222話 妹が出来ました
前回のあらすじ「闇のゲームを堪能した」
―薫達が眠りに就いたころ「官邸」菱川総理視点―
(お疲れ様でした。菱川総理)
「いえいえ、私はまだまだですよショルディア夫人。彼らが対処してくれなかったら、今頃はこんな風にゆっくり出来てませんよ」
Webのミーティング機能を使ってショルディア夫人と昨日の事件の対処に追われた自分の話をしている。今日一日はずっと会議やら記者会見やら……本当に慌ただしい一日だった……。
しかし、これでもマシな方だとは思う。最悪、あのバケモノ化したスパイダーに向けて国内で戦車や戦闘機のミサイル攻撃をしなければならなかったのだ。そうしたら国民から非難のバッシングは免れなかっただろう。
「しかし……ヘルメスの奴らの切り札ですかね……あれは」
(そう思いたいものですね……あんなのが大群で来たら国が終わりますよ。すでに組織も対策を話し合ってるみたいですが)
「そうですか……」
pipi……
私とショルディア夫人が会話をしていると、シャルス大統領が入って来たので会議に招待する。
「ようこそシャルス大統領。今、ショルディア夫人と話してたところですよ」
(それはちょうどよかったようだな。あれにはこちらもド肝を抜かれたよ……あの賢者と言われるほどの魔法使いであるカシー達の召喚魔法が効かないとは……実際、国内に現れた際にミサイルで果たして対処可能なのか……)
(そうね……カシー達が使う召喚魔法は我々の兵器と酷似したところが多い召喚魔法……あの攻撃を受けても、なお反撃をしていたところを見ると、耐熱と耐衝撃面で強いのかもしれないわね)
「我々もあの場面を見た時は最悪の事態を想定してましたよ……薫達のあの召喚魔法がなかったら……」
(進化型のあの麒麟ね。前の麒麟でも凄い破壊力と思ってたのに、あれ以上とは……)
画面上に映るショルディア夫人が困った表情のまま手で頬を抑える。それだけに困った事態を生んでいる。それは……もう一つのモニターに映っている彼らに関するSNSでの情報である。
「神の御使いにケンカを売ったヘルメス……妖狸は現代の我々に裁きを与えに来たのか!?」
(審判の日は近い!!今こそ我々は一つになるべきである!!ですって)
(テレビではオカルト番組が彼らを大々的に取り上げてるよ……)
そう。いくら何でも、あの召喚魔法は神々しかった。悪魔を焼き払う神獣と妖狸達の姿はしっかりとカメラに撮られており、新聞の一面を飾ったりしている。
「真面目な市民はあれが国が作った兵器と考えてたりしてますね……」
(あながち間違えて無いわね。実際に薫達が作った魔法なのだから)
「日本は無関係……って、もはや言える状況では無いですしね……」
すでに彼らの情報を操作している時点で関係している。それに彼らと親しくしている自衛隊や警察官を撮られている以上、調査中です!と連呼し続けるのは厳しい。
(……菱川総理。君はどうしたい?)
「公表を早期に……来年早々ってところでしょうか」
(そうだな……もはや、縁が無いと言い続けるには難しいだろう)
(それに公表することで、彼らに支援を要請できて、ヘルメスには牽制することが出来る……一石二鳥かしら?)
「ですね……そちらの組織は賛成するでしょうか?」
(するわ。彼らも対策として彼らの力を欲してるはずよ)
(そうなれば近日中にも話を合わせるとしよう。それでいいか?)
(ええ)
「もちろんです」
2年後を想定していた計画をかなり早めることになったのはかなり痛いが……これはしょうがない。
「そのためにもヘルメスの奴らから情報を聞き出さなければ……米軍で尋問が得意な人物をお願いできますか?」
(もちろんだ。それとソフィアも同行させてくれ。彼女がいればそちらの組織にも情報がいくからな)
(それではそのように……)
この後、私達はしばらく話を続けて詳細な内容を決めていく。世界の常識を一変し、新時代の始まりを告げるための準備を……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―翌日「薫宅 居間」―
「ただいま」
早朝の検診を受けて、特に異常が無かったのでそのまま退院。母さんの運転する車で家まで帰って来た。ちなみにユノは王宮に戻るために、こちらで待機していたハリルさんたちと一緒につい先ほどグージャンパマに帰っていった。
「何か久しぶりに帰って来た感じがするのです」
「そうだね……」
レイスはそのまま飛んで居間へと、先に入っていく。
「うーーん……と。茂さんが来たら、昌の所でお昼にしようか……って、入って入って」
「お、おじゃまします……」
後ろを見ると、母さんがあかねちゃんを連れて一緒に家へと入って来た。この子も異常が無いってことで退院……そのまま母さんがまた小脇に抱えて車に乗せて、一緒にこの家に来た。
「この子を勝手に連れて来てよかったの?」
「うん?許可は橘さんに取ってあるよ?このままうちの子にしちゃうって」
「ふーん。それならいいけど……って、え?」
「どうしたのです薫?」
「いや……母さんが……」
レイスがいつまでも中に入って来ない僕たちを心配して、玄関へと戻って来た。
「明菜さんは何を言ったのです?」
「へ?この子をうちの子にするって言っただけだよ」
「へーー……それは良かったのです!」
そう言って、笑顔を見せるレイス。
「まずは驚かないの!?」
「え?別になのです?」
「そうだよ……さあ、上がった上がった!」
母さんがあかねちゃんを家に上がらせて、そのままレイスと一緒に居間に入っていった。
「……僕がおかしいのかな?」
いきなり家族が増えます!って驚きしかないとおもうんだけどな……。
「薫~!ゲーム出して!子供向けのゲーム!」
「え!?……チョット待って!?」
子供向け……無難にパーティーゲームかな。と思いながら僕も家に上がるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―14時頃「カフェひだまり・店内」―
「はーーい。どうぞ♪」
昌姉が、あかねちゃん用に用意したお子様ランチを本人の前に置く。今日は平日のお昼なので雪野ちゃんたちは学校に行っていて、ここにはいない。今はマスターと昌姉でお店を回しているのだが、今は僕たちの為に貸し切りにしてもらっている。
「うわーー……!!食べて……いいの?」
「いいんだよ。一杯お食べ!」
目の前にある。オムライスとハンバーグにナポリタン、そして付け合わせにポテトサラダ。多くのレストランで見かけるようなラインナップのお子様ランチを見て、目を輝かせるあかねちゃん。ちなみにしっかりオムライスの上には旗が刺さっている。
「いただきまーーす!」
勢いよく食べ始めるあかねちゃん。
「そんな風に大喜びで食べてもらえると、作ったかいがあるもんだ」
マスターが他の料理をお盆に載せて、カウンターから出て来た。
「どうだ!ウマいか!?」
「うん!」
元気良く返事をするあかねちゃん。
「でも、この歳になってから妹が出来るなんて思ってなかったわね♪」
昌姉も料理を持ってやってくる。そしてそのまま料理を置いていき、他のテーブルに座っている泉たちの所にも置いていく。
「薫兄……血のつながっていない妹が出来たからって、襲っちゃダメだよ?」
「しないから!?」
「薫……ダメだからね」
「父さんもそれを言うの!?というか、こんな時だけに男扱いしないでよね!?」
ははは!と楽しそうに笑う父さん。ちなみに、お昼頃に家に来た父さんは母さんの、あかねちゃんをうちの子にする!と聞いて、僕の体力がもつかな……?と心配しただけですぐにオッケーしたりしている。
「じゃあ、やっぱり手術する?」
「しない!」
僕はそう断言して、出された料理に手を付ける。
「そんな大声出すなよ……お前、退院したばかりだろう?」
「それならツッコませないようにして欲しいんだけど……というか、マスターだっていきなり妹が出来たら驚くでしょ?」
「もちろんだ。俺も昌から聞いた時は驚いたぞ。なんせ、妹が出来たわ♪なんて言うから何事かと思って返事に困ったしな……」
そう。これが当然の反応であり、僕がおかしいわけでは無いはずだ。
「まあ、これで驚いていたらキリが無いからな……いただきますっと」
マスターも席について遅めの昼食を取り始める。
「とりあえず、難しい書類とかはあっちが全て用意してくれるって言うから、後はこの子の部屋を準備しないといけないね」
「それなら空いている部屋があるからそこにしようか」
「必要な家具の代金は僕が出すよ」
「じゃあ、私は衣服を作る!」
「頑張るッス!」
「私も手伝うのです!」
泉たちがあかねちゃんの為の洋服作成の意欲を立たせる。もしかして、魔獣の素材を使った防護服が用意されるかもしれないが、まあ、小学生時代に痴漢に襲わていた僕からしたらその位は必要だと思う。むしろカーバンクルの魔石を持たせてもいいのかもしれない……。
「後は学校に……まあ、色々必要だね」
そう話しつつ、あかねちゃんの口周りを優しく拭く母さん。あかねちゃんも嫌がらずにされるままになっている。
「うん……何の話をしてるの?」
首を傾けるあかねちゃん。
「あかねちゃんが私と茂さんと一緒に住もうって話をしてるの」
「……お姉ちゃんと?」
「そうそう!あ、もしかしていやとか……?」
「……迷惑じゃ」
「じゃないから!気軽に住んでいいんだよ!ねえ!茂!」
「うん。そうだね。あかねちゃんは嫌かな?」
「しげるおじちゃんもいいの?」
ぐふっ!と声を漏らしつつ父さんがうろたえる。母さんがお姉ちゃんと呼んでるのに対して自分はどうなのか聞いてみたのだろうが……まあ、当然だと思う。
「俺はおじさんか?」
マスターもあかねちゃんからしたら、どの位置なのか確認する。
「うん……違うの?」
「出来ればお兄さんと呼ばれたいが……まあ、あってるから問題無い。ちなみに薫はどうなんだ?」
「薫お姉ちゃん」
「即答か……薫。今度からお前を女性扱いでいいか?」
「ダメ!」
貴重な男性扱いしてくれるマスター……そんな変えられてしまったら非常に困るのだ!それだけは断固として拒否する!僕のその決死の表情を見て、そこまで強く否定しなくてもいいじゃん!と皆が笑い出す。僕としてはそれだけの思いがあるのだが、いつものごとく理解されないのだった。
その後は話題を変えつつ、時には魔法を目の前で披露しながら遅めのお昼を取るのだった。




