女性は首謀者の男をなんと豪快にも投げ飛ばして、地面に叩きつけた……って楓さん?


「お前か……どうしてここに?」


「ヘルメスの関係者がここにいるって聞いたので大勢の警察官で見張っていたんです!」


「くっ……!」


「黒後 望!お前を賭博場開帳等図利罪、さらにヘルメスへの送金疑惑の容疑で逮捕する!」


 すると、さらにそこへ楓さんが先輩と呼んでいる男性が私服姿で現れて黒後の罪状を読み上げ逮捕しようと近づいてくる。


「……ここまでか」


 すると、黒後がポケットから例の注射器を取り出す。


「マズい……!?」


 今、僕と黒後の間には楓さんがいて、ここで魔法を放つと楓さんに当たってしまう!その楓さんも黒後に近づこうとするが間に合うかどうか怪しい……その間にも黒後が自分の首に注射器を……。


「えい!」


 その黒後の近くに現れる小さな人型。その人型が両手を前にして炎を発生させて注射器を持つ黒後の手に小さな炎の球を当てる。


「ぐあっ!?」


 手を火に焼かれた驚きで注射器を落とそうとする黒後。それを楓さんが地面にぶつかる前にキャッチする。


「呪縛!」


 楓さんの体が注射器をキャッチする際に射線から外れたタイミングで魔法を発動させて黒後を押さえ付ける。


「逮捕ーー!!」


 そのまま楓さんに先輩と呼ばれている警察官が近づき手錠を掛ける。他の警察官、それと他の組織の方々が集まり黒後を急いで連行していく。


「くそーーーー!」


 断末魔を上げる黒後。楓さんがこちらに振り返り会釈すると、黒い液体が入ったままの注射器を持って、そのまま黒後の連行へと向かった。


「お疲れ妖狸!」


「助かったぞサキ。危うくここであのバケモノと戦闘することになっていた」


「気にしないの!」


「二人共!いくのですよ!!」


 レイスの言う通りで、周りには観客が大勢いる。これ以上目立つのは嫌なので僕たちはサキを連れてその場を急いで離れるのだった。


―クエスト「私をスタジアムまで連れてって!」クリア!―

報酬:無事に試合開催、黒い液体の入った注射器  

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