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223話 悪友の訪問

前回のあらすじ「(眩しい笑顔で)薫お姉ちゃん!!」

―翌日「薫宅 書斎」―


「……うーん」


 腕を上に挙げて背筋を伸ばす。今日の朝、母さんたちはあかねちゃんを連れて東京の自宅へと帰っていった。戸籍とか必要な書類とかはすでに終わったとこの事だったのだが……これが権力というものなのか……。


(今日のニュースは連日騒がせている。某県の大型ショッピングセンターでのヘルメス事件です……)


「ずっっっと同じニュースなのです」


 レイスが本を下ろして、ラジオから流れるニュースに対して愚痴をこぼす。事件から今日で3日目。連日、ニュース番組では常にこのニュースをやっていて、色々な憶測が流れ続けている。


「僕たちは神の使いじゃないんだけどね……」


 僕は雑音しか流さないラジオを消してしまう。これ以上、流してても執筆の邪魔になるだけだ。


「ゆっくりしたらどうです?本調子じゃないですよね?」


「そうだね……」


~♪~~♪


 僕がレイスの提案を受けて、少しベットの上で横になろうとしたら玄関からチャイムが鳴る。


「お~~い!いるか薫!」


 うん?この声は……。馴染みのあるその声に僕は一階に下りて玄関を開ける。


「よお!」


「大輔?奥さんと一緒にどうしたの?」


「うん?お前の見舞いだよ。あのヘルメスと戦いで大ケガしたのを見たからな。直哉に訊いたら家に戻ってるって聞いたから、こっちに来たんだよ」


「そうか……ってあれ?」


「お前。俺に飲ませたあのお茶をどうどうとカメラの前で使っただろう……」

 

「……あ」


「という訳で、気になったから直哉に聞いたんだよ。そうしたら教えてくれたんだ」


「そうか……」


「あの……ということで妖狸なんですよね?」


 奥さんがおどおどした様子で訊いてくる。


「……」


 僕はアイテムボックスから妖狸のお面を二人の目の前で出す。


「うお!?」


「すごーい……」


「ご名答。大輔にはオフシーズンになったら話そうと思ったんだけどね」


「直哉から聞いてる」


「そうか……ここで話すのも何だし中に入って。お茶を出すよ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後「薫宅 居間」―


「初めまして……」


「初めましてなのです」


 レイスに声を掛けて居間に下りて大輔たちに自己紹介している。僕は用意したお茶とお茶菓子を炬燵の上に置く。


「元気そうで何よりだな」


「ううん。ちょっと怠いよ。毒に出血で気絶したしね」


「邪魔だったか?それなら用件だけ済ませて帰るんだが」


「大丈夫。むしろテレビやラジオにSNSの妖狸報道に飽き飽きして執筆も手に付かなかったからさ」


「人気者は辛いな!」


「笑わないでよ?」


 あははは!と笑う大輔。この前の見舞いの仕返しなのだろう。


「……で、お前に何があったんだ?」


「それは……」


~♪~~♪


「薫!居ますか?」


「誰か来たぞ?」


「うん。僕の婚約者だよ」


「……え」


 驚いている大輔の声を無視して、玄関にいるユノに会いに行く。


「こんにちは薫」


「こんにちは。それで今日はどうしたの?」


「薫は病み上がりなんですよ。彼女としては心配なんです」


「そうか……ありがとうね」


「おい……」


 居間からこちらを覗いている大輔。


「え?そちらの金髪美女が薫の婚約者?」


「はい。私が薫の婚約者です……薫、こちらの方は?」


「僕の親友。直哉と同じ悪友だよ」


「そうなんですね……」


「それで、これから色々、話す所なんだ」


「それじゃあ、一緒に説明しますね」


「この子も知ってるんだな……って、ちなみにこの子何歳だ?」


「……」


「17ですが?」


「薫!!お前!」


「してないからね?」


 あらかじめ予想していたツッコミにさらにツッコみ返しつつ、ユノを家に招き入れる。


「始めまして。ユノの婚約者のユノ・ホワイト・クレーンと申します。以後、お見知りおきを」


「俺は渋川大輔。こっちは妻の美咲だ。よろしくな」


「夫共々よろしくお願いします」


「ご夫婦なんですね……羨ましいです。私達はまだ結婚して無いので……」


「薫。お前……」


「まだ未成年だからだよ。あっちだと結婚しても問題無いらしいんだけど……」


「あっち?」


「まあ、そこを説明するよ。お茶菓子を摘まみながら聞いてよ」


 この後、お茶をしつつゆっくり話していく。時折、目の前で正方形のちいさな氷を作ってそれを積み上げたり、指の先端から火を出したり、時にはスマホに保存している写真を見せながら説明して、気付けば1時間過ぎていた。


「……で、何とかあのバケモノを倒せたって感じかな」


「異世界か……驚きかも」


「それで世界のお偉いさんたちも巻き込んだ大事になってると……」


「その通りです。それで私はあちらにある国の王族の娘となりますね」


「お前が王族と結婚……お前が次の王様か?」


「ふふ。残念でした。お兄さんがいるからすでに次の王様は決まりだよ。それよりお茶のおかわりいる?」


「お願いします……凄すぎて喉が渇いちゃいました」


「美咲と同じだ。俺も流石に喉が渇いた……色々凄すぎだ……って、これ言ったら消されるのか?」


 僕は台所へと向かおうと立ち上がったその場で一度立ち止まる。そう。これだけは伝えないといけない……。


「うん。そうだよ……ヘタするとドラマや映画に出てくるような組織が来ちゃうから気を付けてね?」


「「うわ……」」


 僕はそのままお茶を淹れ直すために台所へいって、居間へ戻って見るとユノレイスに大輔夫妻が色々と質問していた。


「スポーツっていう文化が無いんだな……」


「そうですね。色々ありましてそのような文化が無いですね。もしよろしければ、教えていただけると助かります」


「教えるのはいいぞ。現役を引退したら指導するのもいいと思ってたしな」


「そうしたら僕が雇い主になるよ。しっかりとした給料を出すよ」


 淹れ直したお茶を置きながら、僕はそう提案する。


「お前が?そんなに稼いでるのかよ?」


「……前金で2億もらった」


 ぶふーー!!っと吹き出す大輔。慌てて、炬燵の上に置いてあった台拭きで吹き出したお茶を拭いていく。


「前金2億……?」


「年間費とか追加報酬とか……あ、今日の朝にスパイダーたちを捕まえた報酬で5000万を支払うって……」


「す、すごいですね……大輔の年収を軽く……」


「言わないでくれよ美咲……」


「どう?大輔?やってくれない?僕も色々やってるから、そのお手伝いして欲しいんだ。すでに他の人にも声を掛けてて、僕の方から報酬を払ってる感じなんだ」


「うーーん……何かお前に雇われるって変な感じだが……でも、魅力的な話だな。引退後にしっかりとした就職先があるのはいいからな」


「そう言って、まだまだ現役でしょ?薫さんからいただいた薬のお陰で、前からあったケガとかも治って調子がいいじゃないの」


「そうなんだよな……なんか、ズルしてて背徳感があるんだよな」


 天井を見上げる大輔。何となくだが今の心情を察することが出来る。


「どうしてですか?ケガがバッチリ治るなら……」


「それを誰もが使えるなら気にしないんだろうけどね……ちょっとドーピング感があって素直に喜べないってところかな」


「ドーピング?」


「スポーツは純粋に鍛え上げた肉体同士の競い合い。そしてフェアプレイの精神ってのがあってね。ドーピング……つまりそのスポーツに有利な効果をもたらす薬は良しとしないんだ。それに物によっては、体を壊して今後の一生を台無しにしかねないってこともあるんだ」


「昔にはドーピングして競技中に死亡するって事件もあったな……でも、あのハイポーションは大歓迎だな。あれが普通に流通して選手生活を諦める奴が減るならいい薬だと思うんだよな」


「まあ、それを当てにして体を酷使して欲しくは無いけどね」


「だな。まあ、ドーピング検査受けて異常なしって言われてるから問題無し、今回は運が良かったと思うさ」


「僕という友人を持って良かったと思うんだね」


「ああ……お前という女神を信仰して良かったぜ」


 大輔の言葉に、うんうん。と僕以外の全員が頷く。からかったつもりで言った僕の言葉を上手く返された気がする。


「あれ?怒らないのです?」


「こいつの病室でふざけて女神をやったからね……文句は言えない」


「お。そうだ……」


 大輔がポケットから紙を取り出して机の上に出す。


「これって観戦チケット?」


「おう。最終戦のチケット……そして、J1昇格決定の瞬間だ」


「そういえば約束だったね」


「直哉にも数枚渡してる。お前も見に来てくれよ……隣のフィアンセと一緒にな」


「はい!!」


「ふふ♪」


 ユノが元気よく返事をする姿を見て、美咲さんが笑顔を見せている。


「さてと……そろそろお暇しないとな」


 大輔が立ち上がる。それを見た美咲さんも帰る準備をする。


「今日は仕事して無いから、まだいてもらってもいいよ?」


「トレーニングしたいからな。約束を守る為にもな」


「そうか……楽しみにしてるよ?エースストライカーさん?」


「決めてやるさ!」


 拳を前に突き出して、勝利すると約束する大輔。大輔の活躍はネットのニュースで確認していたが、年間最多得点を記録している。それだから余計にハイポーションを使用したことに罪悪感を覚えているのかもしれない。


 そして、それからすぐに大輔夫妻は帰っていった。今、ここにいるのは外に出て見送った僕、そしてユノとレイスだけになった。


「……元気が出ましたか薫?」


「うん?……ちょっとは出たかな?」


「……この後、薫は何か予定がありますか?」


「うん?無いけど?」


「そうしたら……一緒にゲームしませんか?今度、お泊りする際に泉に勝ちたいんです」


「いいよ。今日はゆっくりするとしようか」


「私も参加なのです!」


「ふふ。負けませんよ!」


 二人が楽しそうに話しながら、家へと入っていく。そんな二人を見て、日常に戻って来たんだな。と思う僕であるのだった。

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