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225話 薫兄の憂鬱

前回のあらすじ「いきなり訓練開始」

―お昼頃「ビシャータテア王国・城壁 北側」泉視点―


「ふう……」


「野生動物とは比べ物にならに程に危険だなあれは……」


 泥と何かの血で汚れた訓練参加者たちが野営地に戻って来た。


「飛び道具が使える野生動物って捉えた方がいいかもな……」


 戦った魔獣への感想を述べあったり。


「あれなら、弾の消費を抑えつつ倒せたな……」


「かと言って、油断してるとやられるからな……気を付けなければ……」


 装備の状態を確認しつつ、午前中の訓練に対しての評価をしたり。


「あ~!!お腹空いたぜ!!」


 素直に今の気持ちを声に出したりとしている。


「はーーい!こちらに食事を用意してますよーー!!」


 そんな訳でいつも通りに昼食を用意していた私達。今回は豚汁とおにぎり以外にもサンドイッチにホットドック、コーンスープにミネストローネと色々用意していて、スープ以外は各自手に取って持っていくスタイルである。


「4人だけで準備したのか?」


 カーターさんが用意された料理を眺めながら、私に訊いてくる。


「いいえ。私の方でマスターに頼んで事前に用意してもらったんです。私達が用意したのはおにぎりぐらいですよ」


 私は合同訓練の事は聞いていたので、今日のお昼と夕食の準備はしていた。本来は合同訓練なのだから現場での食事の準備も訓練の一環として行うのが普通だと思うのだけど、今回は様々な部隊、さらに多種多様な人種が集まっているので、今回に関してはそこは見送られたということだった。


「私!ホットドックいただきだぜ!!」


「私は……おにぎりね」


 サキとフィーロが自分より大きいそれぞれの昼食を持って飛んでいく。それを見た訓練参加者数名が、不思議そうに眺めている。また、騎士団の方々にはエルフに獣人、ドワーフ、さらに魚人であるオアンネスの方々もいて、地球ではまずお目にかかることの無い彼らを珍しそうに見ている人達もいる。


「一時間後に午後の訓練に入る!それまでしっかり休めとけ!!」


 隊長さんの喝を受けて、急いで昼食と、午後に必要な準備を始める参加者達。


「並んで下さーーい!」


 薫兄が指示しつつ、スープを配膳していく。その感じはいつも通りな気がする。


「……すいません?」


「あ、はい!」


 並んでいる警察からの参加者の方に言われて、急いで私は自分が担当するミネストローネを配膳していくのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから一時間後―


「さてと……」


 参加者達が昼食を終えて、午後の訓練のために森の中へと戻っていった。


「皆、お昼にしようか」


 薫兄が私達のお昼を用意している。


「お腹ぺこぺこなのです」


「そうッスね」


 私達は片付けもそこそこにして一度お昼を取ろうとする。私達のお昼は薫兄がおにぎりを作る際に余ったご飯と、他の余った具材を使ってチャーハンを作ってくれた。


「おーーい!お前ら!!」


 すると声がしたので、そちらへと顔を向けると、ドルグさんとメメさんがこちらへとスクーターのようなものに乗ってやって来た。


「二人共どうかしたんですか?」


「ああ。ちょっとお前らに用事があってな」


「それで、この魔道具の性能を試すついでにここまで来たんだけど……」


 話すメメの視線が、私達のチャーハンに向けられている。


「……用意するよ?」


「悪いね!!」


 薫兄はササッと追加分のチャーハンを作り、後は市販の中華スープの素にお湯をかけて溶かしてお昼の準備が終わったところで、ドルグさん達と一緒にお昼を食べ始める。


「うん!ウマい!!」


「だね!!久しぶりにあっちの世界の料理を食べたよ!!」


「チャーハンは炒めるだけ簡単な料理に見えて奥深いからね……例えば今回使ったご飯は本当は冷めた物では無くて暖かい物を使った方がパラパラとしたチャーハンになるしね……」


 そう言って、パクっとチャーハンを一口食べる薫兄。どうやら今回のチャーハンの出来に少し不満があるみたいだ。


「それにしても……あの乗り物は何ですか?」


 私は先ほどから気になっていたドルグさん達が移動に使った乗り物について二人に尋ねる。


「ああ。あれはお前さん達の世界にあるスクーターや自転車を参考にして作った物で……名前はまだ付けていないが、まあ……魔導バイクか?」


「それはいいかもね……」


 スクーターと自転車を参考にした……なら何故、車輪を無くしたのだろう?そもそも少しだけ宙に浮かんでいたからホバークラフトを参考にしたと言われた方が納得できたりする。


「宙を浮いて移動できるバイクか……」


「ああ。カシー達にもかなり協力してもらってどうにか作った一台だな。ただ、出力が今一安定して無いのと、それを可視化するメーターとか無いから、まだまだ未完成の魔道具だな」


「色々、改良する点があって楽しい魔道具だけどね」


 空を飛んで移動するバイクなんて……未来の世界の乗り物の試作機が出来上がったことを総理大臣や大統領が聞いたらどう反応するだろう。


「凄いわね……」


 すると、いつの間にか橘さんや他の野営地に待機していた方々が魔導バイクを観察している。


「そちらのお偉いさんに報告してもいいが……かなり、こちらの素材を使ってるから作るのは難しいぞ?」


 ドルグさんとメメが慌てる様子もなく、観察している人達に伝える。それを受けて、数人が肩を落としている。


「ワシらが独自に作ってたからな、他の国の奴らも知らんだろうしな」


「まあ、逆に言えば他の国も色々作ってるんだろうね……きっと」


 互いに協力はしているが、各々の国の発展の為の独自の開発も怠っていないという事なのだろう。


「さてと……ご馳走さん」


 と、髭に米粒を付けながらチャーハンを平らげたドルグさん。その表情からして、かなり満足したようだ。


「おっと……それでお前さん達に用事があるんだがしばらくここを空けても大丈夫か?」


「え?それは……」


「うん?大丈夫よ?」


 橘さんから許可が下りる。


「じゃあ、カーンラモニタにいくぞ。お前さんらの武器を強化するぞ」


「おお!!強化ッスか!?」


「でも、許可に使える素材って……ドラゴンの鱗なのです?」


「違うよ!使うのは……オリハルコンだよ」


 それを聞いて私も思わずワクワクしてしまう。薫兄にも聞こうとして振り向くと……その表情は暗かった。


「薫兄?どうかしたの?」


「え?……ううん。ちょっと驚いただけだよ。気にしないで……それより、移動するならその前に片づけないとね」


 薫兄はそう言って、空いた皿を集めてそれらを洗い場まで持っていって洗い始める。


「(……薫に何かあったんか?)」


 ドルグさんが小声で私に訊いてくる。

 

「(実は先日から時折あんな様子で……私達も良く分からないんです)」


「(先日って、確かスパイダーって名乗るヘルメスっていう組織とやり合ったんだっけか……?)」


「(そうです。その後なんです)」


「(うーーむ……)」


 ドルグさんが髭をさすりながら、何か考え始める。ただ、あまり頻繁に会っていない二人にはその原因は分からないと思う。


「まあ!そんなことは後でいい!とりあえず今のうちに強化したいからよ。一緒に来てくれや!!」


「だね!せっかくの貴重な素材なんだからね。いつ慌ただしくなるか分かったもんじゃないんだ!さっさとやらないとね!」


「そうなのです!備えられる時はしっかり備えるのは大切な事なのです!」


「お姫様であるレイスが言うと説得力があるッスね」


 レイスが右手で拳を作り力説する。有事がある場合に備えるというのは国として大事な事を語っていく。皆がその話題で盛り上がってる最中、洗い物をしている薫兄だけ皆とテンションが違うのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―およそ一時間後「魔法研究所カーンラモニタ・第三研究区画」―


「それじゃあ試して来まーーす!!」


「おう。カシー!頼むぞ!」


 途中でバッタリ出会ったカシーさんたちと一緒に泉たちが演習場へと行ってしまった。お昼ご飯を取った後、僕たちはカーンラモニタでオリハルコンを使っての武器の強化を行っている。


 ちなみに、オリハルコンが出来たのはつい先日……僕たちがスパイダーと激闘を繰り広げている最中に完成したそうだ。以前から他の伝説級の金属を魔導研究所クロノスで制作、研究を続けていた中で、僕たちがドラゴンの鱗を持ち帰ると聞いた途端に、作ってあったそれらの希少金属を搔き集めた中で製作行われたという事だった。


「お前さん達の強化は最優先ってことで、こっちの赤いオリハルコンを使えるのは職人冥利に尽きるな……」


 そう言って、ドルグさんが赤いオリハルコンを持って、うっとりとした表情で眺めている。今回のオリハルコン製作に関して、出来たのは緑色のオリハルコンと赤色のオリハルコンの二つが出来た。どうやらオリハルコンは使用するドラゴンの鱗によって色が変わるとの事だった。そしてドラゴンの強さと同じように、この赤いオリハルコンは緑色のオリハルコンを凌ぐオリハルコンとなっている。


「そうなんですね……」


「おう。それだから、お前さんの武器である鵺と四葩を入れくてくれ!すぐに強化するぞ!」


「……はい」


「なんだいなんだい!元気が無いね!」


「まあ、色々あったのです。それだから……」


 レイスが今一乗り気じゃない僕に変わって、答えようとする。一方、僕は武器を取り出した所でドルグさんが何かを確かめるように眺めている。


「うん?まあ、しょうがないじゃないのか……始めて人を殺そうとしたんだろう?」


「え!?」


 ドルグさんのその言葉に僕は思わず驚いてしまった。誰にも話していないその事を、まるで心を読んだかのように言い当ててしまったドルグさんに。 

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