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227話 手合わせの結果

前回のあらすじ「唐突な戦闘イベント発生」

―薫とオリアの模擬戦が始まって数分「ビシャータテア王国・城壁 北側」泉視点―


「「「「……」」」」


 誰も喋らない。戦っている二人があまりにも凄すぎて見入ってしまっている。私はテレビとかで格闘技を見ないし、それに興味がない。ただ、この戦いだけは素人目である私が見ても凄い模擬戦だと理解できる。


「薫さん。袖を掴まれたのに、すぐさまそれを外すとは……」


「それを見越して、別の手を用意しているあちらもあちらで凄いな……」


 オリアさんの戦い方は動きを最小限、それでいて素早く隙の無い動きで戦っている。


「薫って本気で戦ってるのです……」


「あれ……人の動きッスか?」


「うーーん……」


 精霊3人はどこから出したのかお菓子を食べながら観戦している。それはさておいて、薫兄の戦い方はアクロバティックな動きが多い。相手から攻撃を避けようとしてバク転や側転を利用している。


「ここまで長丁場の近接戦闘はなかなか無いな……」


「そうですね」


「そうなんですか?」


 こうゆう事に詳しくない私は近くにいたカーターさん達に訊いてみる。


「ああ……普通は相手の隙を伺っての強襲だったり、そもそも武器を持ってるしな。通常は10分もかからない」


「泉さんも何回か戦いを行ってみて、そう長い時間を戦闘した事は無いんじゃないですか?」


「……そうえいば」


 確かに長い戦闘は指で数えられるぐらいしかない。そもそもあの四天王のアクヌムやこの前のレッドドラゴン、さらにバケモノとなったスパイダーとの戦闘も30分もかかっていない。


「さらに素手での近接戦闘となると集中力なんて長く持たないし、魔法のように一発逆転なんていう大きな決め技も無いものね……」


 サキがそう言って、手に持っていたクッキーを口の中に入れる。


「そう……なの?何か凄い技とか色々……」


「それをさせてくれる隙があればの話よ。あの二人の戦いにはそれが無いのよ」


 二人の戦いを再度、確認する……確かにそうかもしれない。それに、あの二人は休む際には相手との距離を取って、呼吸を整えたりしている。その間も相手の動きを注視していて、攻めてくるものならすぐに反撃出来るようにしている。


「どれだけ続くのかな?」


「さあ……ただ、決まる時は一瞬だ」


「そうッスね……あっちのスポーツみたいにルールなんて無いから、どんな手も使えるッスからね」


「なのです……」


 先ほどから打撃、蹴り、防御しかしていない。しかし、この模擬戦にはルールが無いので投げ技や寝技などもアリではあるのだ。


「「おおーー!!」」


 歓声が上がる。二人の攻撃と防御の入れ替わりが激しく変わり、先ほどは手を抜いていたのかと思う位だ。


「そろそろ決まるな」


 カーターさんがそう言った途端、オリアさんが薫兄の胸倉をついに掴んだ!すると、薫兄はそのまま掴んだ腕の袖を掴み体を後ろに下げると、オリアさんがそれに引っ張られて倒れる。しかし、オリアさんも倒れた直後に、薫兄の脚を蹴って体勢を崩す。お互い崩された体勢をすぐさま戻し、そして、お互い顔に向けてパンチを繰り出す。それはボクシングとかで見られるクロスカウンターのように交差し合って、互いに当たる寸前で止まった。


「……なるほど」


 そう言って、オリアさんが手を下ろす。それと同時に薫兄も手を下ろした。これで模擬戦は終了ということなのだろう。


「ふう……」


 薫兄が額から流れる汗を手で拭っている。一方、オリアさんは汗一つかいてない。


「見事だな」


「いえいえ。自分の身を守るので精一杯でしたよ」


「言ったはずだ謙遜しなくていいと。そもそも私はプロだ。そのプロ相手にまともに戦えている時点で誇っていい」


「はい」


「それで……一つ確認したいのだが」


「なんですか?」


「君の師は誰だ?」


「あの人ですよ」


 薫兄が橘さんに指を差す。オリアさんはそちらへと目線を向ける。


「あら?私ともやるの?」


 模擬戦が終わった二人の元に近づく橘さん。その姿には余裕さえ見える。


「……いいや。あなたと戦うのは今は無理だ。それほどに強者とお見受けする」


「あら~♪お世辞がうまいんだから♪」


「冷静に判断できなければ、このような仕事で生きていけない……ミスター薫。君との手合わせは実に有意義だった。ありがとう」


「どういたしまして」


 そう言って、オリアさんは自分の仲間達の元へ戻って行く。それを確認した薫兄は橘さんと一緒に私達の方へ戻って来た。


「お疲れ!何か飲む?」


「スポーツドリンクある?」


 私はそう言って、アイテムボックスからスポーツドリンクとタオルを取り出して、それを薫兄に渡す。


「ありがとう……」


 薫兄はタオルで汗を拭きながらスポーツドリンクを飲んでいく。


「惜しかったのです……もう少しで勝てたのです」


「それは無いかな……オリアさん。汗一つかいてないもん」


 そう言って、オリアさんを見る薫兄。オリアさんは仲間と楽しそうに談笑している。恐らく内容は先ほどの模擬戦だろう。


「涼しい顔してるな」


「うん……カーターなら勝てた?」


「無理だ。シーエは?」


「私も無理ですね……そもそも薫さんと戦って勝てる自信が無いですよ。恐らく大抵の人がそう判断してると思いますよ。むしろ橘署長はどうですか?私としては少なくとも同レベルと判断してるのですが……」


「うーーん。それは殺し合い無しの話ね。それもアリとなるとやっぱりプロには負けるかしら?」


 手を顎に当てて答える橘さん。


「今の条件だったなら?」


「勝率7割かしら?」


「勝てちゃうのですね……」


 まあ、橘さんなら勝てそうな気がする。


「そんな事より四人は晩御飯を食べていないでしょ?」


「なのです!ご飯にするのです!」


「そうッスね!お腹空いたッスね……」


 いや?あなた達。お菓子を摘まんでたよね?私は見てたからね?


「そうだね……何か緊張したり、体を動かしたりしてお腹が空いたよ」


 そして、薫兄はフィーロ達と一緒にカレーを配膳しているテントに行ってしまった。


(本当に悩んでるのね……)


「うん?何か言いました?」


「いいえ?さあ、あなたも晩御飯を食べにいきましょう!」


 私は橘さんに背中を押されて、遅れてテントへと向かうのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―夕食後「ビシャータテア王国・城壁 北側」―


「ふう……」


 一人、野営地から離れた場所で皆の様子を見る。泉とフィーロは皆の前で魔法を見せていて、シーエさんたちとカーターたちは他のリーダー格の人と話し合ってる。


「あら?黄昏中かしら?」


 ぼーっとしていた僕の所に、橘さんとレイスが何かを持って、こちらへと来た。


「はい。コーヒーよ。というよりここ寒くないの?」


「大丈夫ですよ?これ……」


 僕はポケットに入れていた魔道具を取り出す。


「携帯用暖房魔道具……要はホッカイロですね」


「使用期限は半永久かしら?」


「ですね。どうぞ」


 僕はミスリルのアイテムボックスから同じ物を取り出して、橘さんに手渡す。


「あら。ありがとう♪しかし便利よね……その魔道具入れられるアイテムボックス」


「少し前はアイテムボックスに魔道具は入れられないって聞いてたんですけどね」


「これぞ技術の進歩なのです!」


 レイスが手頃な石を椅子代わりにして、橘署長は立ったまま持ってきた飲み物を飲み始める。僕ももらったホットコーヒーを飲み始める。寒いこの季節に、この温かさは身に染みる。


「それで……この後の予定はもう大丈夫なんですか?」


「ええ。この後、夜戦訓練。その後、明朝に魔石の武器の性能を試してお昼頃に終了ってところね」


「そうですか……というより、これ一署長がやる仕事じゃないですよね?」


「そうなのよね~……薫ちゃんなら言っていいかしら」


「何を?」


「私、階級なんだけど、どうやら警視総監クラスの扱いになりそうなのよね」


「扱いになりそう?警視総監になるんじゃなくて?」


「ええ……そうすると、色々目立つものね……だから、あくまで表向きの階級は署長。実際は警視総監クラスでの扱い……もっと政治的な事にも関与することになりそうね」


「……昇進おめでとうございます」


「面倒が増えただけよ」


 笑いながら答える橘さん。全くの迷惑という訳ではなさそうなので、少しばかり安心する。


「それで……どう?やっぱり、あのスパイダーを殺そうとして悔やんでる所かしら?」


「……橘さんもですか」


「も?」


「はい。ドルグさんにも言われました。武器の持ち方がそれだ。って」


「ふふ……!あの武器職人ドワーフね。良い目をしてるわ」


「橘さんはどうして分かったんですか?」


「最初は泉ちゃん達に相談を受けたのよ。皆、心配してるわよ。そこにいる相棒さんも」


「ああ……ごめんねレイス」


「気にしてないのです。それよりユノが心配してるのです。この前の大輔さん達が遊びに来た時の様子で気付いているはずなのです!」


「うん。気付いてた……かな」


「それで、相談を受けて……薫ちゃんの様子を見て、先ほどの模擬戦を見て……ああ。こんな理由かしら?っと気付いた感じかしら。あの模擬戦も動きがぎこちない様子だったし……」


「え?ぎこちない?あれだけの動きをして!?」


 レイスが橘さんの言葉に驚いている。


「薫ちゃんの得意技って柔術なのよ。だから、さっきみたいに殴るにしても当身技が通常だしね……」


「あてみわざ?」


「要は急所狙いって訳」


「そうそう。さっきの模擬戦全て、急所を外してたじゃないのよ?相手はしっかりそこを狙ってたのに……」


「……やり過ぎちゃうんじゃないか?と思っちゃって」


「あのレベルなら問題無いわよ。そもそも、あれほどの強者ならやり過ぎぐらいでも問題無いわよ」


「……二人の会話に付いていけないのです」


 先ほどの模擬戦で僕が本気じゃないと知ったレイスは、呆れて僕たちから目線を外して泉たちのパフォーマンスを見始めるのだった。

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