212話 ウィンドショッピング
前回のあらすじ「怪しく蠢くスパイダー」
―新型の麒麟完成から1週間後「大型ショッピングセンター・店内2階通路」―
「あっち!あそこが有名なブランドの服でね♪」
「いいお洋服ですね……デザインもステキです!」
「よし行こう!ほら!二人も!!」
そう言って、ユノと泉がショップの中に入っていく。ここは以前にユノと王子様を連れたショッピングセンターよりさらに大きい所で3階建ての映画館なども入ったモールになっている。そこへ僕とカーター、そして店に入っていった泉とユノ。それと鞄の中にいる精霊三人娘でウィンドショッピングをしている。
「ダブルデートって言ってたのに、全然、そんな気がしないね」
「ああ。全くだな」
僕とカーターはそんな話をしながら店……の前で待つ。
「女性服だから入りづらいね……」
「……俺はな」
「え?僕は!?僕も入りにくいんだけど!?」
「違和感ないから、安心して入って来い」
「入れないから!」
僕が声を上げると、行き交う人が何事かとこちらを見てくる。何やら美形カップルとか聞こえるんだけど?
「二人共。どっちにしても目立つから行くよ!」
「そうです!早く!」
すると、僕たちが外で待っていることに気付いた二人に引っ張られてしまい店内に入ってしまう。え?連れがいたの?とか、あのグループに混ざって買い物って……無理。とか聞こえる。
「うーん……どれがいいと思う?」
すると、入ってすぐに泉が服を2着持ってこちらに見せてくる。僕はカーターの脇腹を肘で突っついて答えるように促す。
「えーと……紺色のそっちがいいんじゃないか?そっちのベージュは多少色合いが違うけど似たような物を着ていたと思うんだが……?」
「そうか……って、カーターさん私の着ていた服を覚えているんですね」
「え……?うん。まあ……職業柄ともいえるんだが……気に障ったか?」
「いいえ!全然!!むしろ、嬉しいです!」
ちゃんと自分を見てくれていて嬉しいのだろう。そのまま二人で服を見ていく。
「アツアツですね」
「そうだね」
「しっかり、やるのよカーター……」
「特訓の成果をここで発揮するッス!」
僕が持つ手提げカバンからフィーロとサキがこっそりと眺めている。一方、レイスは辺りを見回していて、店員がこちらに来たのを確認して、同じ手提げかばんにいる二人に知らせて中に隠れた。
「お客様。何かお洋服をお探しですか?」
「はい。ユノの……」
「私達二人に似合うお洋服を探してるんです!」
そう言って、僕の腕に抱き付いてくるユノ。それを見た店員が、ふふ!仲がいいんですね。それでしたら……。と店員さんのオススメのお洋服へ案内しようとする。
「(ユノ……ここレディース……)」
「(大丈夫です……似合いますから!)」
「(大丈夫って何!?)」
小声でユノに訊いたが、無視されて、店員さんが立っている場所へと引っ張られる。服を買うのはいいのだが、僕はメンズなのだ。似合う訳が無い。
「粟色の髪にスレンダーな体型……それでしたら、このお洋服がお似合いだと思いますよ」
店員さんが薦める洋服。上はタートルネックニットでこの時期にはちょうどよく暖かそうだ。そして下は魚の尾びれのようなシルエットが特徴的なフィッシュテールスカート……色合いも落ち着いた色でお嬢様感が……。
「試着してみたらどうです?」
「いや無理だから!男だから!」
「え!そうでしたか……」
店員さんが驚きつつ、やっと僕を男だと気付く。すると店員は何故かユノの方を見る。それに気付いたユノは首を縦に振って何か同意をしている。
「それではお客様!こちらへ!」
「!?」
「大丈夫です。お客様ならしっかり着こなせますから!あ、そちらのお客様はこちらのコーデはどうです?今年の流行りなんです」
「いいですね。自分の趣味にもピッタリです!一度試着して見ても?」
「はい!どうぞ!」
すると、僕は二人に引っ張られて試着室へと連れて行かれる。それに気付いた泉とカーターがこちらを見ている。
「カーター!」
助けてもらうためにカーターにヘルプを求める。が、満面の笑顔で手を振っている。
「裏切者ーー!!」
お店の迷惑にならない程度の声で断末魔を上げる僕。この後、どうなったかはご想像に任せる。
さて、今日ここに来た目的なのはダブルデートの為である……いや。本当にこれが理由なのだ。仕事の関係で僕とユノがなかなか会えずにいて、それを聞いた泉たちが、家で寝ていた僕を襲撃して、気を失ったままの僕をそのまま車に乗せて、ここまでやって来たのだ。服は……誰が着替えさせたのか良く分からない。え?何を言ってるんだお前だって?大丈夫!僕も何を言ってるのか分からないから!!というか、何で気絶させられたのか不明だもの!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから数時間後「大型ショッピングセンター・フードコーナー」―
あの洋服店で買い物を済ませて、しばらくウィンドショッピングを楽しみ、あの二人が落ち着いた所でお昼ご飯を取るためにフードコーナーに来た僕達。精霊三人娘が見られないように、外に置いてある席に座っている。秋も終わり冬に入る時期で寒くないかと思われるが、そんなのは持ち運び可能な暖房機能のある魔道具を使えば問題無い。それより、今の問題は……。
「何で……こうなるの」
「え?違和感ないよ?」
「そうですね♪」
「……俺に訊くなよ?」
今の服装は先ほどのお店で買った服である。つまり……スカートである。そして、ただいまフライドポテトを食べている精霊三人娘からも、似合っていると言われる始末である。
「トイレ……行けない」
この服装では、どっちのトイレに行ったとしても通報されてしまう。
「大丈夫。そこは何とかするから♪」
いや。どうするつもりなんだ……?もう、これ以上訊くのは疲れるので止めとこう。
「それで……この後は?帰るの?」
「え?これに行くけど?」
泉が取り出したスマホを見ると、そこには、わんこが活躍するサーカスの宣伝が。
「ちょうど、このイベントが流れていたから、ここに来たって訳」
「ふーーん」
僕はジュースを飲みながら、泉の話に相槌を打つ。
「あっちだと狩猟犬や番犬みたいなのはいるけど、かわいがることを目的とした家庭犬はいないみたいなの。それなら、色んなかわいい犬を見せるのもいいかなって。それと……」
「薫の気晴らしの為です」
「え?僕?」
「そうなのです。薫、この頃、ヘルメスのニュースを見て浮かない顔してたのです」
「そう……かな?そうだった?」
「なのです」
「それを聞いた私達が今回の計画を立てたんです」
「ああ~……ごめん。そんな顔してた?」
「マスターや昌姉も心配してたんだからね?」
「そうか……」
領事館の整備が終わって、あれから1週間程経ったのだが、その間もヘルメスの日本での活動は続いていて、今だに捕まっていない。すなわち、それを退治しない僕たちへの批判も高まっていたりする。それがネットだけならまだしも、ついにはテレビや新聞などのメディアも取り上げてきている。
「今なら有名人の気持ちが分かるよ……」
「私も少し……ね。でも、気にし過ぎはダメだよ。それにどこにいるかも分からないんだからさ」
「そう思っても、考えるのが薫なんですよね……」
「そう見えるの?」
「「「「頼まれたら断れない」」」」
「う!?」
確かに頼まれたら断らずに、そのまま様々な依頼をこなしている気は……ある。以前はそう思っていなかったが、今年も後1ヶ月と少し……振り返ると、心当たりが多すぎて否定できない。例えばロロックとかダゴン防衛戦とか……。
「パートナーとしても、今後の事を考えると心配なのです。多少は無視とか気にしないという心構えも必要なのです」
レイスの意見に皆が同意して、僕にアドバイスをする。ここまで思ってくれるとは……僕の胸が熱くなる。
「だから……例の麒麟は使わないようにしてよね?」
「あ、うん。分かってる……うん」
今のサキの一言で台無しだよ……。目的はアレの使用を封じる為か。僕はため息を吐きつつ、その意見に反論する。
「そもそも、レイスが許可しないと使えないからね?」
「サキなりの冗談だ。他の奴らも心配している。それに小説家の仕事以外にも、あっちこっちで色々な打ち合わせ、グージャンパマでは農業と料理の指導、それに試料の採取、ほぼ毎日、世話しなく仕事をしているって聞いているぞ」
「シャドウ部隊の方々から?」
「ああ。それで今回のヘルメスの活動で心も疲れていないかとユノ様が考えてな。それで泉に相談したんだ」
「でも、それなら泉たちにレイスも……」
「いや。しっかり休んでるのです。休んでいないのは薫とユノだけなのです」
「ユノも?」
「実は、周りからまた言われて……」
恥ずかしそうに、顔を伏せるユノ。どうやらこの休みはユノの為でもあるらしい。
「似た者同士ッスね」
「ああ……って事で、関係者全員で無理矢理に休ませた感じだ」
「それで、必要ならショルディア夫人とか総理から、どこかいい宿とかリラクゼーション施設を紹介するべきか?って訊かれてるんだからね」
「そこまで?」
「周りが心配するほど働いているのを自覚しなさい!相談されるこちらの苦労も考えなさいよ……」
サキのその言葉に泉たちも頷いている。そんなに相談されていたのかな……。
「って事で、今日はしっかり休むこと!」
そうか……まあ、それなら、いきなり襲撃されたのも理解できたかな……?それじゃあ今回がしっかり休めということなら……。
「分かったよ……それなら、この服……」
「それは認めない!」
「認めてよ!ほらそこ!頷かない!!」
結局、お嬢様コーデのこの服を着替える事は許されなかったのだった。




