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226話 手合わせ

前回のあらすじ「殺人衝動に悩む薫」

―「魔法研究所カーンラモニタ・第三研究区画」―


「薫?」


 レイスの声に反応して、意識が今に戻される。


「図星だったか?」


「分かるんですか?」


「うん?お前さんの武器の持ち方じゃよ。両手に抱えて恐る恐る持ってくる奴ってのはそんな理由が多いからな」


「でも、薫は魔獣に魔族と戦ってるのです……それなのに……」


「同族を殺すというのは、また違う物じゃよ……お前さん、この前の事件で明確に殺そうとしたんだろう?」


「はい。あのスパイダーに……」


 あの時……僕は確実に殺そうとしていた。それこそ塵芥残さずに存在を消そうとしていた。


「言葉では、消えろ。とか、あの世で後悔しろ。とか言ったことがあったんですけど……心の底からこいつだけは許さない!って」


「その勢いで倒しちまったってか?」


「……」


 僕は黙って頷く。あの時はあかねちゃんを助けたい気持ちも確かにあった。でも、それが達成した後の感情は……どこかどす黒い物だった。あの最後の一撃はためらいもなく、刃を地面に叩きつけるくらいの勢いだったのを覚えている。


「最後にトドメを差した時も躊躇いなく切りましたからね……」


「そうかそうか……まあ、それなら問題無いじゃろう」


「え?」


 ドルグさんは僕の悩みを問題無いと言って、そのまま武器の強化のための準備を始める。


「薫のその考え方なら、これらの武器を持っていても問題無いってことだよ。問題のある奴ってのはそれに快楽を覚えてしまう奴とかだよ」


 すると、ドルグさんの言葉に補足するためにメメさんが話し始める。


「そんな快楽なんて……」


「いるんだよ。一人殺して、その感覚が快感になってしまう奴っていうのがさ。それ以外にも強すぎる力に溺れて人を見下す奴とか」


「……そんな感情にはなれないよ」


「じゃあ安心だよ!考えたことが無いのかい?あんたの力で自分が世界の支配者になろうとか?」


「ああ……出来そうなのですね」


「やらないから……それに……力を誤って使って、一度失敗してるから……」


 会社を辞めることになった事件だって、こっちが不用意にケガさせてしまったのが原因だ。あの後、相手が金と権力を使って僕を陥れたことが分かって無罪となっても、その時に周りに迷惑をかけたことには変わらない。


「若いのに苦労人だね」


「若いって……僕、30過ぎてるからね?」


「うん?あたしなんて150……くらいかね?そんな年齢はまだまだ若いって!」


 ……それに関しては同意できない。


「おーーい!話はそこまでだ!さっさと強化するぞ!!」


「ほら!準備しな!」


 そう言われて、僕たちは強化のために魔法陣の中へと入るのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―夕方「ビシャータテア王国・城壁 北側」―


「あら。おかえりなさい」


「すいません。ただいま戻りました」


 カーンラモニタでの武器の強化を終えて、試しも終わった所で僕たちは野営地まで戻って来た。すると、すでに午後の訓練から戻って来た人達が夕食を取っていた。


「やっぱりカレーは便利ね……」


「後は温めるだけだったのです」 


 遅くなるかもと思って、参加者のご飯を用意した泉たちが念のために、既に出来ていたカレーとご飯を置いといたのだが、予想通りになったようだ。そこから周りを見ると、自分が所属する部隊以外の人とグループになって談笑をしながら夕食を取っている。


「おお。4人ともおかえり」


 すると、カーターがサキを肩に乗せてこちらへと歩いてくる。


「今回の合同訓練は上出来だったみたいだね」


「ああ。どのグループもほどほどに魔獣を討伐して、雰囲気を味わえたからな」


「ほどほど……?」


 泉がある一定の方向を見ながら首を傾げる。その方向には赤い体毛を持つ大型の熊のような魔獣が横になっていた。


「いや……アレには驚いたぞ。あのブラッド・ベアーの首を切断。出血多量が死因だったしな……あそこまでキレイに倒すなんて……」


「私も感心したわ。あれなら皮を丸ごと剥いで、大きな毛皮として飾れるわよ?」


 僕もそれを聞いて再度見ると、首の傷以外に目立った傷が無い。これは魔獣に気付かれないように近づいて正確に首の動脈を切ったという証拠だろう。


「ああ。あれなら私のグループでしたよ」


 僕たちが雑談していると、シーエさんたちもやって来た。


「え?誰ッスか?」


「あいつだぜ。ほら、あそこで自衛隊の奴と組手をしてる奴」


「こうして……こうだな」


 ドサッ。と倒れる自衛隊の隊員。倒したのは恐らく、例の組織の実働部隊の隊員だろう。スキンヘッドが特徴的な外国人男性だった。


「おお……なるほどなるほど……」


「これなら、無駄な力を入れる事が無く相手を倒せて、そこから締め技に持っていける。今の場合ならこれが相手を黙らせる方法として一番だ」


「はあ……勉強になるな」


 それを見て感心する参加者達。


「あの人……何者?」


「薫兄がそこまで言うの?」


「うん。隙が無さすぎて……怖いかな?あの人ならスパイダーを捕えられたんじゃないかな?」


「マジなのです?」


「割りとマジだけど……」


 僕の感想を聞いて、皆が再度、その男性を見る。すると、相手もこちらに気付いたようで、組手をした相手に一言断ってこちらへとやってくる。


「君が成島 薫か?」


「はい」


 手を前に出すので、僕も手を出して握手をする。身長は僕よりデカく180程だろう……男として実に羨ましい。


「私は組織の実働部隊に所属するオリア・グリモリー。エージェント……暗殺者と捉えても問題は無いな」


 その発言に僕と泉は体を、ビクッ!と震わせて驚く。


「安心してくれ。そのような命は受けていない」


 それって命令があれば、そこに横渡る熊の魔獣のようになるということでは?


「それで……会ったばかりで申し訳ないのだが……」


「……何か?」


「手合わせをしたい」


「……へ?」


「武器は無し。ただ、純粋な体術で手合わせをしたい。妖狸としての活躍を見てて、君の動きがタダ者ではないとは理解している。」


「い、いきなりですね……」


 暗殺者の方と手合わせって……動揺を隠そうと、声を必死にいつものように戻そうとするがするが上手くいかない。


「驚かせてすまない。私個人が君に興味があるのだ。対人相手にあれほどやりなれた相手は一般人では見たことが無い」


「は、はあ……」


「どうだろうか?」


 ……どうしようかな。ゲームとかならここで、ハイとイイエ、の選択肢が登場するのだろう。僕としては……。


「ぜひ見たいな」


「ですね」


 僕がどうしようか考えているとカーターたちが見たいと言い始める。


「え、そこまで?」


「どこからか見ていると思うけど、ハリルとクルードも見たいと思ってるんじゃないかしら?」


「ああ……あの二人ならいいそうだぜ。というよりここにいる奴らが全員見たいみたいだけどな」


 マーバに言われて辺りを見回すと、皆がワクワクさせながら待望してるのが分かる。


「……あれ?選択肢が、はい、もちろん!、イエス!の三択に見えて一択しかないの状況になってない?」


「大丈夫。薫兄の勇気のステータスが豪傑なら断れるよ……」


「それは……無いかな」


 この話を聞いた多くの皆が首を傾ける。実際に、このゲームをやったことがあるレイスとフィーロの二人は、ああ……。と納得している。


「……ということでいいですよ。素人の体術で良ければ」


「ありがとう。それと素人の体術と謙遜だな。君のそれは立派な武道家のアレだ。それにヘルメスを相手に戦っている以上、素人とは思っていないよ」


 オリアさんはそう言って、先ほど自衛隊の人に手ほどきをしていた場所まで歩いてそこに立つ。僕もそこまで走って、オリアさんと相対する。オリアさんが構えるのでこちらも構える。


「……」


「……」


 沈黙。僕とオリアさんを見て、雰囲気を読んだのか観戦していた皆が黙ってしまう。


「……」


「……」


 お互いに見合っていて、一歩も動かない。オリアさんは僕の出方を伺ってるのだろうか?イマイチ良く分からない。


「あっ!」


パリーン!


 何かが割れる音。それと同時に、お互い相手に向かって駆け出していく。すると、オリアさんが手を出して僕の服を掴もうとするので、それを僕は手で弾いて、さらにオリアさんの懐に入りこんで、腹部へと掌底で攻撃を仕掛ける。


「なるほど……体の小ささを活かして接近か……」


 弾かれた手とは逆の腕で僕の掌底を受け止めるオリアさん。僕は直ぐにその場をバックステップで離れる。すると、先ほどまでいた所にオリアさんの手が素早く通る。もし、反応が少しでも遅かったらその手に掴まれて、そこからオリアさんの持つ様々な技を掛けられたのに違いない。


「……すさまじい反応。いや直観か?」


「直感です。そうじゃないと捕まって投げ出されたり、組み伏せられて終わりじゃないですか?」


 お互いに再び相対しながら会話をする。その間も相手の攻めを警戒して、構え続ける。


「ふっ……さあ、どうかな?捕まってみれば分かると思うが?」


「お断りします」


 お互いに笑みを浮かべて合って、次の手を考える。しかし、先ほどとは違ってそう長くはならなかった。


「では、こちらから行くぞ!」


 オリアさんがそう言って、攻めてくる。僕は相手の動きを冷静に見て、どう対処するかに神経を集中させるのだった。

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