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231話 2部リーグ最終戦直前のお話

前回のあらすじ「薫は伝えただけ」

―2部リーグ最終戦 当日「県内ホームスタジアム・周辺」―


「ここでサッカーというスポーツの試合が行われるんですね……」


「そうですよ!そして、ついにチーム初めての一部リーグに進出する記念するべき日なのです!」


 興奮しながら答える梢さん。無事に休暇をもらい今日、大輔たちの試合を生で観戦する事が出来る。ちなみに梢さん以外のメンバーとしてカーターたちと泉たち、そしてユノと一緒に来ている。ちなみにチケットを貰っている直哉たちも後で来る。


「それで……薫さんの彼女であるユノさんと泉さんの彼氏であるカーターさん、それに精霊の方々は観戦は初めてなんですよね?」


「ええ。そうよ。そもそもあっちにはスポーツなんてないもの」


 梢さんの疑問に対して答えるサキ。グージャンパマにはスポーツという文化は無い。魔獣が出るからとかいうのもあるのだが、運動神経がいい人の多くは冒険者になったり国に仕えたりするからというのと、仮に何らかのスポーツがあったとしても通信機器も交通手段も遅れているあちらではスポーツ選手だけで食べていけないというのもある。


「そうなんですね……安心して下さい!私がしっかりルールを説明しますし、雰囲気だけで盛り上がれますから!」


「薫兄?梢さんかなりテンション高いけど?」


「ああ。それは……」


「テンション高くて当然ですよ!!県内唯一のクラブチーム!三部リーグに降格したり、経理の不正など色々な問題を乗り越えて、今日!初めて!一部リーグに昇格するんです!地元民ならもっとテンションを上げて下さい!!」


 そう言って、鼻息を荒げる梢さん。色々な問題があったり弱いと言われたりと苦難の道を乗り越えてやっと、さらに上の一部リーグに昇格するのだ。長年応援していたファンからしたら、今日は歓喜の日だろう。


「という訳だからね。しょうがないんじゃないかな?」


「う、うん……」


「それで……どうやって入るのです?」


 僕の鞄の中に隠れているレイスが僕に訊いてくる。そう。今の問題は僕たちの目の前にあるのは荷物検査で並んでいる列。


「このまま行くとレイスたちが見つかっちゃうよね……」


 レイスたちがバレないように隠れながら入っていくというのも手なのだが、人が多いこの場では難しいだろう。


「チケットをお持ちで、これから列に並ばれる方ですか?」


 後ろから男の声で訊かれたので、そちらへと振り返る。


「って……オリアさん?」


 スタッフと同じ服装をしたオリアさんがそこにいた。


「あちらが空いてるのでどうぞ」


 オリアさんに連れられてそこに並ぶ。列の横から荷物検査所を覗いてみる。その検査してる人に見覚えが……。


「次の方!」


 そして僕たちの番になる。その女性は僕の鞄を調べるために口を開けて中に不審な物が無いかを確認しているが、レイスたち三人娘を見ても驚かずに見て見ぬふりをする。


「(ミリーさん?どうしてここに?あっちで調査中じゃないんですか?)」


「(進展があって報告も兼ねて戻ってきたのよ。それでここの警護をして欲しいってアリーシャ様から指示が下ったの。あのオリアも組織から来てるそうよ)」


 他の皆の荷物検査しつつ、小声で理由を話してくれるミリーさん。


「(後であなた達に依頼がくるわ。依頼内容はモノリスの調査よ)」


「(見つかったんですか!?)」


 横から泉がミリーさんに尋ねる。鞄にいる精霊三人娘もミリーさんの方を見ている。


「(詳細は後で……)」


 そう言って、検査済みの鞄を僕に渡すミリーさん。


「はーい!オッケーです!次の方ー!」


 ここにいると後続の迷惑なので大人しくスタジアムの中へと進んでいく。


「次はレルンティシア国か……」


「そうですね」


「今回も俺達が付いていくことになるだろうな」


「そうですわね。きっとお父様も許可すると思いますわ」


「今度はどんな奴に会うのかしら?」


 スタジアム内を歩きながら話を進めるカーターたち。それとサキ。これ以上、変な物に出会うのは勘弁だからね?


「大丈夫なんですか?騎士団の副隊長でしょ?」


「いいんだ。それにお前たちの行動をサポートすることが国の安定にもなるからな」


「そして、こっちの世界の安定になる……か」


 僕たちのグージャンパマでの発見は、こちらの世界ですでに多岐に利用されている。特に浄化の魔石はすでに水不足で悩む地域に試験的な利用がされていて、現地のボランティア活動している人たちの仕事が大幅に軽減されたとのことだ。


 また、アイテムボックスもいくつかがこちらで利用されている。利用方法はグージャンパマに関する情報の一部はそれに入れて運び、各組織とやり取りをするというもの。見た目は指輪なので、まさかこれに大量の荷物が入るなんて、普通の人は思いもしないだろう。


「何か……私だけ場違いな気がしてならないんですが?」


「梢さんは僕が小説家として活動できるように補助しているじゃないですか。そう……立派な共犯者ですよ」


 悪ふざけで共犯者という言葉を使う。実際にはただの協力者なのだが、梢さんはこのノリの方がいいだろう。


「いいですね……それ。物語の登場人物みたいです」


 笑顔で答える梢さん。


「まあ、私は運動音痴なので戦闘は勘弁ですけどね……薫さんをサポートする裏方として手伝わせてもらいます。それと……しっかり得をさせてもらいますからね……と、私達の席は……」


 そんな話をしていると、スタンドに出たので自分たちの席を探す。


「ここですね」


「そう……ですね」


「えーと……」 


「どうしたんですかお二人共?」


 僕と泉の反応は当然だろう。自分たちの席に着いて、後は試合が始まるまで待つだけ……うん。そう思ってたのに……。


「何をしてるんですかソフィアさん?」


「サッカーの観戦ですよ?」


「そうですか……それでたまたま、僕たちの隣ですか?」


「そうですよ♪」


 嘘だ!!絶対、権力の力が働いているよねこれ!?


「さて、冗談はここまでにして……座って試合が始まるのを待ちましょうか」


「やっぱり権力じゃないですか……」


 僕はソフィアさんにツッコミをしつつ、その隣に座る。他の皆も席に座るのだが、案の定、ユノが僕の隣に座るので、僕はレイスたちがいる鞄をユノに預ける。


「少しソフィアさんと話すから、皆で梢さんの説明を聞いててもらっていいかな?すぐに終わるから」


「分かったわよ。さあ!ユノ様!しっかり楽しむためにも梢の話を聞きましょ!」


「でも……」


「いいッスから。ここで薫の仕事を邪魔すると試合が楽しめ無くなるッスから」


「という事でこちらは気にせずになのです!」


 話に参加しようとするユノに対して精霊三人娘の力も借りて、僕とソフィアさん二人だけで話せる時間を作る。


「ユノ様……というより皆さんなら聞かれても問題無いですよ?」


「いいんですよ。貴重なお休みを割くほどの話題じゃないはずですから」


 僕はそう言ってから、話の本題に入る。


「それで……黒だったんですね」


「……はい。大輔選手を襲った犯人達は暴力団関係者……そして、それを仕向けた男がいました」


「その仕向けた男がヘルメスのメンバーだった……ですか?」


「その通りです。その黒幕の正体ですが、製薬会社大手のメディカーコーポレーション社長、黒後 望(くろご のぞむ)という男でした……薫さんはご存じですよね?」


「前に勤めていた会社の取引相手ですね。僕は直接関わった仕事は無いんですが……」


 僕が会社をクビになる1年前ほどから取引を始めた新進気鋭の会社で、会社設立から数年で大手までに上り詰めた一流企業である。


「そこで作られる薬は安くて薬の効き目がいいって、多くの企業が契約を結んでいて、知る人ぞ知る有名な大手企業ですけど……本当なんですか?」


「オリアが調べたところ、海外のある口座に何度も不明瞭な入金があったようです。さらに、その口座について調べてみたところ、ヘルメスと関係を持つある男性に繋がりました。ああ。それと、すでにその男は秘密裏に捕えたそうです」


「そうですか……じゃあ、皆さんが組織の垣根を越えてここにいる理由は?」


「黒後を捕えるためです。数日前から黒後は会社を休んでいるそうなんですが、恐らくはヘルメスに対しての献上金が集まっておらず、どうしてもそのお金を集めるためだと考えています。そこで近日のスポーツの大会で多くのお金を集められそうな試合をピックアップしたところ……」 


「この試合がヒットした……と?」


「他にも候補があるんですが、この試合の直前に大輔選手に対して介入があったことを考慮すると、一番怪しいと踏んでいます。そこで黒後を無傷で捕え、ヘルメスの情報を得ようとしてるんです。要は廃人になったスパイダーの代わりってところです」


「……なるほど。それで僕たちの近くの席を取った理由は?」


「念のためです。もしかしたら皆さんのお力を借りるかもしれない。それとヘルメスの関係者が近くにいるかもしれないこのスタジアムで一国の姫様であるユノ様に何かあったら国際問題に発展しかねないので、未然に防ぐためというのもあります」


「それなら……何も起きないことを祈りたいですね」


「私もです。黒後がすぐに捕まればいいのですが……」


 このまま今日という日が無事に終わる事を祈るかのように指を組むソフィアさん。しかし、しばらくしてその願いは叶う事は無いと理解するのだった。

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