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219話 後処理に奔走する者達と休む者

前回のあらすじ「光になれ!!」

―「大型ショッピングセンター・駐車場」泉視点―


「しっかりして下さい!」


 麒麟が還った後、最後に一際大きい光を放っていた場所へと下り立つ。そこには先に下りていたシーエさんが倒れている薫兄の体を起こしていた。仮面で隠れていない唇の血の気は青く、呼吸もかなり荒い。私も一緒に傍によって、仮面を外してその額に触れると熱がある。


「マズいわね……」


 カシーさんも脈を測って、薫兄の容態を確認していた。


「早く医者に見せないと……!!」


 このままだと薫兄が死んじゃう……早く……。


「分かった。すぐにそっちへ運ぶ」


 すると、カーターさんがМT-01を使ってどこかへと会話をしている。通話が終わったようでこちらへと走り寄ってくる。


「俺が目的地にグリフォンで乗せていく」


「どこへ?」


「(ここだ)」


 МT-01のディスプレイに映る地図を見せながら小声で話すカーターさん。あまり大声で話して、誰かに聞こえたらマズいと判断して聞こえないように配慮してくれたのだろう。ここにいる皆が近寄って小声で話し合う。


「(俺達がグリフォンに乗せてここまで送る。そこから車両に乗せて用意してある病院まで運ぶらしい)」


「(でも、この場所に送るなら私達の方が……)」


 地元とは言えないが、この辺りの地理はそれなりに知っている。ここのメンバーの中では一番の適任者だと思う。


「(いや。泉にはここに来た際に乗った車を回収しないといけないだろう?)」


「(それは……)」


「(私達が運びましょう)」


「(だな)」


 すると、シーエさん達が自分達が行く事に立候補する。


「(薫さんなら背中に背負って運ぶには苦では無いですから)」


 そう言って、シーエさんが軽々と薫兄を背負ってしまった。


「(それに……聖獣に乗せて運ぶのは目立ちますしね)」


「(そういうことだぜ!それとカシーは限界だろう?)」


「(……ええ。流石に帰りは車に乗せてもらうわ。姫様の護衛もあるし)」


 カシーさんが頭を押さえている。それだけではなく、ここにいる皆が今回の事件で疲労困憊している。エンチャントリングをフルに使っていたし……私は移動手段をユニに任せていたため若干の余裕があるくらいだ。


「(薫さんを送ったら私達は戻りますので……マーバ)」


「(じゃあ……()()()()を頼んだぜ!)」


「(分かりました……レイス。よろしくね)」


「(はいなのです)」


 後処理を頼んで、薫兄と一緒に3人が飛んでいってしまった。私達はその背中を見送って、膝をついて呆然としているアイツへと近づいていく。


「……廃人ね」


「これって麒麟のせい?それとも……?」


「後者でしょ。もし麒麟のせいならこいつのこの体も吹き飛んでるわよ」


 今回のこの事件の首謀者であるスパイダーは、あの攻撃を受けていたのに生きていた……が、死んでいる。その目には生気がなく口からは涎を垂らしているのだから。


「あれだけの力を得るために何かしらを使ったと思うんだが……それの副作用だろうな」


「これは……」


 後ろから声が聞こえたので振り返ると、警察やら自衛隊の人々が集まっていた。


「どうする?私達を捕まえるの?」


「冗談はよしてくれ……そいつはこっちが引き受ける。建物の中の奴らはすでに連行済みだ」


 恐らく、この人が薫兄から聞いていた本部長さんだろう。他の警察官に指示を出して放心状態のスパイダーを連行していった。


「これより!逃げ遅れた人がいないか確認に入る!」


 すると今度は自衛隊の人々が周囲に散らばり、逃げ遅れた人がいないかの探索を始める。警察官もその後に続いて周囲を調べていく。


「皆さんにもお手伝いをお願いしたいのですが」


「分かりました。こちらも友好を結ぶために仕事をしてますから」


 カーターさんが代表して答える。私としては……。


「お二人はすぐにでも……」


 自衛隊の隊長さんが私達に薫兄達の方へ行く事を提案する。でも、ここで薫兄に付き添ってあげても、私にやれることは無い。


「大丈夫です。ここまで被害が大きいと人手が必要でしょうし……」


「後はお医者さんに任せるッスよ……それよりユノはどうするッスか?」


「ああ。彼女なら……」


 隊長さんからユノが何をしているかを聞いた私達は、安心してここの後処理を始めるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「カフェひだまり・店内」マスター視点―


「ええ……はい。分かりました。すぐに行きます……はい。失礼します」


 昌が電話を切る。相手は橘署長だろう。恐らくは薫の入院する病院がどこか伝えているのだろう。


「あいつの具合は?」


「貧血を起こしてるだけで命に別状は無いって……ただ毒の影響も考えて、念のために精密検査はするけど……」


「そうか……明菜さん達には?」


「お母さんがこっちに来るって……」


「そうか……じゃあ、行ってこい。こっちは俺達で何とかする」


「ええ。じゃあ、行ってくるわね」


 昌が急いで着替えて、店を出ていった。流石に今回は俺も肝が冷えた……。


「マスターどうしたんだい?昌ちゃん何か慌てていたけど?」


「うん?どうやら薫達があそこに行ってたみたいでな。その際に少し怪我したそうだ」


 俺はテレビに指を差しつつ、常連の婆さんに説明をする。


「ヘルメスとのアレに!?大丈夫なのかしら?」


「大丈夫だ。それに……あのバケモノは妖狸に討伐されたしな」


 テレビにはヘリから撮られているのだろう映像が流れている。あの薫達の必殺技によって地面が抉れてしまった駐車場が映し出されている。


「そう……ね。ちょっと色々あって、何が本当か分からなくなりそう……」


 それはしょうがない。俺達は魔法があるのを知ってるから……それの使い手が誰かが分かるから、この映し出された映像が嘘偽りのない本当の事と理解できているのだ。何も知らない奴らからしたら全てを理解するは到底無理だろう。


(……我々は何を見たのでしょうか?あの雷雲から現れた生物は一体?)


 テレビも今回の件で大分、困惑している。色々情報量が多く、何をメインに伝えればいいのだろうか訳分からなくなっているのだろう。


「スマホだと、神の裁きなんて書かれてますね……」


 雪野がスマホを確認している。あれだけのど派手な登場シーンと、それに負けず劣らずのド派手な必殺技なのだから、まあそうなるわな……。


「二人共。すまないが残業を頼む。バイト代も弾むからな」


「「はーーい!」」


 さてと……ディナー目的でやってくる客が来る前に下ごしらえをすませるとするか……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「官邸」菱川総理視点―


「すぐに会見の準備を!!」


「ああ。分かってる」


 ヘルメスが事件を起こして数時間後。スパイダーとその部下全員が逮捕された。本来なら国内での事件なので警察に任せる所なのだが、今回の事件に関しては警察、自衛隊、米軍で取り調べと調査することになった。それを公に発表するのだが……。


「頭の痛くなる件だ……」


 今回の事件では奴らを捕まえるために小銃などを使用した。これに関しての釈明。そして今回の彼らとスパイダーの戦闘……あんな映画顔負けの戦闘を見て、今だに嘘じゃないかと疑われる始末。これが事実だという事を説明しないといけない。さらにそれが事実だとして日本政府はどう対応するのか説明しないといけない……かといってアレを倒すとしたらそれこそ戦車や戦闘機を使用しないといけないのだが……そんな事を言ったら、国民から批判が……。


「かといって、彼らに任せる!なんて訳にはいかないしな」


 今回の事件の衝撃は計り知れない。あのスパイダーの姿を見て、どこの国もアレと対抗するために戦車や戦闘機の配備や位置替えなどを検討するに違いない。でも、日本はな…………。


「……止めよう。どうあがいても批判しかないのだから」


 国は何もしてくれない!と言われることを覚悟しつつ、俺は会見場へと向かうのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―その日の夜「病院 特別室」―


「……ん?」


 目が覚めると、白い天井、窓からは月の灯り……。


「あ!」


 声がする方を振り向くと、扉から入ってこようとしているユノ……と、そこで意識がハッキリして、ゆっくりと体を起こす。


「ここは?」


 ユノにそう訊くと、ユノはその問いに答えずに僕に抱き付いてきた。そして泣き声が僕の片耳からかすかに聞こえる。心配かけてしまったことに申し訳なくなった僕はそのままユノの体をさらに抱き寄せて、その頭を撫で始める。


「心配……したんですから……」


「ゴメン……」


 僕はただ一言……それしか言えなかった。どれくらいの時間が経ったのだろう……ユノは泣きつかれてしまって眠ってしまった。


「寝っちゃったのです……」


 すると、レイスが昌姉と一緒に部屋に入って来た。


「ずっと看病していたのよ?」


「そうなんだ……僕ってどれくらい寝てたの?」


「だいたい7、8時間ぐらいよ」


「そうか……」


 色々、訊きたいことがあるのだが何から訊けばいいのだろう……色々、確認したいことがあって……。


「大丈夫なのです?」


「ちょっと……ダメかも」


 頭がクラっとする。体も怠く寒気もする。


「まだ、寝てなさい。事件は……終わったから……」


「うん……色々あって疲れちゃった……」


 僕はユノを同じベットに寝かせて、その隣で再び横になる。疲れていて、いつもなら一緒に寝る行為に対して抵抗があるのだが、もはやそれさえも煩わしく思う。


「いいのよ……今はしっかり休みなさい」


「うん……」


「お休みなのです……」


 僕は昌姉とレイスに見られている中、再び瞼を閉じて深い眠りの世界へと落ちていくのだった。

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