217話 成長するバケモノ
前回のあらすじ「お決まりの巨大化」
―「大型ショッピングセンター・駐車場」カーター視点―
「スパイラル・ファイヤー・ランス!」
化け物になったスパイダーに貫通力を高めたファイヤー・ランスで攻撃を仕掛ける。何本もある足を貫ぬき動きを止めたが……すぐに再生して動き始める。その再生能力はロロック以上かもしれない。
「魔法は使えないようね……肉体強化に特化した感じかしら?」
「そうみたいだな」
グリフォンに乗った状態で空を旋回しつつスパイダーと相まみえる。
「……空を飛べてなかったら大ケガ必至だな」
スパイダー他の足元を見ると、奴の巨大な足で車と言われる乗り物は壊され、舗装された地面には穴ぼこだらけになっている。シーエやカシー達も空を飛んでいて地面立った状態で攻撃する者はいない。
「ちょっと乗せてもらっていいかしら?」
すると、近くにいたカシー達が俺の後ろに乗ってくる。その表情から大分、疲れが見える。それでもグリフォンに乗ったまま攻撃をし続けている。
「しぶといわね……」
「そうだな……しっかり掴まってろ!!」
スパイダーが口を大きく開ける、これは危険と判断してグリフォンに指示して、そこから猛スピードで離れる。
グォオオオオーーーー!!!!
先ほどいた場所に何かが猛スピードで飛んでいった。それは魔法で作った物では無いようで、地面に落ちて周囲にさらなる被害を及ぼす。
「鉄の塊……奴が取り込んだ車なんかの残骸だな……このままだと一般人にも被害が出るのも時間の問題だな」
「そうはさせないわよ。それに何のためにこっちに攻撃を集中させてると思ってるの?」
俺達はカシー達の意図には気付いていた。こちらに攻撃を集中させて、その間にシーエ達の召喚獣であるシルフィーネを呼び出すという作戦なのだろう。すると、飛んでいる俺達よりさらに上を飛ぶ何かが現れる。大きさからすれば鷲やカラスなどと間違いそうだが、青い光をこぼしながら優雅に飛ぶその姿を見ればすぐにそれとは違うと分かるだろう。
「離れましょう……シルフィーネのアイス・フィールドで動きを止めるわ」
カシーの指示を受けて、相手の注意をこちらに向けつつ距離を離していく。スパイダーもこちらに先ほどの遠距離攻撃を続ける。しかし、青い光に気付いて上を見上げてしまった。
ガアアアアーーーー!!!!
「シルフィーネ!アイス・フィールド!!」
シーエの声に反応してシルフィーネが翼を広げる。その瞬間、急激にこの辺りの気温が下がっていく。その急激な温度変化によってスパイダーの動きが少しばかり遅くなっていく。
「私達も召喚するわ。カーターたちは引き続きお願い」
「分かった。召喚魔法が使えない以上、しっかりと引き付けるさ」
俺はそう言ってスパイダーを見る。俺達はまだ召喚魔法を使えない。そもそも実戦レベルで使用できる召喚魔法の使い手はここにいる4組の魔法使いと各国の賢者ぐらいで他の魔法使いは使えないというのが現状である。薫はイメージが重要と言っていたが、カシーはそこに才能というのを付け加えている。そうじゃなければ、シーエ達より地球に行く回数が多く、文化にも触れている俺達の方が早く覚えられるはずなのでは?ということだった。それに関しては少しばかり泉のウンディーネで心当たりがある。あの水なのに物を掴んで叩きつけるという仕組みは誰も理解できず、あのような水属性魔法を使えるのは彼女達だけになっている。この時ばかりは泉の才能が少し羨ましく思ってしまった。
その後、俺達とカシー達は分かれて、今度はシーエ達と一緒に奴の注意を集める。その間もシルフィーネの攻撃をスパイダーは喰らっているのだが、まともにダメージを与えられていない。シルフィーネの攻撃は冷気による行動阻害や凍死を目的としている。生きている魔族には有効な手段なのだろうが、今回のスパイダーはどうも効きが悪いみたいで、これ以上、動きを遅くすることは無かった。
「行きなさい!!」
カシー達のフラムマ・マキナが脇に抱えるバズーカ砲で猛攻を仕掛ける。カシー達の召喚獣であるフラムマ・マキナは純粋な破壊。立ちはだかる者は全て焼き払う事をコンセプトにしている。その火力はすさまじくシルフィーネと違って、ダメージを与えていく。
「邪魔ダアアアアーーーー!!!!」
自分にダメージを与えるフラムマ・マキナは脅威と判断したのだろう。それを壊そうとしてスパイダーが脚で踏みつぶそうとしている。すると、脚がフラムマ・マキナにぶつかって体制を崩してしまう。さらに追い打ちを掛けるように、その尖った足でフラムマ・マキナを突き刺そうとする……その時、別方向から水で出来た突撃槍が通り過ぎてスパイダーの脚を何本か破壊する。その通り過ぎた突撃槍が何なのか目をやると、ユニコーンに乗った泉達の姿が。この時、泉達の上級魔法である水槍ブリューナクで吹き飛ばしたのを理解した。そして逆にふらつかされたスパイダーに向けて、体制を崩していたフラムマ・マキナはレーザを放ち、その体を貫いた。
「よっしゃー!!これで少しは……!?」
サキがスパイダーに大ダメージを与えられたと喜んだのだが、スパイダーはすぐさま、自分の手でフラムマ・マキナを叩き潰す。スパイダーと似た姿をしたフラムマ・マキナはその6本脚はぐちゃぐちゃに潰れ体もひしゃげていた。
「皆!離れなさい!!」
完全に壊される前に必殺技であるトリプレックス・エクスプロージョンで吹き飛ばそうとしているのだろう。俺達とシーエ達はその声に反応してすぐに離れる。カシー達も離れようとすると、そこにユニコーンに乗った泉達がカシー達の所へ駆け寄っていく、カシー達もそれに気付いて、タイミングよくユニコーンに飛び乗りその場から離れる。
「ナンダ……!?」
スパイダーが何かを言い切る前に起きる爆発。その爆発は空気を震わせ、建物の窓ガラスを割り、さらに振動が遠く離れていた俺達のところまで響く。この爆発ならいくらなんでも……。
グギャアアアアーーーー!!!!
悲鳴……いや、何か違う。爆破のせいで視界が遮られて見えないが……すると、グリフォンがすぐにその場から離れる。さらに近くにいたシーエ達を足で掴み、さらに遠くへ移動する。
「な、なんだぜ!?」
「どうやら……生きているようですね」
すると、その周辺を高速で何かが駆け巡る。何度も何度もブンブンと音を立てながら。
「何が起きているんですか!?」
ユニコーンに乗った泉たちもこちらへと近づいてきた。一ヶ所に集まるのは悪手だが、今は相手も見えていないはずだから、問題は無いだろう。
「分からない……カシー達はどうだ?」
「……トドメを差し切れなかったわ。それと私達はダメ。しばらくは魔法は使えないわ」
カシー達は渾身の召喚獣であるフラムマ・マキナを使ったのだ。これ以上は無理をさせられない。すると、徐々に爆発によって起きた砂埃が晴れていく。
「……厄介ね」
「あの爆発を受けて生きているのは、まさにバケモノだな……元が同じ人とは思えない」
あの爆発を受けて確かにケガをしていた。しかし、それは素早く修復されてしまい。さらにその手には歪な色をしたフレイルを持っていた。
「自身の体を超回復、さらに一部を使って武器の作製ですか……」
「そうみたいだな……シーエ。何か案があるか?」
「あったらよかったのですが……ワブーはありますか?」
「思いつかないな」
「ミツケタゾ!!!!」
すると、スパイダーが歪なフレイルを使ってこちらへと攻撃、俺達は避けるが、その棘付きの鉄球は建物の一部を破壊する。するとスパイダーがユニコーンに乗った泉達を執拗に狙ってフレイルと口からのブレス攻撃を仕掛ける。周辺に被害を及ぼさないように低く飛んでいるが、かなりギリギリのところで避けている。
「こうなったら、俺達が切るしか……」
「なら、私達が止めるぜ!!シーエ!」
「ええ。カーター。トドメは任せました」
先ほどの攻撃の際に緊急回避のためにグリフォンに掴まれていたシーエ達が解放されて、シルフィーネの必殺技を放つ指示をする。
「凍り付け!!アブソリュート・ゼロ!!」
マーバの声に反応して、スパイダーの背後でシルフィーネが青く輝き、それを解き放つと同時にそこを中心に全てが凍り付いていく。これで……!
「クソガ!!!!」
すると、スパイダーが背中から大きな針を幾つも生み出して、シルフィーネを突き刺し、攻撃をキャンセル。シルフィーネもそのダメージで消えてしまった。
「嘘だろ!?」
「まさか……進化してるってところでしょうか?」
「成長中ってこと!?それだと……」
ここにいる皆が言う通りでかなりマズい。戦いの中で成長し体を変質させていくなど、戦いに身を置く者としては短期決着が好ましい。
「こうなったら……」
「危険です!」
「残った高火力は俺達しか……」
すると、ポケットに入っているМT-01が振動する。俺は事前に教えてもらった方法で電話に出る。
「カーターさん!すぐにここから離れましょう!」
かけて来た相手は泉だった。
「いや、ここでケリをつけないと……!」
「……カーター。避難しましょう」
すると、隣でサキも逃げようと提案する。俺がサキを見ると、サキは上を指差している。俺はそれに釣られて上を見るとそこには暗雲が立ち込めていた。すると、雲から黒い雷が発生する。
「麒麟か?」
「あれも高火力よ。私達が手を出すならその後でいいわ」
確かに麒麟ならこいつの動きを止めることは容易だろう。
「分かった。薫達なら……」
「逃げて下さい!!進化した麒麟はガチで地面を抉りますから!!」
泉の声が電話から響く……。まさかこれから使う麒麟は例の進化型なのか?とにかく、それを聞いて俺達は大急ぎで離れるのだった。




