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221話 おい、ゲームしろよ

前回のあらすじ「フットワークの軽いお母さん」


*214話と218話を加筆、一部修正しました。これによる内容の変更はありません。

―「病院 特別室」―


「それじゃあ……これ!」


「嘘!?嵌めれらた!?」


「やりましたね。あかねちゃん!」


「うん!」


 ゲームを始めてからそれなり経った時間。今はトランプ以外のよく知られているカードゲームをしている。


「ドロー!モンスターカード!!」


「泉。それ違くないッスか?」


「どろー!もんすたかーど!!」


 あかねちゃんが泉のマネをしながら、前に出されたのと同じ黒いカードを出す。


「さらに出された!!え?8枚引くの!?」


 昌姉の手札がこれで12枚になった。このゲームは如何に早く手札をゼロに出来るかというゲームなので他のメンツの手札が少ない以上、逆転は難しいだろう。


「止めて!相手の手札はもう一杯よ!」


「何で母さんがそれを言う?」


 うん。中々白熱したゲーム展開になってこれはこれでいいのかもしれない。最初の方は僕がユノとあかねちゃんに教えながらゲームをしていたが、今は橘さんが後ろで教えていたりする。


「人を笑顔にする魔法も得意なようね」


 隣県の本部長さんがゲーム風景を見ながら、楽しそうに話しかける。


「僕じゃなくて、泉ですよ。急に抱き付いたり、いきなりゲームしようと言ったりして……必死にあの子を和ませようとしてるんですよ」


「そうね……」


「それで……休憩中の僕に話を聞きたいんですよね?」


「ええ。こちらの本部長さんも一緒にね」


「ああ。病み上がりで申し訳ないな」


「いいですよ。それにお偉いさんたちに連絡しないといけないでしょうから」


「全く……定年まで本部長を務めあげて終わりだと思っていたんだがな」


「それに私を巻き込んだ訳かしら?」


「警察学校で学んだ仲だろう」


「はいはい……それで、あなた達は何者かしら?どこかの国のスパイ?それとも日本が持つ特殊部隊の隊員かしら?」


「それは……」


 間に曲直瀬院長の検診を挟みつつ、僕はこれまでの話を簡略して女性本部長さんに話す。


「全く。こんな事が裏で起きていたなんて……あなたがあのバスジャックで何故、責任を追及されなかったのか納得したわ」


 そう言って、溜息を吐く女性本部長さん。大量の情報量ですでにお腹一杯なのだろう。


「永鳥。すまない。何せ事情が事情だからな……公には出来なかった」


「筒井。あんたの言いたいことは分かってるよ。まあ、警察が罪をもみ消すのは良しとはしないがね……」


 複雑な表情を浮かべる永鳥本部長さん。


「そこはこちらの代表の一人であるサルディア王の代わりに、謝罪します」


 いつの間にか横にいたユノが永鳥本部長に頭を下げている。ゲームをしている皆を見ると母さんがあかねちゃんと一緒になって皆と遊んでいた。


「こちらのお嬢さんは?」


「あちらの国の一つであるビシャータテア王国の王様の娘であるユノ・ホワイト・クレーン。隣にいる薫の婚約者でもある。言っとくが……政略ではなく恋愛だからな」


「なるほどね。日本としては応援したいわけか……」


 永鳥本部長の言う通りで、僕とユノが結婚すれば、日本としてはビシャータテア王国とより強い関係を築ける。逆に後押ししない理由が無いのだ。


「……っと、そろそろ戻らないとマズいか。あの事件の後処理が溜まってるからな。筒井も来いよ」


「分かってる。橘」


「はいはい。先ほどから話は聞いてたわよ……私も行った方がいいのかしら?」


「当然だろう。ただの署長であるお前を出しゃばらせる許可を出したのは誰だと思ってるんだい?」


「分かってるわよ……今回は薫ちゃん達の為にも頑張りましょうかね。それじゃあ、また明日来るから」


 そして橘さんたちは、ヘルメスの事件の後処理のために帰っていった。


「それじゃあ……お昼にする?時間が大分過ぎてるし」


 母さんに言われて時計を見るとすでに時間は13時……遅い時間に朝食だったのでお腹が空き始めた。


「私と昌で買ってくるけど、あかねちゃんは何がいいかな?」


「えーと……?」


「消化のいい物にしたほうがいいよ。それだからうどんとか蕎麦かな?」


「……何それ?」


 あかねちゃんの言葉に全員が固まる。この発言をするってことは食べたことが無いのでは?


「良し!うどん!うどんにしよう!!というか色々食べさせてあげよう!昌いくよ!」


「え、ええ……」


 いつもニッコリしている昌姉が困り顔のまま、お昼の買い出しへと母さんに連れて行かれていく。


「あ、そこで仕事中の楓さんの分もお願い!」


「え?私はいいですよ!?」


 先ほどから、この病室の扉の前で警察として警備をしていた楓さん。ずっと立ちっぱなしで仕事をしている彼女に対して、何もしないのは心苦しいのでお昼ぐらいは食べていって欲しい。


「いいからいいから!あ、薫の奢りだからね?」


「いいよ。好きなのを買ってきて」


「はいよ!じゃあ、いってくるよ!」


 そして母さんが昌姉を連れて買い出しに出掛けた。


「それじゃあ……楓さん。混ざってゲームしましょう!」


「え?私、職務中?」


「いいからいいから!」


「さっきから、いいから!の使用率高くないですか!?ってちょっと!?」


 この後、楓さんも混ざってもらって、僕たちは昼食を取った後もゲームで大いに盛り上がるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―その日の夜―


「はーーい!さっぱりしたね!」


「うん!」


「そうしたら、私も入ってきますね。レイスはどうしますか」


「なら、一緒に行くのです!」


 お母さんがあかねちゃんを連れてシャワー室から帰って来た。それを見たユノがレイスを連れて別室のシャワー室を利用するためにバスタオルと着替えを持って部屋を出ていった。僕は一番先に入らせてもらって、体をサッパリさせている。


 夕食後、昌姉と泉たちは自宅へと帰宅した。ちなみにユノはここに残るという事だったのだが……王様は心配していないのかな……?


「さてと……寝る場所はどうするかね……あかねちゃんはどうしたい?」


「えーと……わたしは…………いっしょが…いい」


「そうか……そうしたらこっちで寝ようか」


「そうなると、寝る場所をどうしようか……」


 ここには僕が寝ているベットしか無い……って。


「持ってくればいいのか」


「ベットを運ぶのかい?それなら誰か……」


「ううん。一人で運べるから心配しないで。あ、それで部屋ってどこ?」


「この部屋を出て向かい側。シャワー室のさらに左奥だよ」


「分かった」


 僕は部屋を出て、あかねちゃんに割り振られた病室へと入って行く。そしてベットの近くまで行ってそのままアイテムボックスへと収納する。そしてまた僕の病室へと戻る。


「お待たせ」


 僕は再度右手を出して、僕が使用していたベットの隣に収納したベットを出す。


「これもまじょの力なの……?」


 驚いた表情であかねちゃんが母さんに訊いている。


「そうだよ」


「魔女じゃないから!!魔法使い!」


「魔法が使えるのは間違っていないじゃないか?」


「女じゃないからね!」


「そう……なの?」


 あかねちゃんが首を傾げながら、今度は僕に訊いてくる。


「そうだよ。僕は男だから間違わないでね」


「うーん……薫お兄ちゃん……?」


「そうだよ」


「……お姉ちゃんじゃダメ?」


「男だから。それは女性じゃないとダメだよ……」


「うーん……」


 苦虫を噛み潰したような顔で唸るあかねちゃん。そこまでか……?


「あんた……お姉ちゃんと呼ばせなさいよ!困ってるじゃないかい!」


「息子!娘じゃないんだよ!!」


「違和感ないから平気だよ!むしろこの子にあんたをお兄ちゃんと呼ばせる方が大問題だよ!!」


「いや?だって……」


「ダメ……なの……?」


 目に涙を浮かべて訊いてくるあかねちゃん……その苦しそうな表情を見てると何か……言い返しにくい……。


「お姉ちゃんでいいよ……」


「やったー!!」


 何故か大喜びするあかねちゃん。え?そこまでですか!?


「これからは薫お姉ちゃんって呼ぶんだよ?」


「うん!!」


 満面の笑みで答えるあかねちゃん。何か納得できないけど諦めよう……あかねちゃんのあの明るい笑顔を壊すなんて僕には出来ないのだから。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―さらに数時間後―


「……ぐっすり寝ているね」


 あかねちゃんは遊び疲れたようで、ぐっすり眠っている。母さんはその可愛らしい寝顔を浮かべているあかねちゃんの頭を撫でている。


「子供はこんなもんだよ……むしろ、この子の今までが異常だよ。まさか捕まった両親が本当の両親じゃないとはね……」


 先ほど電話で、橘さんからあかねちゃんの家庭事情について教えてもらったのだが……随分、複雑な家庭事情だったらしく、この子の本当の両親はこの子を産んだ後にすぐに離婚。その後、引き取った母親が今の男と再婚して、それから4年後に離婚して何故か再婚相手の男が引き取り、そしてその男は別の女性と再婚して……。


「こんな話、聞いたことが無いよ……本当の両親は何をしてるんだか……」


「私も理解できません。何かしら理由があったとしても酷すぎます」


「ユノちゃんの言う通りだよ……」


「……そうだね」


 ここまでの話を聞くと、この子に愛情を注いでくれた人はいたのだろうか?実の両親は今どこで何をしているのか……。


「それで……この子はどうするのです?薫は明日には退院なのです」


「そうですね……やっぱり孤児院に預けたりとか……あれ?」


 話をしていた母さんが、いつの間にかあかねちゃんと一緒に仲良く寝ている。


「……ふう。明日にしようか。何だかんだで僕も遊び疲れたし」


「そうですね……」


「なのです……」


 僕たちも寝ようとしてベットに横になる。


「……」


「何か考え事ですか?」


 仰向けになって、暗い天井をただ茫然と見つめながら昨日の事を振り返っていると、隣で寝ているユノに訊かれる。


「うん。あのスパイダーの力……一体アレは何だったんだろうって……」


「私も気になったのです……同じ黒い液体を注射しただけなのか?って」


「きっと、今までとは違う物だと思うんだけどね……」


 僕は自分の左手を上げる。昨日の……あの戦いを思い出す。


「薫?」


「……寝ようか」


 僕は上げていた左手を下ろして、完全に寝る体勢に入る。


「は、はい……?」


「ですね……ふぁ~…お休みなのです」


 皆が眠りに入る。僕も目を瞑り、昨日の事を思い出していく……死にそうになったこと……そして、あのスパイダーを……人を明確に殺そうとしていたことに。

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